治国別と玉依別(竜公)は、八衢を逍遥しながら四つ辻の辻堂の前に差し掛かった。二人はあたりの様子から、娑婆が近くなってきたことを知り、伊吹戸主神様の忠告を思い返しながら雑談にふけっている。
そこへ蠑螈別とエキスの精霊が酔っ払ってやってきた。いずれも肉体に帰ることができる精霊であるので、互いに意思疎通ができた。蠑螈別は、お民がここを通らなかったかと治国別と竜公に尋ねた。
蠑螈別は竜公が知らないと答えると、お民を隠しているに違いないと言いがかりをつけてきた。エキスはもうお民やお寅にかかわるのはこりごりだと辟易している。
蠑螈別が治国別を殴ったので、蠑螈別と竜公は喧嘩になり、蠑螈別の助太刀にはいったエキスも合せて三人とも金玉を握り合って目を回し、その場に倒れてしまった。治国別はあわてて天の数歌を上げ、鎮魂を施した。竜公は息を吹き返し、蠑螈別とエキスは起き上がると、雲を霞と逃げてしまった。
二人の耳には、アークとタールが呼ばわる声が聞こえてきた。にわかにぱっと明るくなったと思うと、治国別と竜公の身は、浮木の森の陣営のランチ将軍の居間に横たわっていた。枕元にはアークとタールが心配そうな顔をして控えていた。
アークとタールは、二人がランチと片彦の計略にかかったことに気が付き、ランチが留守の間に縄梯子を下ろして二人を引き上げ、介抱していた。四人は互いに無事を祝し、大神の前に端座して祝詞を奏上した。
治国別は蠑螈別の身の上が気にかかって探しに行き、雪が人間の形に積もって高くなっているところを発見した。治国別と竜公は、雪の中から倒れていた蠑螈別とエキスを助け出した。
治国別はさらに、ランチ、片彦両将軍をはじめお民の身の上が気にかかると、物見やぐらに向かった。蠑螈別もお民の身の上が心配だと聞いて、治国別たちと一緒に向かった。