万公は後髪を引かれる心地しながら、お菊への愛におぼれて神務を打ち忘れ、木枯らしすさぶ山の尾の上の薄雪を踏みしめながら、駆け落ちの道中歌いだした。
しかしお菊は足早に前を走って行き、万公は息が切れだした。万公はお菊に待ってくれと声をかけ、慌てて走って行くが追いつかない。
実際は万公はとぼけた面をして神社の細い階段を上っては下り、下っては上りを繰り返しているだけだった。お菊とお千代が石段のところに来ると、万公が何かわからぬことをブツブツ言いながら行ったり来たりしているのが見えた。
お菊が万公に呼びかけると、万公は大金を持ってお菊と逃げているつもりになってお菊に返事をした。お菊とお千代は狐につままれたのだろうと万公を笑っている。万公は下を向いて汗をたらたら垂らしながら階段を降って行ってしまった。
魔我彦は狐に膏をしぼられて松彦館を訪ねようと階段を上って行くと、万公が気の抜けた顔をして下ってくるのにばったり出会った。魔我彦に声をかけられてようやく正気に戻った万公は、今度は本物のお菊を狐だと思って掴みかかった。
魔我彦にたしなめられて、万公はお菊と駆け落ちをした気になっていたことを白状し反省した。そこへ五三公、アク、タク、テクの四人が松彦館を訪ねてやってきた。万公は反省の歌を歌い、一同は戒めの歌を交わした。