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文献名1霊界物語 第43巻 舎身活躍 午の巻
文献名2第3篇 河鹿の霊嵐よみ(新仮名遣い)かじかのれいらん
文献名3第10章 夜の昼〔1161〕よみ(新仮名遣い)よるのひる
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-01-07 20:02:20
あらすじ
宣伝使亀彦は治国別と名を改めて、万公、晴公、五三公の三人の供を従え、河鹿峠の頂上に着き、あたりの岩に腰を掛けて四方の原野を見晴らし、これまでの来し方行く末を語り合っていた。

治国別は、バラモン軍が峠を渡って斎苑館に攻めてくるという神素盞嗚大神の言を三人に伝えた。そして、宣伝使の組を四つも五つも派遣したのは攻めてくるバラモン軍に対して言霊戦を開始するためであろうと述べた。

万公、晴公、五三公は滑稽なやり取りをしながら腹ごしらえをした。そのうちに人馬の物音が騒々しく聞こえてきた。治国別と晴公は宣伝歌を歌いながら道を下って行った。一行はバラモン軍を待ち受けるのに適切な急坂の上に陣取った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年11月27日(旧10月9日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年7月25日 愛善世界社版147頁 八幡書店版第8輯 82頁 修補版 校定版155頁 普及版63頁 初版 ページ備考
OBC rm4310
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本文の文字数6427
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本文  斎苑の館に現れませる  瑞の御魂の救主
 神素盞嗚大神の  神言畏み亀彦は
 治国別と改めて  万公晴公五三公の
 三人の御供を従へつ  神の教を菊子姫
 妻の命に相別れ  凩荒ぶ秋の野を
 足に任せてテクテクと  河鹿峠の山麓に
 進み来れる折もあれ  千引の岩も飛び散れと
 いはぬ計りに吹きつける  科戸の風に面をば
 さらして漸く頂上に  息をはづませ登りつき
 あたりの厳に腰をかけ  四方の原野を見はらして
 吾身のこし方行末を  思ひまはすぞ床しけれ。
万公『先生様、何と佳い風景ぢやありませぬか。河鹿峠の頂上から四方を見はらす光景は何時も素的ですが、あれを御覧なさいませ。広大なる原野の果に、白雲の衣を被つて、頭をチヨツクリと出してる彼の高山は、何とも云へぬ正しい姿ぢやありませぬか。八合目以下は綿の衣に包まれ、頭の上は常磐木が鬱蒼と生え茂り、腰あたりに白雲の帯を引締めてゐる光景と言つたら、何とも云へない床しさ否、眺めですなア。斯う四方を見はらした山の上に立つてゐると、何だか第一天国へでも登りつめたやうな気分が漂ふぢやありませぬか。願はくはいつ迄も斯様な崇高な景色を眺めて、ここに千年も万年も粘着して居りたいものですなア』
治国別『さうだ、お前の言ふ通り、雄大な景色だなア。佐保姫もこれ丈の錦を、広大無辺の原野に一時に織なすといふのは、余程骨の折れる事だらう。これを思へば天然力否神の力は偉大なものだ。造化の妙機活動に比ぶれば、実に吾々の活動は九牛の一毛にも足らないやうな感じがして、実に神様へ対しお恥かしいやうだ。アヽかかる美はしき地上の天国に晏如として生を送らして頂く吾々神の子は何たる幸福なことであらう。神の造られし山河原野は俺達のやうに別に朝から晩まで喧しく言問ひせなくても、花の咲く時分には一切平等に花を咲かし、実を結ぶ時には統一的に実を結ぶ。実に神の力は絶大なものだ』
晴公『実に晴々とした光景ですなア。天か地か地か天か、殆ど判別がつかないやうな極楽の光景ぢやありませぬか。此無限絶大なる世界に生を禀け、自然の天恵を十二分に楽み、自由自在に一切万物を左右し得る権能を与へられ乍ら、小さい欲に捉はれて屋敷の堺を争うたり、田畑の畦を取合ひしたりしてゐる人間の心が分らぬぢやありませぬか。私は今となつて此景色を見るに付け、神様のお力の偉大なるに驚きました。ヤツパリ人間は低い所に齷齪して世間を見ずに暮してると、自然気が小さくなり、小利小欲に捉はれて、自ら苦悩の種を蒔くやうになるものですなア。あゝ惟神霊幸倍坐世』
治国別『併し乍ら大神様に承はれば、バラモン教の大黒主の軍勢が此峠を渉りて斎苑の館へ攻め来るとの事だ。吾々宣伝使を四組も五組も月の国へ御派遣遊ばしたのも、深き思召のあることだらう。ハルナの都などは黄金姫様の御一行がお出でになれば十分だ。要するに吾々は大黒主の軍隊に向つて言霊戦を開始すべく派遣されたのであらう。さうでなくては、何程勢力無限の大黒主だとて斎苑の館の宣伝使、殆ど総出といふやうな大袈裟なことは神様が遊ばす筈がない。お前達も其考へで居らなくてはならないぞ。月の国は名に負ふ大国五天竺といつて五州に大別され、七千余ケ国の刹帝利族が国王となつて、互に鎬を削り、此美はしき地上の天国に修羅道を現出してゐるのだから、仁慈無限の大神の心を奉戴し、吾々一行は如何しても五六七神政出現の為めに粉骨砕身的の活動を励まねばなるまい、実に重大なる使命を与へられたものだ。天地の大神様に十分に感謝をせなくてはならない。あゝ有難し有難し、惟神霊幸倍坐世』
と合掌し瞑目傾首してゐる。
五三公『モシ先生様、お話の通りならば、大黒主の軍隊はキツと途中で吾々と遭遇すでせうなア』
治国別『ウン、最早間もあるまい。各自に腹帯を確り締めておかねばなるまいぞ』
五三公『ハイ、それは斎苑館出立の時から、腹が瓢箪になる程細帯でしめて来ました。赤い筋がついて痛い位ですもの、大丈夫ですワ。併し少しく腹が減りましたから、ここでパンでも頂きますか。さうでなくては、マ一度締め直さなくちやズリさうになつて来ました』
治国別『アハヽヽヽ』
万公『オイ五三、分らぬ男だなア。そんな腹帯ぢやないワイ。心の腹帯をしめ……と仰有るのだ』
五三公『心の腹帯て、どんなものだい。無形の腹帯を如何して締めるのだ。そんな荒唐無稽のことをいふと、人心惑乱の罪で、バラモン署へ拘引されるぞ』
万公『アツハヽヽヽ徹底的に没分暁漢だなア。天の配剤宜しきを得たりといふべしだ。至聖大賢計りが斯う揃つてゐると、道中は固苦しくて根つから興味がないと思つてゐたが、五三公のやうなゴサゴサ人足が混入してゐるとは、面白いものだ。悪く言へば天の悪戯、よく言へば天の配剤だ。チツとばかり貴様がゐると虫の薬になるかも知れない。アハヽヽヽ』
五三公『コリヤ余り口が過ぎるぢやないか。何だ、結構な神の生宮さまを掴まへて竹の子医者か何ぞのやうに、天の配剤だとは、余りバカにするぢやないか』
万公『クス クス クス』
五三公『コリヤ、狸を青松葉で燻べた時のやうに、何をクスクス吐すのだ。チツと俺のいふことも能くせんやく(煎薬)して聞け、こうやく(膏薬)の為になるから、ヤクザ人足奴、そんな事でマサカの時のおやくに立つかい、エヽー』
万公『そんなこた、如何でもいゝワ。早くパンでも頂いて腹をドツシリと拵へ、敵の襲来に備へるのだ。グヅグヅしてはゐられないぞ』
五三公『敵に供へてやる丈のパンがあるかい。自分の生宮に鎮座まします喉の神様や仏様に供へる丈より持つてゐないのだから、余計な敵の世話迄やく必要があるか。敵に兵糧を与へる奴ア、馬鹿の骨頂だ』
万公『神様の道からいへば、敵も味方も決してあるものでない。三十万年未来に、自転倒島に謙信、信玄といふ大名があつて、戦争をやつた時に、一方の敵へ向けて塩を贈つたといふ美談があるさうだから、敵を仁慈を以て言向和すのには、恩威並び行はねば到底駄目だ。貴様の筆法で言へば丸切りウラル教式だ。自分さへよければ人はどうでもいいといふ邪神的主義精神だから、そんなことでは大任を双肩に担ひ玉ふ治国別先生のお供は叶はぬぞ。アーン』
治国別『オイ万公、五三公、いらざる兄弟喧嘩はやめたがよからうぞ。サア是からがお前達の活動舞台だ』
万公『敵の片影を見ず、今から捻鉢巻をして気張つた所で、マサカの時になつたら待ち草臥れて力が脱けて了ふぢやありませぬか』
治国別『イヤイヤ半時許り経てばキツと敵軍に出会するにきまつてゐる。玉国別と吾々とが坂の上下から言霊を打出して、誠の道に帰順せしむべき段取がチヤンとついてゐるのだ。能く心を落着けて、騒がない様にせなくちやならぬぞ。千載一遇の好機だ、之を逸しては、神の大前に勲功を現はす時期はないぞ』
万公『それ程敵は間近に押寄せて居りますか。さう承はらば吾々もウカウカしては居られませぬ。併し乍ら黄金姫様や照国別様の一行は大衝突をやられたでせうなア』
治国別『多少の衝突はあつたであらう。併し何れも御無事だ。あの方々と吾々とは使命が違ふのだから……丁度此下り坂を楯にとつて、言霊戦を開始すれば屈竟の地点だ』
 五三公は、
『ヤアそれは大変、時こそ到れり、敵は間近に押よせたり。吾こそは三五教の宣伝使治国別の幕下五三公命だ。バラモン教の奴原、サア来い来れ。一人二人は邪魔臭いイヤ面倒だ。百人千人束に結うて束ねて一度にかかれ。ウンウンウン』
と左右の拳を固め、稍反り気味になつて、胸の辺りをトントントンとなぐつてゐる。
治国別『アツハヽヽ五三公の武者振りは今始めて拝見した。何時迄も其勢を続けて貰ひたいものだなア』
万公『コリヤ五三の蔭弁慶、何だ今からさうはしやぐと、肝腎要の時になつて、精力消耗し、弱腰を抜かし、泣面を天日に曝さねばならぬやうになるぞ。モウ少し沈着に構へぬかい。狼狽者だなア』
五三公『敵の間近き襲来と聞いて、如何してこれが騒がずに居られようか。弓腹ふり立て堅庭に向股ふみなづみ、淡雪なせる蹴えちらし、厳の雄健びふみ健び、厳の嘖譲を起して、海往かば水潜屍、山往かば草生屍大神の辺にこそ死なめ、閑には死なじ、額に矢は立つ共背中に矢は立てじ、顧みは為じと、弥進みに進み、弥逼りに逼り、山の尾毎に追ひ伏せ、河の瀬毎に追ひ散らし、服へ和し言向和す五三公さまの獅子奮迅の武者振だ。此位の勢がなくて、如何して大敵に当られるものかい』
万公『貴様は頻りに愚問を発するから、此奴ア、チト低能児だと思つてゐたが、比較的悧巧なことを並べ立てるぢやないか』
五三公『きまつたことだい。三五教の祝詞仕込だ。祝詞其ままだ。群りよせ来る敵を払ひ玉へ清め玉へと申すことの由を、平らけく安らけく聞し召せと申す。惟神霊幸倍坐世』
万公『アツハヽヽヽ此奴ア又偉い空威張りだなア、のう晴公、余程いゝ掘出し物ぢやないか。マサカの時になつたら、尻に帆かけてスタコラヨイサと逃げ出す代物だぜ』
晴公『ウツフヽヽヽ』
万公『一つ此処で風流気分を養つて参りませうか。大敵を前に控へ悠々として余裕綽々たりといふ益良男の一団ですからなア』
治国別『ウン、一つやつて見よ』

万公『見わたせば四方の山野は錦着て
  吾一行を迎へゐる哉』

五三公『なあんだ、そんな怪体な歌があるかい、かう歌ふのだ、エヽー……

 見わたせば、山野の木々は枯れはてて
  錦のやうに見えにける哉』

万公『ハツハヽヽヽ何と名歌だなア、柿本人麿が運上取りに来るぞ』
五三公『柿の本ぢやないワ、山上赤人だ。一つ足曳の山鳥の尾をやつてみようかな、エヽー』
万公『そりや面白からう。サアサア詠んだり詠んだり三十一文字を……』

五三公『山の上にあかん人こそ立ちにけり
  万更馬鹿とは見えぬ万公』

万公『コリヤ五三、チツと御無礼ぢやないか。礼儀といふことを弁へてゐるか』
五三公『礼儀を知らぬ奴がどこにあるかい。擂鉢の中へ味噌を入れてする奴ぢやないか、エヽー。それが違うたら、売僧坊主が失敗の言訳に腹を切る真似する道具だ。エヽー』
万公『アハヽヽヽ此奴アいよいよ馬鹿だ。レンギと礼儀と間違へてゐやがる』
五三公『其位な間違は当然だよ、間違だらけの世の中だ。石屋と医者と間違へたり、役者と学者と混同したり、大鼓と大根とを一つにしたりする世の中だもの、当然だ。エヽー』
万公『ウツフヽヽヽだ、イツヒヽヽヽだ、アツハヽヽヽ阿呆らしいワイ。そんな馬鹿なことをいつてゐると、それ見ろ、鳶の奴、大きな口をあけて笑つてゐやがるワ』
五三公『きまつたことだよ。飛び放れた脱線振りを発揮してるのだもの。鳶だつて、笑つたり呆れたり舌を巻いたりするだらうかい』
治国別『三人ともパンを食つたかなア、まだなら早く食つておかないと、時期が切迫したやうだ』
五三公『ハイ時機切迫と仰有いましたが、畏まりました。ジキに切迫とパクついて腹でも拵へませう。ハラヒ玉へ清め玉へだ』
と無駄口を叩き乍ら、パンを取出し、パクつき始めた。
 風がもて来る人馬の物音騒々しく手に取る如く耳に入る。
万公『ヤアお出たなア。コリヤア面白い。先生、一つ万公の活躍ぶりを御覧下さい、花々しき大飛躍を演じて見ませう』
治国別『心を落つけて三五教の精神を落さない様に一番槍の功名をやつて見たがよからう。サア行かう』
と蓑笠をつけ、杖を左手に握り、登り来る敵に向つて悠々迫らざる態度を持し、宣伝歌を歌ひ乍ら降つて行く。
治国別『神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 此世を造りし国の祖  国治立の大神の
 守り玉へる神の道  朝な夕なに身を尽し
 心を尽す三五の  神の柱と現れませる
 神素盞嗚大神の  吾れこそ珍の神司
 治国別の宣伝使  万世祝ふ亀彦が
 名さへ目出たき万公や  暗夜を晴す晴公さま
 三五の月の御教に  ゆかりの深き五三公の
 三人の司と諸共に  七千余国の月の国
 天地を塞ぐ曲神を  神の賜ひし言霊に
 服ひ和し天国を  地上に立てむ御神策
 岩石崎嶇たる河鹿山  烈しき風に吹かれつつ
 苦もなく越えて来りけり  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましまして  ハルナの都に蟠まる
 八岐大蛇の化身なる  大黒主の軍隊を
 これの難所に待ち受けて  一人も残さず言霊に
 打平げて斎苑館  珍の御前に復り言
 申さむ時こそ来りけり  あゝ勇ましし勇ましし
 旭は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 嵐は如何に強くとも  敵は幾万攻め来とも
 いかでか恐れむ生神の  教を守る吾一行
 朝日に露か春の雪  脆くも消ゆる曲津日の
 魂の行方ぞ憐れ也  此世を造り玉ひたる
 国治立大神は  吾等一行の信徒に
 広大無辺の神徳を  下し玉ひて此度の
 吾等が征途を照らしまし  紅葉あやなす秋の野の
 木々の梢に吹き当る  醜の嵐に会ひし如
 曲を千里に追ひ散らし  敵を誠に言向けて
 救ひやらむは目のあたり  玉国別の一行は
 神の御言を畏みて  祠の森の木下蔭
 月の光を浴び乍ら  吾等の一行を待つならむ
 上と下より挟み打  神算鬼謀の此仕組
 暗黒無明の魂持つ  片彦久米彦将軍は
 飛んで火に入る夏の虫  袋の鼠も同じこと
 思へば思へば気の毒や  直日に見直し聞直し
 詔直しつつ天地の  教の道に救ひ行く
 吾身の上ぞ楽しけれ  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』
 万公は足の爪先に力を入れ、再び吹き来る夜嵐に面を向け乍ら、月照る道を歌ひつつ下りゆく。
『今宵の月は望の月  昼の白昼の如くなり
 河鹿の山の頂上に  立ちて四方を見はらせば
 大野ケ原は綾錦  紅葉の園となり果てぬ
 吾等一行四人連  昼と夜とを間違へて
 峠の上に佇立して  四方を見はらす時もあれ
 目下に聞ゆる鬨の声  風がもて来る足音に
 つつ立ち上りウントコシヨ  バラモン教の魔軍の
 攻め来りしと覚えたり  いざいざさらば いざさらば
 千変万化の言霊を  打出し敵を悉く
 天と地との正道に  服ひ和し天国の
 其楽しみを地の上に  常磐堅磐に立てむとて
 さしもに嶮しき坂路を  勢込んで下りゆく
 あゝ面白し面白し  神に任せし吾々は
 仮令数万の敵軍も  如何でか恐れひるまむや
 あゝ惟神々々  神の守りを蒙りて
 晴公五三公二人とも  シツカリ致せよ今や時
 敵は間近に押よせた  あれあれあの声聞いたかい
 半死半生の叫び声  兵児垂れよつた塩梅だ
 駒に跨りハイハイと  登つて来る声がする
 俺等は坂のてつぺから  生言霊を打出せば
 不意を打たれし敵軍は  面を喰つて忽ちに
 潰走するは目のあたり  面白うなつてお出でたな
 旭は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  三五教はやめられぬ
 お道を守つてゐたおかげ  こんな勇壮活溌な
 実地の戦が出来るのだ  向ふは兇器数多く
 槍の切先揃へ立て  林の如く抜き翳し
 迫り来るに引きかへて  此方は神変不可思議の
 無形の言霊潔く  ドンドンドンと打ち出し
 上を下への大戦  力を試す時は来ぬ
 ウントコドツコイ ドツコイシヨ  今こそ大事の体ぞや
 一人を以て幾百の  魔神に当る貴重の身
 指一つでも怪我したら  大神様に済まないぞ
 あゝ惟神々々  神の光を目のあたり
 輝かし照らす時は来ぬ  進めよ進めいざ進め
 神は吾等と共にあり  アイタヽタツタ夜の道
 目玉が狂うてしくじつた  これこれモウシ宣伝使
 ここが適当の場所でせう  敵の登るを待ち伏せて
 不意に打出す言霊の  大接戦をやりませうか』
治国別『余り慌てて下るにも及ぶまい。ここが屈竟の場所だ。先づ歌でも歌つて、敵の近付くのを待つ事にしよう。名に負ふ急坂だから、近くに見えてゐても容易に登つては来られまい』
万公『ハアさうですなア。先づ先づ敵の行列を拝見して徐に不意打を喰はしてやりませうかい。アハヽヽヽ』
(大正一一・一一・二七 旧一〇・九 松村真澄録)
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