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文献名1霊界物語 第48巻 舎身活躍 亥の巻
文献名2第4篇 福音輝陣よみ(新仮名遣い)ふくいんきじん
文献名3第19章 兵舎の囁〔1273〕よみ(新仮名遣い)へいしゃのささやき
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-06-04 13:42:58
あらすじ
コー、ワク、エムの三人の守衛たちは一室に集まって、ランチ将軍たちの蘇生の祝い酒に舌鼓をうちながら雑談にふけっている。

ランチ将軍と片彦将軍が幽冥旅行の末、三五教に改心して軍隊を解散するという噂について、コーは憤慨し自分がバラモン軍を指揮して三五教を攻撃すると息巻くが、エムがなだめている。そこへ上官のテルンスがやってきて、三人の噂は本当かと問いただした。三人は、余計な疑いを抱かれてはと心配し、あいまいな返事をした。

テルンスは、必ず真実を白状させると言い残して去って行った。エムとワクは、コーが余計なことをいうからだと責め立てた。コーは二人に自分が言ったことを言いつけられてはたいへんと剣を取って二人に切りつけた。

コーは雪の中、石につまずいて転んだところをエムとワクは必死に逃げ、テルンスの官舎に逃げ込んだ。そして、コーがランチ・片彦が三五教に転身した後は自分がバラモン軍を指揮してあくまで斎苑館に攻めこむと息巻いていることを注進した。

それを聞くとテルンスはコーを褒め、武士は人殺しと戦利品収納が商売だと説き始めた。それを聞いてエムとワクは疑問を呈した。テルンスはやにわに刀を抜くと二人を切り殺した。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月14日(旧11月28日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年10月25日 愛善世界社版271頁 八幡書店版第8輯 688頁 修補版 校定版283頁 普及版135頁 初版 ページ備考
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本文  コー、ワク、エム三人の守衛連は陣営の一室に集まつて、ランチ将軍以下蘇生の祝酒に舌鼓をうちながら雑談に耽つて居る。
コー『オイ、チツと怪体ぢやないか。エヽーン、本当に馬鹿にしてゐよる。俺やモウこんな事と知つたら、こんな処までついて来るのぢやなかつたに、えらい番狂はせだ』
ワク『オイ、コー、何が何と云ふのぢやい。テンと貴様の仰有ることは耳に疎通せぬぢやないか』
『きまつた事だ。テンと意味が疎通せぬ事が出来たのだ。よう考へて見よ。ランチ、片彦両将軍は女の取り合ひをして、終ひにや生命のとりあひ迄やつたぢやないか。さうして其女と云ふのはドテライお化さまだ。しようもない、生きたり死んだりしよつて、亡者ばつかり沢山にモジヤモジヤと本営に集まり、亡者会を開き其祝ぢやと云つて……糞面白くもない。俺達に味なくもない酒を滅多矢鱈に強ひよるぢやないか。俺やむかつくの、むかつかないのつて、亡者の酒と思へや、此サケ如何なるかと思つて、気が揉めて仕方がないのぢや。よく考へて見よ、あの金を呉れやがつた蠑螈別やお民や治国別、竜公、其他将軍に副官、〆めて八人も天の八衢とか幽冥界とかへ行つて来て俄に弱気になり、モウ明日から剣は持つ事ならぬとか、戦はやめだとか、戦するよりも三五教の神様を一生懸命に拝めとか、幽霊みた様な事を吐すぢやないか。俺やモウ、それがムカムカするのだ。斎苑の館へ行つて天晴功名手柄を現はし、一国の宰相にでもならうと思つて居つたのに、サツパリ源助だ。ワク、貴様は之でも何ともないか、エヽーン』
『智勇兼備のランチ将軍さまだ。それに片彦さまの様な豪傑がついて厶るのだから、吾々の燕雀は、そんな事に口嘴を容れるものぢやない。それよりも結構なお酒を頂戴したのだから、おとなしう呑んで寝たがよからうぞ』
『これが如何して寝られるかい。武装撤廃だとか軍備廃止だとか、余り胸のよくない話を聞くぢやないか。吾々一兵卒と雖も之が黙許せられるか。貴様も余程腰抜けだな』
『さうぢやないよ、浄海入道の法衣みた様なものだ。表面に法衣を着て裏面に甲冑を装うて居る様な有様だ。あゝ云ふ三五教の治国別を陥穽を入れて殺し損ねたり、却て自分が死ぬ様な目にあひ給ひ、治国別や其他の者に油断させるために、軍隊一般にあの様な事をお触れになつたのだよ。貴様は馬鹿正直だからな』
『それなら気が利いてる。如何やら、それらしくないぞ。最前もテルンスが云つて居たが、両将軍並に副官迄が一生懸命に三五のお経を唱へ、之から軍隊を解散するか、但は一般を三五教の信者にするかと云ふ了簡らしいぞ』
『そんな事があつたら俺だつて此儘にや済ますものか。忽ちハルナの都に注進して、お褒めを頂き、マア将軍の後釜にでもなるのだな。其時や貴様も秘書官位にしてやるわ。さうして月の国の相当の、二三万の人口ある刹帝利に使つてやるから、マア楽んで待つたがよからう』
『馬鹿云ふな。果してランチ将軍が三五教に恍けよつたなら、俺が全軍の指揮官となり斎苑の館を蹂躙し、七千余ケ国の月の国を少くも五分の一位頂戴し、貴様を其中の一番小さい国の刹帝利に使はぬ事もない。それも貴様の心の持ち様一つだ。アヽ斯んな事を思ふと腹立も何処かへ消滅して了つた。ランチ将軍や片彦将軍が三五教に沈没すれば、却て吾々の栄進の道が開くと云ふものだ。かう思へば腹立処か、双手を挙げて賛成すべきものだ』
エム『何と俄に御機嫌が直つたぢやないか。然しさう世の中は思惑通りに行くものぢやないよ。あれだけ武名高き片彦将軍だつて、あの通り治国別に敗北したのだからな。マア、そんな空想は止めにして、もう少しばかりお神酒を頂き、果して将軍様が三五教になられるか、但は治国別一行を征伐なさる御計略か、トツクリと二三日待つて調べた上でなけりや、ウツカリした事云つて将軍の耳にでも這入つたら大変だぞ』
 かかる所へ見廻りに来たのは、陣中にても稍相当の位置を持つてるテルンスであつた。テルンスはツカツカと入り来り、
『オイ、お前達は今何を云つてゐたか』
コー『ハイ、いえ別に何にも云つた覚えは厶いませぬ。治国別を一つ計略にかけて亡き者にすれば結構だと云つたのです。それより外は何も云ひませぬ。のうワク、エムさうだろ』
『馬鹿云ふな。貴様はハルナの都へ注進するとか、全軍の指揮官になるとか、大それた事を申したぢやないか』
『ウン、そりや申しました。然し酒の上で一寸法螺を吹いてみたのですよ。よう考へて御覧なさいませ。テルンスと云ふ上官があるのに、貴方を差措いてそんな事が出来ますかな。何卒冷静にお考へ下さい』
『おい、ワク、エム、コーが今云つてる事は本当か、嘘か、如何だ』
ワク『ヘー、嘘らしうもあり、本当らしうも厶います。十分に酩酊して居つたものですから、何を云つたか満足に聞えませず、私だつて酒が云つたのだから、肝腎の御本人は何も知りや知りませぬ。何卒大目に見てやつて下さい』
『コリヤ其方は詐りを申しちやならないぞ。本当の事を云はないか』
『酒に酔うて居ましたから、酔うて居つて何の覚えもないと云ふのです。それが事実ですもの』
『ヨシ、知らぬなら知らぬでよい。明日は締木にかけてでも白状致さす。何程弁解致しても此方はシツカリ証拠が押へてあるのだ』
と云ひながら戸をピシヤツと荒く閉め、又次の兵舎に足音を忍ばせ進み行く。
 後に三人は小声になり、
ワク『それ見よ、コーの奴め、仕様もない事を吐かすから俺迄も疑はれて了ふのだ。俺とエムとが貴様の云つてる事を本当に証明しようものなら、お前の生命はないのだぞ。なあエム、俺だとて、隠されるだけは隠してやるけど、痛い目や辛い目に遇ふのなら、本当の事を云つてやらう。それが自利上、否吾身保全の上に於て最も利巧のやり方だ』
『さうとも、俺だとて、痛い目や苦しい目までしてコーの保護してやつた所で別に喜ぶでもなし、何時も組頭顔をしやがつて俺達を頭抑へに抑へやがるから、いい敵討ちの時が到来したのだよ。こらコー、恐れ入つたか』
と稍巻舌になりながら後前を見ずに喋り出した。コーは二人に素破抜かれちや大変だと思ひ、傍の剣を執るより早く二人に向つて斬りつけた。二人は手早く身を躱し、コーの両足をグツとさらへて仰向けにドタンと倒した。コーは大いに怒り、
『己れ、両人、もはや了簡はならぬ。もう斯うなる上は死物狂ひだ、覚悟をせよ』
と大刀を提げ斬つてかかる。ワク、エムの両人は表にバラバラと駆け出し、雪道を転け惑ふ。コーは狂気になつて追駆け廻る。忽ちコーは雪に包まれた捨石に膝頭を打ち、
『アイタツタ』
と云つたきり目を廻し、抜刀の儘雪の上に倒れて了つた。エム、ワクの両人は狼狽へてテルンスの営舎へ走り行き、息を喘ませながら、
ワク『テヽヽヽテルンス様、何卒タヽヽヽ助けて下さいませ』
と云ひながらエムと共に転げ込んだ。テルンスは二人の慌しき勢に不審を抱き、
『其方はワク、エムの両人ぢやないか。何を騒々しく夜中にやつて来るのだ。何か変事が突発したのか』
ワク『タヽヽヽヽ大変が出来ました。コーの奴、喋つた事を貴方に素破ぬくと申したら、怒つて大刀を振上げ、ソレ…そこに追駆けて来ます。いつもなら私はあんな奴の三人や五人恐れはしませぬが、何分足も充分運べぬやうに酩酊してるものですから、如何する事も出来ませぬ。何卒彼奴を掴まへて下さい』
『アー、さうか、コーは何と申して居つた』
エム『ヘー、ハルナの都へランチ将軍、片彦将軍の三五教に惚けた事を早馬に乗つて注進し、自分が全軍の指揮官になり、月の国の刹帝利になるとか云つて居りましたよ。私とワクとは、もしもそんな事になつたら、テルンスさまを将軍に仰ぐと云ひましたら、大変に怒つて大刀を引き抜き私を殺しにかかつたのです。あんな悪人はお為になりませぬ。何卒捕手を出して捕へて下さい』
と虚実交々まぜて述べ立てた。
『何、コーが左様の事を申して居つたか。中々以て気骨のある奴だ。大に見込みがある。其方は之からコーを拙者の命令だと云つて呼んで来い。相談し度い事があるから』
ワク『オヽヽオイ、エム、お前行つて来い。俺や足がチツとも動かないわ』
『俺だつて酒に足を取られてゐるのだから、一足も歩けぬぢやないか』
『一足も歩けぬと申すか、此処まで如何して来たのだ』
エム『ハイ、雪の中を転げて来ました』
『然らば転げて呼んで来い。それで結構だ』
『へー、それだけは何卒御免下さいませな』
『イヤ、ならぬ。上官の命令だ』
『上官の命令と仰有つても、あんな危険の奴の所へ行かうものなら、私の首がなくなります』
『首がなくなつた所で別に俺の損害になるでもなし、構はぬぢやないか。貴様等の小童武者の一人位死んでも何かい。武士は戦場に屍を曝すが名誉だ』
『オイ、ワク、貴様御苦労だが御用に行つて呉れないか』
『アイタヽヽ俄に腰が痛くなつた。オイ、エム、一つ撫でてくれ。息がつまりさうだ。アー、痛い痛い痛い』
『アハヽヽヽ、ナマクラの奴ばつかりだな、卑怯者奴が。何のために貴様の様な奴を飼うてあるのだ。マサカの時に生命を捨てさす為に、高いパンを食はしておいてあるぢやないか』
エム『まるで鶏か豚を飼ふ様に仰有いますな。そりやあまりです。チツとは情と云ふ事を考へて下さいませ』
『馬鹿申せ。慈悲や情に構つて居つて、こんな人殺し商売が出来るか。残忍の上にも残忍性を発揮するために、毎日日日剣術をやつたり柔術を稽古してるぢやないか』
『それは吾身を保護する為の稽古ぢやありませぬか』
『馬鹿申せ、吾身を保護する為なら、こんなに沢山の軍隊がかたまる必要がないぢやないか。かく迄大部隊を引率して将軍がお出でたのは敵を鏖しにするためだ。その為に槍や剣を持たしてあるのだ。槍や剣は決して猪や狸を斬るためぢやないぞ。人斬り庖丁と云つて人を斬るためだ。そんな事が分らずに武士の本分が尽せるものか』
『それでも、軍人は平和の守り神と云ふぢやありませぬか』
『或時は平和の守り神となり、或時は天下の攪乱者となり、血河屍山を築き、以て敵国を占領し、戦利品を沢山に収納するのが武士の本領だ』
『まるで強盗みた様なものですな』
『貴様は余程よい頓馬だな。軍隊の必要とならば人家も焼かねばならず、人命もとらねばならず、米麦、金銭は申すに及ばず、豚鶏、大根蕪、凡て必要品は無断徴集するのだ。それでなくては、何で軍隊の維持が保たれるか』
『おい、ワク、テルンスさまの仰有る事あ、チツと道理に叶はぬぢやないか。二つ目には、斬るの、盗むのと、そんな武士があるものだらうかな』
『そら、さうだな』
 テルンスは抜く手も見せず雪にひらめく氷の刃、忽ちエムの首を薙ぎ落し、返す刀にワクの頭を無残にも斬り落し、雪の庭は忽ち紅に化した。
(大正一二・一・一四 旧一一・一一・二八 北村隆光録)
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