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文献名1霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻
文献名2第5篇 馬蹄の反影よみ(新仮名遣い)ばていのはんえい
文献名3第18章 関所守〔1083〕よみ(新仮名遣い)せきしょもり
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-11-23 11:37:47
あらすじ
テームス峠の山頂には、バラモン教の関所が設けられていた。実は、大黒主の命で蜈蚣姫、小糸姫を見つけて捕えようというのがこの関所の目的であった。

五人のバラモン教徒がここを守っていたが、人通りのない関所で暇を持て余し、酒を飲んで酔っ払っている。

一同は、山奥の関所守のような閑職に回されたことを嘆いたり、都であくせくするよりはずっといいと開き直ったり、酔って馬鹿な話にふけっている。

そこへ黄金姫たち一行がやってきた。黄金姫と清照姫は馬にまたがり、レーブたちが馬を引いている。関所守たちは一行を改めるために止めた。

レーブは、馬上にいるのは蜈蚣姫と小糸姫だと関所守たちに伝えた。しかし関所守たちさっさと関を通ってくれと促した。黄金姫たち一行はゆうゆうと関所を通過した。

関所守たちは、黄金姫と小糸姫が本物に違いないと思いながらも、威厳に当てられてしまった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年10月29日(旧09月10日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年5月5日 愛善世界社版257頁 八幡書店版第7輯 373頁 修補版 校定版270頁 普及版113頁 初版 ページ備考
OBC rm3918
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本文  テームス峠の山上にはバラモン教の関所が設けられ四五人の人が往来の人の信仰調べをやつて居る。と云ふのは表面の理由で其実は大黒主の命によつて蜈蚣姫、黄竜姫の所在を捜索し、見付け次第フン縛つて大黒主の館へソツと連れ帰れよとの命令を下して日夜見張りをさして居たのである。此関守は春公、清公、道公、紅葉、雪公と云ふ五人であつた。五人は朝から晩まで、日によると一人も道通りがない此関所で大きな口をあけ、両手を逆八の字に天井へグツと伸ばし『アヽヽ』と欠伸の共進会を仕事にして居た。仕方がなしにそこら中の果物をむしつて来て果物の酒を造り朝から晩まで飲んで飲んで飲み暮しズブ六になつてゐる。こんな関守が仮令千人あつたとて屁の突張りにもならぬのは、もとよりである。春公はソロソロ酔がまはり出し、
『オイ、雪公、貴様は冷い白い名だが、矢張り酒を喰うと体が熱くなり顔まで赤くなるのが、俺や不思議で堪らぬワイ。それだから、化物の多い世の中と云ふのだよ。ゲーガラガラガラ』
雪公『何が化物だい。世の中は凡てこんなものだよ。善悪一如、正邪不二、表裏一体だ。「一羽の鳥も鶏と言ひ、葵の花も赤に咲く、雪と云ふ字を墨で書く」と云ふ歌を貴様は知つてるか。貴様の名は春ぢやないか、春公の癖に此秋になつて行くのに鼻を高うし鼻唄を唄ひ、はなはなしう朝から晩まで浮かれきつて居るのが一体全体訳が分らぬ。貴様こそネツトプライスの正札の化物だ。否馬鹿者だよ。あんまり他人の事を誹ると自分の事におちて来るのを知らぬか。丁度空を向いて天に唾を吐いた様なものだよ。アーア、酔うた酔うた、ヨタンボばかりの中に混入してゐると俺迄ヨタンボ病が伝染して、嫌でもない酒を飲まされて喉の虫がグイグイ喜びよつて、腹が立つて仕方がないワ。本当にこんな関守を大黒主の大将だつて飼うておくのは大抵ぢやない。俺だつたら斯んな者は遠の昔に免職するけどな、流石大黒主だけあつて大舞台だワイ』
春公『何、大黒主の神様だつて、こんな現状を見付けたら一遍に免職さすのは請合だ。何分遠い所だから分らないので俺達も、かうして毎日睾丸の皺のばしを安閑とやつて居られるのだ。(都々逸)「他処で妻もちや遠山林、誰がかるやら盗むやら」とか何とか云つて遠距離に居所を構へて居りさへすれば、少々の脱線も矛盾も無事通過するものだ。それだから俺はお膝元のハルナの大都会に居るよりも、かう云ふ山奥の関守となつて田園生活オツト簡易生活をやつて自然を楽しむのだ。人間は自然の風光に接せなくちや嘘だよ。紅塵万丈雑閙を極めた大都市に煙突の煙を吸入して虚空如来の様に燻つてブラブラしてゐるよりも何程愉快だか知れやしない。三百年の寿命が斯う云ふ所に居ると、嘘八百年も延びるやうだ。うまいうまいうまいのは此酒だ。「酒屋へ三里豆腐屋へ一里」と十八世紀の人間は吐きよるが、至治至楽の神代生活は自ら田を耕して喰ひ、自ら井を穿つて飲み、そこらあたり枝もたわわに実つてゐる果物を手づからむしり、手づから酒を造つて賞翫する程結構なものはない。仁ぢやとか義ぢやとか、礼ぢやとか、そんな詐偽的言辞を並べて暗黒世界に住むよりも山青く水清く、空高き此山頂に四方を見晴らし、王者気どりになつて簡易生活を続けて居る位安楽なものはない。何せよ霊主体従だとか、慈悲ぢやとか、情とか、道徳とか、下らぬ屁理屈を囀つて居るよりも、善悪を超越し、道理を通過して、惟神的風光を楽しみ、安逸に一生を送る位、利口なものはないワイ。何といつても一寸先や暗ぢや、此瞬間が吾々の自由意志を遂行する黄金時代だ。(唄)「飲めよ喰へよ一寸先や暗よ、酒を飲むなら土瓶で沸かせ」土瓶で沸かした酒を飲んで薬鑵頭を沸らすのもいいコントラストだ。俺やもうハルナの都のハムにしてやらうと云つても、斯んな自由生活を覚えた以上は煩雑な都会へ行つて追従タラダラ虚偽ばかりの生活をするよりも俺は此関守ばかりは何時になつても思ひきる事は出来ないワ。

「山に伐る木は沢山あれど
  思ひきる気はないわいな」

とけつかるワイ。アハヽヽヽ』
紅葉『オイ春公、毎日日日職務を忘れて酒ばかり喰ひ酔うて居ると冥加が危いぞ。バラモン教の大黒主は神様だと云つても、人間のサツクを被つてゐるから誤魔化しはチトはきくが、梵天王大自在天バラモン大神、大国彦命様の御目を晦ます事は出来ぬぞよ。いい加減に心得ぬと、習ひ性となり、放埒不羈の人間になつて世の中の爪弾きものにしられてしまふが、それでも構はぬか。困つた奴だな』
春公『放埒不羈の極点に達した春公さまは、実際の事云へば世間から爪弾きされてハルナの都に居る所がないので、大黒主様が持て余し、適材適所といつて、あんなヤンチヤはテームス峠の関守にするのが匹適だと、あつぱれの御眼力で御任命なさつたのは、貴様等小人輩の了解すべき限りではないワ、紅葉は紅葉らしうして地に這うて沈黙せぬかい。今は何時だと思うてゐる、秋の末で紅葉の葉の風に叩かれ、地に落ちるシーズンだ。こんな時に浮き出さずにジツとして酒でも喰つて、秋の時雨の様な涙の雨でも降らしてシーズンで居る方が余程ましだよ』
紅葉『貴様にそんな忠告を受けなくとも、俺は故郷の女房の事を思ひ出してシーズンで居るのだ。(都々逸)「花と月とに間違ふやうな女房もつ身の気はもみぢ」と云つて貴様のやうな唐変木とはチツと選を異にして居るのだ。一ぺんも女に接した事のない酒喰ひの貴様に、浮世の味が分るものかい、浮いては沈み沈んでは浮み、浮沈み七度の世の中だ。お前等のやうな連中さまは酒より外に慰安してくれるものが無いのだからな』
春公『時に大黒主の神様に対し俺達もチツとは義務と云ふ事を尽さねばならぬが、こんな人通りの無い関守をさされては丸で島流しに遭うたやうなものだから、ツイ焼糞になつて酒をあふるやうになるのだが、鬼熊別の女房蜈蚣姫小糸姫の両人は何時になつたら此処を、通るだらうかな。ナア雪公、貴様一つ天眼通で考へて見てくれないか』
雪公『俺は雪の様に、神の様に身魂の清い執着心のない、白紙主義の男だから、腹の中迄水晶だ。それが違ふと思ふなら人込みの中ででも、ステーシヨンででも構はぬ、一つ貴様の短刀で俺の血を調べて見い………どこを切つても出る血は紅い、俺の心もその通り………だよ』
春公『コリヤ貴様はいつとても身魂の自慢ばかりしやがつて、肝腎の天眼通は如何するつもりだい。早く天眼通で調べてくれないか。貴様のやうな腰抜でも、ここへ連れて来たのは望遠鏡の代用にするつもりだから、早く親子の所在を透視せぬかい。貴様は都を出る時に屹度、テームス峠を近い内に蜈蚣姫と小糸姫が通るに違ひないと大黒主様に申上げよつたものだから、こんな処に関所を拵へて毎日日日待たされて居るのぢやないか』
雪公『あの時は天眼通の持合せが大分にあつたが、ここへ来てから貴様等の悪身魂が感染して、サツパリ天眼通が利かぬやうになつて了つたのよ。俺の考へでは此広い世の中、峠も沢山あるし、二人の母娘が此峠を一代の中に通るとも通らぬとも、見当がつかぬ様になつたワイ』
春公『貴様はさうすると大黒主様を誑つたのだなア。本当に太い奴だ。早く本当の事を吐かぬか』
雪公『ヨシ、こかぬ事はない、太い奴だな』
と真黒の尻をまくり上げ春公の前に左巻を捻り出した。
春公『エー糞奴め、糞の間にもあはぬ代物だな』
雪公『ひどい奴だ。こけと吐したぢやないか。これでも俺は一生懸命だぞ』
春公『エー仕方のない、穀潰しの製糞器だな』
とぼやいてゐる。そこへ黄金姫、清照姫は駻馬に跨り、二人の男は馬の口をとり、『ハイハイハイ』と勇ましく登つて来た。
 春公と雪公は目を怒らし、
春公『オイ、一寸待つた。其馬をここへ止めエ』
レーブ『ヨシ、止めなら止めもしよう。然し乍ら吠面かわかぬやうにせえよ。此方は貴様等の朝晩探ねて居る鬼熊別の奥様蜈蚣姫様と一人娘の小糸姫様だ。よく拝んでおけ、目が潰れるぞよ。光芒陸離たる懐剣を呑んで厶る八岐の大蛇のやうな御方だから生命が惜くなければ調べたがよからう』
春公『これやレーブ、そんな嘘を吐しても承知せないぞ。人を盲にするにも程がある。そいつア化物ぢやないか。目の玉が五つも六つもあり口が又四つも五つもある化物を馬に乗せよつて、蜈蚣姫も小糸姫もあつたものかい。早く通れ、貴様が出て来ると此関小屋までが頻りに廻転を始め出した。此坂道迄が上になり、下になり地異天変の大騒ぎだ。早うここを通過せぬかい。気味が悪いワイ。俺の探して居るのは、そんな化物の婆アや娘ぢやない。正真正銘の蜈蚣姫、小糸姫だ』
レーブ『化物だからここに下してやらうと云ふのだ。随分神変不思議の芸当をやりよるぞ。まあ一つ首筋でも掴んで此谷底へでも「プリン プリン ドスン、キヤーツ」とやつて貰へよ。イヒヽヽヽ』
春公『コラ、レーブ、可笑しさうに何だ。妙な笑ひ声を出しよつて、俺の頼みぢやからトツトと此処を通過してくれ、俺は暫く目を塞いでゐるから……』
レーブ『さう吐しや仕方がない、俺も同じ信者の厚誼で貴様の要求を無下に拒絶する訳にも行かないから、特別を以て貴様の嘆願を許容してやる。モシモシ蜈蚣姫様、小糸姫様、関守があのやうにいつて嘆願しますから、貴女も手荒いことをせずに許してやつて下さい。小糸姫様の武勇を発揮されやうものなら此奴等五人の笠の台は飛んで了ふのみならず、四肢五体メチヤメチヤになりますから。人を助けるのは宣伝使の御役、今日ばかりは見逃し、聞逃しを彼等五人に代つて、レーブがお願ひ致します』
黄金姫『許し難き関守なれどもお前の願ひによつて苛める事だけは止めてやらう。其代りにレーブ、お前も一杯関守の酒を頂戴して元気をつけて行つたらよからうぞ』
レーブ『何と気の利いたお客さまだこと。オイ春公、賄賂だ。見逃し賃に其徳利を一本貸せ、グヅグヅ吐すと此馬は一寸も動かないぞ』
春公『徳利一本で宜しいか。二人の馬方ならば二つ要りませう』
レーブ『何とまあ、気の利いたもの同志の寄合だ。お客さまもお客さまなら関守も関守だな。そんなら気の毒なれど二本頂戴して行かう。道々トツクリと飲んでお供をしようかい』
と云ひ乍ら春公の突き出す二本の徳利を受取り『ハーイハイハイハイ』『ブーブーブー』
レーブ『エーこん畜生、屁ばかり垂れよつて、臭いワイ。オイ皆の関守、これでヤツト安心しただらう。何事も羽織の紐だ、皆胸にある。以心伝心教外別伝、云はぬは云ふにいやまさる。俺の雅量も分つただらうな』
春公『オイ、レーブ、春公さまの雅量も買つてくれるだらうな』
レーブ『恐怖心に駆られ仕様ことなしの雅量だ。チツとお粗末ぢやけど、こんな処で荒仕事するのも面倒だから、粗製濫造品の雅量を酒二升の熨斗をつけて買つてやらう。ハイハイハイ』
と馬をいましめ乍ら坂道を下り行く。
 春公はヤツと胸を撫で下ろし、
『アーア、ドテライ奴が、やつて来よつて、ビツクリ虫が飛出し、肝玉が洋行する処だつた。睾玉の奴、俺にこたへもなしに何処かへ消滅して了ひよつたな』
雪公『俺も睾丸の所在が分らなくなつて了つた。一方の睾丸は婆なり、一方は娘だ。何処へ取り逃がしたか残念な事をしたワイ。折角テームス峠でピツタリ出会ひ乍ら、日頃の元気は何処へやら睾丸の奴三十六計の奥の手を出して、何処かへ姿をかくすものだから、此雪公さまも手の出しやうが無く、殆どゆき詰りだ。オイ紅葉、貴様の睾丸は大丈夫かな』
紅葉『大丈夫だ。よつぽど俺とは利口なと見えるワイ。俺の金助は矢張り君子だなア。危きに近よらずと云つて逸早く飛行船へ乗つて天国へ避難しよつたらしいワイ。アハヽヽヽ』
雪公『あれこそ、本当の蜈蚣姫、小糸姫に違ひないのう。然し乍らどこともなしに威厳が備はり面を向ける事も出来ないやうな神力が輝いて居るので、一目見るなりギヨツとしたよ。到底俺等の手にあふ代物ぢやないワ。然し乍ら俺の天眼通はヤツパリ的中しただらう』
春公『コラコラ、これ限り何も云うてはならないぞ。肝腎の目的物を見す見す取逃したのだから、こんな事が見付かつたら忽ち罷の字と免の字だ。只今限り沈黙を厳命する』
雪公『アハヽヽヽ、日頃の業託に似ず、何奴も此奴も猫に出会うた鼠の様なスタイルで其態つたら見られたものぢやないわ。大黒主様もこんな厄介な代物を抱へて居ちや本当にお気の毒だ。前途が思ひやられるワイ。ウフヽヽヽ』
 今迄空を包んで居た淡雲はカラリと晴れて小春の太陽は手厳しく酒に酔うた五人の頭を金槌で叩く様にガンガンと照らさせ給うた。五人は頭を抱へ、ウンウンと呻き乍ら其場に蹲んで了つた。
(大正一一・一〇・二九 旧九・一〇 北村隆光録)
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