イールとヨセフは、いつの間にか茫々とした大原野をさまよっていた。向こうの空から五色の雲が広がり、美しい衣装を着た二人の女神が降りてくるのが見えた。女神は一人は若く、一人は年老いていた。
よく見れば、年老いた女神は黄金姫、若い女神は清照姫であった。イールとヨセフは、女神たちを峠で襲おうとしたことを詫びた。
黄金姫は、ここは未来の夢想国で、娑婆において神様のために大活躍をすると救われる浄土だと説明した。これは神様が来るべき世界を見せてくれているのだという。
女神たちは都率天の案内をすることになった。一行は立ったまま、青空の雲の中に昇っていく。眼前には宝玉で飾られた美しい殿堂が現れた。清照姫は、これは都率天の月照彦のお宮であると説明した。
清照姫は、中に入ると一言も発してはならないと二人に気を付けた。お宮の中に入ると、四人の女神が現れて、一行四人をそれぞれ導いた。
奥殿には、紫磨黄金の肌をした神が厳然として控えていた。威厳の中になつかしみを感じる。これが月照彦命であった。月照彦命は四人を差し招いた。黄金姫が先導し、一行は殿堂の後ろにある階段を降っていく。
イールとヨセフは、いつの間にか雑草が生い茂る沼に落ち込んでいた。美しき殿堂も、女神たちの姿も見えなくなっていた。沼の岸ではタール、レーブ、ハムが現れて何か口論をしているのが見えた。
ハムは、沼の中のイールとヨセフを助けようとしたが、取り憑いている鬼が邪魔をして助けられない。どこからか宣伝歌が聞こえてくると、ハムに憑いていた鬼は消えてしまった。そしてイールとヨセフもいつの間にか沼から抜け出て、ほとりに立っていた。
二人はハムの後を追っていくと、一本の松の木に大蛇が待ち伏せているのが見えた。二人が松の木の根元を見ると、バラモン教の大黒主が首だけ出して埋められている。大黒主は、天地の神の罰を受けているのだと説明し、二人に早く三五教に改心した方がよい、と勧めた。
また宣伝歌が聞こえてきた。大黒主の体は地面から抜け出て浮き上がると、大蛇に飲まれてしまった。大蛇は雲を起こしてどこかへ去って行った。
二人が気が付くと、谷底の河原に半身が埋まっており、三五教の照国別宣伝使一行に介抱されているところであった。
イールとヨセフは、黄金姫と清照姫を襲って逆に谷底に投げ込まれた一件を物語り、宣伝使たちに付いていくことになったが、なんとなく威光に打たれて恐ろしくなり、隙を見て逃げ出してしまった。
照国別は道端の古い祠で一夜を明かすことにした。