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文献名1霊界物語 第44巻 舎身活躍 未の巻
文献名2第3篇 珍聞万怪よみ(新仮名遣い)ちんぶんばんかい
文献名3第18章 一本橋〔1187〕よみ(新仮名遣い)いっぽんばし
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-02-16 19:03:19
あらすじ
松彦一行は宣伝歌を歌いながら進んで行く。ここには河鹿川の下流があり、ライオン川に注いでいるという。かなり広い川に天然の川中の石を土台として一本橋が架けられている。橋を渡ってくる老女と少女があった。

万公が二人に声をかけると、老女はバラモン軍が村にやってきて村人を徴収するので皆逃げてしまい、橋を渡って小北山の神様の館に隠れていたのだという。そこが手狭になって断られたので、親子でここまで帰ってきたのだという。

婆が言うには、小北山の神様にも十曜の紋がついていて、国治立命様を祀っているのだという。松彦は、そこへよって様子を見たいといい、一行四人も賛成した。

かく小北山の様子について話していると、婆はアク、テク、タクの三人は先日、村へきて女を徴収していったバラモン軍の者だと気が付き、ものすごい権幕で怒鳴りつけて睨みつけた。

松彦がこの三人はもう改心したのだとなだめたが、婆はどうしても三人に土下座して詫びをさせねば済まぬと怒りが収まらない。アク、タク、テクの三人は逃げ出したが、アクは足をすべらせて川に落ち込んでしまった。

お寅というこの婆さんは、万公の首筋をぐっと引いた。娘の少女お菊も万公の足をさらえて、川端に倒してしまった。万公は助けを求めたが、他の者はみな、アクを助けようと駆け出している。

アクは下流に流れ着いて、何事もなく着物を絞っている。松彦たちが、万公がいないのに気が付いて振り向くと、万公は婆と少女に押さえられて責められている。

お寅婆さんによると万公は、お菊の姉のお里と無理矢理くっついて一年ばかり暮らしていたのだが、お里が難産で死んでしまった。するとこの万公は薄情にも逃げ出したのだという。

お寅とお菊は、娘の仇、姉の仇だと万公を打っている。松彦と五三公になだめられ、また万公は注意を受けて、ようやくお寅とお菊は万公を離した。万公は捨て台詞を残して逃げて行く。

お寅は追いかけようとするが、五三公になだめられる。お寅は、憎いやつではあるがたとえ一年でも娘の夫になっていた男だから、なんとか懲らして一人前の男にしてやりたい一心で手荒いことをしたのだ、と明かした。

五三公は親の恩に感心し、一本橋を渡って一行とともに小北山の霊場に急いた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年12月09日(旧10月21日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年8月18日 愛善世界社版241頁 八幡書店版第8輯 224頁 修補版 校定版253頁 普及版106頁 初版 ページ備考
OBC rm4418
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本文の文字数5416
その他の情報は霊界物語ネットの「インフォメーション」欄を見て下さい 霊界物語ネット
本文  松彦一行は野中の森を後にして、宣伝歌を歌ひながら浮木ケ原をさして進み往く。此処には河鹿川の下流が横たはつて居る。此の河は、ライオン川に注ぐと伝へられて居る。
 可なり広い河に、天然の河の中の岩を土台として、一本橋が架けられてある。橋を渡つて帰つて来る二人の女があつた。一人は中年増、一人は十五六才の少女である。一行六人は橋の詰めに立つて清らかな激流を眺めて息を休めて居た。万公は二人の女に向ひ、
『随分、烈しい流れだが、こンな一本橋を女の身としてよく渡れたものだなア、一体お前さまは、何処から来たのだイ』
『ハイ私は浮木の里の者で厶いますが、此間から沢山の軍人が私の村に陣取り、女と云ふ女を軒別に徴集して炊事をさせたり、いろいろと辱たりするので、誰も彼も皆逃げて仕舞ひました。私は婆の事なり、相手にはして呉れませなンだが、段々と女が減るにつけ、婆でも少女でも構はぬ、女でさへあれば引張つて帰りますので吾村を逃げ出し、此橋を渡つて小北山の神様のお館へ身を隠して居りましたが、あまり沢山の女で寝る所もなく断られて、親子二人が此処迄帰つて来たので厶います』
 アクは言葉せはしく、
『ウン、女計りが小北山に隠れて居るとは一体幾十人程居るのだい』
『ハイ、一寸百人計り集まつて居りますが、私は後から行つたものですから、部屋と云ふ部屋は酢司詰の有様で軒下にも寝る所がないので厶ります。それ故帰つて参りました。此先何うしたらよからうかと思案に暮れて居ます。貴方の笠には十曜の紋がついて居ますが、不思議の事には小北山の神様にも十曜の紋がつけてありました』
『さうして何といふ神様が祭つてあるのだ』
『ハイ国治立命様とか承はりました』
『ハテ国治立命様を祭つてあるとは合点が往かぬ。三五教の一派ではあるまいかなア』
『何だか知りませぬが、小北山の神様と云うて参つて居ります。一寸外からは分りませぬが、あれ御覧なさい、細い煙が立ち上つて居りませう、あすこが神様を祭つてある所です。そして門もあり、沢山の神様も祭つてあつて一々名は覚えて居ませぬが何でも六ケ敷名のついた神様計りで厶います』
『松彦さま、此婆さまの話は耳寄りぢやありませぬか。国治立神様が祭つてあると云ひ十曜の紋がついて居ると云つたでせう。ひよつとしたら治国別の先生が、其処へ往かれたのではありますまいかな』
『さうでもあるまいが、松彦もその小北山とやらへ一寸立寄つて様子を考へて見度いものだなア』
『そンならお伴致しませうか。オイ、五三さま、万公さま、タク、テク、お前等も賛成だらうなア』
 四人一度に「賛成々々」とばつを合した。
『ヤア小生の提案を満場一致賛成下さいまして、アクの身に取り有り難う厶います』
『ハヽヽヽヽ、アクさま、この二人の女は見殺にする積りかな、何とかして連れて往つてやらねば、可愛さうぢやないか。百人も居る処へ二人位融通のつかぬ筈はあるまい。此婆さまは何か万びきでもやつたのぢやあるまいかな』
『さうだなア、やりよつたのだらう。随分手癖の悪い奴が、女の中にもあるからなア』
『これこれあなた方、私を手癖が悪いと仰有つたが、さうどんどんと仰有るからには何ぞ証拠がありますかな、サアそれを聞かして貰はう、こンな事を聞いては、何程女だと云うて聞き捨てになりませぬ、盗人の名をきせられて、先祖に対して申訳がありますか、娘にだつて合す顔がない。何を証拠にそンな事を仰有いますか』
と眉を逆立て、睨みつける。
『ヤアこいつは失敗つた、まことに粗疎千万アク言を申上げました。つい口が辷りましてなア』
『口が辷つたの、足が辷つたのと、そンな事で云ひ訳が立ちますか。私に着せた濡れ衣をサアどうして乾かして下さる。お前さまも世界の人を導いて歩くお方だと見えるが、そンな事でどうして神様の御用が出来ますか』
『イヤ誠に閉口頓首だ、アクの身魂はやられた哩』
『オイ、アクさま、態を見ろ、余り言霊を使ひ過ぎると、七尺以上の男が女に屁古まされるやうな事が起るのだよ。アハヽヽヽ万の悪い代物だなア』
『さうするとお前はアクと云ふのかい、道理で万引の様な面をして厶るわい。オヽ恐ろしい恐ろしい、こンな所で追剥せられては大変だ、サア菊、長居は恐れ、早く帰りませう』
『お母さま、浮木の里へ帰ればバラモンの軍人に追剥をされたり、念仏講に合はされたりしては耐りませぬから、一層此処へ身を投げて死にませうか。小北山へ行つても放り出される、ここへ来れば追剥にせられる。家へ帰れば軍人に訶まれる、何うする事も出来ぬぢやありませぬか』
『これこれ母子御両人さま、私は五三公と申すもの、決して盗人ぢやありませぬ。三五教の宣伝使のお伴だ。決して人を難めたり、追剥なンどはして呉れと云はれても致しませぬから安心して下さい。大切な命をこンな所で果すとは悪い了見だ。気の短いにも程がある。これお菊さま、この叔父さまはそンな怖い者ぢやない、まア安心してお呉れ』
『イエイエお前さまは泥棒だよ。そこに厶る三人のお方は、此間私の村へ出て来て「女徴集だ」と云つて、掻つ攫ひに来たお方ぢや。顔に見覚があります。そんな事を仰有つても私は承知は出来ませぬよ。なアお母さま、さうでせう』
『成る程、そこの三人の男は家へもやつてきた男だ。隣のお亀を攫へよつたのはそこの三人だ。バラモン教の目付けだと云つて威張りよつた。こら三人の奴、此婆はかう見えても浮木ケ原のお寅と云つて若い時には賭場を開張して居つた白浪女だ。もはや娘が命を捨てると覚悟した以上は、このお寅も足手纏ひがなくて力一ぱい活動が出来る。サア小童共このお寅が河へ投げ込ンで村の人の仇を打つてやらう。サアどうぢや』
と目を釣上げ、偉い剣幕で睨めつけた。アク、タク、テクの三人はお寅婆の勢に辟易し、後ずさりして頭を掻いて居る。
『ハヽヽヽヽ、オイ、アク、貴様等三人偉さうに云つて居るが随分悪い事をしよつたなア、年貢の納め時だ。一つ婆アサンとこの激流に投げ込まれて見よ、俺も何なら婆アさまの助太刀をせぬ事もないワ、万公末代の善の鏡だから』
『これこれお婆さま、さう怒つて呉れては困る、アクの俺は役目で止むを得ず女徴集と出たのだ。役目だと思うてまア見直して呉れ』
『何と云つてもお寅婆が死物狂ひ、許すものかい。これや万公とやら貴様も同類であらう。これお菊、お前は死ぬと覚悟を極めた上は一人死ぬのも勿体ない。これ等六人を残らず河へ投げ込ンで、大活動をし、天晴れ勇者となつて、冥途に行つた時に其勇名を誇らうぢやないか』
『お母さまそンなら一つ私も死物狂の活動を致しませう。仮令一人でも道連にしてやらねば腹が癒へませぬからなア』
 松彦は初めて口を開き、
『もしもし、お寅さま、お菊さま、先づお静まりなさい、決して吾々は悪人ではありませぬよ。バラモン教の中にもたまには善人が混つて居りますからなア。此三人は成る程女徴集に往つたのは事実でせう。併し今日は最早改心をして三五教の宣伝使のお伴して歩いて居るのだから、どうぞ許してやつて下さい』
『お前さまは一寸賢さうな顔をして居るだけに一寸分つた事を仰有る。許し難き餓鬼なれども、今日は見逃しておきませう。そのかはり三人の餓鬼に「どうも悪かつた」と犬蹲ひになつてお詫をさせにや承知しませぬよ。命だけは助けてやります』
『オイ、アク、テク、タク三人薩張顔色無しだナ、女の一人や二人にこみわられて慄つて居るやうな事で、どうして男の顔が立つか。是を思へば悪い事は出来ぬものぢやなア。万公末代万年の恥だよ。アハヽヽヽ』
『何も俺は此婆さまにあやまりの条がないのだ。婆さまや娘の体に指一本さへたのでもない、隣の家まで往つたのみだ。オイ婆さま、隣の家の敵打だなンて旧いぢやないか。お前も随分頭が旧いなア』
『エヽつべこべと今の奴は青表紙や蟹文字を噛つてけつかるから、そンな小理屈を吐すのぢや、強太う致して謝罪らぬなら謝罪らないでもよい。此方にも覚悟があるのだから』
『ハヽヽヽヽ剛情な婆だな、江戸の敵を長崎で打たうとして居る。オイ、俺達三人はこの一本橋を向ふへ渡つて、婆の来ぬやうに、この橋を落してやらうぢやないか、タク、テク、サア来い』
と尻を引き捲り一本橋を無性矢鱈に渡らむとし慌てアクは渦まく激流にドブンと落ち込ンだ。タク、テクの両人は辛うじて向ふへ渡る。お寅とお菊は両手を上げて、ウワイ ウワイとぞめいて居る。
 松彦は驚き、
『オイ、万公、五三公、これやかうしては居られない。婆さまも婆さまだがアクを助けてやらねばなるまい、サア渡らう』
と云ひながら松彦は先に立つて一本橋を渡り初める。続いて五三公も渡り出した。万公は、
『アクを助けるとは妙だなア、俺だつたら善を助けるがなア』
とほざいて居る。後からお寅は万公の首筋をグツと引き、お菊は足を浚へ、ドスンと河端に倒して仕舞つた。
『バヽヽヽ婆さま、ナヽヽ何をするのだ。俺はスヽヽ些しもシヽヽ知らぬぢやないか』
『知つても知らぬでもよいわ。貴様は敵の片割れだから親子寄つて集つて命を取つてやるのだ』
 万公は吃驚して、
『オイ松彦さま、五三公さま、人殺だ、救けて呉れ』
と声を限りに叫び居る。激流の音に遮られて向ふ岸には聞えなかつた。四人はアクを助けむと右往左往に周章へ廻つて居る。アクはどうしたものか二三町下手の岸に漸く泳ぎつき、真裸体となつて濡れた着物を圧搾し初めた。
『アーもう大丈夫だ、矢張アクは偉い奴だ。松彦も感心した。悪運強いとは此事であらう、ハヽヽヽヽ』
『もし松彦さま、万公が居らぬぢやありませぬか』
『何、五三公、万公が居らぬか』
と云ひながら向ふの岸を見ると、二人の女に押へられ藻掻いて居る。
 松彦は言せはしく、
『オイ、タク、テクの両人はアクの方へ往つて世話をしてやつて呉れ、五三公は御苦労ぢやが一本橋を渡つて万公を助けて来い』
『ヘイ承知致しました、併し貴方はどうなさるお積りです』
『私は宣伝使代理だから先づ中央に坐を占めて両軍の戦闘振を講評する積りだ、サア早くゆかないか』
『エヽ仕方がない』
と五三公は一本橋を又もや渡り、
『これやツ!!』
と呶鳴りつけるを、お寅にお菊は平気なもので、
『これお前さま何を邪魔をするのだイ。向ふに先生が待つて厶るぢやないか、とつととあちらに往かつしやれ。此奴は万公と云つてな、私の娘をチヨロマカした奴だよ。お菊の姉のお里が野良へ往つた処を待ち伏して野倒しをやり、たうとう夫婦気取りで、一年計りも私の家で暮して居つた奴ぢや。お里は悪縁で腹が膨れ、其ために難産をした揚句に死ンで仕舞ひよつた。さうするとこの薄情男奴後足で砂をかけて逃げてしまひよつたのだ。どこへ往つたかと探して居たが、天命遁れず此処で廻り合つたのだ、娘の敵だ、どうしても殺さねや承知しないのだ。目が悪いと思うて万公の奴知らぬ顔して居るが、そンな事の分らぬ婆さまぢやない。娘の敵この鉄拳でも喰へ』
と握り拳をふり上げてコンコンと叩く。
『アイタヽヽヽ万々々どうぞ勘弁へてお呉れ』
『姉さまの敵承知しないぞ』
と又拳を固めてコンコンと打つ。
『オイ五三公の奴、助けて呉れないか。私も三人や四人の女に弱るやうな男ぢやないが、お寅婆アさまは柔道百段だから、グツと掴まれたら、どうする事も出来ないのだ』
『オホヽヽヽ、これ五三公とやらこの婆に指一本でもこの体にさへたら承知せぬぞ』
『これや五三公も手の出しやうがないわい、滅多に命を取るやうな事もあるまいから、精出して叩いて貰へ。なアお婆さま何うぞ強つく、柔かう頼みますよ』
『お母さま、こンな腰抜け男を叩いても仕方がない。もう勘忍してやりませうか。それよりも浮木ケ原へ帰り、ランチ将軍の陣営に飛び込み、斬つて斬つて斬り死をした方が死甲斐があるかも知れませぬぜ』
『さうだ、こンな蠅虫の二匹や三匹相手にしたつて仕方がない、許してやらう。命冥加の奴だ。今後はきつと慎め、万公奴』
『ハイ謹みます』
『私の云ふ事を何時迄も覚えて居つて、あの先生の云ふ事を好う聞いて善心に立ち帰るのだよ。サア三千世界の放ち飼ひ、何処へなりと万公勝手に往け』
と掴むで居た手をパツと放した。万公はムクムクと起き上り、
『婆さま大きにお世話になりました。お蔭で肩の凝りが癒りました』
と捨台詞を残して逃げて行く。
『仕方のない男だな。彼奴はまだ、どせう骨が直つて居ないと見える。後より追つついて、も一つ折檻してやらう、サアお菊』
と一本橋を渡らうとする。五三公は両手を拡げ、
『お婆さま、まあまあ待つて下さい、私がとつくと言うて聞かしますから、もうこれ切り許してやつて下さい。貴女も一旦許すと仰有つたのだから、もう、これ切り許して下さい。さう執念深く追駆ないでもよいぢやありませぬか』
『憎い奴ではあるけれど、たとへ一年でも可愛娘の可愛がつて居た男だから、十分言うて聞かして懲してやり、一人前の男にしてやりたい計りに、かうして母子が手荒い事をしたのだ。万公を打擲したのは矢張可愛いからだよ。何しに憎うて頭の一つも叩かれやうぞ』
と云ひながら涙を袖に拭ふ。お菊も顔を隠し涙をそつと拭いて居る。
『アヽ親の恩と云ふものは有り難いものぢやなア。お婆さま左様なら』
と云ひ捨て、五三公は又もや一本橋を慌しく渡つて仕舞ひ、小北の霊場へと急ぎける。
(大正一一・一二・九 旧一〇・二一 加藤明子録)
(昭和九・一二・二九 於湯ケ島 王仁校正)
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