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文献名1霊界物語 第48巻 舎身活躍 亥の巻
文献名2第1篇 変現乱痴よみ(新仮名遣い)へんげんらんち
文献名3第2章 武乱泥〔1256〕よみ(新仮名遣い)ぶらんでい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-05-11 23:13:46
あらすじ
浮木の館の陣営の幕僚室では、アークとタールが茶を飲みながら雑談にふけっている。二人はすっかり治国別に感化されて三五教的な視点から、ランチ将軍や蠑螈別を論評している。

そのうちに治国別の姿が見えないことに話が移り、二人はもしやランチ将軍が治国別に何か危難を加えたのではないかとあやぶんでいる。

そこへランチ将軍から、三五教の女宣伝使清照姫、初稚姫という美人がやってきたので接待するようにと呼び出しがあった。二人がランチ将軍の陣営に向かう途中、蠑螈別にであった。

二人は蠑螈別からもらったブランデーで酔っ払ってしまった。そして酔った勢いで蠑螈別とちょっとした喧嘩になり、そこへお民がやってきて蠑螈別を介抱しようとする。アークは蠑螈別を水門壺に落とそうとして自分も一緒に落ち込んでしまった。

四人は騒ぎでそれぞれ気を失い、番卒たちに介抱されることになった。正気になるまで丸一日寝込んだうえ、ようやくランチ将軍の前に顔を出した。
主な人物 舞台浮木の森のバラモン軍の陣営 口述日1923(大正12)年01月12日(旧11月26日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年10月25日 愛善世界社版21頁 八幡書店版第8輯 595頁 修補版 校定版22頁 普及版11頁 初版 ページ備考
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本文  浮木の館の陣営に於ける幕僚室には、例のアーク、タールの両人が火鉢を真中にして、茶を飲みながら、雑談に耽つてゐる。タールは切りに土瓶の茶を注ぎながら、
『オイ、アーク、最前から大分、天の沼矛を虐使したので、喉がかわき、口角の泡も非常に粘着性を帯びて来たぢやないか。マア茶なつと一杯やり給へ。茶は鬱を散じ、心気を養ひ、且又心魂をして安静せしむるものだからなア』
『茶には色がある。色は即ち能くうつらふものだ……花の色はうつりにけりな徒に、わが身世にふる眺めせしまに……とか未来のナイスが言つたさうだ。俺は茶は嫌ひだ、それよりも少しも色なき水晶の様な清水が好きだ。其透徹振は正に自足他に求むるなき君子の坦懐、道交を表するものだ。かく一杯の水にも、神の恵のこもらせ給ふ以上は、ポートワインの美酒も、遂に及び難き道味の淡然として、掬して尚尽くるなきものがある。仁者は山を楽み、智者は水を楽むとか云つてな、吾々には水晶の水が霊相応だよ。而して山をも水をも併せ楽む此アークさまは、所謂智者仁者の典型だ』
『智仁兼備の聖人君子の名を盗まうとする白昼の野盗、一言天下を掩有せむとする曲漢、そこ動くな………と一刀を引抜き、切つてすつべき所なれども、今日はランチ将軍の帷幕に参ずる顕要な地位に上つた祝として忘れて遣はす』
『アツハヽヽ唐変木だなア。茶の好きな人間の精神はヤツパリ滅茶苦茶だ。茶目小僧的人格者だ。そんなことでランチ将軍の帷幕に参ずるなどとは、サツパり茶目だ、否駄目だよ』
『吾々は殊更に山に入つて山を楽み、水に近付いて水を楽まなくても、人生の一切を客観して冷然として之に対することが出来るのだから、紅塵万丈の裡、恩愛重絆の境域尚其処に、山中の静寂と清水の道味を楽む事が出来るのだ』
『随分小理窟がうまくなつたねえ』
『きまつた事だ。治国別さまのお仕込みだもの、今までの狂乱痴呆兼備の勇者たる乱痴将軍の教とは、天地霄壌の差があるのだからなア』
『コリヤそんな大きな声で言ふと、耳へ這入るぞ、チツとたしなまないか』
『ナーニ何程大きな声でいつた所で、神格の内流を受けたる証覚者の聖言が耳へ通る気遣ひがあるかい。ランチ将軍の耳へ通ずる言葉は、虚偽と計略と悪欲と女色位なものだ。さういふ地獄的言葉は、何程小さい声で囁いてをつても直に聞えるものだ。要するに其内分が塞がり外分のみが開けて居るのだからなア。世間的罪悪に充ちたバラモン軍の統率者に、吾々の聖言が聞える道理はない、先づ安心し給へ。それよりも、あの蠑螈別を見よ、本当に馬鹿にしてゐよるぢやないか。如何に世間の交際は黄金多からざれば交り深からずと云つても、実に呆れたものぢやないか。今日の交際は水臭いと云ふよりも寧ろ銅臭いものだ。僅かに五千両の軍用金を献納しよつて、エキスの野郎に駕で送られ、腐つたやうな女を伴れて堂々とランチ将軍に面会を申込み、将軍も亦顔の相好を崩して、抱擁キツスはどうか知らぬが、固き握手を交換したぢやないか。俺やモウ本当に厭になつて了つた』
『本当にさうだねえ。黄金万能の世の中とは能く言つたものだ。併しながら治国別様は根つからお顔が見えぬぢやないか、何うしたのだろ』
『俺の観察する所に依れば、何とはなしに余り目出度い御境遇に居られる様に思はれないがなア』
『タール、お前もさう思ふか、俺は何だか気がかりになつて仕方がないワ。ヒヨツとしたら、あの、それ、秘密牢へでも計略を以て放り込んで了つたのぢやあるまいかな。今まで俺達が、伺つても、喧しい言葉はなかつた奥座敷を、吾々の幕僚にさへ見せない様にしてゐるのだから怪しいものだぞ。もし治国別様が危難にお遇ひなさる様な事があつたら、お前は何うする考へだ』
『一旦心の中に於て師匠と仰いだ以上は、死を以て之を守る考へだ。仮令治国別様の為に死んでも、敢て厭ふ所ではない。士は己れを知る者の為に死すといふからな』
『ランチ将軍だつて、片彦将軍だつて、ヤツパリ吾々の主人であり師ぢやないか。師といふ段になつては、少しも変りはない筈だ。そして諺にも忠臣二君に仕へずといふ以上は、何うしても前の主人たるランチ将軍に忠義を尽さねばなろまい……ぢやないか』
『そりや、どちらも主人だ。併しながらランチ将軍に今迄仕へて居つたのは、彼が有する暴力と権威に恐れたが為だ。つまり言へば表面上の主従であつて、精神上から言へば仇敵も同様だ。どうして馬鹿らしい、精神的仇敵の為に貴重な生命が捨てられようか』
『さうだな、俺も同感だ。併しタール、まさかの時になつたら、親の為に或は主の為に師匠の為に、死ぬこたア出来まい。俺だつてさうだ、併しながら子孫の為には死んでみせてやる、それも霊体脱離の時期が来たら……だ。アハヽヽヽ』
『オツホヽヽヽ、何を吐しやがるのだい。人を馬鹿にして居やがる。チツと真面目にならないか。エヽー』
『此様な化物の横行する世の中に、何うして真面目に着実にして居れようかい。真面目な正直な仁義に篤い人間は、現代に於ては却て悪人と見做されるからなア。天下の為、社会の為、人の為だと、うまい標語を語つて、何奴も此奴も自己の欲望を達せむことのみを望んでゐる世の中だ。俺達はさういふ贋物は嫌ひだ。清明無垢の小児の如き、赤裸々の言葉と行ひが好きなのだ』
 かかる所へ一人の従卒現はれ来り、
『モシモシ、只今ランチ将軍様の御命令で厶いますが、珍客が見えましたので、御接待に来て貰ひ度いとの事で厶います。どうぞ速にお居間へお越し下さいませ』
アーク『ヨシヨシ、只今参りますと言つてくれ。併し、珍客といふのは、どこからお出でになつたのだ』
『ハイ、私にはどこの方だか分りませぬが、随分綺麗な女神さまのやうな方が二人、ズンズンと奥へお通りになりました。大方其方の事で厶いませう』
『ウン、ヨシ、直様参ると申上げてくれ』
『ハイ』
と答へて従卒は此場を立去つた。後に二人は顔見合せ、
『オイ、タール、どう思ふか、此陣屋は何だか変梃になつて来たぢやないか。蠑螈別がお民をつれてやつて来るかと思へば、又二人の美人が来たとは、益々合点が行かぬぢやないか』
『ウン、さうだなア、大方化物だらうよ。これ程殺風景な陣営へ、そんな美人が二人も、大胆不敵にも侵入して来るとは、何うしても解せない。併しながら将軍の命令、反く訳にも行くまい、行つたら何うだ』
『無論行く積だが、併し大体の様子を考へた上でなくちや、取返しのならぬ失敗を演ずるかも知れないぞ』
『ナーニ刹那心だ、構ふものかい』
 斯く話す所へ、酒にズブ六に酔うて、ヒヨロリ ヒヨロリと千鳥をふみながらやつて来たのは蠑螈別であつた。蠑螈別は狐と兎と猫との目をつき交ぜた様な妙な目付をしながら、臭い息を吹きつつ、
『ヤア、お歴々、何ぞ面白い話が厶るかな。一つ私にも聞かして下さい』
アーク『コレハコレハ、蠑螈別の御大将、大変な上機嫌と見えますなア、お話も承はりたいなり、又しみじみと御懇談も申上げたいのだが、只今将軍よりお呼び出しになりましたので、生憎ゆつくり話の交換も出来ませぬ。失礼ながら御免を蒙りませう』
『ヤア、実の所はランチ将軍様の使で来たのだ。今三五教の清照姫、初稚姫といふ頗る付のシヤンが、突然降つて来たので、両将軍の恐悦斜ならず、従卒を以て、アーク、タールの幕僚をお呼よせになつた所、今来られちや、肝腎の性念場が台なしになるといふので……蠑螈別殿、彼奴等両人は中々口の達者な理窟つぽい奴だから、そなた行つて、うまく喰ひとめて来て下され……とのお頼みだ。それ故実の所は一時ばかり暇取らせ、其間に両将軍がシツポリと要領を得ようといふ段取だ。アハヽヽヽヽ』
『ヤア、そりや勿怪の幸ひだ。なア、タール、一つここで蠑螈別のローマンスでも聞かして貰はうかい』
『所望だ所望だ』
『ナニ、俺のローマンスを聞きたいといふのかアー。聞きたくば聞かしてやらう。併しながら余り口数が多いので、どの方面から糸口をたぐつたらいいか分らない。アーア、困つた註文を受けたものだ。エヘヽヽヽヽ』
アーク『モシモシ、涎がおちますよ』
蠑螈別『エヘヽヽヽヽ、イツヒツヒ』
タール『大分に嬉しかつたと見えますね。智者は対者の一言を聞いて、其生涯を知るとか云ひましてなア、このタールは蠑螈別さまの其顔面筋肉の動き方と、エヘヽヽイヒヽヽの言霊によつて、貴方の歓喜生活の生涯をほぼ悟る事を得ました』
アーク『ナヽ何を吐しよるのだ。よう囀る奴だな。貴様がそれ程分つてゐるなら、蠑螈別さまに代つて、ここで俺に聞かしたら何うだ』
タール『御本人の前で、御本人の講談は如何なる名人でも行りにくいからなア。講談師見て来た様な嘘をつき……と何程真実を語つても、頭から相場をきめられちや、折角の骨折が無駄になる。それよりも直接御本人から承はつた方が、愚昧な貴様の頭には、余程有難く感ずるだらう。』
蠑螈別『実の所は、ウーン、今伴れて来たお民といふ女、随分別嬪でせう。エヘヽ、貴方も御覧になりましたか』
アーク『一寸横顔を拝まして貰ひましたが、随分稀体の尤物らしいですなア。併しそんなお惚気話を聞かして貰ふのは、実ア、有難迷惑だ。一杯奢つて貰はなくちや約らないですからなア』
『真面目に聞いて貰へるなら、此ブランデーを進ぜる』
と云ひながら、懐からガラガラ言はせながら、峻烈な酒を盛つた二個の瓶を取出し、二人に一個づつ渡した。二人は話はそつちのけにして、グビリグビリと喉をならして呑み始めた。蠑螈別は一生懸命に惚気話を虚実交々相交へて喋り立てる。二人は馬耳東風と聞き流し、ブランデーに気を取られて、
『アーア、よう利く酒だ、エヽー、何と甘いぢやないか』
『あゝ甘い甘い、何と気分がいいなア』
と酒ばかりほめてゐる。蠑螈別は一生懸命にお民との情交関係を喋り立ててゐる。そして二人の声を耳に挟み、
『本当にお前の言ふ通り、ウマイものだらう。聞いても気分がいいだらう』
 アークは額を切りに叩きながら、
『あゝ酔うた酔うた、実に感謝の至りだ』
『本当に完全な恋のローマンスを聞いて、酔うただらう。頭を叩いて感心せなくちや居られまい、本当にこんな取つとき話を拝聴して、お前も嬉しかろ、感謝すると云つたねえ』
タール『エーエ、俺もモ一本欲しいものだなア、本当に気分のいいものだ。蠑螈別さま、モ一つ下さいな』
 蠑螈別はうつつになり、
『本当に気分のいい女だらう、一目見ても恍惚として酔うたらう。併し下さいと云つても、お民ばかりはやる事は出来ないよ。それ丈は御免だ。蠑螈別の命の親だからなア』
『本当に百薬の長だ、命の親だ、それだから欲しいといふのだ。なア、アーク、エーエン、本当に心持がよくなつたぢやないか。こりや何うしても此儘でしまふこたア出来ない、お民さまにでもついで貰つて、二次会でもやらうかなア』
『お民を何うするといふのだ。酒をつがさうと云つても、お民の手は、さう易々と貴様の酒ア、つがないぞ、エヽン、此蠑螈別様一人に限つて、お酒をつぐ為に製造してある雪の様なお手々だ。身の程知らぬもキリがあるぞよツ』
と呶鳴りながら、ブランデーの空瓶で、アークの前頭部をカツンとやつた。アーク、タールの両人はヒヨロヒヨロになつた儘、蠑螈別に向つて又もやブランデーの空瓶をふり上げ、打つてかかる。されど三人が三人共キツい酒に足を取られ、彼方へヒヨロヒヨロ此方へヒヨロヒヨロとヒヨロつきまはつた途端に、三つの頭が一所に機械的に集まり、烈しき衝突を来し、パチン、ピカピカピカと目から霊光を発射し、ウンとばかり其場に倒れて了つた。此時お民は、蠑螈別の所在を尋ねて、現はれ来り、此態を見て打驚き、
『アレ、マア蠑螈別さま』
と云ひながら、抱起さうとする。蠑螈別は眼眩み、アークをお民と間違へ、
『コレお民、すまなかつた、お前の何時もの言葉を軽んじ、内証でブランデーをやつたものだから、足腰が立たぬやうになつた。こんな所を将軍さまに見られちや大変だから、どつかへ隠してくれないか。チツト酔ひが醒めるまで……』
 お民は蠑螈別の顔の疵を見て、
『アツ』
と驚き、殆ど失心状態になつてゐたので、蠑螈別がアークをお民と間違へてる事に気がつかなかつた。タールは目まひが来て、お民の傍にリの字形になつて倒れてゐる。アークは蠑螈別が自分をお民と間違へてゐるなア……と早くも悟り、舌のまはらぬ口から女の作り声をして、
『コレ、蠑螈別さま、お前さまは、本当にヒドイ人だよ、いつもいつも私にこれ丈心配かけて、それ程私が憎いの、サアもうお暇を下さい、今日限りモウ私はアカの他人ですよ。エヽ憎らしい』
といつては耳を引掻き、横面をピシヤピシヤとなぐり、鼻をつまもうとすれど、アークも余り酔ひつぶれてゐるので、手が何うしても命令を聞かず、蠑螈別の鼻をこすつたり、頬べたを撫でたり、耳を引張つてゐる。蠑螈別は余りアークの手がキツクさはらないので、ますますお民の手と信じ、
『アヽお民、すまなかつた、どつかへ一つ酔の醒める迄かくしてくれ』
と叫ぶ。アークは又作り声で、
『サ、蠑螈別さま、次の間の押入の中へかくして上げませう。酔のさめる迄静かにお休みなさいませ』
『流石はお民だ、親切な女だなア。是だから蠑螈別が命迄投込むのも無理もない。お前になら仮令どんな所へ連込まれても満足だ。ゲーガラガラガラ ウツプー、あゝ苦しい苦しい』
 アークはニタニタしながら、蠑螈別を肩にかけ、水門壺の前まで行つて、
『蠑螈別さま、ここが押入だよ』
と言ふより早く、水門壺へ蠑螈別を突きおとさうとした。蠑螈別は一生懸命に腕を握つてはなさない。押した勢に二人はヒヨロヒヨロとヨロめいて、水門壺の中へドブンと一緒におち込んで了つた。此物音に驚いて、外面の見廻りをしてゐた二三の番卒は駆けより、二人を水門壺より救ひ上げ、火を焚きなどして二人の気をつけた。そして蠑螈別は依然としてお民と一緒に落込んだものと信じてゐた。アークもタールも、蠑螈別もお民も一度に正気を失つて了つたのだから、番卒共の介抱は少しも知らず、気がついたのは何れも同時であつた為に、知らぬ神に祟りなしで、アーク、蠑螈別の間に、此事に関しては少しの紛擾も起らなかつた。
 茲に四人はスツカリ酔がさめ、正気になる迄一日ばかり寝た上、其翌日になつて、昼狐を追出したやうな顔をして、ランチ将軍の前にヌツクリと顔を出した。
(大正一二・一・一二 旧一一・一一・二六 松村真澄録)
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