二人は着衣のまま、広い川を意外にも無事に渡った。見れば美しい花が咲き匂っている花園が見えた。二人は神界へ来たのかと舞い上がったが、カルは自分の身を省みれば、決してこのような結構なところに来られる道理はないといぶかった。
いつの間にか二人が立っていた地面は持ち上がり、両側の低いところには大道が通じ、種々雑多な人や獣が往来していた。前方から悲鳴が聞こえてきた。二人が駆け寄ると、一人の男が血刀を持ち、四五才ばかりの童子の胸を突き刺そうとしているところであった。
レーブとカルは男に飛び掛かったが、びくともしない。男は童子を突き殺してしまった。カルとレーブは男を非難したが、男は自分はお前たちの心の反映だと言い、生前には童子にひとしい青人草の生血を吸い、修羅の戦場に身を置いた罪がここに顕現しているのだと嘲笑った。
レーブは、幽界旅行がさびしくて道連れがほしくてカルと打ち解けたが、その実はこのような悪人はいつかは地獄道へ突き落さなければと思っていたことを懺悔した。カルは殺された童子は自分のレーブへの恐怖心だったと悟った。
二人はお互いに自分の心を開きあい、両手を合わせて天地に祈願した。しばらくして目を開けば、あたりは紅の花が咲き匂い、美しい蝶が舞い遊んでいる。両人は初めて心の迷いをさまし、天津祝詞を奏上しながら北へと仲良く手をつないで進んで行った。