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文献名1霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻
文献名2第1篇 恋雲魔風よみ(新仮名遣い)れんうんまふう
文献名3第5章 忍ぶ恋〔1089〕よみ(新仮名遣い)しのぶこい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-11-28 11:59:06
あらすじ
鬼熊別と石生能姫は奥の間に端座し、向かい合いながらしばし沈黙していた。鬼熊別は内心、大黒主の寵愛を受けハルナの館を取り仕切る石生能姫が共も連れずに一人やってきたことに何か深い仔細があるものと警戒していた。

石生能姫は、鬼熊別を慕う自分の心中を明かそうという決意でやってきたのだが、いざ鬼熊別に対面するとその思いはどこかへ消えてしまったかのようであった。

鬼熊別は、大黒主が自分を信任することは決してないことを知っていたが、すでに浮世には心にかけることはないと覚悟をしていることから、石生能姫の命にしたがって左守の留守役を引き受けたことを明かした。

また鬼熊別は実際のところ、大黒主を堕落させた毒婦として石生能姫のことを見ていたことを明かし、一日も早く前非を悔いて自害し、大黒主の目を覚ますようにと厳しく責め立てた。

石生能姫は返す言葉もなく泣き伏し、自分自身も大黒主が本妻をないがしろにして職務に身を入れていないことを嘆いていることを明かした。そして自分の身の上話を始め、元は三五教の信者であったが両親に生き別れ、まだ幼少のころに大黒主に見初められて小間使いとして連れてこられたことを語った。

しかし大黒主は、長じた自分を寵愛し、恩ある鬼雲姫が自分のために大黒主から疎まれてしまう結果となった。そのことを苦にして自害しようとしたが、そのたびに中空から声が聞こえて押しとどめられたという。

そのため、大黒主に唯一忠言できる自分の立場を鑑み、バラモン教の柱石となる人物を守ることが自分の役割だと思い切って、これまで活動してきたのだと胸中を明かした。

鬼熊別は、石生能姫のバラモン教に対する赤誠を感じ、これまで毒婦と思ってきたことを詫びた。そして、大黒主の考えを改めてバラモン教の立て直しをしたいという自分の思いを石生能姫に吐露した。

石生能姫は、大黒主の我は左守の軍がウラル教徒に敗れなければ折れないことまで見通しており、その機をうかがいながら、共に協力してハルナ城内を清めようと鬼熊別に決心の内を明かした。

鬼熊別と石生能姫は志を同じくし、共にバラモン教の立て直しのために働くことを誓って別れた。鬼熊別は神殿に向かい、バラモン神に感謝の祝詞を奏上して涙を流した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年11月01日(旧09月13日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年5月25日 愛善世界社版56頁 八幡書店版第7輯 437頁 修補版 校定版58頁 普及版27頁 初版 ページ備考
OBC rm4005
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本文の文字数4689
その他の情報は霊界物語ネットの「インフォメーション」欄を見て下さい 霊界物語ネット
本文  鬼熊別、石生能姫の二人は奥の間に端坐し、双方から互に顔を見合せ、暫し沈黙の幕がおりた。鬼熊別は心の中にて……夜前の熊彦の報告と云ひ、又途中の大橋を落しおきたるにも拘らず、女の身として供をもつれず、身分をも弁へず訪ね来りしは何か深き仔細のあるならむと、口をつぐんで石生能姫の言葉の切出しを待つてゐた。石生能姫も亦今更の如く鬼熊別の儼然たる態度に気を呑まれ、胸に積りし数々を述べ立てむとしたる事の、何時の間にやら、どこともなく消え失せて、出す言葉も知らず稍躊躇狼狽の態にて首を傾け、黙然として差俯むいてゐる。かくして四半時ばかり沈黙の内に時は容赦なく過去つた。思ひ切つたやうに石生能姫は稍顔を赤らめて、
『独身生活を遊ばす貴方様のお宅を女の分際として供をもつれず只一人、御訪問申上げましたに就ては、貴方も嘸御迷惑で厶いませう。奥様やお嬢様は三五教とやらに入信遊ばして、貴方は只一人苦節を守り、独身生活をつづけて、お道の為お国の為に昼夜御辛労を遊ばす、其見上げたお志、実に感服の至りで厶います』
 鬼熊別は漸くにして口を開き、
『御用は何で厶いますか。どうぞ手取り早く仰有つて下さいませ。又々大黒主様の嫌疑を受けては互の迷惑、サ、早く御用の趣を』
とせき立てれば、石生能姫は悲しげに、涙声にて、
『ハイ何から申上げて宜しいやら、只今迄斯うも申上げたい、あゝも申上げたいと胸に一杯になつて居りましたが、貴方の儼然たるお姿を拝して、俄にどつかへ隠れて了ひました。どうぞゆるゆると申上げますから気を長くお聞取り下さいませ』
『私は御存じの通り、大黒主様に種々雑多の嫌疑を蒙り、左守の聖職まで取剥がれ、何となく両者の間には、形容し難き妖雲漂ひ、今にも雨か風か雷鳴かといふ殺風景な空気が包んで居りましたが、昨日の外教征伐の相談の際、貴方様のお取成しに依つて再び元の左守に任ぜられ、私としては身に余る光栄で厶りますが、之が却て私の為には大なる災とならうも知りませぬ。大黒主様が心の底より御任命ならば私も喜んでお受けを致しますが、代理権の御執行とはいへ、決して大黒主様は私を御信任遊ばして厶る筈は厶いませぬ。早速御辞退申さむかと其場で思ひましたが、さうしては物事に角が立ち、円満解決が出来難い、又外に向つて勁敵を控へ、兵馬の勢力は大部分外に出で、ハルナ城は守り薄弱となつた此際、兄弟牆にせめぐ如き愚を演じてはお道の不利益と存じまして、口まで出かけてゐた辞退の言葉を呑みこみ、無念をこらへて、左守たることをお受け致したやうな次第で厶います。実の所を申せば、私の心は最早浮世が厭になり、地位も名望も財産も女房も欲しくはありませぬ。暫く山林に隠遁して、光風霽月を友とし余生を送りたきは山々なれども、バラモン教の今日の内情を見ては、左様な勝手なことも出来ませず、大神様に対し奉り、これ位不孝の罪はないと存じ、心ならずも御用を承はることに致しましたやうな次第で厶います。そして貴女、途中に何か変つたことは厶りませなんだかな』
『ハイ別に変りもなかつた様ですが、此方へ参る途中、九十九橋が何者にか打落され、已むを得ず一里ばかり下手へ参り、百代橋を渡つて、お館を訪ねて参りました。途上伝ふる所によれば、何でも斯う申すとお気にさへられるか存じませぬが、貴方様の身内の者が、何等かの考へで打落したとか云ふ噂で厶います。どうぞ此事が大黒主に聞えねばよいがと実は心配を致しつつ参つたので厶います』
『又一つ嫌疑の種がふえましたな。モウ私は何事も覚悟を致して居ります。一切万事神様に任した身の上、如何なる災難がふりかかつて来ようとも、少しも恐れは致しませぬ。併し又貴女が一人でお越しになつたに付いては合点のゆかぬことが厶います。あれ丈鬼雲彦様が嫉妬心深く、束の間も貴女の側を離れないといふ御方が今日に限つて、只一人外出を許されるとは、合点のゆかぬことで厶います。大方夫婦喧嘩でも遊ばして、貴女は城内をぬけ出して来られたのぢや厶いませぬか』
『イエ決して決して、夫の諒解を得て、只一人忍んで参りました』
『ハテ、益々合点が行かぬ。これには何か深い計略のあることだろう……イヤ石生能姫殿、打割つて申さば、貴女の如き毒婦に物申すのも汚らはしう厶る』
『エヽ何と仰せられます。それほど妾をお憎みで厶いますか。そりやマア如何した訳で……』
『訳は言はなくても、貴女のお心にお尋ねなされば、キツと分るでせう。よく考へて御覧なさい。大切な奥様を放出し、貴女はのめのめと其後釜にすわり、平気の平座で女王面をさらして厶る。そのお振舞が鬼熊別には気に入りませぬ。左様なことをなさるものだから、神様の御怒りにふれ、三五教やウラル教がハルナの都に向つて攻め寄せて来るやうになつたのです。一日も早く前非を悔い、奥様に一つはお詫の為、一つは大黒主様の御改心の為に、立派に自害をしてお果てなされ。それ丈の真心がなくては、到底此神業はつとまりませぬぞ』
と儼然として叱るやうに言つてのけた。其権幕の烈しさに、石生能姫は返す言葉もなく、ワツとばかりに其場に泣き倒れた。
 暫くにして目をおしぬぐひ、顔をあげ、細き声にて、
『あなたの御言葉は真に御尤もで厶います。妾もあなたと同感、此事に就いてはどれ丈胸を痛めて居るか分りませぬ』
『それ程胸を痛めるやうなことを何故なさいますか。貴女の決心一つで、如何でもなるぢやありませぬか』
『夫の恥を申上げて不貞くされの女だとおさげすみを蒙るか存じませぬが、モウ斯うなつては一伍一什を申しあげねばなりますまい。どうぞ暫く聞いて下さいませ。私は元は三五教の信者の娘、石生子と申しました。幼少より両親に生別れ、彼方此方と彷徨ふ中、大黒主様が狩に散歩の途中、私を一目見るより、吾家へ来れと仰有つて連れ帰り、奥様の小間使として御夫婦の方に可愛がられ、仕へて居りました所、ある夜、恥かしながら、大黒主様の無理難題、奥様にすまぬこととは知りながら女の心弱き所から、御機嫌を損ねまいと、大黒主様の要求に応じました。それより御主人は朝から晩迄、私を手許に引寄せ、奥様に対して小言ばかり仰有る様になり、私は立つてもゐても居られないので、いろいろと御意見申上げましたけれども、お聞き遊ばさず、とうとう奥様を、あの通り追出してお了ひになりました。私も世間からいろいろと悪評を立てられ生きてゐる甲斐もなく、外を歩くのも恥かしく、一層のこと自害して心の潔白を示し、奥様にお詫致さうかと幾度となく自害の覚悟をきめましたが、どこともなく中空に声聞え、待て待てと止められるので、面白からぬ月日を今日迄永らへて来たので厶います。所がお館に奸者侫人跋扈し、あなた様の御身の上を悪しきさまに大黒主に申上ぐる者、日々其数を加へ、主人は御存じの通りの短気者故、あなた様をふん縛り、厳しき刑罰に処せむと息まくこと一再ならず、之を思へば私は今死んでも死なれない。主人が如何なる事でも、私の言ふ事なら聞いてくれるのを幸ひ、バラモン教の柱石をムザムザ失つては大変だと、いろいろと今日まで諫言を致し、蔭乍らあなたの御身辺を守つて来た者で厶います。どうぞあなたもお道を思ひ、国を思ふ真心をモ一つ発揮して、私と共に此教と国を守つて下さいますまいか。今私が自害して果てたならば、あなた様の身辺は忽ち危くなるでせう、否々あなたは神力無双の神司、ヤミヤミ討たれはなさいますまいが、内憂外患の烈しき今日、両虎共に鎬を削つて争ふ時は、勢共に全からず、どちらか傷ついて倒れ、バラモン教国の覆滅は火を睹るよりも明かで厶います。何卒ここの道理を聞分けて、私の精神をお悟り下さいます様に御願ひ申します。此事の御相談を申上げたさに、主人の手前を甘くつくろひ、あなたの腹中を探つて来ると申して参りました』
と涙ながらに一伍一什を物語つた。鬼熊別は稍顔色を和らげ、
『石生能姫殿、左様で厶つたか。かかる清き尊きお志とは知らず、今まで貴女を毒婦、奸婦と見くびり憎んで居りましたのは誠に私が不明の致す所、どうぞ赦して下さい。何を言ふも暗黒の世の中、到底人間の心の底は分るものでは厶いませぬ。私だつて其通り、数多の侫人ばらに讒訴され、円満なるべき大黒主様との仲に垣が出来たのも全く互の誤解からで厶いませう。大黒主様もあの様な悪い方ではなかつた筈ですが、何時の間にやら稍御安心なさつた虚に乗じ、曲神に身魂を襲はれ給うたので厶りませう。あゝ何とかして其悪魔を退散させたいもので厶いますなア』
『ハイ有難う、よく云つて下さいました。どうぞあなたはお道の為、国の為と思召し、不愉快を忍んで、御登城下さいまして、左守としての職責を完全にお尽し下さいませ。私が及ばずながら内助の労を取りますから。併し乍ら前以て申上げておきますが、大黒主様は中々容易に改心は出来ますまい。イソの館に向つた鬼春別やカルマタ国に向つた大足別が一敗地にまみれ、往生をした上でなくては、到底あのキツイ我は折れますまい。どうぞ、あなたはお道の為、国の為に身を挺して刃の中をくぐる大覚悟を以て御出勤を願ひます。幸ひ私は大黒主の寵愛を得て居りますから、其段は大変に好都合で厶ります。折を見て鬼雲姫様を元の奥様に直つて貰ふやうに取計らひませう。それに付いては到底私一人の力で及びますまいから、あなたと私と力を併せて、ハルナの城内を先づ清め、悪魔を郤けようでは厶いませぬか』
『そこ迄の女の貴女の御決心、イヤもう実に感服仕りました。左様なれば、私も貴女の真心に感じ、身を挺して大改革にかかりませう。何卒御内助を願ひます様、実の所昨夜あなたは御存じなけれども、大黒主様の御内命にて近侍の者等数十名、吾館へ襲来し、夜陰に紛れて吾命を奪はむと致されました。其計略を或者より承はり、家老の熊彦が計らひにて、あの橋を落させておいた様な次第で厶いますから、何れ大黒主様より一問題が私に対し持上がるものと、覚悟は致して居ります』
 石生能姫はこれを聞いて驚き呆れ、身を震はしながら、
『ソリヤまあ真実で厶いますか、大変な事になるとこで厶いました。ヤ私がこれから帰りまして、それとはなしに探つてみませう。又あなたに難題のかかるやうなことは決してさせませぬから………あゝモウ暫く御邪魔が致したいので厶いますが、余り長くなると又疑惑の種を蒔きますから、お名残惜しう厶いますが、これにて失礼致します…………』
と妙な目使ひにて鬼熊別を見守つた。あゝ斯くの如き心正しき石生能姫も恋には迷ふ心の闇、上下の隔なしとはよく云つたものである。鬼熊別は石生能姫に左様な心ありとは、夢にも知らず、嬉し涙を流しながら、石生能姫の手を固く握り、
『コレ姫様、随分気を付けなさいませ。貴女の体は大切なお身の上、私と貴女と力を合はして居りさへすれば、ハルナの都は大丈夫で厶います』
と一層強く手を握りしめた。石生能姫は日頃思ひ込んだ鬼熊別に手を固く握られ、嬉しさに胸を轟かせ、覚束なげに細き手を伸べて、力限り鬼熊別の手を握り返し、流し目に顔を見上げて、ホロリと一雫涙の雨と共に名残惜しげに後振返り振返り、館をしづしづと立つて帰り行く。鬼熊別は玄関口まで姫を見送り、そこにて別れを告げ、午後は必ず参勤すべきことを約して、暫しの別れを告げた。後に鬼熊別は神殿に向ひ、感謝祈願の祝詞を奏上し………あゝ未だバラモン神は吾等を捨て給はざるか、有難し勿体なや………と両手を合せ、感謝の涙を滝の如く流すのであつた。
(大正一一・一一・一 旧九・一三 松村真澄録)
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