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文献名1霊界物語 第42巻 舎身活躍 巳の巻
文献名2第4篇 怨月恨霜よみ(新仮名遣い)えんげつこんそう
文献名3第18章 酊苑〔1143〕よみ(新仮名遣い)ていえん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-12-27 15:29:08
あらすじ
カールチンの一党は王の居間に侵入し、大音声で怒鳴りつけた。黄金姫、清照姫、セール姫その他の近侍は武器を取って戦ったが、セーリス王たちは一人残らず打ち取られてしまった。

カールチンらは王たちの死骸をイルナ川に投げ込み、奥殿で勝利の酒宴を開いた。一同が先勝を誇りあっていると、サマリー姫、サモア姫、ハルマンがやってきた。

その場に出現したセールス王の幽霊によってカールチンたちが王を殺害したことを知ったサマリー姫とサモア姫は、カールチンに打ってかかった。

カールチンは娘のサマリー姫を切り殺した。しかし戦いの中、切られたはずのサマリー姫は元通りとなり、カールチンの部下たちを倒してしまった。

そこへ北光神が歌う宣伝歌が聞こえてきた。気が付けば、カールチン、ユーフテス、マンモスは城内の庭先の土の上に坐して幻覚を見せられていただけであった。門番のミル、ボルチーは酔いが覚めると、右守たちが庭土の上に泥酔していることを見つけて驚き、奥殿にかけいった。
主な人物 舞台イルナ城(入那城、セーラン王の館) 口述日1922(大正11)年11月24日(旧10月6日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年7月1日 愛善世界社版212頁 八幡書店版第7輯 718頁 修補版 校定版217頁 普及版91頁 初版 ページ備考
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本文  表門の潜りの開いて居たのを幸ひ、カールチン、ユーフテス、マンモスの失恋党は十数人の部下と共に玄関の戸を蹴破り、大刀をズラリと引き抜き、セーラン王の居間に闖入し、ヤスダラ姫を除くの外、王を初め黄金姫、清照姫、セーリス姫其他の近侍共を手当り次第に斬り捨てむと、王の居間近く進み寄り、カールチンは大音声にて、
『吾こそは、右守の司、カールチンで厶る。日頃の目的を達せむ為、夜陰に乗じ、右守の司、御首頂戴せむ為立向ふたり。最早叶はぬ所、尋常に割腹あるか、但はカールチンが手を下さうか、返答承はらむ……黄金姫、清照姫の魔神を使うてイルナ城を攪乱し、人を迷はす悪神の張本、最早叶はぬ百年目、覚悟せよ』
と呶鳴りつけた。此声に驚いて黄金姫、清照姫、セーリス姫其他の近侍は、槍、薙刀を各自に引提げ、
『何猪口才な反逆人共、この神譴を食へ』
と云ふより早く突いてかかる。カールチン、ユーフテスは「何猪口才な」と獅子奮迅の勢凄じく、松明を打ち振り打ち振り斬つてかかる。一上一下、上段下段と火花を散らす其凄じさ。漸くにして王を始め黄金姫、清照姫、ヤスダラ姫、セーリス姫其他は一人も残らず打たれて仕舞つた。カールチン一派の持てる刃は、或は折れ或は鋸の歯の如くになつて居た。カールチンは死骸を部下に命じ一々門外に持ち運ばしめ、イルナ河の激流目蒐けてザンブとばかり水葬をなし、先づ凱旋の酒宴を張らむと再び奥殿に進み入り、酒汲み交はし、自慢話、成功話に時を移し、ゲラゲラと笑ふ其高声は門外にまで響き渡つて来た。
 正座にはカールチン、王者然として脇息に凭れ、酒倉より秘蔵の美酒を取り出さしめ、十五六人の一隊は、胡坐をかいて無礼講の雑談に耽る。
『右守さま、いやいや刹帝利様、随分神変不思議の御活動を遊ばしましたなア。先づこれで一安心でございます。どうぞ今日はお目出度い日だから、十分お過し下さいませ。このユーフテスも、何だか気分がいそいそ致します』
『何と云つても智謀絶倫の某、作戦計劃に些しの違算もないのだから、今日の成功は前以て分つて居たのだ。ハヽヽヽヽ、此カールチンに向つて、夜叉の如く突かけ来るヤスダラ姫、こいつばかりは助けたいと何程焦つたか知れなかつたが、扱うて居れば遂には己の命が危なくなつたものだから、手練の槍先、ヤツとかけた一声に、ヤスダラ姫の首は宙に舞ひ上つた時の嬉しさ惜しさ、こればかりは千載の恨事だよ、エーン』
『どうせこんな大望を遂行せむとすれば、多少の犠牲は払はなくてはなりますまい。併しながら此ユーフテスだつて、セーリス姫をバラした時の残念さ、愉快さ、何と云つてよいか、思へば思へば愛恋の涙が零れますわい、アーン』
 マンモスは早くも舌を縺らせながら、
『エヘヽヽヽ、誠に掌中の玉を無残に砕いた御両人様、お察し申します。サモア姫はお蔭様で此処へ出て来なんだものだから、命が助かつて居ります。それを思へば、このマンモス位幸福な者はありませぬなア』
『ウフヽヽヽ、何を云ふのだ。肱鉄を喰はされたサモア姫に、まだヤツパリ執着心をもつて居るのか、困つた代物だなア。貴様のやうに不幸なものはない。カールチン様もいや刹帝利様も、このユー様も恋の敵、肱鉄をかました女をバラしたのだから、もはや執着心はとつて仕舞つたのだから、こんな幸福はない。貴様はまだサモアが此世に残つて居るのだから、嘸気の揉める事だらう。エヘヽヽヽ、云うと済まぬが、サモア姫は、キツト俺にホの字とレの字だ。そんな事はチヤンと此間面会した時に黙契してあるのだ。このユーさまに向つて放つた視線は、誠に至誠が籠つて居たよ。俺の目が眩しい程電波を送つたのだ。もうかうなつちや、マンモス、貴様も好い加減に見切つたら……いや断念したらよからうぞ』
 かかる所へ、サマリー姫、サモア姫、ハルマンの三人慌しく入り来り、此体を見て、
サマリー『お父様、セーラン王様は定めて御健全にゐらせられませうなア』
『ウン、まアまア何処かの国で御健全であらうよ』
『よもや、貴方は不軌を謀つたのぢやありますまいな。万々一左様な事をなされたとすれば、妾はセーラン王の妃、王の仇を討たねばなりませぬ。時あつて親子主従斬り合ひ争ふは武士の道、其覚悟は十分厶りませうなア』
『如何に夫の為だとて、親に刃向ふ奴が何処にあるか。不孝者奴、下り居らう』
と、勝ち誇りたる心より叱りつけるやうに云ひ放つた。
 此時茫然として煙とも霧とも分らぬモヤモヤの中から、白装束でパツと現はれたのは王の幽霊であつた。王は幽かな声で、
『カールチンに夜襲せられ、命を取られたワイ……汝サマリー姫、夫を大事と思へば、カールチンの命を取つて呉れよ』
『ヤア、さては其方カールチン、王様を殺したのだな。もう此上は了簡致さぬ。このサマリー姫が刃の錆、覚悟めされ』
と其所に落ちてあつた薙刀を取るより早く、水車の如く振り廻し荒れ狂ふ。カールチンも死物狂ひ、大刀をスラリと引き抜き、サマリー姫に向つて斬りつくれば、無残やサマリー姫は肩先を七八寸ばかり斬り下げられ、タヂタヂと七八歩後しざりして打ち倒れ、無念の歯噛をなし、其場に息絶えて了つた。
『アハヽヽヽ、女童が大事の場所へ出しやばつて、此方の大望の邪魔をなし、天罰忽ち到つてこの惨い態、吾子ながらも愛想がつきたわい。アハヽヽヽ』
と豪傑笑ひに紛らして居れど、何となく悲しみの籠つた声であつた。サモア姫は又もや薙刀を小脇に掻い込み、
『姫様の敵、思ひ知れよ』
と云ひも終へず、カールチンに斬つてかかる、カールチンはヒラリと体をかはし、前後左右に飛びまはり、
『まづまづ待つた』
と声を限りに制しつつ逃げ廻る。サモア姫は耳にもかけず、カールチン目蒐けて斬りつくる。遉のカールチンも逃げ場を失ひ、井戸の中にざんぶとばかり落ち込んで了つた。ユーフテス、マンモスは、
『狼藉者、容赦はならぬ』
と左右よりサモア姫に向つて斬つて掛る。サモア姫のキツ先の冴えに二人は肝を潰し、大地に太刀を投げ捨て、両手を合せて救ひを求むる腑甲斐なさ。ハルマンは井戸の底に落ち入りたるカールチンを漸くにして救ひ上げ、サモア姫に向つて言葉激しく、
『暫く待てエー』
と一喝した。此時カールチンに斬り殺されたサマリー姫は、いつの間にか元の姿となり、又もや薙刀を水車の如く振り廻し、カールチン目蒐けて斬り付ける。カールチンも、
『もう此上は破れかぶれだ』
と云ひながら、再び薙刀を振り翳し、カチンカチンと刀を合せ、火花を散らして戦ふ。十二三人の従者は瞬く間にサマリー姫、サモア姫の薙刀に斬り倒されて仕舞つた。かかる所へ何所ともなく宣伝歌の声が聞えて来た。
『神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 此世を造りし神直日  心も広き大直日
 唯何事も人の世は  直日に見直せ聞き直せ
 身の過ちは宣り直す  誠の神の御教
 バラモン教の神館  イルナの城の刹帝利
 夜陰に乗じて襲撃し  打ち亡ぼして其後を
 掠奪せむと企みたる  心汚きカールチン
 其運命も月の国  イルナの城の庭先で
 血で血を洗ふ親と子の  無残至極の活劇は
 何れも心の迷ひより  突発したるものぞかし
 欲に心の眩みたる  右守の司よ、よつく聞け
 天地は神の造らしし  貴の聖所と聞くからは
 仮令深山の奥までも  神の在さぬ処なし
 恋と欲とに踏み迷ひ  直日の魂を曇らして
 自ら地獄に落ちて往く  其惨状を救はむと
 高照山を後にして  漸く此処に北光の
 吾は目一つ神司  右守の司のカールチン
 恋に迷へるユーフテス  マンモス諸共よつく聞け
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  誠一つは世を救ふ
 誠一つの麻柱の  道に外れて世の中に
 どうして人は立つものか  一日も早く片時も
 悔い改めよ三人共  至仁至愛の大神は
 汝三人の悪心を  洗ひ清めて天国へ
 救はむ為に朝夕に  心を配らせたまひつつ
 汝が身辺を守ります  其御心を知らずして
 私欲や恋に踏み迷ひ  根底の国の門口を
 朝な夕なに開かむと  焦せるは愚の至りなり
 あゝ惟神々々  御霊幸はへましまして
 此三人の曲霊を  洗ひ清めて天地の
 神より受けし大本の  厳の御霊となさしめよ
 あゝ惟神々々  御霊幸はへましませよ』
 此声にカールチン、ユーフテス、マンモスはフト気がつき見れば、サマリー姫もサモア姫も影も形もなく、又ハルマンの姿もない。月冴え渡る城内の庭先の土の上に、何れもドツカと坐して居た事が分つた。かく幻覚を見せられたのは、全く神の御経綸であつて、旭、月日、高倉明神の活動の結果であつた。併し酒を飲んだことだけは、矢張事実であつて、何れも目はチラつき、足腰も立たないばかりに泥酔して居た。さうかうする中、東天紅を呈し、夜はガラリと明け放れ、煌々たる冬の太陽は斜に下界を照らしたまうた。
 門番のミル、ボルチーは目を醒まし、庭先の土の上に右守の司以下の泥酔して居るに打ち驚き、奥殿さして駆入つた。
(大正一一・一一・二四 旧一〇・六 加藤明子録)
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