後に残った初稚姫は、高姫が金毛九尾の悪孤に魅入られ、また父・杢助に化けた妖魅にだまされて狂惑されていることを憐れんだ。
しかし、高姫に憑依している悪孤は、杢助が兇霊の化け物であることを知らず、杢助に化けている兇霊も悪孤の正体を見ることができないために、互いに結託することができないでいた。
初稚姫は、精霊同士といえども、自然界の物性を通さなければ世界を認識することはできない、という神様のお仕組によって精霊の悪事が防がれていることに感謝した。
そこへ怪我を負ったスマートが戻ってきた。スマートは初稚姫に怪我を負った体を預けていたが、突然起き上がって唸り始めた。初稚姫はスマートにおとなしくするように命じた。そこへ高姫が帰ってきた。
高姫は、杢助が森林で転んで眉間を岩に打ち付け、たいへんな傷を負って谷川で休息していることを話した。高姫は、杢助はじきに戻ってくるだろうと言ったが、杢助が犬を神域に入れないように厳しく言いつけたとスマートを追い出そうとした。
初稚姫は、杢助に化けた妖怪がスマートに眉間を噛まれて怪我を負ったことを推知したが、とぼけて高姫の言にしたがい、スマートを館から連れ出した。
そしてスマートに、いったん隠れていて、日が暮れたら自分の居間の床下にそっと隠れているように、といいつけた。スマートは承諾の意を表し、二人は別れた。
初稚姫は館に帰ってきた。スマートは日が暮れた後にそっと初稚姫の居間の床下に身を忍ばせ、いいつけをよく守って初稚姫の保護の任に当たっていた。