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文献名1霊界物語 第47巻 舎身活躍 戌の巻
文献名2第1篇 浮木の盲亀よみ(新仮名遣い)うききのもうき
文献名3第3章 寒迎〔1236〕よみ(新仮名遣い)かんげい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-04-12 17:53:31
あらすじ
治国別は竜公とタールを伴い、浮木の里のランチ将軍の陣営を指して進んで行く。竜公は意気揚々として先に立ち、四方の景色を眺めながら新派口調で歌いだした。

治国別は神の愛と信と智慧証覚にみたされ、強敵の陣営に武器も持たずに進んで行くについても、里帰りするような心持で歌を歌いながら進んでいった。その雄々しさ、悠揚たる態度に感化されて、竜公もタールもすっかり天国旅行の気分になってしまった。

タールは平等愛と差別愛の違いについて、治国別に問いかけた。治国別は、差別愛は偏狭な恋愛のようなもの、平等愛は普遍的の愛、いわゆる神的愛だと簡単に解説し、新派様で歌いだした。

治国別は歌に籠めて、生来の差別愛から神的な平等愛に進む道は、惨憺たる血涙の道をゆかなければならない、と戒めた。そしてもう一首、信仰と法悦の信楽について歌い、それは現代の冷たい哲学や科学の斧によって幻滅の非運にあうような空想的なものではなく、神の持ち給へる愛の善と真の信とによって、智慧と証覚の上に立脚した大磐石心であると諭した。

前方からはランチ将軍が数十人の騎馬隊を引き連れて猛烈にやってきた。先頭に立っていたのはさきほど治国別に膏を絞られて助けられたアークであった。

アークは治国別に丁寧にお辞儀をし、迎えに来たので馬に乗って一緒に来てほしいと懇願した。治国別がランチ将軍はどなたかと尋ねると、将軍は馬を飛び下りて揉み手をしながら現れた。

ランチ将軍は治国別の前に仕立てに出て陣営に迎えようとする。治国別はランチ将軍の言葉を額面通りには信じていなかったが、彼を正道に導く好機と心に定め、差し出された馬にまたがって陣営に入って行った。

竜公とタールは陣営で軍卒どもが取っている相撲に見とれて、治国別が奥へ進んで行ったのに気付かなかった。土俵ではエキスが何人もの軍卒を投げつけて腕を誇っている。竜公は思わず土俵に飛び出し、エキスに挑んだ。

かねて対戦したことのある両者はたがいににらみ合いひとしきり掛け合った後、四股を踏んで潮を投げつけ、四つに組んだ。半時ばかりも組み合う長丁場にさすがのエキスも力尽き、隙をついて竜公がまわしを三辻をたたくと、土俵の中を転がって西のたまりへ転げ落ちてしまった。

エキスは面目をつぶし、裸のまま陣中の奥へ姿を隠した。賞賛の声、拍手の音はあたりもゆるぐばかりであった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月08日(旧11月22日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年10月6日 愛善世界社版43頁 八幡書店版第8輯 486頁 修補版 校定版44頁 普及版21頁 初版 ページ備考
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本文  治国別は竜公、タールを伴ひ、枯野の露を踏み分けて浮木の里に屯せるランチ将軍の陣営さして進み行く。竜公は意気揚々として先に立ち、四方の景色を眺めながら呂律も合はぬ新派口調で歌ひ出した。

『月山に入らず
 天は暁けざれど
 雲雀や百鳥の
 忙はしき声に励まされ
 眠たき眼を擦りながら
 早くも荒野に
 歩みを起しぬ
    ○
 露持つ草葉を
 草鞋に踏めば
 袖吹くあしたの風は
 美はしく薫りて
 汗を拭ひ胸を洗ふ
 旅路の愉快さよ
 坂照山の月清くして
 松風に添ふ
 笙の音も
 いとど床しく聞え来りぬ』

タールは、
『オイ竜公さま、笙もない、笙の音も何も聞えて居ないぢやないか。エー、詩人といふものはソンナ嘘を言つても良いのか』
『そこが詩人だよ。詩といふ字は言偏に寺といふ字を書くからなア。寺は死人の行く所だ。笙々違つた所で正味が面白ければ可いぢやないか。どうせ生きたる人間の作るものぢや無いからな、半詩半笙の人間か、又は現世に用のない老爺や三文蚊士の言ふことだ。俺も一寸詩人の真似をして見たのだ』
『正味ぢやない、趣味のことだらう』
『正笙ぐらゐ違つたつて別に詩才はないぢやないか。アハヽヽヽ』
『モシ先生、アノ月さまも矢張り詩人ですか、中空にぶるぶると慄へて居るぢやありませぬか。太陽さへあれば、月は必要のないものですなア。太陽の光に圧倒されて追々と光が弱り、殆ど死んだやうに見えて来たぢやありませぬか』
『ウン、さう見えるかな。それでは一つ竜公さまに習つて、治国別が詩でも詠んで見ようかなア。

 数百万年の太古から
 冷え切つた死んだ様な
 寂かな月が
 大空に独り輝いてゐる
 それは
 地上の万有に
 瑞光を投げて
 仁慈の露を
 蒼生の上に降し
 生命の清水を
 与へむがために
 和光同塵の
 温姿を現じ給ふためだ
 月は盈ち或は虧け
 或は没して
 地上の世界に
 明暗の神機を示し
 仁慈の神業を
 永遠無窮に
 営ませ給ふからだ
 人間の眼より
 冷然たる月と見ゆるは
 温情内包の摂理に
 その霊光を隠させ給ふためだ。

序に今吹く風の音を詠んで見よう。

 そよそよと吹く
 風の音
 脚歩の響
 草葉の声を聞けば
 万物みな
 こころ有りて
 何事か神秘を
 心暗き吾耳に
 語るあるに似たり』

 治国別は神の愛と信と智慧証覚に充たされ、さしもの強敵の陣営に向つて武器をも持たず進み行くについても、殆ど下女が春秋の籔入に親里に帰る様な心持で途々歌を歌ひながら進み行く其雄々しさ。竜公もタールも何時とはなしに治国別の悠揚迫らざる態度に感化されて、すつかり天国の旅行気分になつて了つた。タールは、
『もし、先生様、平等愛と差別愛とは何処で違ふのでせうか。差別愛から平等愛に進むか、平等愛から差別愛に分離するのでせうか。私は差別的平等愛、平等的差別愛だと聞いて居りますが、どちらから出発点を見出だせば宜いのでせう』
『差別愛とは偏狭な恋愛の様なものだ。平等愛とは普遍的の愛だ。所謂神的愛だ。今一つ駄句つて見よう』
と治国別は、

『生来の差別愛より
 神的なる
 平等愛に進む径路は
 実に
 惨憺たる血涙の
 道を行かねばならぬ
 これが
 不断煩悩得涅槃の
 有難い消息が秘められてあるのだ。

序に、も一首信仰と法悦の信楽に就いて駄句つて見よう。

 信仰によつて
 不信なる吾人の頑壁が
 身心脱落し崩壊し去る時は
 神の宝座より
 吹き来る霊風の鞴に
 解脱新生の歓喜を為し
 猛火も焼く能はず
 波浪も没する能はず底の
 金剛不壊の法身
 おのづから
 吾に本具現成するを
 自覚し得るに至る
 その時こそは
 百千の夏日昇りて
 一時に灼鑠たるも
 ただ是
 自性法界を荘厳するの七宝
 清浄妙心を照映するの
 摩尼宝珠なるべきのみだ。
    ○
 吾人が法悦の信楽は
 現代の冷たい哲学の鋸や
 慧しい科学の斧に由つて
 忽ち幻滅の悲運に
 会ふやうな
 ソンナ空想的のものでは無い
 主の神の持し給へる
 愛の善と信の真とによつて
 智慧と証覚の上に
 立脚したる大磐石心だ』

『只今のお歌によつて、私も大変に法悦の信楽を味はひました。漸く今日の日輪様もお上りになつたと見え、坂照山の頂は大変に明るく輝いて来ました。一つ歌でも詠んで見ませう』
とタールは歌ふ。

『燃えさかる希望に充ちし心もて
  昇る旭を拝みにけり。

 遠山の峰は真白し今はしも
  昇らむとして雲映え居れり。

 より強く生きむと思ふ吾前に
  昇る旭の大いなるかな』

竜公『山荒れて風の捲きくる郊外は
  あたりも見えず雪に暮れけり』

『アハヽヽヽ、オイ竜公、寝愡けちやいかぬよ、「雪に暮れけり」とは何だ。なぜ「雪に明けけり」と云はぬのだ』
『これは昨晩の貯蔵品だ。あんまり永く貯蔵しておくと寝息物になるから、先づ古い粗製品から売つて、それから又新しい奴を売り出すのだ。あたら名句を腹の中で腐らして了つちや経済がもてぬからな。さあ之からが新規蒔直しだ。

 山明けて風そよそよと吹く野路は
  あたりも清く胸も静けき。

と宣り直すのだ。エヘン』
『何と立派な歌だなア』
『まだまだ之から、とつときを放り出すのだ、エヘン。

 厳かに旭を浴びて坂照山の
  高嶺は雲の上に聳ゆる。

とは如何だ』

タール『厳かに生きむとするか気高くも
  錦の山は空に聳ゆる』

『いや、何れも秀逸だ。こんな立派な詩人と同道して居ると治国別も殆ど顔色なしだ。さあボツボツと行かうぢやないか』
 斯く云ひつつ三人は朝露を踏んで枯草茂る野路を進み行く。前方よりはランチ将軍数十人の騎馬隊を引き率れ、此方に向つて走り来る其勢ひ、山岳も蹴飛ばすばかりに思はれた。先頭に立つたのは最前治国別に救はれて逃げたアークである。
 アークは馬を飛び下り、治国別の前に進み寄り、叮嚀に会釈しながら、
『先刻はえらい御厄介に預かりまして有難う存じます。就きましては、直様本陣に立帰り、将軍様に貴方の事を申上げた処、将軍様も大変にお喜び遊ばしお迎へに出なくちやなるまいと仰有いまして、今此処に御出陣なさいました。さあ私の馬に乗つて本陣迄お越し下さいます様に』
『やあ、それは御苦労だつた。そしてランチ将軍殿は此処に居られるのかな』
『ハイ、あの金色燦爛たる軍帽を冠つて居られますのが将軍様で厶います』
『いや何と立派な服装だな。然らば一つ御挨拶を致さねばなるまい』
 斯く云ふ折しも、ランチ将軍は馬をヒラリと飛び下り、治国別の前に揉み手をし乍ら現はれ来り、
『拙者は大黒主の神司に仕へ奉るランチ将軍と申す者、此度主君の命によつてイソの館へ攻め寄せる途中、吾先鋒隊片彦将軍は貴方等の言霊とやらに散々に打ち捲られ、脆くも敗走致した様子、神力無双の三五教の宣伝使に対し到底吾々如き非力無徳の者にては敵対ひまつる事相叶はぬ次第なれば、浮木の森へ陣営をはり幕僚と協議の結果、全軍を率ゐて貴方の膝下に帰順するより外なしと衆議一決した以上は、もはや貴方等に対して敵対行為は毛頭とりませぬ。何卒吾陣営へおいで下さつて尊きお話を聞かして下されば、実に望外の幸福で厶ります』
と真しやかに述べ立つる。治国別は一々ランチの言葉を信ずるにはあらねども、此時こそは彼を正道に導く好機会なりと心に定め、何喰はぬ顔にて、
『然らば仰せに従ひ、貴軍の陣中へ参りませう』
 ランチ将軍は自分の乗り来し名馬に治国別を乗せ、自分は控へ馬に跨り、意気揚々と陣営さして帰り行く。
 門の前に立止まり、ランチ将軍は治国別を見返り、
『見る蔭もなき俄造りの陣営、遠来の客を遇するには不都合千万なれど、何卒ゆるゆる御休息を願ひ上げまする』
と慇懃に挨拶をする。治国別は、
『ハイ、有難う』
と僅かに答礼しながら奥へ奥へと進み入る。
 数多の軍卒共は退屈紛れに土俵を築き素人相撲をとつてゐる。竜公、タールの両人は其相撲に見惚れて治国別の奥深く進み入つたのを気がつかず、負投げ、腰投げ、突出し、河津等の四十八手の使ひ方を批評しながら、
『アハヽヽヽ』
と笑ひ、遂には手を拍つて囃し出した。此中で一番の力自慢のエキスは四股踏み鳴らし、土俵の真中に仁王立ちとなり、
『さア誰なつと来い、消しかかりだ』
といきりきつて居る。来る奴来る奴片つ端から投げつける、其手際のよさ。竜公はエキスの態度と弱武者の腑甲斐なさに憤慨し、何時の間にか両の手が腰へまはり、帯をスルスルと解いて了ひ、真裸となつて土俵の真中へ飛び出した。さうしてドンドンと四股を踏み鳴らしてゐる。エキスは之を見て癪に触つたと見え、
『おい、貴公は竜公ぢやないか。此間から何処へ逃げて居つたのだ。そんな弱虫の出る所ぢやない。俺達と相撲をとるなんぞと云ふ野心を起すものぢやないぞ。野見の宿弥の再来とも云ふべき此エキスさまに相手にならうと思ふのか。エー、措け措け、恥をかく様なものだから』
『ヘン、馬鹿にすない。俺でも若い時や幕の内まで入つたものだ。襦子の締込み、バレンツの相撲束ねの櫓鬢、大黒主の前でも大胡床をかき、立つて水のみ、手鼻汁をかむ、十と六俵の土俵に出たら、獅子奮迅、土つかずの竜公さまだ。いつも土俵の上で横になつた事はない、いつも立ちつづけだから竜公さまだ。又の名を勝公さまだ。さあ一つ揉んでやらう』
『エー、生命知らず奴、土の中へ植ゑてやらう。吠え面かわくな』
『そりや俺の云ふ事だ。末期の水でも飲んでしつかりせい』
と云ひ乍ら四本柱に括りつけた塩をポツポツと左右に打振り、水をも飲まずに四股を踏み出した。エキスも負けぬ気になり塩を一掴みグツと握つて竜公にぶちかけ、水をも飲まずドンドンと地響きさせながらペタペタと四つに組んで了つた。半時ばかり竜虎の争ひ、いつ勝負の果つべしとも見えない。タールは一生懸命になり、軍扇を握り土俵に行司気取りに飛び出し、
『はつけよい はつけよい のこつた のこつた、後がないぞ、はつけよいや』
と土俵の周囲を右左に廻つてゐる。大勢は固唾を呑んで此勝負如何にと見つめて居る。流石のエキスも力尽きハツと吐く息の気合を窺ひ、ポンと右の手をぬいて褌の三辻を竜公がたたくとコロコロコロと土俵の中を三つ四つ廻つて西の溜へドスンと雪崩が落ちた様に転げ込んで了つた。エキスは大に面目を失し、真裸の儘スタスタと陣中奥深く姿を隠した。ワーイワーイと称讃の声、拍手の音、四辺も揺ぐばかりであつた。
(大正一二・一・八 旧一一・一一・二二 北村隆光録)
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