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文献名1霊界物語 第48巻 舎身活躍 亥の巻
文献名2第2篇 幽冥摸索よみ(新仮名遣い)ゆうめいもさく
文献名3第7章 六道の辻〔1261〕よみ(新仮名遣い)ろくどうのつじ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-05-22 09:59:47
あらすじ
精霊界は善霊・悪霊が集合する天界と地獄の中間的境域である。人の死後、八衢の中心にある関所に来るためにはいろいろの道をたどることになる。

東から来る者は良い方の精霊たちである。西から来るものはやや魂が曇っており、剣の山を渡ってくる。北から来るものは氷の橋を渡ってくる。南から来るものは燃えている山を通ってくる。

東北東からは身を没するばかりの雪の中を、東南からは枯れ野原を、西南からはけわしい岩山を、西北からはとがった小石の道を足を痛めながらやってくる。こうして苦しみながら八衢へ来るのは、いずれも地獄へ行く副守護神の精霊ばかりである。

善霊はいずれの方面から来ても、生前に尽くした愛善と信真の徳によって、精霊界をやすやすと歩いていくことができる。

八衢の関所は、正守護神も副守護神もすべてのものの会合するところであって、ここで善悪真偽を調べられ、あるいは修練をさせられ、ある一定の期間を経て地獄に落ちたり天国へ昇ったりするのである。

片彦は針の山を通って八衢の関所やってきた。関所の守衛は片彦を呼び止め、身柄を拘束した。片彦は金剛力を出して綱を引きちぎり、館の戸を無理に押しあけて走ってきて門の敷居に躓いて倒れてしまった。

ランチ将軍、副官のガリヤ、ケースが東の方からやってきた。三人は殺したと思った片彦が倒れているのを見つけて揺り起こした。片彦はランチ将軍と二人の副官を認めると、怒って挑みかかった。

ランチ将軍は、いさかいの元になった美人たちは妖怪であり、自分たちも高殿から川に落ち込んでここへやってきたのだ、と経緯を説明した。そしてこうなった上はまた旧交をあたためようと仲直りを申し出た。

そこへお民がやってきて合流した。お民はここは死後の八衢の関所だと伝えるが、ランチたちは信じない。そこへ十人ばかりの守衛たちが得物を手にしていかめしく五人の周りを取り囲んだ。

ランチはまだ自分が生きている気になって守衛たちを威嚇するが、逆に守衛に一喝され、ようやくもろ手を組んでいぶかり始めた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月12日(旧11月26日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年10月25日 愛善世界社版89頁 八幡書店版第8輯 620頁 修補版 校定版93頁 普及版45頁 初版 ページ備考
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本文  精霊界は善霊悪霊の集合する天界地獄の中間的境域にして、之を天の八衢といふ事は既に述べた所である。さて八衢は仏教者の云ふ六道の辻の様なものである。又人の死後此八衢の中心なる関所に来るには、いろいろの道を辿るものである。東西南北乾坤巽艮と、各精霊は八方より此関所を中間として集まり来るものである。東から来る者は大抵は精霊の中でも良い方の部分であり、さうして三途の川が流れてゐる。どうしても此関所を通らなければならないのである。又西から来る者は稍魂の曇つたものが出て来る所であつて、針を立てたやうな、所謂剣の山を渉つて来る者である。ここを渉るのは僅に足を容るるだけの細い道がまばらに足型丈残つて居つて、一寸油断をすればすぐに足を破り、躓いてこけでもしようものなら、体一面に、針に刺されて苦しむのである。又北から来る者は冷たい氷の橋を渡つて来る。少しく油断をすれば幾千丈とも知れぬ深い泥水の流れへ落ち込み、そして其橋の下には何とも云へぬ厭らしい怪物が、鰐の様な口をあけて、落ちくる人を呑まむと待つてゐる。そして其上骨を刻む如き寒い風が吹きまくり、手足が凍えて、殆ど生死の程も分らぬやうな苦しい思ひに充されるのである。又南の方から来る精霊は、山一面に火の燃えてゐる中を、焔と煙をくぐつて来なくてはならない。之も少しく油断をすれば煙にまかれ、衣類を焼かれ、大火傷をなして苦しまなくてはならぬ。併しながら十分に注意をすれば、火傷の難を免れて八衢の中心地へ来る事を得るのである。又東北方より来る者は寒氷道と云つて、雪は身を没するばかり寒い冷たい所を、野分に吹かれながら、こけつまろびつ、死物狂ひになつて数十里の長い道を渉り、漸くにして八衢の中心地へつくのである。又東南より来る精霊は、満目蕭然たる枯野ケ原を只一人トボトボとやつて来る。そして泥田やシクシク原や怪しき虫の居る中を、辛うじて中心地へ向ふのである。又西南より来る精霊は、崎嶇たる山坂や岩の上をあちらへ飛び此方へ飛び、種々の怪物に時々襲はれながら、手足を傷つけ、飛んだり転げたりしながらに、漸く八衢の中心地に出て来るものである。又西北より来る精霊は、赤跣足になり、尖つた小石の路を足を痛めながら、漸くにして命カラガラ八衢へ来るものである。併しながら斯の如き苦しみを経て各方面より之に集まり来る精霊は、何れも地獄へ行くべき暗黒なる副守護神の精霊ばかりである。而して各方面が違ひ苦痛の度が違ふのは、其精霊の悪と虚偽との度合の如何に依るものである。又善霊即ち正守護神の精霊は、何れの方面より来るも、余り苦しからず、恰も春秋の野を心地よげに旅行する様なものである。これは生前に尽した愛善の徳と信真の徳によつて、精霊界を易々と跋渉する事を得るのである。善の精霊が八衢へ指して行く時は、殆ど風景よき現世界の原野を行く如く、或は美はしき川を渡り、海辺を伝ひ、若くは美はしき花咲く山を越え、或は大河を舟にて易々と渡り、又は風景よき谷道を登りなどして漸く八衢に着くものである。正守護神の通過する此八衢街道は、殆ど最下層天国の状態に相似してゐるのである。而して八衢の関所は正守護神も副守護神も、凡てのものの会合する所であつて、此処にて善悪真偽を査べられ、且修練をさせられ、いよいよ悪の改善をする見込のなきものは、或一定の期間を経て地獄界に落ち、善霊は其徳の度に応じて、各段の天国へそれぞれ昇り得るものである。
 針の山を越えて漸く此処に息も絶え絶えにやつて来たのは、バラモン教の先鋒隊片彦将軍であつた。片彦は赤門の前に意気揚々と、ヤレ楽だといふやうな気になつてやつて来ると、赤白の守衛は、
『暫く待てツ』
と呼びとめた。片彦は物見櫓の上から谷底へ真逆様に投げ込まれ、肉体の死んだことは少しも気がつかず、依然として現界に居るものの如く信じてゐた。それ故守衛の一喝に会ひ、少しも騒がず、
『拙者は大自在天大国彦神の教を奉じ、且つ数多の軍勢を率ゐて斎苑の館へ進軍の途中、浮木ケ原へ陣営をかまへて、戦備をととのへゐる、宣伝使兼征討将軍片彦で厶る。某は酩酊の余り、道にふみ迷ひ、実に烈しき針の如き草木の茂れる霜の山を通り、漸く此処までやつて来たもので厶る。此処は何といふ所で厶るか、少時休息を致すによつて、腹も余程減つたなり、体も疲れたから、酒でもふれまつてくれまいか、あつい茶があれば、一杯戴きたいものだ』
 赤の守衛は目をギロリと剥き、
『当関所は霊界の八衢にて、伊吹戸主神の御関所だ。其方は浮木の森の陣営に於て、ランチ将軍の副官に後手に縛られ、谷川へほり込まれ、絶命致して此処へ迷うて来た精霊だ。精霊の中でも最も憎むべき、汝は悪霊だ。サア此処に於て、其方の罪の軽重を査べてやらう』
『ヘヽー、何を吐しよるのだ。馬鹿にするな。俺は酒にこそチツとばかり酔うたが、死んだ覚はない。一体ここは何処だ。本当の事を申さぬと、此儘にはすまさないぞ。大方其方は往来の路人をかすめる泥棒だらう』
『馬鹿だなア、確り致さぬか、そこらの光景を見よ。これでも気がつかないか』
『別にどこも変つた所がないぢやないか、世間並に樹木もあれば、道路もある。小さい池もあれば川も流れてゐる。人間も道々沢山に出会つて来た。左様な事を申して、吾々を脅迫しようと致しても、いつかな いつかな誑されるやうな片彦将軍ではないぞ。左様な不都合な事を申すと、ふん縛つて陣営につれ帰り、火炙りの刑に処してやらうか、エエーン』
 赤は片彦の手をグツと後へ廻し、鉄の紐にてクルクルとまきつけ、伊吹戸主の審判廷へ引き立てた。
『ヤア此処は何だか妙な処だ。俺をかやうな所へ、縛つてつれて来るとは何事だ』
『先づ待つてゐろ、これから地獄行の言渡しがあるから……』
と云ひすて、青色の守衛に片彦を任せおき、慌しく表へ駆け出した。少時あつて、青赤の衣類をつけたる、いかめしき守衛や獄卒の如き者ドカドカと入り来り、片彦の身辺を取巻き、どこへもやらじと厳重に警戒してゐる。片彦は金剛力を出して、鉄の綱を引きちぎり、片方の腰掛をグツと手に取るより早く、前後左右にふりまはし、館の戸を無理に押開け、八衢の赤門前へ驀地に走り来り、門の敷居に躓きパタリと倒れ、暫しは人事不省に陥つて了つた。
 暫くするとランチ将軍及びガリヤ、ケースの三人は、東の方からスタスタと足早に走り来り、
ランチ『オイ両人、此処はどこだ、そこに門番が居る。一寸尋ねて来い』
ガリヤ『ハイ、承知しました。何だか、四辺の情況が怪しう厶います。どうぞ、貴方はケースと共に少時ここにお待ちを願ひます』
と云ひ棄て、門口近く進み寄つた。見れば一人の男が倒れてゐる。何人ならむと近寄つて顔をのぞき見れば、豈計らむや片彦将軍であつた。ガリヤは驚いて、ツカツカと元来し道へ引返し、
『モシ、将軍様、不思議な事があるものです。物見台から谷底へ投込んで殺してやつた片彦将軍が、あの門の中べらに倒れて居ります。片彦将軍はいつの間にこんな所へ逃げて来たのでせうか』
『成程、ここから見ても、よく似てゐる様だ。ハヽー、誰かに助けられ、此処まで逃げて来よつたのだなア。大方酒にでも酔うてゐるのだらう。何はともあれ、近づいて査べてみよう』
といひながらランチは進みよつた。そしてよくよく見れば、疑もなき片彦将軍である。ランチは肩を切りにゆすり、
『オイオイ片彦、貴様は命冥加のある奴だ。早く起きぬかい、かやうな所でイビキをかいて寝て居るといふ事があるか』
 片彦は此声にハツと気がつき、ムクムクと起き上り、
『ヤア、其方はランチ将軍、ガリヤ、ケースの三人だなア。ヤア良い所で会うた。此方を高殿から突落しよつたのを覚えて居るか。斯くなる上は最早了簡相成らぬ。サア尋常に勝負致せ』
『アハヽヽヽヽ、蟷螂の斧をふるつて竜車に向ふとは其方の事だ。こちらは武勇絶倫の勇士三人、如何に汝鬼神をひしぐ勇ありとも、到底汝一人の力に及ばむや、左様な無謀な戦ひを挑むよりも、体よく吾軍門に降つたら何うだ』
『馬鹿を申せ、此方を谷底へ投込んだのみならず、最愛の清照姫、初稚姫まで横奪した恋の仇、モウ斯うなる上は片彦が死物狂、命をすてた此方、サア、かかるならかかつてみよ』
『ヤ、片彦、あの美人は妖怪で厶つたぞや。拙者もあの美人が虎とも狐とも狼とも譬方ない形相をして、拙者を睨みつけた時は、本当に肝をつぶし、ヨロヨロとヨロめいた途端に、高殿の欄干に三人一時にぶつ倒れ、其はづみに高欄はメキメキとこはれ、泡立つ淵に向つて三人は急転落下の厄に遇ひ、已に溺死せんとする所、命冥加があつたと見え、吾々三人は岸に泳ぎつき、無我無夢になつて此処まで走り来て見れば、門の傍に一人の行倒れ、救ひやらむと、ガリヤを遣はし調べて見れば片彦将軍と聞き、取るものも取敢ず救助に向つたのだ。最早彼の女が妖怪であり、又拙者が貴殿と同様、高殿より水中におち、双方無事に命を保ち得たのは、全く大自在天様の御守護の致す所だ。モウ斯うなる上は、今迄の恨をスツパリと水に流し、旧交を温めようぢやないか』
『さうだ、拙者も斯うして命の繋げた限りは、貴殿と別に赤目つり合うて争ふにも及ぶまい。何分宜しく御頼み申す。併しランチ殿、此処は不思議な所で厶る。この門内に高大なる館があり、数多の番卒共が立籠り、拙者を軍法会議に附せむと致しよつた。そこで拙者は後手に縛られた鉄の綱を剛力に任せて切断し、門の戸を押破り逃来る途中、門の閾に躓き顛倒して、暫く目をまはしてゐたのでござる。そこを貴殿がお助け下さつたのだから、命の御恩人、最早怨みは少しも御座らぬ、サ是より浮木の森の方角を尋ね、一時も早く陣営へ帰らうでは厶らぬか、さぞ軍卒共が心配を致して居りませう』
 斯かる所へ、ヒヨロリ ヒヨロリとやつて来たのはお民であつた。
片彦『ヤア其方はお民どのぢや厶らぬか、ようマア拙者の後を尋ねて来て下さつた。ヤア感謝致す』
『ハイ、ここは何処で厶いますか』
『サア地名がサツパリ分らないのだ。最前も赤い面した奴が一人やつて来よつて、八衢だとか関所だとか威かしよつたが、俺の勢に辟易して、何処ともなく消え失せて了ひよつた。アツハヽヽヽヽ、併しお民、俺を慕ふ心が何処までも離れぬと見えて、こんな名も知れない所まで、よくついて来てくれた。イヤ本当に優しい女だ』
『あの片彦様の自惚様わいのう。私には蠑螈別さまといふ立派な夫が厶いますよ。あなたは人の上に立つ将軍の身でゐながら、主ある女に恋慕するとは余りぢやありませぬか、チツと心得なされませ』
『言はしておけば、女の分際として、聞くに堪へざる雑言無礼、いよいよ軍法会議にまはし、其方を重き刑罰に処してやるから、覚悟を致したがよからう』
『ホヽヽヽヽ、あなたも余程常識のない方ですね。軍人でもないもの、而も軍隊に何一つ関係のない此女一人をつかまへて、軍法会議にまはすなんて、余り常識がなさ過ぎるぢやありませぬか、ねえランチ将軍様、まるで片彦将軍は八衢人足みたやうな方ですねえ。ホツホヽヽヽ』
『サア、どうかなア』
『コリヤお民、何といふ無礼な事を申すか、八衢人足とは何だ。畏くも大自在天様の御恩寵を受けた、万民を天国に救ひ、且つ世界の動乱をしづめる宣伝将軍様だぞ。八衢にさまよふ奴は、其方や蠑螈別の如き人足だ』
『ホツホヽヽヽヽ、私が八衢人足なら、あなた方皆さうですワ。現に八衢の関所へ迷つて来てゐるぢや厶いませぬか。あれ御覧なさい、あすこに館が厶いませう。あこが閻魔さまのお館で厶いますよ。何れここで、私もあなた方も取調べられるにきまつてゐます。其時になれば私が天国へ行くか、あなた方が地獄へお落ち遊ばすか、ハツキリと分りませうから、マア楽んでお待ちなさいませ』
『コリヤお民、其方は狂気致したか、死んでるのぢやないぞ。今から亡者気取りになつて何とする。コレコレ ランチ殿、お民に気つけを呑ましたいと思ひますが、生憎途中にて肝腎の薬を遺失致しました。少しばかり貴方の分を与へてやつて下さい』
『拙者も川へ落込んだ刹那、肝腎の霊薬を川へ落したと見えます、仕方がありませぬワ』
『ホヽヽヽヽ、私の方から気付を上げたい位だが、私も生憎持合せがないので、仕方がありませぬ。併しながら今赤鬼さまがお調べ下さるでせうから、其時になつてビツクリなさいますなや、本当にお気の毒さまですワ。あなたの霊衣は浮木の森の陣営に厶つた時とは大変に薄くなつてゐますよ。気の毒な運命が、あなた方の頭上にふりかかつて来てるやうに思へてなりませぬワ』
『気の違つた女といふものは、どうも仕方がないものだなア』
 斯く話す所へ、今度は十人ばかりの赤面の守衛が突棒、刺股などを携へ、いかめしき装束をして、バラバラと五人の周囲を取巻いた。
『拙者はバラモンの先鋒軍、ランチ将軍で厶る。其方は何者なるや知らねども、其いかめしき形相は何事ぞ。それがしを護衛の為か、但は召捕る考へか、直様返答を致せ』
守衛の一『ここは霊界の八衢だ、其方等は已に肉体を離れ、ここに生前の業の酬いによつて、今や審判を受けねばならぬ身の上となつてゐるのだ。サア神妙に冥土の御規則に従ひ、此衡の上に一人々々乗つたがよからう、罪の軽重大小によつて、其方の行くべき所を定めねばならぬ。サ、キリキリと此衡にかかれ』
 ランチは双手を組み、
『ハーテナア』
(大正一二・一・一二 旧一一・一一・二六 松村真澄録)
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