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文献名1霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻
文献名2第2篇 恋海慕湖よみ(新仮名遣い)れんかいぼこ
文献名3第8章 乱舌〔1133〕よみ(新仮名遣い)らんぜつ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-12-22 15:38:29
あらすじ
セーリス姫は、カールチンの王位簒奪計画を防ぐためとは言いながら、心にそぐわないユーフテスに色目を使って仲を偽ってきたことに心を痛め、二弦琴を弾きながら歌っている。

そこへユーフテスがそっとやってきた。ユーフテスは、清照姫の計略が当たり、カールチンが大黒主の援軍を断って返したことを報告にやってきた。

セーリス姫は自分の心を押さえてあくまでユーフテスに気がある風を装っている。ユーフテスは、これまで自分はセーリス姫にだまされているのではないかという疑いの心があったが、セーリス姫の真心がわかったと言って感動を露わにした。

ユーフテスが有頂天になっていると、扉の外からセーリス姫が呼びかけた。ユーフテスは、自分が今ここでセーリス姫と話をしているのに、不審を抱いた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年11月15日(旧09月27日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年7月1日 愛善世界社版106頁 八幡書店版第7輯 680頁 修補版 校定版110頁 普及版42頁 初版 ページ備考
OBC rm4208
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本文 『凩荒ぶ秋の空  妻恋ふ鹿の鳴く声も
 細りて早くも冬の空  冷たき風は窓を吹き
 錦飾りし野も山も  木の葉の衣を脱ぎすてて
 漸く裸となりにける  時しもあれやユーフテス
 わが身を思ふ恋衣は  いよいよ厚く重なりて
 百度以上の上せ方  冬と夏とを間違へて
 猛り狂ふぞ浅猿しき  誠の道にありながら
 右守司に比ぶれば  稍正直な男をば
 詐り操る吾心  げに恥かしく思へども
 セーラン王や国の為  仮令地獄に堕つるとも
 騙さにやならぬ此場合  天地の神もセーリスが
 心を諾ひ遊ばして  曲行ひを惟神
 直日に見直し聞直し  宣り直されて此度の
 イルナの国の大変を  未発に防がせ給へかし
 騙され切つたユーフテス  さぞ今頃は勇み立ち
 舌をかみ切り腮をうち  苦しい身をも打忘れ
 吾身の事を一心に  思ひこらしてスタスタと
 家路を出でて大道を  急ぎて進み来るらむ
 又もや大道に顛倒し  大きな怪我のなき様に
 梵天帝釈自在天  厚く守らせ給へかし
 ユーフもヤツパリ天地の  神の御水火に生れたる
 神の御子なり神の宮  妾も憎しと思はねど
 セーラン王の御為に  忠義の犠牲と心得て
 心にもなき詐りを  図々しくも白昼に
 振舞ひ来るぞ悲しけれ  天地の神よ百神よ
 セーリス姫の罪業を  咎め給はず速かに
 許させ給へ惟神  神の御前にねぎ奉る』
と二絃琴に合はして淑やかに歌つてゐるのは、歌の文句に現はれたセーリス姫である。
 廊下に足音を忍ばせながら、あたりを窺ひ、ソツと這入つて来たのはユーフテスである。痩犬が臭い乞食の飯を嗅ぎつけたやうなスタイルで、負傷した舌を五分ばかりニヨツと出し、下唇の上に大切さうにチヤンと載せ、腰と首と互ちがひに振りながら、少しく屈んで、左右の手を妙な恰好にパツと広げ、掌を上向けにして、乞食が物を貰ふ様な手つき可笑しく、
『モシ…………モシ…………姫さま』
と言ひ憎さうに口を切つた。セーリス姫は……あゝ又嫌な男がやつて来た、暫く虫を抑へて、一活動やらねばならぬ、何ほど嫌でも嫌さうな顔は出来ない。「いやなお客に笑うて見せて、ソツと泣き出す好きの膝」といふ事もある。ここは遺憾なく愛嬌を振りまくのが孫呉の兵法だ…………と敏くも心に決し、笑を十二分に湛へて、
『ユーフテス様、御怪我は如何で御座いますか、御用心して下さいませや。あたえ心配致しまして、昨夜も碌に寝なかつたのですよ。貴郎が此世の中に生存して居られなかつたら、あたえも最早社会に生存の希望はありませぬワ。ねえ貴郎、可愛いものでせう、オホヽヽヽおゝ恥し………』
 ユーフテスは之を聞いて頭のぎりぎりまでザクザクさせ、自由のきかぬ舌の側面から止め度もなく涎を迸出しながら、慌てて袂で拭き取り、
『(言ひにくさうに言ふ)お姫さま………有難う………お蔭様で………大した事は………ありませぬから、マア、安心して下さい………至極………健全です。昨日は大変に痛みましたが、今日はお蔭で大ウヅキがとまり、気分も余程よくなりました』
『本当にそれ聞いて、あてえ嬉しいワ。そらさうでせうよ、終日終夜、大自在天様に御祈願をこらしてゐたのだもの、貴郎の為なら、仮令あたえの命がなくなつても、チツとも惜しくないワネエ』
『そりや………有難いなア………お姫さまの………御精神が………そこまで………熱誠だとは………夢にも思はなかつたですよ。始めの内は何か、気をひかれてゐるのぢやなからうかと、疑つてゐましたが………ヤツパリ疑ふのは………私の心が汚いからでした………どうぞ、お姫さま、こんなつまらぬ男でも、ここまでも解け合うたのですから、どうぞ末永う可愛がつて下さい………其代りに、貴女の為ならば鬼の巣窟へでも、獅子狼の岩窟へでも、飛込めと仰有れば飛込みます。猛獣の棲処は愚か、猛火の中でも水底へでも、御命令ならば………いやお頼みならば………何でも忠実に御用を承はりますワ』
『オホヽヽ、貴郎そんな叮嚀な事いつて下さると、あたえ、何だか他人行儀のやうになつて気が術なうてなりませぬワ。どうぞこれから、そんな虚偽の辞令は抜きにして、あたえを女房扱ひに呼んで下さいねえ。そしておくれやしたら、あたえ、何ぼ嬉しいか知れませぬワ。オホヽヽ』
『時にお姫さま、否セーリス姫、喜べ、偉い事が出来たぞ。天が地になり、地が天になる………と云ふ大事変だ。それもヤツパリ智謀絶倫のユーフテスとセーリス姫との方寸から捻りだした結果だから、剛勢なものだよ、オツホヽヽ。アイタヽヽ、余り笑ふと、ヤツパリ舌が痛いワイ。アーン』
『大変とは何ですか。早う言つて下さいな。あたえ、気にかかつて仕様がありませぬワ。吉か凶か、善か悪か、サ早う聞かして頂戴』
と、目を細うし首を傾け腮を前へ突き出し、舌を右の唇の縫目へニユツと出し、色目を使つて見せた。ユーフテスは益々得意になり、十分に手柄話を針小棒大にやつて見たいのは山々だが、思ふ様に舌が命令を聞かぬので、もどかしがり、目をしばしばさせながら、
『天地が変るといふのは………それ、お前の心配してゐた、大黒主様の御派遣遊ばす、五百騎をぼつ返す様になつたのだ』
『エヽいよいよ決行されましたかなア。さぞ清照姫さまも喜ばれる事でせう、清照姫さまはヤツパリ偉いですなア』
『そらさうですとも、セーリス姫さまの………ドツコイ、お前の贋の姉になるといふ腕前だからなア、偉いと云へば偉いものだが、併しながら其八九分迄の功績は、ヤツパリ、ユーフテスとセーリス姫にあるのだからなア。何程智慧があつても、器量がよくても、一人で芝居は出来ないから、吾々夫婦は千両役者と云つても………過言ではあるまい。アーン』
『オホヽヽ、正式結婚もせない内から、夫婦なんて言ふものぢやありませぬよ。もしも口さがなき京童の耳へでも這入らうものなら、ユーフテスの夫婦は自由結婚をやつたとか、セーリス姫はお転婆の標本だとか、新しい女だとか言はれちや、互の迷惑ですからなア』
『それなら何と言つたらいいのだ。夫婦と言はれても、余り気が悪くなる問題ぢやあるまい。アーン』
『そらさうですとも、一刻も早く、互に夫よ妻よと意茶ついて暮したいのは山々ですワ。余り嬉しうて、一寸すねて見たのですよ。オホヽヽ』
『エヽ肚の悪い女だなア。さう夫をジラすものぢやないワ』
『夫でも男でも、オツトセーでも、ナツトセーでも良いぢやありませぬか。本当の私のオツトセーになるのは、此広い世界に貴郎丈ですワネエ。なつと千匹に夫一匹と云ひまして、択捉島あたり沢山に棲息してゐる膃肭臍も、真実は千匹の中で真のオツトセーは只の一匹より居ないさうです。九百九十九匹迄は皆なつとせいださうですからな。アホツホヽヽ』
『なつとせい………なんて、そんな事は初耳だがなア、オツトセーとなつとせいと何処で区別がつくのだらうかな』
『そりや確に区別がありますワ。ナツトセーといふのは、人間でいへばやくざ男の事ですよ。婿えらみをした結果、どれを見ても帯には短し襷に長し、意中の夫が見つからない、さうかうする内に月日の駒は矢の如く進み、綻びかけた桜の花は、グヅグヅしてゐると既に梢を去らむとするやうになつて来る。そこで慌てて背となる人を俄にきめます。其時にどれを見ても、甲乙丙丁の区別がつかぬ、併し此男は鼻が高いとか、口元がしまつてるとか、目が涼しいとか、一つの気に入る点を掴まへ出し、コレナツと夫にしようか………と云つて、女の方からきめるのが、所謂ナツトセーですワ。オツホヽヽ』
『さうすると、俺はナツトセーの方かなア。それを聞くと余り有難くもないやうだ。アーンアーン』
『貴郎はオツトセーですよ。毛の皮は柔かいし、皮むいて首巻にしたつて大変な高貴なものなり、皮になつても、女の首丈はきつと、ホコホコするといふ大事の大事のオツトセーですワ。どの男を婿に持たうかと、あたえも永らく調べてゐましたが、あなたのやうな色の白い、目のパツチリとした、鼻筋の通つた、口元のリリしい、カイゼル髯の生えた、背のスラリと高い、肌の柔かい、しかも智謀絶倫と来てゐるのだから、オツトマカセに喰へ込んだのだから、オツト待つてましたといふ具合に、猫のやうに喉をゴロゴロならして飛付いたのですもの、真の誠のオツトセーですワ。オホヽヽ』
『アハヽヽ、アハヽ、アイタヽヽ、何だか笑ふと舌が痛い、困つた事だ。有難いなア』
『コレ丈恋慕うてゐる女房ですもの、あなただつて、何もかも腹蔵なく仰有つて下さいますわねえ。夫婦の間といふものは、本当に親しいもので、生んでくれた親にも見せない所まで見せたり、話さない事まで話すのですもの。夫婦は家庭の日月天地の花ですワ』
『俺はお前の事なら、何でも皆秘密を明かしてやる覚悟だ。時に何だよ………五百騎を差止めたばかりでなく、テーナ姫さまが三百余騎の強者を皆引率して、ハルナの国まで行つて了つたのだから、カールチンの部下は最早一人も残つてゐないのだ。もう斯うなつちや、何程謀叛を企まうたつて、駄目だからなア。後に残つてる奴ア、目ツかちや、跛や聾、間しやくに合はぬ奴ばかりウヨウヨしてるのだ。屈強盛りの豪傑連は、皆テーナ姫に従軍したのだから、之を一時も早く、清照さまに………報告して喜ばしたいものだ。アーン』
『ホヽヽ、そんな事ですかい。それなら夜前私の許へチヤンと無言霊話がかかりましたワ。清照姫様も既に既に御存じですよ。そんな遅い報告は駄目です。モチツト早く報告して貰はぬと、女房のあてえが清照姫様へ申上げて手柄にする訳には行かぬぢやありませぬか』
『何分舌を怪我したものだから、舌が遅れたのだよ。それは惜しい事をしたものだ。ウツフヽヽヽ、此奴ア一つガツカリした』
『オツホヽヽヽ時に右守は如何して居られますか、随分御機嫌が良いでせうなア』
 ユーフテスは最前から余り舌を無暗に使つたので、チツとばかり腫れて来たと見え、
『アヽヽ』
と言ひながら、手を拡げて不恰好な仕方をして見せて居る。
『オホヽヽまるで蟷螂が踊つとる様だワ。モウ一つ違うたら米搗バツタの手踊みたやうですワ。あたえ、そんなスタイル見るの、嫌になつたワ。オツホヽヽヽ』
『アーンアーンアーン、ウーウーウー、シシ舌が、オオ思ふよに、きけなくなつた』
 セーリス姫は両手を組み、鎮魂の姿勢を取り、心静かにユーフテスの舌に向つて、
『一二三四五六七八九十百千万』
と天の数歌を三四回繰返し祈願をこらした。不思議やユーフテスの舌は其場で腫が引き、痛みもとまり、又もや水車の如く運転し始めた。
『ヤア有難う、不思議の御神徳で輪転機の破損が全部修繕したと見え、運転が自由自在になつて来ました。サア是から三寸の舌鋒を縦横無尽にふりまはし、懸河の弁舌滔々と神算秘策を陳述する事としよう。女房喜べ、天の瓊矛は恢復したぞや、アハヽヽヽ』
『オホヽヽヽあの元気な事、わたしも之で一安心しました。イヒヽヽ』
 かく云ふ所へやさしい女の声で、襖の外から、
『モシモシ、ユーフテス様、あてえはセーリスで厶います、どうぞ開けて下さいな』
『ハテ合点が行かぬ様になつて来たワイ。俺が今セーリス姫と話をしてゐるに、なアんだ。又チツトも違はぬ声を出しよつて………ユーフテスさま、開けて下さい………と吐しよる、ウーン、此奴はチツト変だぞ』
と首をかたげ、眉毛に唾をぬりつけ始めた。
セーリス『オホヽヽ』
 襖の外から、同じ声色で、
『オホヽヽ』
(大正一一・一一・一五 旧九・二七 松村真澄録)
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