喜楽の姿が消えたことで、最初は母や兄弟も、女のところへ憂さ晴らしにいったのだろうと思って気にも留めていなかった。しかし二日経っても三日たっても帰ってこないで、そろそろ近所の大騒ぎになってきた。
皆それぞれ、占い師や祈祷師のところに行って、喜楽の行方を探索しようとしていた。七日目の十五日正午前に、喜楽は帰ってきた。
家族は喜び、近所の人々は詰めかけて、喜楽を問い詰めた。自分は神様に連れられて修行に行ってきたのだ、とだけ答えたが、神勅を重んじて後は無言で聞いているのみであった。
飯を食って一日寝たり、父親の墓に参ったりしていたが、十七日の朝から自分の身体はますます変になってきて、四肢は強直し口も舌も動かなくなり、身動きがまったくできないようになってしまった。
家族は医者を呼んだり祈祷師を呼んだり手を尽くしていた。自分は耳だけ鋭敏になり、周りのことはすべて聞こえていた。しかし医者も祈祷師もさっぱり効験がなかった。
次郎松は、狸が憑いているに違いないと言って、青松葉に唐辛子や山椒を混ぜいぶし出そうと準備を始めた。自分はこれでは殺されてしまうと思い、全身の力をこめて起き上がろうとしたが、びくともしない。
次郎松が火鉢に火をおこして唐辛子と青松葉の煙を団扇であおぎこもうとしている刹那、母がそれを止めて嘆願し、母の目から落ちた涙が自分の顔をうるおした。
そのとき上の方から一筋の金色の綱が下がってきた。それを手早く握りしめたと思ったとたん、不思議にも自分の身体は自由自在に活動することができるようになった。一同は歓喜の涙に打たれ、自分も復活したような喜びに満たされた。