明治三十七年になると日露戦争が勃発した。四方平蔵、中村竹蔵などお筆先を信じきっている連中の鼻息がにわかに荒くなってきた。
喜楽が古事記を研究したり霊界の消息を書いていると、中村竹蔵がやってきて、喜楽が角文字などを書いて改心しないから、神業が遅れているのだと難癖をつけてきた。
そして、喜楽の肉体はご神業に必要だけれども、喜楽に取り憑いている小松林命が悪さをしているのだ、と言って、三方から怒鳴りたてて攻め立てる。
そこへ福島久子もやってきた。四方平蔵は、福島久子にも加勢を頼もうとしていたので、喜楽は便所へ行く風をして裏口から逃げ出し、大槻鹿造宅へ逃げ込んだ。
鹿造はかくまってくれ、福島や中村や四方が来たら、牛肉のにおいで往生させてやったら面白いだろうと、店から上等の肉を持ってきて煮て食い始めた。
中村竹蔵が喜楽を探しに鹿造宅にやってくると、鹿造夫婦は中村をからかって、牛肉を勧めはじめた。中村は憤慨して、喜楽を引っ張ろうとするので、自分は牛肉を三百目一人で食ったとからかった。
中村は躍起となり、悪い身霊の因縁だと鹿造夫婦をけなした。鹿造は怒って中村に拳骨をくれる。中村は、酒呑童子の霊など恐れるもものか、と言いながら帰ってしまった。
綾部にいてはうるさいというので、園部の支部長がやってきたので、日暮れ頃から園部に行って隠れて布教をしていた。