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文献名1霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻
文献名2第2篇 恋海慕湖よみ(新仮名遣い)れんかいぼこ
文献名3第9章 狐狸窟〔1134〕よみ(新仮名遣い)こりくつ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-12-23 14:12:40
あらすじ
室内のセーリス姫は、室外のセーリス姫を呼んで招き入れた。外から入ってきたセーリス姫に突き飛ばされて、ユーフテスは倒れた。

二人のセーリス姫は、ユーフテスを介抱しながら自分たちは狐の化けものだ、どちらも本物だとユーフテスをからかっている。ユーフテスは両方から腕を引っ張られて往生し、金輪際女には懲りたと白旗を上げる。

女は白狐の本性を現して、太い白い尻尾をユーフテスの前に現した。ユーフテスはあっと叫んでその場に転倒してしまった。

白狐の旭はセーリス姫にお辞儀をしてどこかに去って行った。セーリス姫は自分の顔を狐の顔に化粧し、ユーフテスの面分に清水を吹きかけた。ユーフテスは気が付いて起き上がり、セーリス姫の顔を見てびっくりり、廊下をはって逃げ帰ってしまった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年11月15日(旧09月27日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年7月1日 愛善世界社版119頁 八幡書店版第7輯 685頁 修補版 校定版123頁 普及版48頁 初版 ページ備考
OBC rm4209
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本文  ユーフテスは外から呼んだ女の声に不審の念晴れやらず、腕を組んで暫く「ウーン」と溜息をついてゐる。外より以前の女の声、
『もしもしユーフテス様、セーリス姫で厶います。這入りましてもお差支は厶いませぬかな』
『差支がないとは申さぬ。二人もセーリス姫があつて堪るかい。ばヽヽヽ化物奴、早く退却せい。ユーフテスには腕があるぞ』
『オホヽヽヽ御両人さまが密約御成立の間際に、白首が参りましては、嘸御迷惑でせう。然しながら、あたえは本当のセーリスですから、何と仰有つても侵入致しますよ』
『主人の許可もないのに無断で闖入すると、治警法嘘八百条によつて告発してやるぞ。それでも承知なら、闖入なつと乱入なつと、やつたら宜からう。アーン、オホン』
『何方か知りませぬが、何卒お這入り下さいませ。あなたも矢張セーリス姫さまで厶いますか。妙な事もあるものですな』
『ハイ、有難う厶います。同名同人のセーリス姫ですよ』
『こりやこりや女房、オツトセーの俺に答へもなく、勝手に女を吾居間へ引き入れると云ふ事があるか。婦人道徳をチツトは考へたがよからうぞ』
『オホヽヽヽヽようそんな事仰有いますな。女の居間へ女が来るのが、何がそれ程悪いのですか。貴郎如何です、私一人の女の居間へ何時もニヨコニヨコやつて来るぢやありませぬか。外のセーリス姫さまが御入来になるのが不道徳ならば、貴郎の方が余程不道徳ですわ、あゝもう貴郎の御面相が俄に怪体になつて来て、私は兎も角、腹の虫が排日運動をやりかけました。国際問題の起らぬうちに早く退却して下さい。ねえ、オツトセーのユーフテスさま』
『こりやこりや女房、何と云ふ暴言を吐くのだ。千年も万年も添うて呉れと云つたぢやないか。心機一転と云ふも実に甚だしい』
『手を翻せば雨となり、手を覆へせば風となる、君見ずや管鮑貧時の交、此道近人すてて土の如し、オホヽヽヽヽ』
『女と云ふものは本当に分らぬものだな。八尺の男子を三寸の舌鋒で、肉を剔り骨を挫き、血を搾るやうな目に遇はしやがる。貴様は大方化州だらう。アーン』
『ホヽヽヽヽ貴郎も余程頓馬ですな、開闢以来女は化物と云ふぢやありませぬか。そんな訳の分らぬ様な野呂作では、婦人に対し彼是云ふ資格はありますまい。ねえ外からお出でやしたセーリス姫さま、どつちが化物だか分つたものぢやありませぬねえ』
『どうせ化物ばかりの跳梁跋扈する世の中ですもの、このユーフテスさまだつてヤハリ化物ですわ。恋と云ふ曲者の魔の手に誑惑されて、三代相恩の主人の陰謀を残らず相手方へ密告なさる様な世の中ですもの、百鬼昼行は現代の世相だから、如何ともする事は出来ますまい。是から二人の女が両方から膏を搾つてあげませうか。女と云ふ字を二つ書いて真中に男の字をはさむと嫐られるとか読むさうですな。オホヽヽヽヽ』
『男の字を二つ並べて女を一字はさめると嬲るとか読むさうですわ。何れ恋とか鮒とかに嫐られてゐる天下の色男だから、嬲るのも嫐られるのも光栄でせう。サア遠慮は要りませぬ。外のセーリス姫さま、お這入り下さい』
『何が何だか狐に魅されてる様だ。ハテ、如何したら此真偽が分るだらうかな』
と頻りに首を捻る。其間に外の女は襖をガラリと引き開け、転け込む様にしてユーフテスの前にドスンと音を立てて坐り込んだ。其反動でユーフテスは一尺ばかり大の図体を撥ね上げられ、惰力が余つて二つ三つ餅搗きの演習をやつてゐる。
『これ、ユーフテスさま、お怪我は如何ですか。あてえ、本当に心配しましたわ』
『こりやこりや女、何を吐かしやがる、セーリス姫の真似をしやがつて、馬鹿にするな。そんな事でちよろまかされる様なユーさまぢやないぞ』
『ホヽヽヽヽ已に已に騙されてゐるぢやありませぬか。ユーさまの舌が俄に直つたのは何とお考へです。本当の人間なれば、さう即座に神言を称へたつて直るものぢやありますまい。セーリス姫ぢやと思うて居なさるのは、其実は狐々さまですよ。ねえセーリス姫さま、さうでせう』
『お察しの通り狐々さまかも知れませぬ。あたい何だか肌に薄い毛がモシヤモシヤ生え出した様な気が致しますわ。オホヽヽヽヽ、イヤらしいわいの。こんな毛の生えたものを、それでも女房にしてくれると仰有る、涙もろい慈悲深い頓馬野郎があるのですからね。まるつきり女でも捨てたものぢやありませぬわ。イヒヽヽヽ』
『こりやこりや、セーリス、到頭貴様は発狂しよつたな。オイ、ちつとシツカリして呉れぬかい』
『あなた、チツとシツカリなさいませや。あてえ今までセーリスさまになつて化けてゐたのよ。ユーさまの睫の毛が何本あると云ふ事も、みんな知つてゐますわ。そして気の毒ながら、お尻の毛は一本もない様に頂戴しておきました。ウフヽヽヽヽ』
 ユーフテスは俄に懐から手を伸し、尻に手をあて、尻毛の有無を調べて見、指でクツと毛を引つ張つて見て、
『アイタヽヽヤツパリ毛は依然として蓬々たりだ。オイ、セーリス姫、憚りながら一本だつて紛失はして居ないぞ』
『オツホヽヽヽ、いつも肛門から糞出さして御座るぢやありませぬか。フヽーン』
『えー糞面白うもない。糞慨の至りだ。オイ、外から来た女、貴様は早く去んでくれ、俺の家内が貴様の邪気にうたれてサツパリ発狂して了つた。アーン、さあ早く去なぬかい』
 女は涙をホロホロと流し、悲しさうな声で、
『これ旦那さま、否オツトセー様、チツト確りして下さいませ。あたいは本当のセーリス姫ですよ』
『これ旦那様、チツト確りして下さいや。あてえこそ本当のセーリス姫よ』
と右左よりユーフテスの袖に取りすがり、両手を一本づつ握つて「ヤイノヤイノ」と言ひながら変つた方面へ力限りに引張る。ユーフテスの腕は関節の骨が如何かなつたと見えて、パチンと怪しき音を立てた。
『アイタヽヽヽ待つた待つた、さう両方から腕を引張られちや男が立たぬぢやないか、いや俺の体が立たぬぢやないか。許せ許せ、色男と云ふものは叶はぬものぢや。何故かう女に惚れられる様に生れて来たのだらう。二人の美人に攻められて、判別も付かず、烏の雌雄を何うして識別し得むやだ。五里霧中に彷徨するとはこんな事をいふのかな』
『ホヽヽヽ、五里霧中所か無理夢中ですわ。それも一理ありませう。エヘヽヽヽ、さあ後のセーリスさま、力一杯可愛い男を引張つて下さい。あたいも引張りますから……』
『アヽヽアイタツタヽヽ待つた待つた、待てと申さば、二人の女房、暫らく待ちやいのう』
女『もしユーさま、両手に花、右と左に月と雪、貴郎も今が花ですよ。男と生れたからは一度はこんな事もなくては、この世に生れた甲斐がないぢやありませぬか』
『何程、甲斐があると云つても、さう引張られちや腕がなくなるぢやないか。もうもう女は懲り懲りだ。只今限り綺麗サツパリと断念する。さう心得たがよからうぞよ』
『オホヽヽヽ、何と気の弱い男だこと。僅か二人や三人の女に嫐られて弱音を吹くとは見下げはてたる瓢六玉だな。さうだと云つて、一旦思ひ詰めたユーさまを如何して思ひきる事が出来ませうぞ。ねえ、後から御出でたセーリスさま、さうぢやありませぬか』
『本当に意志の薄弱なユーさまには、あたいも唖然と致しましたよ。女にかけたら男と云ふ奴ア話にならぬ程弱いものですな。私だつて一旦約束したユーさまには如何しても離れませぬわ。今更別れる様な事なら、潔う睾丸噛んで死んで了ひますよ。オホヽヽヽ、これユーさま、此中で一人は本真物、一人は化物だが、どつちが本真物か調べて下さい』
『どちらを見ても何処一つ変つた点がないのだから、俺は実は、その真偽判別に苦しんでゐるのだ』
『それなら、その真偽の分る方法を教へてあげませう。貴郎の頬辺を二人の女に抓らして御覧、痛さのひどい方が本物ですわ。何程よく似たと云つても、ヤハリ妖怪は妖怪、肝腎の時に力がありませぬからね』
『うん、そりやさうだ。よい事を聞かして下さつた。それなら両方の頬辺を一時に抓つて見い』
『力一杯あてえも抓りますから、セーリス姫さまも抓つておあげやす。一二三つ』
と云ひながら二人の女はユーフテスの両方の頬を力一杯捻ぢる。
『おー随分痛いものだな。あんまり痛くて度が分らぬわい。どちらも同じ様な痛さだよ。オイも一つ気張つて抓つて見い』
 二人は顔見合せながら、又グツと抓る。
『いゝゝゝ痛いわい。あゝゝゝゝもういゝもういゝ、さつぱり分らぬ。意地の悪い、どつちも同じやうに痛いわい。こりやヤツパリ、先の嬶嘘つかぬと云ふから、前のが本当だらう。オイ後の奴、今日から暇をくれてやるからトツトと帰れ』
『いえいえ、何と仰有つても、これが如何して帰られませうか。姉のヤスダラ姫様に対しても合す顔がありませぬ。お父様の前にも大きな顔して帰られませぬ。それなら何卒あなたの手にかけて殺して下さい。それがせめても貴方の御親切で厶います。オホヽヽヽヽ』
『益々分らぬ様になつて来よつた。オイ一寸待つてくれ、両人、之から手水を使つて来て、沈思黙考せなくちや真偽の審神が出来ないわ』
セーリス『あなた今まで活動なさつた事に就て最善を尽したと思つて居ますか。或は横道を通つたとお考へにはなりませぬの。それを一寸聞かして下さいな』
『縦横無尽に活動するのが智者の道だ。縦も横もあつたものかい。正邪不二、明暗一如だ。兎も角善の目的を達しさへすれば、それが神様へ対して孝行となるのだ。此ユーフテスは悪逆無道の右守の司の陰謀を探査して、王様の為に獅子奮迅の活動をやつてゐるのだから、決して悪い行動をとつたとは微塵も思つて居ないよ。忠臣の鑑と云ふのは、天下広しと雖も此ユーフテスより外にはないからな。是から三十万年の未来になると、晋の予譲だとか、楠正成とか大石凡蔵之助とかが現はれて、忠臣の名を擅にする時代が来るが、今日では正に俺一人だ。此忠臣を夫に持つセーリス姫は余程の果報者だ。(義太夫)「女房喜べユーフテスは王様のお役に立つたぞや…………とズツと通るは松王丸、源蔵夫婦は二度ビツクリ、夢現か夫婦かと呆れはてたるばかりなり」と云ふ次第柄だ。ウツフヽヽヽ』
 セーリス姫はユーフテスの横面を平手でピシヤピシヤと殴りながら、
『これユーさま、おきやんせいな。何をユーフテスのだい。好かぬたらしい』
女『イツヒヽヽヽ、それなら化物のセーリスさまは一先づ化を現はして退却致します。ユーフテスさま、目を開けて御覧、あてえ、こんな者ですよ』
と花も羞らふ様な美人が忽ちクレツと尻を捲り、ユーフテスの目の前につき出した。見れば真白の毛が密生し、太い白い尻尾がブラ下つてゐる。ユーフテスは「アツ」と叫んで其場に顛倒した。女は忽ち巨大なる白狐と化し、セーリス姫に叮嚀に辞儀をしながら、ノソリノソリと此場を立つて何処ともなく姿を隠した。
『オホヽヽヽ、まアまア旭さまのお化の上手な事、斯うなると自分も白狐になつて見たいわ。どれどれユーフテスの倒れてる間に、一つ化けて見ようかな』
と云ひながら俄に鏡台の前に坐り、狐の顔に作り変へ、ユーフテスの面部に清水を吹きかけた。ユーフテスはウンウンと呻くと共に起き上り、目をパチつかせてゐる。セーリス姫は狐に作つた顔をニユツと出し、
『これユーさま、気がつきましたか。ホヽヽヽヽ』
 ユーフテスはセーリス姫の姿を見て二度ビツクリし、
『やあ此奴あ堪らぬ』
とノタノタノタと自分も狐の様に這ひ出し、長廊下をさして己が館へ逃げて行く。
(大正一一・一一・一五 旧九・二七 北村隆光録)
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