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文献名1霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻
文献名2第2篇 兇党擡頭よみ(新仮名遣い)きょうとうたいとう
文献名3第8章 常世闇〔1302〕よみ(新仮名遣い)とこよやみ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-07-14 15:54:56
あらすじ
人間は自然愛と地獄愛が生み出す諸々の罪悪の間に生まれ出ているため、その内分は高天原に向かって完全には開けていない。そのため、大神は精霊を経て人間を統制し給う。人間と生まれた者は、惟神の順序の内に復活帰正すべき必要がある。そのためには、間接に聖霊を通さなくては成就が難しいのである。

初稚姫のような神人であれば、大神の直接内流に統制されるので、精霊を経て大神に統制される必要はない。

しかし現代の人間は高天原からその内分を閉ざし高天原から遠く離れてしまったそこで大神は、天人と精霊を各個の人間と共に居らしめ給い、天人すなわち本守護神、精霊すなわち正守護神を経て、統制する方法を取らせ給うことになった。

高姫の体に入った兇霊は、自分こそが本体であり、神界経綸の因縁ある機関と思っている。そして高姫の方が宿を借りに来ている精霊だと思っている。しかし高姫の言動から、もしかすると自分自身が高姫という得体のしれない動物の中に入っているのではないかとも感じだしている。

高姫も兇霊も、自分こそ万民の罪悪を救うために神が遣わした犠牲者であり救世主と信じているから始末が負えない。

動物は、精霊界からの内流によって統制されている。けだし、動物の生涯は宇宙本来の順序中に住するゆえに、理性を持っていない。理性がないゆえに神的順序を破壊することがないのである。

しかしスマートのような鋭敏な霊獣は、初稚姫のような地上天人の内流を受けることができる。スマートは肉体は動物なれども、神より特別に化相の法によって、初稚姫の身辺を守る必要から現れ給うたものだからである。

普通の人間が動物と和合してしまうと、それは畜生道に堕落した場合である。また人間が霊肉離脱の後、地獄界や精霊界にあるとき、現世にある敵に対して危害を加えようとの念が強い時には、動物の精霊に和合してその怨恨を晴らそうとするものである。

霊界のことに暗い智者学者は、動物が人間にうつって人語を用いるなどあり得ないというが、それこそ半可通的言説である。彼らは自分が駆使されている人霊の想念を借り、懸っている人間の記憶や想念に入って肉体と口舌を使用するのである。

動物や植物は惟神的順序にしたがい順応している。おのおのその決まった特性を備え、決まった時期に活動する。人間は理性を有するがゆえに、別の土地に行ったり環境が変わったりすると意志を変じる。

また自由に思想ならびに身体の色まで変じる便宜がある。その代わりまた、悪に移りやすく堕落もしやすい。そのため大神は特に予言者を下し、天的順序に従うことを教え給うのである。

しかしまた、人間には善悪両方面の世界が開かれてあるがゆえに、神の機関たることを得るのである。願わくは人間は神を愛し神を信じ、神に愛せられ、神の生き宮として大神の天地創造の御用に立ちたいものである。

さて、高姫は大杉の梢から落ちてイル、イク、サールなどに介抱され、ようやく居間に運ばれた。梟に目をこつかれて腫れ上がり、しばらく見えなくなっていた。イル、イク、サール、テルは高姫が弱っているときに、普段の高姫への不満を皮肉交じりに述べ立てた。

高姫は、初稚姫が帰ってきたら彼らのことを告げてやると言い返した。一同は観念してどやどやと帰って行った。

イルは高姫の身が心配だったので、ただ一人次の間に身を隠して控えて様子をうかがっていた。すると高姫の居間から唸り声が聞こえてくる。のぞいてみると、いつの間にか座敷にスマートが座っていた。

下駄の音が森の方から聞こえてきた。初稚姫は杢助を探しに行くと高姫に言ったが、この杢助は妖怪であることを知っていたから実際に探してきたわけではない。ただ高姫の気休めのために、しばらく森林を逍遥して帰ってきたのであった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月21日(旧12月5日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年12月7日 愛善世界社版104頁 八幡書店版第9輯 187頁 修補版 校定版109頁 普及版54頁 初版 ページ備考
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本文  大抵の人間は、高天原に向つて其内分が完全に開けてゐない。それ故に大神は精霊を経て人間を統制し給ふのが普通である。何となれば、人間は自然愛と地獄愛とより生み出す所の地獄界の諸々の罪悪の間に生れ出でて、惟神即ち神的順序に背反せる情態に居るが故である。されど一旦人間と生れた者は、何うしても惟神の順序の内に復活帰正すべき必要がある。而して此復活帰正の道は、間接に精霊を通さなくては到底成就し難いものである。併しながら此物語の主人公たる初稚姫の如き神人ならば、最初より高天原の神的順序に依る所の諸々の善徳の中に生れ出でたるが故に、決して精霊を経て復活帰正するの必要はない。神人和合の妙境に達したる場合の人間は、精霊なるものを経て大神の統制し給ふ所とならず、順序即ち惟神の摂理により、大神の直接内流に統制さるるのである。
 大神より来る直接内流は、神の神的人格より発して人間の意性中に入り、之より其智性に入り、斯くて其善に入り又其善を経て真に入る。真に入るとは要するに愛に入るといふ事である。此愛を経て後聖き信に入る。故にこの内流の愛なき信に入り、又善のなき真に入り、又意思よりせざる所の智性に入ることはないものである。故に初稚姫の如きは清浄無垢の神的人格者とも云ふべき者なれば、その思ふ所、云ふ所、行ふ所は、一として神の大御心に合一せないものはないのである。斯かる神人を称して真の生神と云ふのである。
 天人及び精霊は何故に人間と和合する事斯の如く密接にして、人間に所属せる一切のものを、彼等自身の物の如く思ふ理由は、人間なるものは霊界と現界との和合機関にして頗る密着の間に居り、殆ど両者を一つの物と看做し得べきが故である。されど現代の人間は高天原より物欲の為に自然に其内分を閉し、大神のまします高天原と遠く離るるに至つたが故に、大神は茲に一つの経綸を行はせ給ひ、天人と精霊とをして各個の人間と共に居らしめ給ひ、天人即ち本守護神及び精霊正守護神を経て人間を統制する方法を執らせ給ふ事となつたのである。
 高姫の身体に侵入したる精霊、中にも最も兇悪なる彼兇霊は、常に高姫と言語を交換してゐるものの、その実高姫が人間なる事を実際に信じてゐないのである。高姫の身体は即ち自分の肉体と固く信じてゐるのである。故に高姫が精霊に対して色々と談判をすると雖も、其実精霊の意思では他に目には見えないけれども、高姫なる精霊があつて、外部より自分に向つて談話の交換をしてゐる様に思つて居るのである。又精霊の方に於ては、高姫の肉体は決して何も知つて居ない、知つてゐるのは只精霊自身の知識によるものと思ひ、従つて高姫が知つてゐる所の一切の事物は、皆自分の所為と信じ居るものである。併しながら高姫が余りに……俺の肉体にお前は巣喰つて居るのだ……と、精霊に向つて屡告ぐるによつて、彼に憑依せる精霊即ち兇霊は、うすうすながら自分以外に高姫といふ一種異様の動物の肉体に這入つて居るのではあるまいか……位に感じだしたのである。高姫は又精霊の言ふ所、知る所を、自分の言ふ所、知る所と思惟し、而して精霊が、自分の肉体は神界経綸の因縁のある機関として特別に造られたのだから、正守護神や副守護神が宿を借りに来て居るものと信じて居るのである。而して面白い事には、高姫の体内に居る精霊は、高姫の記憶と想念を基としていろいろと支離滅裂な予言をしたり、筆先を書いたりしながら、其不合理にして虚偽に充てる事を自覚せず、凡てを善と信じ、真理と固く信じてゐるのだから、自分が悪神だと云つたり、或は悪を企まうなどと言つてゐながらも、決して真の悪ではない、実は自分が或自己以外の何物かと揶揄つて居るやうな気でゐるのだから不思議である。又高姫自身も、少し許り悪の行り方ではあるまいかと思うて見たり、或時は……イヤイヤ決して自分の思ふ事、行ふ所は微塵も悪がない、只訳の分らぬ人間の目から、神格に充されたる吾々の言行を観察するのだから悪に見えるだらう。真の神は必ず自分が神の為道の為に千騎一騎の活動してゐる事をキツトお褒め遊ばすだらう。神に叶へるものとして、神柱とお使ひ遊ばしてゐられるのであらう。訳の分らぬ現界の人間が、仮令悪魔と言はうとも、そんな事は構つてゐられない、吾がなす業は神のみぞ知り給ふ……といふ様な冷静な態度を構へ、如何なる真の教示も、真理も、自己以外に説くものはない、又行ふ真の人間もないのだから、至善至愛の標本を天下に示し、千座の置戸を負うて万民の罪悪を救うてやらねばならぬ。自分は神の遣はし給ふ犠牲者、救世主だと信じて居るのだから始末に了へぬのである。高姫のみならず、世の中に雨後の筍の如く、ムクムクと簇生する自称予言者、自称救世主なども、すべては高姫に類したものなることは言ふ迄もない事である。
 又動物は、精霊界よりする所の一般の内流の統制する所となるものである、蓋し彼等動物の生涯は宇宙本来の順序中に住する者なるが故に、動物はすべて理性を有せないものである。理性なきが故に神的順序に背戻し、又之を破壊することをなし得ないのである。人間と動物の異なる処は此処にあるのである。併しスマートの如き鋭敏なる霊獣は其精霊が殆ど人間の如く、且本来の純朴なる精神に人間と同様に理性をも有するが故に、よく神人の意思を洞察し、忠僕の如くに仕ふる事を得たのである。動物はすべて人間の有する精霊の内流を受けて活動することがある。されども普通の動物は其霊魂に理性を欠くが故に、初稚姫の如き地上の天人の内流を受くることは出来得ないものである。併し此スマートは肉体は動物なれども、神より特別の方法に依つて、即ち化相の法によつて、初稚姫の身辺を守るに必要なるべく現じ給うたからである。初稚姫も此消息をよく感知してゐるから、決して普通の犬として遇せないのである。只神が化相に仍つて、其神格の一部を現はし給ひしものなることを知るが故に、姉妹の如く下僕の如く、或時は朋友の如くに和睦親愛し得るのである。普通の人間が動物と和合した時は、全く畜生道に堕落した場合である。又人間が霊肉脱離の後、地獄界及び精霊界に在る時、現世に在る吾敵人に対し、危害を加へむとするの念慮強き時は、動物の精霊に和合して其怨恨を晴さむとするものである。故に生霊又は死霊に憑依された人間には、必ず動物の霊が相伴うてゐるものである。是は或大病に苦しんでゐる人間を鎮魂し、又は神言を奏上して之を調べる時、必ず人間の生霊又は死霊の姓名を名乗るものである。而して熟練したる審神者が之を厳しく責立つる時は、遂に人霊と動物霊と和合して其人霊の先駆者となつたことを自白するものである。狐狸や蛇、蟇、犬、猫其他の動物の霊が人間に来る時は、人間の記憶及び想念中に入つて其肉体の口舌を使用し、或は自分が駆使され合一されてゐる人霊の想念をかつて、人間の如く言語を発するに至るものである。霊界の消息に暗き学者は、狐狸其他の動物が人間に憑つて、人語を用ふるなどはあり得べからざる事である、斯の如き事を信ずる者は太古未開の野蛮人である、斯の如く人文の発達したる現代に於て尚動物が人間に憑依して人語を発するなどの不合理を信ずるは実に癲狂痴呆の極みであると嘲笑するは、現代の半可通的学者の言説である。何ぞ知らむ、彼等こそ霊界より見て実に憐れむべき頑愚者にして、且癲狂者となつてゐるのである。自分の眼が自分で見られ又自分の頭部や頸部、背部などが自身に於て見ることを得ない人間が、何うして霊界の幽玄微妙なる真理真相が分るべき道理があらう。須らく人間は神の前に拝跪し、其迂愚と不明と驕慢とを鳴謝すべきものである。
    ○
 動物例へば犬、猫、鹿、牛、馬などは、惟神即ち神的順序に従つて交尾期なども一定し、決して人間の如く、何時なしに発情をするなどの自堕落な事はないものである。又植物なども霊界と自然界の順序に順応して、惟神的に時を定めて花開き実を結び、嫩芽を生じ落葉するものであつて、実に其順序を誤らない事は吾々人間の到底足許へもよれない程、秩序整然たるものである。而して犬は犬、猫は猫、馬は馬と各天稟の特性を発揮し、よく其境遇に適応せる本性を発揮するものである。又植物などは各其特性を備へ、自己特有の甘さ、辛さ、酸さ、苦さ等の本能を発揮し、幾万年の昔より其味を変へないのである。要するに芋は茄子の味に代る事を得ない、又唐辛は蜜柑の味に決してなるものでない。又同じ畑に植付けられ、同じ地味を吸収しながらも、依然として西瓜は西瓜の味、唐辛は唐辛の味、栗は栗、柿は柿の特有の形体及び味を有つて居るものである。而して、此特有性はすべて霊的より来り、其成長繁茂の度合は自然界の光熱や土地の肥痩等に依るものである。然るに人間は理性なるものを有するが故に少々土地が変つた時又は気候の激変したる土地に移住する時は、忽ち其意思を変移し、十年も外国へ行つて来た者は、其思想全く外人と同様になつて了ふものである。これが人間と動物又は植物と異なる点である。斯の如く人間は理性によつて自由に思想並に身体の色迄も多少変ずる便宜あると共に、又悪に移り易く堕落し易きものである。故に動物植物に対しては大神は決して教を垂れ給ふ面倒もなく、極めて安心遊ばし給へども、人間は到底動植物の如く神的順序を守らない悪の性を帯びてゐるが故に、特に予言者を下し、天的順序に従ふ事を教へ給うたのである。併しながら人間に善悪両方面の世界が開かれてあるが故に、又一方から言へば神の機関たる事を得るのである。願はくは吾々人間は神を愛し神を信じ、而して神に愛せられ、神の生宮として大神の天地創造の御用に立ちたいものである。
 却説高姫が玉茸を採らむとしてソツと大杉の枝に登り、梟にクワンクワンと鋭き嘴にて両眼をコツかれ、アツと叫んで地上に盲猿の如く顛落し、腰骨を打つて堪へ難き苦痛に呻吟しながら、イル、イク、サールなどに介抱され、漸くにして其居間に運ばれた。されど高姫は元来剛の者なれば少々腰骨の歪んだ位は苦にする様な女ではなかつた。そして容易に痛いとか苦しいとか云ふ様な事は、其性質上絶対に口外せない。併しながら両眼をこつかれ、眼瞼忽ち充血して腫れ塞がり、光明を見る事を得ざるに至りしには、流石の高姫も余程迷惑をしたのである。
 イルは、
『サア、高姫さま、此処が貴女のお居間ですよ。マアゆつくり本復するまでお休みなさいませ。イル、イク、サール、ハル、テルのやうな屈強な男も居りますから、どこ迄もお世話を致します、どうぞ安心して使つて下さいや』
『お前はイルかな、イヤ御親切に有難う。モウ斯うなつては目が腫上つて、一寸も見えないのだから、お前達のお世話になるより仕方がない。やがて此腫が引いたら目も見えるだらうから、どうぞすまないが二三日介抱して下さい。あああ何とした不仕合せな事だらうなア。折も折とて杢助さまは躓いて倒れ、眉間を破つて苦しむで厶るなり、其痛みを直したさに、玉茸を採りに上つて、又もや私は大杉に棲んで居つた天狗の奴に両眼をコツかれ、木からおちた猿のやうなみじめな目に遇ふとは……ああ神様も何うして厶つたのだらうかな、義理天上さまも余りだ……』
と慨然として悲痛の涙をこぼしてゐる。
サール『高姫さま、本当に不思議な事ですな。玉国別さまも此河鹿峠で猿の奴に両眼を破られて、永らく御難儀を遊ばしましたが、到頭御神徳を頂いて全快遊ばし、機嫌よく宣伝の旅に出られた後へ貴女がお出でになり、又もや天狗に目をこつかれて同じ眼病に悩むとは、何といふ不思議な事で厶いませう。何か神様にお気障でもあるのぢや厶いますまいかな』
『ああさうだなア。玉国別さまと云ひ、高姫と云ひ、頭にタの字のつく者は能く目に祟られるとみえる。これから神様にお詫を申して、一日も早く此目を直して頂かぬ事には、かう世の中が真暗闇では仕方がない。一時も早く天の岩戸開きをして、元の如く明るい光明世界に捻ぢ直したいものだなア、ああ惟神霊幸はへませ』
 イクは、
『高姫さま、あなた今、暗い世界と云ひましたね、ソラ貴女の目が塞がつてるからですよ。日天様が嚇々として輝いてゐらつしやるのですから、決して御心配にや及びませぬ。のうハルよ、さうぢやないか』
『ホホホホ、お前も分らぬ男だなア。此世の中が暗がりだと言つたのは人間の心が真暗がりだと云つたのだよ。決して肉体で見る世界が暗くなつたと云ふのぢやない』
『それでも、何ですよ、肉体で見る世界でも、時々真暗になりますからなア』
『きまつた事だよ。夜になれば真暗になるのは当前だ、お前も割とは馬鹿だなア』
『何とマア目も見えぬ態をして居つて、剛情な婆アさまだな。まだ悪口をついてゐる。コレ高姫さま、私は夜もある代り、又新しい日天様を毎日拝んで光明世界もありますよ。お前さまはモウ斯うなつちや、常夜行く暗の世界に彷徨うてゐるやうなものだ。夜ばかりだなア』
 サールはしたり顔に、
『ソラさうだとも、ヨルの受付を邪魔物扱ひにして厶つたのぢやもの、其報いが忽ち到来して、自分が、ヨルの世界へお這入りなさつたのだ。どうも自業自得だから仕方がないワ。何程お気の毒でも、吾々が如何ともする訳には行かないワ』
 テルは、
『高姫さま、貴女は日出神の義理天上さまが御守護して厶るのだから、夜でも決して暗いこたアありますまい。何と云つても義理天上日出神様の生宮だ、つまりいへば日出神御自身だから、見えるでせうなア。今日は殊更に、トコギリ、天上の日出神さまは御機嫌よく嚇々の光明を輝かしてゐられますからなア』
『ソラさうだとも、肉の目が何程塞がつて居つたとて、日出神の生宮だもの……なん……にもかもよく見えすいてゐるのだ。本当に神様の御神力といふものは偉いものだらう』
 テルは、
『高姫さま、そんなら吾々は心配する必要はありませぬな。私は又お目が見えないと思つて、何くれとお世話をして上げねばなるまいと思うてゐたが、お目が見えるとあらば殊更に気をつけて、お世話をして上げる心要も厶いますまい。おい、イク、イル、ハル、サール、お前等も安心せい。流石は高姫さまだ、目をふさいで居つても、よく見えるといのう、イツヒヒヒヒヒ』
と小さく笑ひ、腮をしやくり、肩をゆすつて見せる。四人は一度にふき出し、
『プツプツプツク ワツハハハハハ』
『これ、お前等は私がこれ程負傷をして困つてゐるのに、それ程面白いのかなア。不人情者奴が。待つてゐなさい、今に初稚姫が帰つて来たら、告げて上げるから……』
テル『オイ、形勢不穏になつて来たぞ。地震雷火の雨の勃発せない間に退却々々、全体進め、一二三』
と云ひながら、ドヤドヤと長廊下を伝ひ、受付の方面を指して走り行く。
 イルは只一人次の間に身をかくし、高姫の容子を考へて居た。これは決して悪意ではない。もしも高姫が一人で困つた時には助けてやらうといふ親切な考へからであつた。忽ちウーといふ唸り声が聞えて来た。イルは何物ならむとソツと襖を開けて高姫の居間を覗き込んだ。どこから来たか締め切つてある座敷へ、スマートがヌツと現はれ、高姫の前三尺許り隔てて、チヨコナンと坐つてゐる。カラコロと下駄の足音が近づいて来る。これは云ふ迄もなく初稚姫が森林内を暫く逍遥して帰つて来たのである。初稚姫は元より杢助の妖幻坊なることを知つてゐたから、高姫の依頼によつて、正直に杢助を探しに行くやうな馬鹿ではない。されど高姫の気休めの為に暫くの間、森林内を逍遥して帰つて来たのである。
(大正一二・一・二一 旧一一・一二・五 松村真澄録)
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