ふと新聞の広告を見ると、壮士俳優募集と出ていた。自分はそれを見つめていると、多田琴が神がかりになって、霊術を応用して役者になれば名優にしてやろうと強制的に問いかけた。
自分は役者になってみたいものだと思っていたから、一も二もなく喜んで承諾した。しかし入会料として十円を取られた後、臀部に大きな腫物ができてうずいてたまらず、芝居どころではない。
腹の中から松岡神が出てきて、役者になりたそうにしていたから改心のために戒めたのだ、と笑う。丹波に帰ろうとすると腫物は嘘のように治ってしまい、それ以来俳優になってみたいという心はすっかり消え失せ、一心不乱に神界の御用に尽くすことになった。
穴太の斎藤某という口やかましい家の息子を直してやったらい、村の者も気が付いて信仰するだろうと思い、訪ねてみた。しかし追い返されてとぼとぼ帰ってきたところ、今度は次郎松が一人娘の阿栗(おぐ)が狐つきになってしまったと泣きついてきた。
行ってみると、次郎松も次郎松の老母も、彼らが喜楽に敵対して悪口を触れ回るものだから、腹いせのために娘に狐をつけたのだと思い込んでいる。喜楽は口を極めて二人に霊学の説明をしたが、まったく聞いてくれない。
仕方なく娘についていた狐を祓うと、またしても次郎松は、よくも大事な娘に狐をつけてくれたとあべこべに罵詈雑言をなす始末であった。