治国別は、松彦、五三公、万公を野中の森に残して(第44巻第16章を見よ)、竜公一人を伴い、神の命を奉じて浮木の森のバラモンの陣中に進もうと道を急いだ。怪しの森の守衛たちは、酒に酩酊して二人が通るのを少しも気が付かなかった。
浮木の村の入り口に進んだ折り、タールとアークの両人は大きな眼を開けて不寝番として控えている。夜が明けてきて、二人は四方山話を始めた。
タールは三五教の悪神・素盞嗚尊が聖地を蹂躙することをなんとしても防がねばならない、というが、アークはバラモン教が悪だと知ったから気に入っているのだ、そのバラモン教を邪魔する素盞嗚尊は善だろうが悪だろうが滅ぼすのだと気炎を上げている。
アークとタールは、もし河鹿峠の勝ちに乗じて三五教がやってきたら、落とし穴に落とし込んでやろうと企んでいる。そこへ治国別と竜公がやってきた。
二人は治国別の姿を見て、腰を抜かしておののいてしまった。治国別は、ランチ将軍、片彦将軍のところへ案内してほしいと二人に頼むが、二人は動けない。
タールは、わざわざ敵の陣中に乗り込んできてひと悶着あるよりも、ここはお互いに身を引いた方がよいと治国別と竜公に提案するが、治国別はランチ将軍と片彦将軍に善言を与えて高天原に救い上げようと、元バラモン軍の竜公を案内者としてやってきたのだ、と譲らない。
治国別がアークとタールに案内いたせ、と命じると、いつの間にか抜けていた腰は回復し、陣幕の南の方を指して案内に歩き出した。
治国別と竜公が後に従って歩いていくと、にわかに足元が転落して深い落とし穴に落ち込んでしまった。落とし穴の底には、林のように鋭利な槍が空地なしに立ててあったが、両人は神のお守りの厚いためか、都合よく槍と槍の間に落ち込み、少しも傷は負わなかった。
アークとタールは三五教の宣伝使を仕留めたと喜んだ。アークは得意顔でランチ将軍に報告に向かった。