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文献名1霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻
文献名2第3篇 意変心外よみ(新仮名遣い)いへんしんがい
文献名3第11章 河底の怪〔1136〕よみ(新仮名遣い)かていのかい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-12-24 14:13:39
あらすじ
右守のカールチンは墓場に迷い込み、怪物におどかされて卒倒した。目を覚まし、十五夜の月の光をたよりに、あくまでヤスダラ姫に会おうと宵闇の道を駆け出した。

入那川の橋までやってきた。いつもは濁っている川が不思議にもこのときは一丈あまりある川底まで透き通って見える。カールチンは思わず覗き込むと、妻のテーナ姫が水底をもがきながら流れてきた。

不意に背後にユーフテスが現れ、妻のテーナ姫をなぜ救わないのだ、とカールチンをなじる。川底のテーナ姫の叫び声は泡となって上ってきて、これもカールチンの不道徳をなじる。

するとヤスダラ姫も川底を流れてきて、テーナ姫と同じところに沈んだ。カールチンはヤスダラ姫は救おうと川に飛び込もうとする。

カールチンはユーフテスが止めるのを振り切って着衣のまま川に飛び込んだ。ユーフテスと見えた男は白狐の姿になってどこかへ行ってしまった。

右守館の守備ハルマンは、カールチンの帰りが遅いのを心配して探しにやってきた。イルナ川の橋まで来ると、川底から浮き上がってくる影があるので飛び込んで救い上げれば、主人のカールチンであった。

カールチンは気が付き、ヤスダラ姫はどこだと問いかける。ハルマンはそんな人はいないと答えてカールチンを抱えて館に戻った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年11月16日(旧09月28日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年7月1日 愛善世界社版146頁 八幡書店版第7輯 694頁 修補版 校定版150頁 普及版60頁 初版 ページ備考
OBC rm4211
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本文  墓場に迷ひ込み、怪物に荒肝をとられて二度ビツクリをしながら、息を喘ませ、イルナ城のヤスダラ姫に会はむものと、宵暗の路を駆け出した。十五夜の満月は、ソロソロ地上に光を投げ始めた。カールチンは月の光に漸く安心し、立止まつて、両手を合せ、月神を拝しながら独言、
『あゝあ、恋の闇が何うやら明るくなつて来たやうだ。むすびの神は月下氷人とか言ふさうだから、恋路の暗を照らすお月様は、俺にとつては助け神のやうなものだ。あゝ月なる哉月なる哉。これからヤスダラ姫の居間にツキ、いろいろ雑多と意茶ツキ、粘りツキ、武者ぶりツキ、終ひには悋気の角を生やして咬みツキ、食ひツキといふ段取になるかも知れないぞ。エヘヽヽヽ』
と涎をたぐりつつ入那川の橋詰迄やつて来た。不思議や深さ一丈余りもある川底が水晶の如く透き通り、月夜にも拘らず、小魚の泳ぐの迄がハツキリと見えて来た。カールチンは、
『不思議な事があるものだ。昼でさへも此川はうす濁りで底の見えた事はないのに、今日は又何うしたものだらう、透きとほつた水晶の水が流れてゐるワイ。ヤツパリ之も月の大神様が、俺達の恋の前途を祝して下さるのだらう』
と独言ちつつ、覗き込んでゐる。そこへ水底をもがきながら、流れて来たのがテーナ姫であつた。
『ヤア、テーナの奴、この川上で落馬して川へはまり、此処まで流れて来よつたと見えるワイ。何だか、まだ川の底で動いてゐるやうだ。ヤア、此処で、とうとう沈澱するらしいぞ』
 どこともなく声ありて、
『テーナ姫は其方の女房ではないか。なぜ命を的に河中に飛込み救うてやらぬのか。ホンに水臭い男だなア』
と叫ぶ者がある。後ふり返り見れば、ユーフテスであつた。
『コリヤ、ユーフテス、どこから来たのだい。救はうと救ふまいと、俺の女房だ。貴様等の敢て干渉する範囲ぢやないわい。黙つて居よう』
 テーナ姫は川底に坐り込み、何だか手をあげて救ひを叫ぶ。其声は残らず水の泡となつて、ブクブクブクと屁の玉が風呂の中で行列して浮き上る様になつて居る。
『旦那さま、あんた俄に水臭くなりましたなア。何程恋の邪魔になると云つても、女房を見殺しにするのは、チツト不道徳ぢやありませぬか』
『どうで不道徳だらうよ、併し事の成行ならば仕方がないぢやないか』
 かく話してゐる所へ、又もや川底をゴロリゴロリと流れて来る女の姿が手に取るやうに見える。二人は目を見はつて、よくよく見れば、妙齢の美人ヤスダラ姫が綺麗な着物を着飾つた儘、髪を垂らして流れて来た。そしてテーナ姫の沈んでゐる所へ折よく沈澱した。
『ヤア、此奴ア大変だ、肝腎の目的物が身投をしたと見える。此奴ア、助けにやなるまい』
と赤裸にならうとするのを、ユーフテスは其手をグツと握り、
『モシモシ旦那さま、危ない危ない、こんな所へ飛び込まうものなら、それこそテーナ姫さまと情死するやうなものだ。おきなさいな』
『ナーニ、俺はヤスダラ姫と心中するのだ。かもてくれない』
と赤裸になり、飛込まうとするのを、グツと襟髪をつかみ、
『待てと申さば、先づ先づお待ちなさいませ』
『エヽ邪魔ひろぐな、グヅグヅしてると、ヤスダラ姫の息の根が切れてしまふぢやないか』
 川の底では二人の女が、組んづ組まれつ、力限りに格闘を始め出した。カールチンは、
『コラ、テーナ姫、何をする、俺が了簡せぬぞ』
と云ふより早く、着物を着たまま、ザンブと飛込んだ途端に、ブルブルブルと石を投込んだ様に沈んで了つた。橋の袂には凩が笛を吹いて通つてゐる。ユーフテスと見えた男は忽ち巨大な白狐となり、のそりのそりと橋を渡つてイルナ城さして進み行く。
 テーナ姫の出陣の後、館の守備に任ぜられ、ハルナの応援軍から取残された大男、ハルマンは此頃カールチンの挙動の常ならぬのに不審を起し、日が暮れても主人の帰りなきを案じて橋詰迄やつて来た。川の面は月の光でキラキラと光つてゐる。忽ちムクムクと川底から浮上つた黒い影がある。ハルマンは透かし見て、
『ヤアやこれは誰かが川へはまつて死にかけてゐるのだ。助けにやならぬ』
と衣類を脱ぎ捨て、身を躍らしてザンブとばかり飛込み、黒い影を矢庭に引掴み、抜き手を切つて一方の手で水をかき分け、泳いで岸に取りつき、救ひ上げ、いろいろと介抱して呼び生かし、よくよく見れば右守司のカールチンであつた。ハルマンは二度ビツクリ、言葉もせはしく、
『ヤア、貴方は旦那様ぢや厶いませぬか。危ないこつて厶いました。チと確かりして下さいませ』
 カールチンは漸くにして気が付き、
『あゝお前はヤスダラ姫か、危ない事だつた。俺も一生懸命にお前の命を助けてやらうと思うて飛込んだのだ、マアよかつた。サア之から城内へ行かう、こんな所にグヅグヅして居つて、人に見付けられちや大変だから』
『モシモシ旦那様、確りなさいませ。ここは何処だと思つて厶るのですか』
『ここは入那川の堤ぢやないか、サア早く行かう。ヨモヤ又目を剥いたり、妙な手付をして俺をおどかす狸村喜平ぢやあろまいな、エーン』
『モシモシ旦那様、私はヤスダラ姫ぢや厶いませぬよ、家来のハルマンですがな。チと確かりして下さいな』
『ヤスダラ姫の命は助かつたか、何うだ。早く様子を聞かしてくれないか』
『そんな人は如何なつたか、私や分りませぬ。只貴方さへ助ければ私の役がすむのぢやありませぬか。ヤスダラ姫なんて、テルマン国から逃げて来たやうなアバズレ女に構ふことがあるものですか。あんな奴ア、死なうと生きようと放つときやいいのですよ。貴方もヤスダラ姫を大変に憎んで居らつしやつたぢやありませぬか。サマリー姫様が此頃の貴方の御精神が変つて、如何やらヤスダラ姫を王様の女房にしさうだと云つて、大変に疳を立てて泣いてばかりゐられますよ。私はそれが気の毒で見て居れないので、かうして捜しに来たのです。何で又こんな川へ、盲でもないのに落込みなさつたのですか』
『今は何時だ、テンと訳が分らぬやうになつて来たワイ』
『夜の五つ時、あの通りお月様が東の空へお上りになつてるぢやありませぬか。サア、私がお供して帰りませう。お召物もズクズクになり、風に当つてお風邪でも召したら大変です』
と言ひながら、無理にカールチンを引抱へ、大力無双のハルマンは右守司の館を指して、トントントンと地響させながら帰つて行く。
(大正一一・一一・一六 旧九・二八 松村真澄録)
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