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文献名1霊界物語 第36巻 海洋万里 亥の巻
文献名2第3篇 神地の暗雲よみ(新仮名遣い)こうじのあんうん
文献名3第18章 心の天国〔1006〕よみ(新仮名遣い)こころのてんごく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-10-12 14:20:17
あらすじ
アナン、セール、ユーズ、シルレングたちは先の攻城戦で捕えられ、牢獄に投ぜられていた。四人はひそびそとサガレン王の身の上を案じつつささやきあっていた。

アナンは弱音を吐きかけるが、ユーズは人間の本尊である霊魂を活殺できるのは神様だけであり、たとえ牢獄につながれていようとも、竜雲のような悪魔にこびへつらって仕えているケリヤたちの心情の方が憐みを催すと元気をつけている。

シルレングらもユーズの言に心が晴れた心持になった。そこへ牢番頭のベールがやってきて、静かにするようにと四人を叱責した。ユーズは自分たちにとってはここが天国浄土であり、娑婆の欲に捉われているお前たちこそ牢獄にいるのだと逆にベールを叱責する。

ベールは怒って、ユーズを苦しめて殺してやろうと脅し嘲った。ユーズは意に介さず、ベールこそ天地に反逆する罪人であり、暴言の罪とがで懲らしめられるのだとあざ笑う。

ベールはユーズの態度にあきれる。ベールは、実は四人には赦免の命令が下っていたのだが、減らず口をたたくユーズはこのまま牢獄につないでおくと言い、アナンたち残りの三人に牢を出るようにと申し渡した。

しかしアナンは、竜雲のような罪人の赦しは受けないと言い、そう竜雲に伝えるようにと言いかえした。セールとシルレングも竜雲たちの罪を数え立てて、自分たちは悪人の情けは受けないと言い張る。

アナンたち四人は、竜雲たちの悪行を責める歌を歌い、自分たちの志を明かした。ベールは途方に暮れてしまったが、四人の詞にいつとはなしに釣り込まれて牢獄の中に入ってしまい、戸を閉めた途端に牢の錠が下りてしまった。

四人は竜雲に与する裏切り者として、ベールを四方から囲んで打ちこらした。ベールの悲鳴を聞いて、牢番が慌ただしく駆け付けた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月23日(旧08月3日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年12月30日 愛善世界社版191頁 八幡書店版第6輯 651頁 修補版 校定版197頁 普及版85頁 初版 ページ備考
OBC rm3618
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本文  アナン、セール、ユーズ、シルレングの四人は、兵を起して夜襲を試み、神地城の奥の間に軽進して、遂に臨時作りの陥穽に墜落し、捉へられて四人は一緒に牢獄に投ぜられ、ヒソビソとサガレン王の身の上に付き、案じ過して囁いてゐる。アナンは小声になつて、
『とうとう竜雲の曲神が陥穽に深くおち込み、こんなザマになつて了つた。モウ斯うなる上は何時解放されるかも分りやしないし、活殺の権は竜雲が握つてゐるのだから、俺達一同の生命は、丸で暴風の前の桜の様なものぢやないか。バラモンの大神さまも余り聞えぬぢやないか。悪人は自由自在に白昼に横行濶歩し、吾々如き至誠至実の人間は斯の如く惨酷な縲絏の辱を受け、鉄窓の下に昼夜呻吟せなくてはならぬとは、何とした事だらう』
と少しく弱音を吹きかけるを、セールはニヤリと打笑ひ、
『日頃剛胆なアナンにも似ず、何と云ふ弱音を吹くのだい。お前が吾々四人の内では最も先輩だ。そして此中でも智勇兼備の大将と仰がれてゐる身分ぢやないか。今日は又なぜそんな心淋しい事をいつてくれるのだ』
アナン『俺やモウ世の中の無常を感じて来たのだ。何程人間があせつた所で、吉凶禍福は到底吾々の左右し得べきものでない。何事も運命だと諦めるより、最早途はないからのう』
ユーズ『ナーニ、そんな弱々しい事を言ふものでない。お前達は信仰が足りないのだ。このユーズはナ、斯うして肉体は束縛されてゐるが、肝腎要の御本尊たる霊魂は、自由自在に快活に宇宙間を逍遥してゐるのだよ。肉体は仮令殺し得るとも、吾々の霊魂迄殺す丈の力はない。霊魂も肉体もすべて殺す力のあるものは只神さま丈だ。俺達は俗人輩の自由人の目から見た時は、実に窮屈な憐れな境遇に陥つた者だと思ふだらうが、ユーズに云はしむれば、却て竜雲如き悪魔に媚び諂らふケリヤ、ハルマ、ベール等の心情が憐れになつて来るワ。竜雲だつてヤツパリ同じ事だ。彼奴らは天の牢獄につながれてゐるのだ。名位だとか位置だとか、財産だとか、下らぬ小利小欲に魂をぬかれ、執着心といふ地獄の鬼に自由自在の霊魂を束縛されて、呻吟してゐる憐れ至極の人物だ。ベールだつて何時も偉相に牢番頭になつたと思ひ、横柄面をさらして、日に二三度此窓外をテクつて居よるが、思つて見れば実に憐れな代物だ。朝から晩まで職務大切だと言つて、行きたい所へも能う行かず、夜は夜でスベタ嬶の側でロクロク寝る事も出来ず、自分の子供だつて、碌に顔を見る事は出来ない憐れな代物だよ。朝早く暗い内から吾家を飛出し、夜遅く吾家へ帰つて行くのだから、子供は何時も熟睡してゐる。それだからベールの子供は、キツと父なし子だと思つてゐるに違ひない。思へば思へば憐れ至極な代物ぢやないか。
 憂き事の品こそ変れ世の中に
  心安くて住む人はなし

と云ふ古歌の通り、誰だつてこんな暗黒無明の現世に安穏に暮してゐる奴ア一人だつて、半分だつて、ありやアしない。其事を思へば、俺たちは実に幸福な者だ。衣食住の保証はしてくれるなり、仮令毒刃にかかつて斃れた所で、最早使ひ古した肉の衣だ。御本尊は如何ともする事は出来ないのだから、鼎鑊甘き事飴の如しといふ様な気分だ。何も心配する事はない、一切万事を神さまの大御心に任しておきさへすれば極めて安心だ。過去を悔むも最早詮なし。未来を案じて取越苦労をやつて見た所で、屁の突張りにもなるものでない。只今といふ此瞬間こそ、吾々の自由意志を発揮し楽む所の権能を与へられたる貴重な時間だ。刹那々々に楽んで行きさへすれば、刹那は積んで一時となり、時は積んで一日となり、一月となり、一年となり、十年百年千年万年となるのだ……大神の恵の露にうるほふて、今日も喜び昨日も明日も喜びに充つ……といふ様な心の持様一つで、結構な世の中と忽ち立直つて了ふのだ。アヽ有難い有難い、こんな安楽な所が又と世の中にあらうかい』
と元気な顔してはツしやいでゐる。シルレングは三人の問答を聞いて、片隅に腕を組み何か思案にくれてゐたが、
『イヤもうユーズの説には大賛成だ。俺も俄に気が晴々として来た。モウ此上は何事も思ふまい』
とシルレングの元気な詞に、窓の外を忍び足に廻つて来たのは牢番頭の悪党者のベールである。ベールは、
『オイ、アナン、其他の者共静に致さぬか。ここを何処と心得てゐる』
と威丈高に呶鳴る。
ユーズ『なんだ、貴様はつい此間迄此ユーズの下役に使つて居つたベールぢやないか。ここを何処と心得とるとは訳の分らぬ質問ぢやないか。余程良い頓馬ぢやのう。分らな云つて聞かしてやらう。ここは天空快濶として、曇りもなければ汚れもない、悩みもなければ苦みもない神霊界の天国だ。貴様は執着心に手足を縛られ、魂をからまれ、娑婆といふ牢獄に呻吟してゐる気の利かない馬鹿者だろ。さやうな馬鹿者が此天国浄土が見えないのも強ち無理もない。咎め立てをするのも可哀相だから許してやるが、以後はキツと心得て、只今の如き馬鹿げた事は言はぬがよからうぞ』
 ベールは声を尖らせ、
『汝科人の分際として、吾に向つて其暴言、聞捨にならぬぞ。ヨシ待て、今に懲してくれむ。其時は吠面かわかぬやうに致せ。水責火ぜめはまだ愚か、槍の穂先で嬲殺にしてやるから、其積りで楽しんで待つて居れ、テモさても憐れな者だワイ、イツヒヽヽヽ』
『何を吐すのだ。主客転倒も実に甚だしいわい。貴様こそ天地容れざる悪逆無道の科人だ。吾々は至誠忠良の士だ。決して天地に対し一点の恥づる所もなき志士だ。汝科人の身を以て至誠忠実の吾ユーズに対し、暴言を吐くとは聞き捨てならぬ。今に覚えて居れ。地震雷火事爺、火の雨ふらしてこらしめてくれむに。テもいぢらしい者だのう、イツヒヽヽヽ』
『コリヤ、ユーズ、貴様は発狂致したのか。牢獄へ捕へられながら、自分の境遇も弁へず、ズケズケと憎まれ口を叩く大馬鹿者、貴様の不利益になることを知らぬか』
『アハヽヽヽ、ヤツパリ貴様は此世が恋しいと見えるな。汝の小さき汚き心を以て、吾々の英雄の心事を忖度せむとするは、実に僭越も甚だしい。其方こそ社会亡者の発狂人だ。チツと良心に尋ねて見よ。どちらが気違か、いかな頑冥な貴様でも分るであらう。悪人の蔓る世の中、貴様たちの悪の眼より吾々を見れば、気違と見えるであらう。なる程吾々は気違には間違ない、併し乍ら気の違ひ方が違つて居るのだ。気違といつても決して貴様のやうな発狂者ではないから、混線せないやうに耳を浚へて聞くがよい。今の極悪世界の人間共の気に合ふやうにしようと思へば至粋至純の誠の神の御心に叶はない。俗悪世界の大気違共の心に合ふやうにすれば、大神様の御心に叶はないのだ。人生僅か一百年、永い歳月に比ぶれば、夢の断片みたやうなものだ。神より賜はつた吾々の生命は、万劫末代生き通しだ。僅か一百年の肉体を楽まむとして、永遠無窮の生命に罪を残すやうな馬鹿な事は致さない。そこが吾々と貴様等と大に気の違つてる点だ。貴様もよい加減に改心を致して、現代に於ける最善と思ふ事を行つて、俺たちの様にこんな天国へ這入つて来い。昔のよしみで忠告してやる。オツホン』
『益々以て訳の分らぬ事を云ふ奴だ。実の所は今日竜雲殿より、四人の奴を放免せよと命令が下つたのだが、左様なへらず口を叩く奴は、到底改悛の状が現はれてゐないから、無制限にここに繋留しておく。サア、アナン、セール、シルレングの三人、お許しが出たから、早くここを逃れるがよい。誰だつて何時迄もこんな窮屈な所に居たい事はあるまい。サア早く此戸をあけるから出たがよからう』
と錠をガタリと外し、入口の鉄戸をパツと開く。
アナン『竜雲の赦しならば決して俺は出ないよ。あんな奴が許すといふ資格がどこにあるか。畏くもサガレン王さまに対し、刃向ひまつつた大罪人、吾々如き誠忠の士を、罪人の分際として許すとは以ての外だ。左様な不都合な事を申すと、アナンが承知致さぬと、竜雲の奴に伝達致せ、アハヽヽヽ』
『アーア、どれもこれも皆逆上して了ひよつたと見えるわい。それも無理はない。こんな暗い所へ突込まれて居つちや、誰だつて気の狂はぬ訳に行くまい。アーア可哀相な代物だなア。そんならセール、お前は出るのは嬉しいだろ。早く出たがよからうぞ』
セール『コラ、ベール、随分能くサーベール男だなア。蛇のやうな舌の先でベールベールと竜雲にこび諂らひ、エンヤラヤツと見つともない、男らしくもない、牢番頭に選抜して貰つて、無上の光栄と思つて、ホクホクしてゐる代物だから、到底吾々の心の中の快楽は味はふ事は出来まい。ホンに憐れな代物だ。俺は決して牢獄へは這入つてゐない。貴様こそ無間地獄の牢獄に捕へられて苦んでゐる憐れ至極な代物だ。如何かして解放してやりたいと思つてゐるが、何を云つても随分貴様は罪が重いから、容易に放免してやる訳にも行かぬ。誠に以て憫然の至りだ』
 ベールは首を傾け、不審顔、
『アーア又此処も駄目だ。沢山な気違が簇生したものだ。此様な暗黒な苦しい牢獄を無上の楽園地のやうに思つてゐるのだから仕方がない。到底此奴は魂から焼き直さねば元々にはなるまい。オイ、シルレング、貴様だけはチツと正気があるだらう。サア早くここを出たり出たり』
『オイ、ベール、やめとかうかい。出た所で又もや何とか彼とか、難くせをつけ、風向が悪いと、又もや引捕へてブチ込まれると、何にもならない。面倒臭いから、此処に永遠無窮に鎮座まします考へだ。御親切は有難いが、却て吾々の為に迷惑となる。どうぞそんな事は断念したがよからうぞ。人の疝気を頭痛にやむよりも、一刻の間も時間を大切にして、厳重に無実の科人を逃さない様に努める方が、貴様の後生の為だ。何もかも大の字逆さまの現代だから、石が流れて木の葉が沈む、親爺が女郎買ふ、子が念仏三昧に入ると云ふ世の中だ。貴様も体主霊従、矛盾撞着のあらむ限りを尽して、天の牢獄に投ぜらるるのを楽しんで待つがよからう、ウフヽヽヽ……
 身はたとへ牢獄の中にひそむとも
  心は神の神苑に遊べり

 欲と云ふ百の魔神に捉へられ
  苦むベールの憐れなるかも

 曇りたる曲のベールの心には
  牢獄を地獄と思ひそめけむ

 日月の光かがやく心には
  鬼もなければ牢獄もなし

 六尺の肉の宮をば縛るとも
  心は高く大空に舞ふ

 ヤイ、ベール早く心を立直し
  牢獄に来れ誠を聞かさむ

 われよりも貴様の方が辛からう
  夜昼寝ずにテクテクとして』

 ユーズは又中より、
『ユーズこそ神の誠の宮代よ
  鬼や悪魔も襲ひ得ざれば

 竜雲やケールス姫の曲業を
  いかでか神は憎まざらまし

 憎むより神は憐れと思すらむ
  自らおつる地獄餓鬼道

 サガレンの王の命は惟神
  神の守りに安く居まさむ

 今暫し暴風吹けどもやがて又
  風凪ぎ渡り栄えにあふべし

 竜巻の雲の勢強くとも
  科戸の風に吹かれ散るべし』

 セールは又歌ふ。
『大奥の床まで穿ちブルブルと
  震ひてくらす奴ぞ可笑しき

 誠さへあらば天地に何者も
  恐るべき者あらざらましを

 君をすて誠をすてて竜雲が
  やがて吾身の生命を捨つべし』

 アナンは又歌ふ。
『アナンをば座敷の中に放り置いて
  人を地底へおとし穴掘る

 ケールスの姫の命の陥穽
  知らず知らずに竜雲落ちける

 待て暫し神が表に現はれて
  曲津の首を薙ぎ放りまさむ

 竜雲やベールが歎きて頼むとも
  いかでか出でむこれの牢獄を

 面白く牢獄の中に微笑みて
  曲津の手振眺めくらさむ』

 ベールは途方に暮れ、自分も亦四人の詞に何時とはなしに釣り込まれて、知らぬ間に牢獄の中に這入つて了ひ、中からピシヤリと戸を閉めた途端に、錠はガタリとおりた。肝腎の鍵は窓の外に黙つて横たはつてゐる。
ユーズ『オイ、ベール、とうとう貴様も改心しよつたな。サアもう斯うなる以上は、活殺の権はユーズ外三人が握つて居るのだ。どうだ、俺の言霊には降服致したか』
 ベールは初めて気が付き、
『ヤア此奴ア失敗つた! 取返しのならぬ事が出来たわい』
アナン『マアさうお急きになるにも及びませぬ。折角はるばると御訪問下さいまして、吾々一同は実に感謝に堪へませぬ。お茶なつと差上げたきは山々なれど、御存じの通りお館が貧乏ですから、碌なお茶も御座いませぬ。ここにアナンの魔法瓶が御座います。これなら少しは温かいでせうから、御遠慮なうおあがり下さい』
と前をまくらうとする。ベールは慌てて首をふり、両手を合せながら、
『イヤもう、お構ひ下さいますな。茶は実は飲まないのです。盤古神王さまに茶断ちを致しましたから………』
ユーズ『何は兎もあれ、ユーズの家内が一人殖ゑたのだから、お目出度い。どうぞ御入魂に願ひますよ。同じ天地の神さまの分霊、四海同胞だから、互に相親しみ相愛し、この天国の春を楽む事に致しませうかい』
セール『折角のベールさまの御入来だから、何ぞお愛想に上げたいものだ。オウ幸ひ、此処にセール親譲りの蠑螺の壺焼がある。之を進ぜうかい』
と目配せした。四人は一時に握り拳を固めながら、
『悪逆無道の竜雲に与するベール、思ひ知れよ!』
と四方より拳骨の雨を叩きつけられ、ベールは力限りの悲鳴をあげて救ひを呼ぶ。此声を聞き付けて一人の牢番はあわただしく駆けつけ来る。
(大正一一・九・二三 旧八・三 松村真澄録)
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