テルンスは、ランチと片彦が三五教に惚けた今、自分が全軍の指揮権を握るチャンスがやってきたと打ち笑い、軍隊解散をよしとするエムとワクはランチと片彦の間者に違いないと独り言した。
そして、あくまで戦いを主張するコーと示し合わせてことをなそうと考えていた。そこへコーが剣を杖についてやってきた。テルンスは、戦争に反対するエムとワクはこのとおり切って捨てたので、ハルナの都にランチと片彦の裏切りを注進し、二人で全軍の指揮権を握って将軍となろう、とコーにもちかけた。
コーはテルンスの申し出を承知したが、にわかに首筋がぞくぞくして体が動かなくなった。コーはうわごとを言い始め、エムとワクの幽霊にさいなまれ始めた。やがて二人の死骸から青い火が現れてだんだんと大きくなり、テルンスとコーを責めたてた。
テルンスは手足が震えおののいて逃げることもできず、恐ろしい悲鳴を上げて助けを求めるのみであった。コーは雪の上を転げ、肝をつぶして伸びてしまった。
この有様をみた二人の夜警は驚き、片彦将軍に幽霊がテルンスをさいなんでいると報告した。片彦は実地検分に行ってみようと床から起き上がった。
またこの話を聞いたお寅は一人、先に現場に行ってみた。すると確かに幽霊がテルンスを責め立てている。お寅はそばに走り寄り、天津祝詞を奏上して天の数歌を歌った。すると二人の幽霊は煙のように消えてしまった。
よくよく見れば、エムとワクの二人は、酒に酔って雪の上に倒れているだけで、怪我ひとつしていなかった。テルンスは事の顛末におおいに驚き、自分の企みを包まず隠さずランチと片彦の前に自白し、罪を謝した。
この陣営には二千人ばかりの軍卒がいたが、ランチと片彦が三五教に帰順したことを発表すると、武器を捨ててどこかに自由に出て行く者もあり、鬼春別将軍に報告に行く者もあり、ハルナの都に忠義立てをして注進に行く者もあった。
浮木の森の陣営は解体され、この地は以前の平和な村落に戻った。治国別、ランチ将軍ほか一同の今後の行動は後日述べることとなる。