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文献名1霊界物語 第48巻 舎身活躍 亥の巻
文献名2第1篇 変現乱痴よみ(新仮名遣い)へんげんらんち
文献名3第3章 観音経〔1257〕よみ(新仮名遣い)かんおんぎょう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-05-17 10:32:38
あらすじ
ランチ将軍は上機嫌で、三五教の二人の女宣伝使に言い寄られてたいへんなことだった、一方でもてない片彦将軍はすっかり気落ちしてしまったのだ、とのろけている。

蠑螈別が呼び出しの意図を尋ねると、ランチ将軍は、お民を片彦に嫁がせてやってくれないかと言い出した。蠑螈別はこれを聞いて怒りだすが、逆にランチ将軍から酒ばかり飲む役立たずだと引導を渡されてしまう。

蠑螈別は自分の法力でランチ将軍の命を取ってやると言い放ち、次の間に行って大自在天の前に数珠をもみながら端座した。大自在天やウラナイ教の神々を念じ、観音経を唱え始めた。しかしまったく効力を表さないので、観音に向かってブツブツと不平を呟くのみであった。
主な人物 舞台浮木の森のバラモン軍の陣営 口述日1923(大正12)年01月12日(旧11月26日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年10月25日 愛善世界社版37頁 八幡書店版第8輯 601頁 修補版 校定版38頁 普及版19頁 初版 ページ備考
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本文  神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 三五教の宣伝使  治国別の一行は
 怪しの森を通過して  浮木の森に屯せる
 ランチ、片彦将軍の  陣営を守る番卒に
 其入口に出会し  種々様々の問答を
 なせる折しも敵軍の  企みの穽におとされて
 命危く見えけるが  神の守りし神司
 危き穽に落ちながら  卯の毛の露の怪我もなく
 治国別と竜公は  早速の頓智番卒の
 アーク、タールを説き伏せて  危難を逃れ這ひ上り
 尊き神の御教を  いとも細かに説きつれば
 もとより神の御魂をば  うけたる二人の番卒は
 忽ち心機一転し  悔悟の花も咲き満ちて
 心の底より帰順しつ  治国別を伴ひて
 ランチの陣営をさして行く  ランチ、片彦将軍は
 治国別の一行が  思はぬここに来りしを
 眺めて笑壺に入りながら  表面を飾る柔言葉
 和睦の酒と云ひながら  二人を酔はせ奥の間の
 秘密の場所へ誘ひて  燕返しの計略に
 千尋の深き暗窟へ  落し込みしぞ忌々しけれ
 治国別や竜公は  忽ち正気を失ひて
 其霊魂は宙に飛び  精霊界に踏み迷ひ
 一人の守衛に教へられ  狭き谷道攀ぢのぼり
 漸う此処に八衢の  関所の前にと着きにけり
 善と悪との精霊が  集まり来り八衢の
 審判を受くる有様を  心をひそめて眺めつつ
 現幽二界の真諦を  おぼろげながら感得し
 伊吹戸主の御館に  暫く息を休めつつ
 外面の景色を眺め居る  時しもあれや中天を
 照らして来る大火団  二人が前に顛落し
 火花を四方に散乱し  暫く雲に包まれて
 四辺も見えずなりにけり  二人は益々怪しみて
 きつと目をすゑ眺め入る  忽ち一柱の神人が
 容貌衣服を輝かし  治国別に打向ひ
 我は言依別の神  不思議な処で会ひました
 皇大神の御言もて  今は媒介天人と
 重き使命を任けられぬ  いざ之よりは天国を
 巡覧召され吾は今  汝が命を案内せむ
 又竜公は証覚の  まだ開けざる身なれども
 特にお供を許すべし  之を被れと云ひながら
 懐中探り被面布を  とり出し竜公にかけ給ふ
 此処に二人は勇み立ち  最下天国の其一部
 巡覧し終へ中間の  天国さして昇り行く
 木花姫の現はれて  種々雑多と両人が
 心を戒め給ひつつ  珍彦館に導きて
 尊き神の経綸の  其大略を示すべく
 此処に言霊別の神  治国別の徒弟なる
 五三公さまと現はれて  又もや尊き教訓を
 授け給ひし尊さよ  之より二人は五三公の
 案内につれて天国の  各団体を巡歴し
 最高一の天国や  霊国までも巡拝し
 月の御神や日の御神  其他百のエンゼルに
 清き教を伝へられ  智慧証覚を拝受して
 再びもとの肉体に  かへり来りてバラモンの
 醜の司を悉く  言向和す物語
 語るにつけて面白く  益々深く真に入り
 其妙奥に達すべく  守らせ給へ惟神
 神の御前に願ぎ奉る。
 蠑螈別、お民、アーク、タールの四人は一日の間酔をさまし、何喰はぬ顔してランチ将軍の前にヌツと顔を突き出した。ランチ将軍は常にないニコニコとした笑顔を見せ、
『ヤア四人の御歴々、御壮健で御目出度う。何か御用で厶るかな』
と脱線振を発揮してゐる。察するにランチは珍客に余程同情ある待遇をされ、精神の一部に狂ひを生じて居たと見える。蠑螈別は亦平素から少しく精神上に欠陥のある男だが、今ランチ将軍の顔を見てニコニコ笑ひながら、
『モシ将軍殿、昨夜は嘸御疲れでしただらう。お察し申します。何と云つても世の中は異性が居らなくては威勢の悪いものですよ。空を飛ぶ小雀だつて、蝶々だつて、蜻蛉だつて、蝉だつて、土窠蜂だつて、矢張り男女同棲して天与の真楽を楽しんで居るのですからな。昔の世間に暗い軍人は、陣中に女は一切無用だなどと云つて我慢をしたものですが、最早今日となつては軍人も一種の商売ですから、女がなくちややりきれませぬわい。ウツフヽヽヽ、モシ将軍さま、大変な爽快な面持で厶りますな』
『ハイ、何と云つても双方から速射砲的に襲撃を受けたものですから、耳はひツかかれる、頬は抓られる、腕は左右からぬける程引つ張られるものだから、イヤもうきつい迷惑を致しました。エツヘヽヽヽ、其為め全身の細胞や繊維が稍倦怠気分となり、各部に同盟罷工をやつたと見えて、思ふ様に足が動かなくなりました』
『足ばかりぢやありますまい。腰部は如何です、腰部は天国に於ける夫婦の愛と相応する最要部で厶りますからな』
『成程、夜前はあまり乱痴気将軍をやつたものだから、少々ばかり今日は二日酔ひの気味で厶る。それに就いても可憐さうなのは片彦将軍だ』
『あの二人の美人は一人づつ貴方等のお相手になさつたのぢやありませぬか』
『イヤ、それがさうぢやて、……困つた事には二人ながらランチ ランチと云ひやがつて……エヘヽヽヽヽ此一人の男を双方から襲撃し、気の毒千万にも片彦将軍には目もくれないのだ。そこで此ランチが聊か同情の念を以て片彦に靡かせむと、種々雑多と心を揉んだでもないし、揉まぬでもなかつたが、矢張恋愛と云ふものは合縁奇縁で仕方のないものだ。凡て恋愛は一方に偏重する性質のものだから、大変に都合の悪い事もあるが、然しそこが男子に取つて非常に妙味のある所だ。イツヒヽヽヽ』
『さうして片彦さまは如何なつたのですか』
『ウン、片彦は歯ぎしりを噛んで怒り出し、歯をガタガタ云はせ、ガタガタ慄ひをして到頭ガタ彦となつて了つた。何うも斯うガタピシヤになつては陣中の平和が保たれないので、聊か困つてるのですよ。斯うなつて来ると、此ランチを女にチヤホヤされる男らしい男に生んでくれた親が怨めしい様に、根つから厶らぬわい、エツヘヽヽヽ。そこで一つ蠑螈別殿に相談がある。聞いては下されますまいかな』
『其御相談とは何事で厶いますか』
『外でもござらぬ、其方の最愛のお民さまを暫く此ランチに自由にさして頂きたいのだ』
 お民は、
『アレ、まアー』
と袖に顔を隠す。
『コリヤお民、何だ其スタイルは……細い目をしやがつて………「アレ、マア」等とランチ将軍に秋波を送つてゐるのか』
と呶鳴りつけた。お民は泣声になり、
『コレ、モシ蠑螈別さま、お情ない事を云つて下さいますな。貴方はまだ私の心が分らないのですか』
『ウン、分らぬでもない、が然しあまり妙な素振をすると、俺も聊か気にならない事はないからなあ』
『実は蠑螈別さま、其お民さまを貸して頂きたいと云ふのは、片彦将軍に綺麗サツパリとやつて貰ひたいのだ。それでなければ軍規の統一が保たれないので、此ランチが折入つてお願ひ申すのだ』
『これは怪しからぬ。何事かと思へば吾々の女房を片彦将軍に与へよなどとは以ての外のお言葉で厶る。さう蕪か大根の様にチヤクチヤクと人に与る事が出来ますか。拙者は命がけの芸当をやつて、漸くお民を此処まで連れ出した所、左様なお言葉を聞くとは意外千万だ。斯様な処に長居は恐れだ。オイ、お民、一時も早うここを帰らう』
『ハイ、有難う厶んす。それなら何卒こんな恐ろしい処は嫌になりましたから、貴方の好きな処へ連れて行つて下さい。然し蠑螈別さま、ここを立ち去るとなれば忽ち困るのはお金でせう。貴方がエキスさまの手を通してランチさまにお渡しなさつた五千両の金をスツカリ返して貰つて下さい。それを路銀にして二人が睦じう暮らさうぢやありませぬか』
『ウン、然し男が一旦出したものを返してくれなんて、そんな卑怯未練な事が云はれようか』
『エーエ、お前さまはそれだからいつも駄目だと云ふのよ。此先ここを立ち出て乞食でもする積りで御座んすかい』
『成行なら仕方がないぢやないか。あの金だつて俺が働いて造つた金ぢやなし、お寅婆が信者をチヨロまかして貯めた金を何々して来たのだから、そんな執着心は持つものぢやない。サア行かう』
とお民の手をとり引き立てようとする。お民は首を左右にふり、金切り声を出して、
『イエイエ此陣営に置いて貰ふのならばお金は必要はありませぬが、忽ち今日から乞食をせねばなりませぬ。なんぼ私だつて、貴方と一緒に乞食する位なら片彦将軍のお妾にでもなりますわ。ほんに気の利かぬ人だな。エー口惜しい、オーン オーン オーン』
『あゝ、それなら仕方がない。ランチさま、何卒私をここに置いて下さい。其代りにお民を片彦将軍に渡す事だけはお断りを申します』
『実の所はウラナイ教の教主蠑螈別さまは、千変万化の妖術を使ひ、神素盞嗚尊でさへも、ウラナイ教に一指をも染得ざるは蠑螈別の教主あるためだと聞いて居つた所、此間より様子を考へて居れば、見かけ倒しの芸なし猿、女に目を細うして朝から晩まで酒を喰ふばかりが芸当で、何一つ取柄が厶らぬ。もはや此陣中に於てはお前さまの如き偽豪傑はチツトも必要は厶らぬ。然しながら其方の連れ添うて厶るお民は比較的気の利いた女、加ふるに十人並優れた美人と云ひ、片彦将軍の女房には最も適当と認めるによつて、お民をここに残し、とつとと帰つて下され』
『これは怪しからぬ。一旦貴方の幕僚と任命をされた以上は、其様な理由によつて立去る事は出来ませぬ。万一たつて立去れと仰有るならば、之から拙者の法力を以て此陣営をメチヤメチヤに破壊し、其方の生命を刃を用ゐずして奪つて見ませう』
『アハヽヽヽヽ、何とえらい勢で厶るな。見ると聞くとは大違ひ、今迄ならば其嚇しは利くだらうが、もはや今日となつては内兜を見透した此方、そんな嚇し文句は、いつかな いつかな喰ひませぬぞや。何なつと業力を出してランチ将軍の息の根をとめて御覧、それが出来れば拙者の役目をお譲り申す約束を今からしてもよろしい。マサカ其神力は厶るまい。現在お民に秋風を吹かされて居る様な今の体裁、これお民殿、今其方は蠑螈別と乞食する位なら片彦将軍のお妾になると云つたな。ウツフヽヽ出来した出来した天晴天晴、女丈夫の亀鑑、貞女の鑑、名を末代に伝ふであらう』
と脱線だらけの業託を吐いてゐる。
 蠑螈別は躍気となり、
『然らば此方の法力によつて此陣中をたたき破り、先づ第一に気の毒ながらランチ将軍の息の根をとめてくれむ。後で後悔召さるな』
と云ひ放ち、次の間へ行つて大自在天の前に数珠をもみながらキチンと端坐し、先づバラモン大自在天を念じ、次に惟神霊幸倍坐世を奏上し、大広木正宗殿、義理天上日の出神と称へ終り、ソロソロ得意の観音経を誦じ初めた。
『真観清浄観  広大智慧観
 悲観及慈観  常願常瞻仰
 無垢清浄光  慧日破諸闇
 能伏災風火  普明照世間
 悲体戒雷震  慈意妙大雲
 樹甘露法雨  滅除煩悩炎
 諍証経官処  怖畏軍陣中
 念彼観音力  衆怨悉退散
 妙音観世音  梵音海潮音
 勝彼世間音  是故須常念
 念々勿生疑  観世音浄聖
 於苦悩死厄  能為作依怙』
 かく一生懸命に汗をタラタラ流しながら観音を念じてゐる。されど観音の感応はありさうもなく、仏が法とも尻喰へ観音とも仏が云はぬので、蠑螈別は業を煮やし、
『エー、仏と云ふ奴は、立派な能書きばかり並べよつて、マサカの時はチツとも間に合はぬものぢやな。もう之から貴様の様な奴は拝んでやらぬわい。之からはこつちから尻喰へ観音ぢや』
とブツブツ呟いて居る其可笑しさ。猫が折角くはへた松魚節を犬にふんだくられた時の様な不足さうな面をして洟をすすつてゐる。
(大正一二・一・一二 旧一一・一一・二六 北村隆光録)
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