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文献名1霊界物語 第46巻 舎身活躍 酉の巻
文献名2第2篇 狐運怪会よみ(新仮名遣い)こうんかいかい
文献名3第10章 唖狐外れ〔1220〕よみ(新仮名遣い)あごはずれ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-03-13 18:06:44
あらすじ
魔我彦はお民に逃げられて悄然として坂道を下り、橋のたもとまで思わず進んできた。すると向こうから美しく衣服を着飾った女がやってくる。よく見ればそれはお民であった。

魔我彦は、お民が蠑螈別と駆け落ちしたことを責め立てた。お民は案に相違して魔我彦にしなだれかかった。そして、すべては魔我彦と一緒になるための計略で、蠑螈別を野中の森で殺し、隠し金二十万両をせしめたと語った。

魔我彦は有頂天になり、お民と一緒に小北山に戻ってきた。魔我彦は文助に、自分は二十万両の金と美人を今手に入れたところだと自慢していた。

お寅は外で妙な声がすると見てみると、魔我彦はポカンと口を開け、涎をたらしながら何かわけのわからないことをしゃべりたてていた。お寅がは魔我彦の顎を叩いて口を閉めると、やっと魔我彦は正気付いた。

魔我彦があたりを眺めると、お民はおらず、懐に入れた二十万両の影も形もなかった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年12月15日(旧10月27日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年9月25日 愛善世界社版133頁 八幡書店版第8輯 406頁 修補版 校定版139頁 普及版54頁 初版 ページ備考
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本文  恋にやつれし魔我彦は  昼狐をば追ひ出した
 やうな間抜けた面をして  ノソリノソリと坂道を
 下つて橋の袂まで  思はず知らず進み来る
 時しもあれや向ふより  云ふに云はれぬ美しき
 衣服を着飾り濡れ烏  欺くばかりの黒髪を
 サツと後に垂れ流し  紫袴を穿ちつつ
 紅葉のついた被衣をば  サラリと着流しトボトボと
 此方に向つて進み来る  何人なるか知らねども
 どこともなしに見覚えの  ある女よと佇みて
 口をポカンと開けながら  指を銜へて眺め居る
 女はやうやう丸木橋  此方に渡つて魔我彦の
 前に佇みホヽヽヽと  やさしく笑へば魔我彦は
 夜分の事なら驚いて  逃げる処をまだ昼の
 最中なるを幸に  ビクとも致さぬ面構へ
 よくよくすかし眺むれば  豈図らむや恋慕ふ
 衣笠村のお民さま  ハツと驚き胸を撫で
 『これこれもうしお民さま  お前は本当にひどい人
 蠑螈別と手をとつて  私に肱鉄喰はしおき
 暗に紛れて何処となく  逃げて行くとはあんまりだ
 此処で会うたを幸ひに  怨みの数々並べたて
 何うしても聞いて下さらにや  お前を抱いて此川へ
 ザンブとばかり身を投げて  あの世とやらへ行く心算
 お返事如何』とつめよれば  女は又もやホヽヽヽと
 いと愉快気に打笑ふ  はて訝かしと魔我彦は
 衝つ立ちよつて細腕を  グツと握ればお民さま
 山も田地も家倉も  吸ひ込みさうな靨をば
 両方にポツと現はして  腰つきさへもシナシナと
 首をクネクネふりながら  しなだれかかる嬉しさよ
 魔我彦案に相違して  グツと腰をば抱きしめ
 『これこれもうしお民さま  お前の心は知らなんだ
 何卒許して下さんせ  私も嬉しう厶ります
 夢か現か幻か  夢なら夢でよいけれど
 万劫末代醒めぬやうに  神さま守つて下さんせ
 偏に願ひ奉る  さはさりながらお民さま
 蠑螈別は如何なつた  それが一言聞きたい』と
 詰ればお民は打笑ひ  『私は蠑螈別さまに
 秋波を送つて居たやうに  見せてゐたのも只一つ
 お前と添ひたい目的が  心の底にあればこそ
 蠑螈さまをおだてあげ  昨夜の暗を幸ひに
 野中の森へつれ行きて  隠し置いたる二十万両
 言葉巧に説きつけて  薄野呂さまを説き落し
 漸く目的相達し  二十万両のお金をば
 これ此通り懐へ  入れてスゴスゴ帰りました
 もう之からは大丈夫  小北の山の聖場で
 お前は教主私は妻  これだけ金があつたなら
 末代さまも上義姫も  おつ放り出して小北山
 主権を握る其準備  サアサア之から致しませう
 金が敵の世の中と  分らぬ奴は云ふけれど
 お金は吾身の味方ぞや  金さえあらば何事も
 成就せない事はない  どんな阿呆な男でも
 賢う見えるは金の徳  一文生中恵まない
 人にも旦那さま旦那さまと  持て囃されて世の中を
 我物顔に渡り行く  こんな結構な事はない
 魔我彦さまよ私の  心の底が分つたか
 何卒仲よう末永う  私を妻と慈しみ
 添ひ遂げなさつて下さんせ』  云へば魔我彦ビツクリし
 恋しき女と合衾の  式まで挙げて其上に
 生れて此方目に触れた  事もない様な大金を
 持参金とは何の事  併し心にかかるのは
 蠑螈別の事である  魔我彦言葉を改めて
 『それは誠に結構だ  併し一つの心配が
 二人の仲に横たはり  至幸至福の妨げを
 するやうに思へて仕様がない  何とか工夫があるまいか
 蠑螈別がヒヨツとして  この場に帰つて来たなれば
 俺とお前は如何しようぞ  これが第一気にかかる
 如何にせむか』と尋ぬれば  お民はホヽヽと打笑ひ
 『必ず心配なさるなや  こんな謀反を起す私
 何処に抜け目があるものか  野中の森で睾丸を
 しめて国替さして置いた  もう此上は大丈夫
 天下晴れての夫婦ぞや  一時も早く小北山
 教主の館へ堂々と  夫婦が手に手をとり交はし
 これ見よがしに大勢の  中をドシドシ行きませう
 お寅婆さまもさぞやさぞ  お前と私の肝玉に
 ビツクリなさる事だらう  あゝ面白い面白い
 天下晴れての夫婦連れ  金がとりもつ縁かいな
 何を云うても二十万両  もしゴテゴテと云うたなら
 此大金を見せつけて  荒肝とつてやろぢやないか
 魔我彦さまよ心をば  丈夫にもつて下さんせ
 私もお前と添ふのなら  此大金は要りませぬ
 皆貴方の懐に  預けておきます改めて
 何卒受取つて下されや』  語れば魔我彦喜びて
 涎をタラタラ流しつつ  開けたる口も塞がずに
 お民の後に引添うて  嶮しい坂をエチエチと
 肩で風きり嬉しげに  館をさして帰り来る
 其スタイルの可笑しさよ  意気揚々と魔我彦は
 嶮しき坂を攀ぢ登り  受付前に来て見れば
 文助さまとつき当り  『オツトドツコイ、アイタツタ
 魔我彦さまぢやありませぬか  貴方は何処へ雲隠れ
 なさつて厶つたか知らねども  此大広前は大騒動
 上を下へと泣き叫び  怒りつ猛びつ修羅道の
 大惨劇が演ぜられ  信者の信仰がぐらついて
 危き事になつてゐる  お前はそれをも知らずして
 お民の後をつけ狙ひ  何をグヅグヅして厶る
 気をつけなされ』と窘めば  魔我彦鼻を蠢かし
 『お前は盲で分らねど  私は目出度い事だつた
 お目にかけたうてならないが  生憎お前に目がないで
 如何にも斯うにも仕様がない  二十万両のお金をば
 首尾よく私の手に入れて  天下無双の美人をば
 女房にきめて揚々と  帰つて来ました所ですよ
 世界に並ぶものもなき  幸福者とは俺の事
 明日に屹度お祝を  致してお目にかけるから
 お前も楽み待つがよい  女の好む男とは
 決して美しいものでない  気前と根性がシヤンとして
 居りさへすれば神様が  自分の思ふ存分の
 女房を持たして下さるよ  お前は私を平生から
 曲つた男と見縊つて  フヽンと笑ふ鼻の先
 随分むかつきよつたけど  もうかうならば神直日
 大直日にと見直して  お民を女房に貰うたる
 其お祝に帳消しだ  俺の器量は此通り
 サアサアこれから奥へ行て  内事司のお寅さまに
 羨りがらしてやりませう  これこれ吾妻お民どの
 早く魔我彦後につき  トツトとお入りなされませ
 お寅婆さまが嘸や嘸  驚き喜ぶ事でせう
 私は之から大教主  お民は一躍奥さまで
 羽振りを利かし飛つ鳥も  落さむばかりの勢で
 ウラナイ教の御道を  残る隈なく世の中に
 輝き渡さうぢやないかいな  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 魔我彦さまとお民さまは  万劫末代変らない
 金勝要の神様が  結び給ひし縁ぢやもの
 如何してこれが変らうか  もしも中途で変るやうな
 悪い行ひあつた時や  忽ち神が現はれて
 吾等二人の身の上に  お罰の当るは知れた事
 これこれもうしお民さま  此事ばかしは心得て
 何卒忘れて下さるな  ほんに嬉しい有難い
 小北の山の神様を  信神してゐたお蔭にて
 夢にも見ぬやうなボロイ事  吾身に降つて来たのだよ
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』
お寅は何だか妙な声がするなと思ひ門口をガラリと開け、外面を見れば魔我彦が真蒼の顔をし、顔に黒いもんを処斑に塗りつけられ、ポカンと口を開け、唖の様に涎を垂らし「アーアー」と何か分らぬ事を喋つてる。
お寅『これ魔我彦さま、何だい、みつともない、其顔は、男がさう口を開けるものぢやない、大方顎が外れたのだなア』
 魔我彦は口を開けたまま、
『アーア、アヽヽヽヽ』
と足拍子をとり同じ処を踏んでゐる。お寅婆アさまはポーンと魔我彦の顎を叩いた。その拍子にカツと音がして外れた顎が都合よく元の位置に納まつた。
魔我『アイタツタ、誰だい、人の顔を叩く奴は、ハヽア、お民と夫婦になつたのが羨りいのだな』
お寅『これ魔我さま、お民も何も居やせぬぢやないか。みつともない、阿呆の様に口を開けて、何をしてるのだい。口に土を一杯頬張つて、困つた男だな』
 魔我彦は初めて気がつき其処辺を眺むれば、お民らしきものもなく、懐に入れた二十万両の金は影も形もなくなつてゐた。
(大正一一・一二・一五 旧一〇・二七 北村隆光録)
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