高姫はそれから、初稚姫、楓姫、珍彦、静子を憎むことはなはだしく、どうにかして彼らを亡ぼそうと考えるようになった。しかしこうなってはもはや初稚姫に言うことを聞かせることはできないだろうし、そうなると、彼らを害そうとすればスマートが飛び掛かってくるに違いなかった。
そこで高姫は、腹中の悪孤たちと相談し、一種の妖術をかけることにした。虬の血を絞って百虫を壺に封じ込み、血染めの絹を護摩の火で灰にして壺に封じる。この灰を四人に盃に塗って飲ませれば、飲んだ者は神徳を失い、人の怨みを受けて身を亡ぼすのだという。
高姫はそれから、悪孤の言うとおりに妖術の材料を集めて準備した。そして四人に怪しまれないようにおとなしく過ごし、すべてが整うと、珍彦館を訪れて自分の非を涙ながらに詫び、仲直りの酒宴を開くと言って招くのだった。
初稚姫は高姫の企みをすっかり見抜いていた。そしてその妖術も、兇霊の妄言であり何の効果もないことも看破していた。初稚姫はなんとかしてこの機会に高姫に改心してもらいたいと心に誓った。
高姫の誘いに楓は嫌悪の情を現したが、初稚姫が酒宴への参加を促したので、一同は危険がないことを暗に悟り、高姫の館に向かった。
初稚姫が毒見をし、一同は妖術を施してある御馳走をすっかり平らげてしまった。珍彦は厚く礼を述べて妻子を引き連れて帰って行った。また高姫は、楓と遊んでくるように初稚姫に言ったので、初稚姫も珍彦館に行くことになった。
後に残った高姫は、計略が当たったと一人喜んでいる。高姫の腹の中から、悪孤たちが計略の成功を自慢する笑い声が聞こえてきたので、高姫は滅多なことを言うなと憑霊たちをたしなめたが、まるで聞かない。
戸の外には、彼らが恐れるスマートの吠える声が聞こえてきた。高姫は頭をかかえて震えあがり、腹中の悪孤たちも一斉に黙ってしまった。