黒姫は玄関口にて愛子姫と歌を交わした。黒姫は、高国別を自分の夫の高山彦だと勘違いしており、夫を奪ったと思い込んで愛子姫を非難し、自分の悲哀の思いを歌に託している。
愛子姫は誤解を解こうと真実を歌で聞かせるが、黒姫は容易に信じず、かえって愛子姫にきつい言葉で歌を歌いかけた。
奥の間にずかずか上がってきた黒姫は、愛子姫の居間に玉治別がいるのをみてますます嵩にかかって、夫のいない間に若い男を引っ張り込んだと愛子姫を中傷する。
玉治別は、高山彦はずっと聖地にいたのであり、それを不憫に思ってはるばる黒姫にそのことを伝えようと筑紫の島まで追って来たのだ、と真心から説き諭した。夫が自転倒島にいると聞いて、初めて黒姫は以外の念に打たれて玉治別に真偽を糾した。
玉治別は、火の国館の主人の姿を描いた絵象を指示し、筑紫の島の高山彦は、黒姫の探す夫とは別人であることを説明した。これで黒姫もようやく自らの勘違いを悟り、愛子姫と玉治別に謝罪をなした。
黒姫は自分の勘違いではるばる遠い筑紫の島までやってきて火の国館を騒がせたことを情けなく思い、神前に懺悔を始めた。その中で、自分に生き別れの息子がいることを明かした。
玉治別は黒姫の懺悔をふと聞いて、生き別れの息子の幼名や捨て子の様子を尋ねた。すると年・名前、体の特徴である痣の形、守り袋までぴったりと一致していることがわかった。
玉治別と黒姫は、お互いに親子であることがわかり、思わぬ親子対面に二人はうれし涙にかきくれた。
黒姫、玉治別、房公、芳公、孫公の五人は自転倒島へ帰ることとなり、愛子姫、久公、徳公にその場で別れを告げて聖地に向けて船出した。その後、黒姫が自転倒島の由良港に着き、秋山別の館に立ち寄り、麻邇の宝珠の御用をすることになるいきさつは、第三十三巻に述べられているとおりである。