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文献名1霊界物語 第46巻 舎身活躍 酉の巻
文献名2第3篇 神明照赫よみ(新仮名遣い)しんめいしょうかく
文献名3第16章 想曖〔1226〕よみ(新仮名遣い)おもいあい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-03-16 20:03:12
あらすじ
お寅は小北山開設以来打って変った活き活きした顔をしながら、身も軽く箒や払いを持って室内の掃除に余念がなかった。そこへ寒そうに袖に手を入れ、失望落胆の極に達した魔我彦が淋しい容貌で入ってきた。

お寅は魔我彦を見て、神を理解せよと諭し、一個の罪人となって謙譲の徳を心につちかい養えば、たちまち天国が開けると説いた。

魔我彦はあくまで、お寅がそんなに元気になったのは蠑螈別と密かに会って、大金を手に入れる約束をしたからだろうと勘繰り、こうなったのも三五教の曲津神が善の仮面をかぶって小北山にやってきたからだとののしった。

魔我彦はあくまで、煩悶苦悩の淵に身を置くことこそ、永遠無窮の歓喜の園を開くのだ、万民を救うために苦悩することに意味があるのだと言い張る。

お寅は自分自身が不幸悲哀の淵に沈んでいて、どうして人が救えるのかと問い、自己を救い了解した上で初めて世を救い道を伝える完全な神力が備わるのだと説いた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年12月16日(旧10月28日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年9月25日 愛善世界社版202頁 八幡書店版第8輯 430頁 修補版 校定版213頁 普及版81頁 初版 ページ備考
OBC rm4616
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本文  お寅婆さまは小北山開設以来の打つて変つた活々とした水々しい顔をしながら、身も軽々しく、棕櫚箒や采払を持ちて、パタパタパタパタ、スースースーと心の清潔法をすませ、室内の掃除に余念なかつた。そこへ寒さうに筒袖の中へ手を入れて、フーフーと冷たい空気を吹きながらやつて来たのは魔我彦であつた。殆ど失望落胆の極に達し、地獄の底から捕手の出て来たやうな、えも言はれぬ淋しい容貌を曝け出して入つて来た。
お寅『魔我彦さま、一寸鏡を見て御覧、お前の顔は年の若いにも似ず八十爺さまのやうな萎びやうだよ。チツト心の持方を変へなくちや駄目ですよ』
魔我『余り馬鹿らしくて、世の中が淋しくなり、何とはなしに不平の雲が襲つて来て、地の上に身をおく所もない様な思ひが致します。それにお寅さま、貴女は今日に限つて、大変水々しい愉快さうな顔をしてゐるぢやありませぬか。○○博士の若返り法でも研究なさつたのですか。但しはニコニコ雑誌でも耽読されたのですか。大変な変り様ですワ』
『ニコニコ雑誌や若返り法位で、さう俄に元気が出るものですか。そんな人間の頭脳から捻り出した厄雑物で、何うしてこんな愉快な気分になれるものですか』
『それなら何うすればよいのです。何だかそこら中がウヂウヂして来て、冬の冷たい日に雪隠の中へ突つ込まれたやうな、クソ面白くもない空気に襲はれて仕方がありませぬ』
『お前さまは神様に対して、真の理解がないからだ。神様さへ理解すれば、すぐに私のやうに、地獄は忽ち化して天国の境域に進むことが出来るのだよ』
『神を理解せよと云つたつて、人間の知慧には限りがあります。これだけウラナイの尊き教を信じ神々様を念じながら、狐につままれて馬鹿を見せられるのだから、私は神の存在を疑ひます』
『神の存在を認めず、神の救ひを忘れた時は心身共に衰耗廃絶するものだ。そして神の愛と神の信とに直接触れ、真に理解した時は忽ち歓喜の夕立、吾全身を浸し、霊肉共に不老不死的に栄えるものだ。併しながらヘグレ神社や種物神社では駄目ですよ。お前さまもよい加減に、義理天上日の出神の雅号を返上しなさい、そして一個の罪人とおなりなさい。卑しき一個の下僕となり、乞食の靴を取る謙譲の徳を心の畠に培ひ養ひさへすれば、忽ち天国は開けますよ』
『それだと云つて、今まで一生懸命に信仰して来たユラリ彦様やヘグレ神社、種物神社、大門神社の神々様を捨てる事は出来ませぬ。さうクレクレと此頃の空の様に変つては、誠が貫けますまい』
『お前さまは神素盞嗚大神様の御仁慈を有難く思ひませぬか。救世主だといふ事が理解されませぬか』
『何処迄も私は信じられませぬ。お寅さま、よく考へてごらん、素盞嗚尊を信ずるのならば、別にウラナイ教を立てたり、小北山の神殿を造営し、一派を立てる必要はないぢやありませぬか』
『そこが改心といふものだ。間違つて居つたといふことが分れば、直様改めるのが人間の務めだ。何程魔我彦さまが神力が強うても、荒金の土を主管し給ふ瑞の御霊の御神徳に比べては大海の一滴、どうして比較になりませう。チツと胸に手を当てて御考へなさい』
『お寅さま、貴女はさう生々として元気さうに言つてゐるのは、要するに三万両のお土産を蠑螈別から貰つたからだらう』
『エヽあた汚い、お前さまはそれだから苦むのだ。吾と吾心に造つた鬼に責められてゐるのだよ。物質的の欲望なんか物の数でもありませぬワ。それよりも、モツトモツト尊い宝が、そこら中にブラついてゐることをお悟りなさい。夢の中で貰つた三万両は、物質的の宝としては使へばなくなるものだ。仮令それが現実の黄金にした所で、一つお宮を建てたら、それで仕舞ぢやないか。何程使つても使ひ切れぬ、使へば使ふ程殖える無限の宝がおちてゐるのだよ。それを拾ふのが神を信仰する者の余徳だ。その尊い神の御余光を毎日日日ふみつけてゐるのだから、駄目だよ。お金で譬へたら、幾十万億両とも知れぬお宝を、私は頂戴したのだ、つまり世界一の富者になつたのだ。それだから此通り若やいで活々としてゐるのだよ』
『お寅さま、世の中に阿呆と気違位幸福な者はありませぬネ。お前さまは夜前狐につままれて、三万両の金を貰つたのでせう。そして蠑螈別さまとしつぽり会つたのでせう。それから二世も三世もといふお目出度い情約を締結し、批准交換がすんだと思つて喜んでゐるのでせう。そんな泡沫に等しき喜びは、霧の如く煙の如く、瞬く間に消滅して了ひますよ。其時にアフンとせないやうになさいませや』
『お前も狐に騙され、お民さまと手に手を取つて、二十万両の持参金と共に小北山の教祖になると云つて、顎まで外して居つたぢやないか。なぜそんな目に遇つたのか、分つてゐますか』
『三五教の曲津神が善の仮面を被り、六人もやつて来やがつて、いろいろと奇怪な事ばかり致し此聖場を蹂躙せむとして居るのですよ。私は昨日の事からスツカリ目が覚めました。お前さまはまだ年がよつて居るので、精神上の欠陥がヒドイと見えて、依然として狐につままれ、糞壺へ投込まれて結構な温泉へ入つたと思ひ、牛糞や馬糞をつきつけられて結構な牡丹餅と信じ、瓦かけを持たされて三万両の黄金だと思つてゐるのだから、本当にお目出度いものだ。一層の事、お前さまのやうに無知識に生れて来たら、此世を夢現で喜んで暮せるのだけれど、何と云つても知識の光が強いものだから、お前さまのやうな気にはなれませぬワイ。鑑別だとか、認識だとか、肯定だとか、否定だとか、いろいろの什器が心の宝庫に充実してるのだから、私の悲痛な思ひは、要するに将来の歓喜の源泉となるものだ。お前さまの歓喜は、丁度阿片煙草に熟睡して世事万端を忘れ、夢の世界に逍遥し恍惚とし霊肉を蕩かしてるやうなものだ。丁度田螺の母親が、自分の生んだ沢山な子に、体を餌食にされ、いつとはなしになめ尽されて、愉快な気になつてゐる間に、自分の肉体をスツカリ食ひ殺されてる様な愉快さだ。コレ寅さま、チツト気をつけないと駄目ですよ。変性女子の悪御霊が、全力をあげて小北山を滅亡せしめむとして千変万化の画策をめぐらしてゐるのだからなア。灯台下暗しと云ふからは、中々油断がなりませぬぞ。お前さまがそんな心で、何うして此小北山の本山が立つて行きますか。チツトしつかりして貰はないと、淋しくてたまらぬぢやありませぬか』
『あゝ困つた男だなア、これ程言つても目が覚めぬのかなア』
『あゝ困つた婆アさまだなア、何と云つても思想が単純だから、私の言ふ事が、充分魂に沁み込まないと見えるワイ。女子と小人は養ひ難しとは、あゝよく言つたものだ』
『本当にお前と私と斯うして寝食を共にし、口の中に入れたものでも食ひ合ふやうにしてゐる親しい近い仲でも、心は千里の距離があるのだから、どうしても容易にバツが合はないのだ。これ魔我彦さま、一つ直日の霊に見直し聞直し、省みたら何うだい』
『あゝお寅さまは、たうとう地獄の底へ落ちて了つたのだなア、本当に可哀さうだ。世界の人民も救うてやらねばならないが、肝腎要のお寅さまから救ひ助けておかねば、到底万民を助ける事は出来ない、困つた事になつて来たワイ』
『魔我彦さま、お前は救はれてゐる積かい。貴方御自身が真の神の愛にふれ、真の信仰に接し、真の神を理解することが出来て、お前の魂も肉体も天国浄土の歓喜を味はふ事が出来ましたか。それから一つ聞かして貰ひたい』
『始から何事も都合よく行くものぢやない、私は今煩悶苦悩の最中だよ。本当に此世が厭になることが幾度あるか知れない。そこを耐へ忍んで行きさへすれば、所謂天国の門が開かれるのだ。人間は悲境のドン底に沈んだ時に於て始めて幸の種を蒔くものだ。幸の時、得意満面の時に却つて地獄の種を蒔いてゐるのだ。お前は曲神に誑惑されて地獄に落ちながら、まだ目が覚めないのだよ、本当に可哀さうなものだなア。此魔我彦は今や天国の門を開かむとする首途にあるのだ。よい後は悪い、悪い後はよいと云つてなア、今の間に苦みをしておけば、永遠無窮の歓喜の園を開く事になるのだ。あゝ惟神霊幸倍坐世……どうぞお寅さまの曇り切つた魂が豁然として開けますやう、魔我彦がお願ひ致します。ユラリ彦の大神様、五六七成就の大神様……』
『コレ魔我さま、ユラリ彦さまも、ヘグレ神社さまも、モウ言つておくれな、私は本当の信仰を握つたのだから。よく考へて御覧なさい。人間は永遠無窮に生き通しだよ。僅か二百年や三百年の肉体を受得する為に生れて来たのではない。天国浄土に於て永遠無窮に繁り栄え、天国の御用をする為に生れて来たのだ。吾々の意志も観念も記憶も正しい知識も一切残らず高天原の天国へ此儘留存して行くのだから、現肉体のある間に歓喜の雨にぬれ、此身此儘天国の住民となつておかねば、どうして死後の生涯が楽しく送れませうか。此世の中は神の造り給うたものだから悩み苦みなどのあるべき筈がない。豁然として神の真の愛にふれ、真の知慧にふれ、神様を理解する事が出来たならば、此世此儘最上天国だよ。悲痛な思ひをしたり些々たる欲望に心を悩めてゐるのは、所謂此世からなる地獄道に陥没してゐるのだ。お前さまは小智小欲が勝つてゐるから、自ら造つた地獄へ落ち、自ら築いた牢獄に呻吟してゐるのだ。一日でも此世に於て歓喜と感謝の生活を続け、仮令一息の間も悲観などしちや仁慈の神様へ対して大変な罪になりますぞや。人は心の持様一つだよ』
『それでも、苦労を致せよ、苦労致さねば誠の花は咲かぬぞよ……と神様は仰有るぢやありませぬか。世の為、人の為、道の為に苦み且つ世を悲しむのは最善の人事ぢやありませぬか。吾身をすてて万民を救ふといふ事は善事中の善事でせう。それだから私は何うなつてもいい、人さへ助かれば、それで人間の本分が尽せるもの、神様に対して忠実な御奉公だと確く信じてゐるのだ』
『ホツホヽヽヽ、何と分らぬ男だこと、どうにも斯うにも助け様がないワ。お前さま、自分が不幸悲哀の淵に沈み、涙の生活を送りながら、どうして人が救へると思つてゐますか、先づ自己を救ひ、自己を了解した上で、始めて世を救ひ、道を伝ふる完全な神力が備はるぢやありませぬか。よう考へて御覧なさい、ここに一人の川はまりがある。今已に溺れ死せむとしてゐる所を人が通る、モシ其人が盲であつたならば、救ひを求むる声は聞えても、決して救ふ事は出来ますまい。此時には水泳に達した人で、体の壮健な、目の見える人間でなければ、其溺没者を救ふといふ事は到底不可能でせう。それだからお前さまも、先づ自己を強くし、自己を照し、自己の神力を十二分に受けなくてはなりませぬ。神力さへ備はらば、自然に歓喜の悦楽が吾身辺を襲うて来るものだ。私も夜前から神の慈光に照されて、悲哀の極、遂に歓楽境に救はれたのだ。どうぞして、お前を私と同じ精神状態に救うてやりたいのだが、余り距離があるので、可哀さうながら救ふ事が出来ないのかな。併し乍ら私も第一着手としてお前を救ふ事が出来ないやうで、何うして万民を救ふ事が出来よう。あゝ私は、大変な神様から試験をうけてるやうだ。魔我彦峠を突破するのは中々容易ぢやないワイ。あゝ神様、あなたの御慈光に依つて、私に誠の光と誠の愛をお与へ下さいまして、魔我彦が心に潜む曲を照し、どうぞ天国浄土へ霊肉共に導かして下さいませ。偏に神の御恩寵を御願ひ申上げ奉ります』
『あゝあ、どうしても駄目だなア、可哀さうなものだ。私も此お寅さまを第一着手として救はなくちや到底万民を救ふ事は出来ぬであらう。どうぞユラリ彦の神様、ヘグレ神社の大神様、あなたの栄光と権威と慈愛とに依りまして、可憐なるお寅婆アさま、魔我彦が最も敬愛する此老婦人の心に一道の光明を与へ下さいまして、あなたをよく信じ、あなたを理解し、あなたの愛を徹底的に悟る事が出来ますやうに、特別の御恩寵を此老婦人の上に垂れさせ給はむ事を、偏に希ひ上げ奉ります。あゝ惟神霊幸倍坐世、末代日の王天の神様、五六七成就の大神様、旭の豊栄昇り姫様、義理天上日の出神様、大広木正宗様、大将軍様、常世姫様、偏にお願ひ申上げ奉ります』
『コレ魔我彦さま、モウ其神名は私の前で言つて下さるなといふに、訳の分らぬ人だなア、どしても目が覚めぬのかいなア、あゝ何うしたらよからうぞ、惟神霊幸倍坐世、国治立大神様……』
『あゝ何うしたら、お寅さまの迷ひを解く事が出来るだらう、あゝ惟神霊幸倍坐世』
(大正一一・一二・一六 旧一〇・二八 松村真澄録)
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