中央印度のデカタン高原の南方に、テルマン国という大国があった。テルマンの都に富豪の聞こえたかい毘舎族のシャールという男があった。シャールは富力にまかせて妾を買い込み、本妻のヤスダラ姫には至極冷淡な扱いをしていた。
ヤスダラ姫はイルナ国の刹帝利の生まれで、セーラン王の許嫁であったが、右守の策略でシャールに嫁がせられていた。
ヤスダラ姫の別宅には二人の侍女と、取り締まりとしてリーダーという若い男が仕えていた。リーダーは万事抜け目なく立ち回る利口な男で、ヤスダラ姫も心をゆるし、時おり琴などを弾じさせて日々の憂鬱を慰めていた。
ある日、普段は寄り付かないシャールが突然、ヤスダラ姫の別宅を訪ねてきた。シャールは、イルナ国右守の妻・テーナ姫を伴ってやってきて、ヤスダラ姫がイルナ国王に恋文を送り不貞の罪を犯したと身に覚えのないことで姫を責め立てるのであった。
右守は、イルナ国からセーラン王とクーリンスを放逐するにあたって、クーリンスの娘にして王の従妹であるヤスダラ姫が障害とならないよう、シャールに不貞の罪を讒言し、ヤスダラ姫を幽閉させようという計略であった。
シャールは、大黒主の信任が厚いイルナ国右守の権勢を恐れており、もともと不仲のヤスダラ姫を邸内の牢獄に幽閉してしまった。
風雨雷電の激しい夜、忠義のリーダーは堅牢な牢獄を打ち破り、ヤスダラ姫を救い出し闇にまぎれてシャールの館を脱出した。二人は夜を日についでイルナ国に逃げ帰ることになった。