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文献名1霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻
文献名2第4篇 神犬の言霊よみ(新仮名遣い)しんけんのことたま
文献名3第18章 安国使〔1312〕よみ(新仮名遣い)あんこくし
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-07-25 15:51:22
あらすじ
珍彦館では、安彦と国彦が、珍彦、静子、楓、初稚姫らと懇談していた。安彦と国彦は、高姫が本部で副教主東野別に対して無礼を加え、あらゆる狂態を演じた上に、夜陰にまぎれて聖地を逃げ出したことを明かした。

そして、高姫が悪霊に左右されて祠の森にやってきて神業の妨害をすること甚だしいので、一時早く祠の森を放逐し、自転倒島に追い返すように、と教主八島主から命を受けてきたことを伝えた。

初稚姫は、高姫にきつく当たってはかえって心が荒んでしまうだろうから、ここは自分にまかせて今しばらく待ってほしい、そのように八島主に伝えてほしい、と安彦・国彦に懇願した。二人はひとまず、初稚姫の依頼を承諾した。

二人はまた、高姫がここに引っ張り込んでいる杢助と名乗る男についても尋ねた。それというのも、本物の初稚姫の父・杢助は、日々斎苑の館に出勤しているからだった。珍彦たち一同は、祠の森の杢助は、犬を嫌い、娘のはずの初稚姫にも会おうとせずに酒ばかり飲んでいると報告した。

楓は珍彦夫婦毒殺未遂について二人に報告した。初稚姫は正体を察しており、大雲山の妖幻坊という妖怪が自分の父に化けているのに間違いはないと明かした。しかしいきなり正体を暴いては高姫が恥をかくし、また追い散らしても他所で悪事を働くだろうから、時機を待っているのだと説明した。

安彦と国彦も、機会があれば妖怪を改心させようとしている初稚姫の意図を汲んで、その由を聖地に報告するために帰ることになった。そして沙汰があり次第、斎苑の館の決定を高姫に言い渡すよう、珍彦に念を押した。

安彦と国彦が、帰る前に祠の森を見て回りたいと言うので、珍彦は人を呼んだ。イルとサールがやってきて、二人を案内した。二人は宣伝歌を歌い神前に拝礼した。イルとサールの案内で森林を巡回し、妖幻坊が遭難した場所を実見し、こぼれ落ちた血糊が人間のものでないことを確認した。

その後、八尋殿で休憩し、杢助と高姫の居間を臨検しようと相談していた。一方杢助と高姫は、連れてきたハルを相手に、聖地からの使者について尋問を始めていた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月23日(旧12月7日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年12月7日 愛善世界社版250頁 八幡書店版第9輯 242頁 修補版 校定版255頁 普及版126頁 初版 ページ備考
OBC rm5018
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本文  珍彦館には、珍彦、静子、楓、初稚姫及び斎苑の館の直使なる安彦、国彦の六人がヒソビソと首を鳩めて懇談に耽つて居る。
珍彦『遥々と大神様よりの御使、御苦労に存じます。何分至らぬ吾々、大役を仰せつけられ、力にあまり、勤めも碌に出来ませぬので、定めし八島主命様にも御迷惑の事で厶いませう。定めて吾々の不都合をお叱りのためのお使で厶いませうなア』
安彦『イヤイヤ決して左様では厶らぬ。貴方の赤心は誰知らぬ者も厶いませぬ。教主様も大変にお喜びになつて居ますから、御安心下さいませ』
『左様で厶いますか、不都合な吾々を、広き心に見直し聞直し下さいまして誠に畏れ多い事で厶います』
静子『何分とも宜しく御願ひ致します』
『ハイ、よきに取計らひませう。先づ先づ御安心下さいませ』
初稚『安彦様、今度お出でになりましたのは、あの高姫さまの一件で厶いませうな』
『お察しの通り、彼高姫は斎苑の館に於て、副教主東野別に対して無礼を加へ、其上所在狂態を演じ、夜陰に紛れて館を抜け出し、直様此館に逃げ来り、又もや悪霊に左右されて、神業の妨害を致すこと最も甚だしければ、一時も早く此館を放逐し、自転倒島へ追つ帰せとの御命令で厶る』
『それは嘸高姫様がお驚き遊ばす事で厶いませう。何とか穏便に高姫様に改心して貰ひ、此処に暫く御用をさしてあげる事は出来ますまいかなア』
『貴女のお言葉ならば、決して違背は厶いますまい。併しながら吾々は教主のお使にて参りしものなれば、独断にて如何ともする事は出来ませぬ』
『成程それは御尤もで厶います。教主様の御命令とあらば致し方厶りませぬ。併しながら茲暫くの間私にお任せ下さるまいか。何とか致して高姫さまの身魂を救ひたいもので厶います。今放逐すれば益々心荒み、上げも下しもする事が出来ないやうになるかも知れませぬ。何卒八島主様にお会ひでしたら、茲暫く初稚姫にお任せ下さるやうお願ひ下さいませぬか』
『ハイ承知致しました。直様立ち帰り御猶予を願つて見ませう』
『早速の御承知、有難う存じます』
国彦『イヤ珍彦殿、高姫殿は何だか怪しき男を引き入れて居られるとか聞きましたが、それは何者で厶いますか』
『ハイ、真偽の程は吾々には分りませぬが、どうも怪しいもので厶います。斎苑の館から参つた、杢助だと云つて居られますが、どうしても初稚姫様にお会ひなさらぬので厶います。それが第一私の不思議とする所、一度初稚姫様にお尋ねして見たいと思うて居ますが、余り失礼だと思ひ、お尋ねも致さず控へて居りました』
『ハテナ、杢助総務は日々斎苑の館へ御出勤になつてゐます。弥もつて不思議の至りで厶る。何か怪しい点はお認めになりませぬかな』
『ハイ、何だか存じませぬが、大変に犬がお嫌ひださうで厶います。此間も森を散歩して躓き眉間を石で打つたと仰せられましたが、一寸私が窺ひますのに、顛倒て打つた傷ではなく、犬に噛まれたやうな深い歯形が附いて居りました』
『成程、そいつは益々怪しう厶る。安彦殿、如何思召されますか。こりや聞き捨てにはなりますまい。一つ正体を調べたいものですなア』
『サア、吾々はお使に参つたのは、何も彼も一切を調べて来いとの事なれば、高姫は申すに及ばず、杢助と名乗る人物を能く調べて報告を致さねばなりますまい』
国彦『左様で厶る、直様着手致しませう』
珍彦『一寸お待ち下さいませ。余程考へなくては、先方に悟られては又逃げ出すかも知れませぬから、一寸私が様子を伺つて参りませう』
楓『あのお直使様、高姫さまと夫婦だと云つて、それはそれは朝から晩迄、酒ばかり呑んで一寸も事務は見ないのですよ。そしてお父さまやお母さまを毒散と云ふ薬で殺さうとしたのですよ。けれども文珠菩薩様が夢に現はれて神丹を下さいましたので、お蔭で毒が利かなかつたのです。さうでなければ、私の両親はとうの昔になくなつて居るのです。彼んな奴は早くどうかして貰はなくては、本当の事、一目も寝られないのです。初稚姫のお父さまだなんて云ひながら、正体が現はれるのが怖ろしさに一度も姫様に会はず、此頃は初稚姫様を此館に閉ぢ込めて了ひ、自分の居間には高姫と二人で誰も通さないのです。きつとあいつは妖怪に違ひありませぬ。そして高姫さまは、妖怪を杢助さまと思つて居るのです。斎苑の館の杢助さまが彼方にもあり、此方にもある道理がないぢやありませぬか』
安彦『ハテ、聞けば聞く程不思議千万で厶る。これはテツキリ妖怪に間違ひ厶いますまい。初稚姫殿、貴女のお考へは如何で厶います』
『私の考へでは杢助と名乗る怪物は、大雲山に居る妖幻坊と云ふ悪魔に違ひないと考へます。何と云つても妾の愛犬スマートが怖くて仕様がないので厶いますもの』
 安彦は二歩三歩ニジリ寄り、目を見張り、口を尖らしながら、
『姫様、それがお分りになつて居るのに、何故今まで放任しておかれたのですか。早くスマートを使嗾かけて亡ぼしてやつたらどうですか。さうしたら高姫も目が醒めるでは厶いませぬか』
『さうして見ようかとも思ひましたが、俄に左様な事を致せば、高姫様が大変な恥をお掻き遊ばすなり、又失望落胆の程が計り知られないと思ひまして、ボツボツと気のつくやうと、忙がしい体をここに留めて、時機を待つて居るので厶います』
『姫様、そんな、グヅグヅして居る場合では厶いませぬぞ。吾々両人が承はりました以上、此儘帰る訳には参りませぬ、サア是から妖怪征伐に着手致しますから、何卒拙者等両人にお任せを願ひます』
『あれしきの妖怪を倒す位は朝飯前の仕事で厶います。スマートだけでも立派に追ひ散らすでせう。併しながら彼を追ひ散らしてみた所で、又他の地方へ往つて悪事をなすに違ひありませぬ。それ故に暫く此処に留め置き、心の底から彼の妖怪を改心させようと存じ、光を和らげて時機を待つて居るのですよ』
国彦『どうも腕が鳴つて仕方がないぢやないか。もし初稚姫様、そんな気の永い事を云はずに、私にお任せ下さいませ。きつと私が退治てお目にかけませう』
『短気は損気、まア待つて下さいませ。お直使様のお言葉を背いては済みませぬが、何と云つても妾の父と云つて現はれたので厶いますから、仮令怪物と雖も吾父と名のついたものを、さう無闇に苦しめる事は情に於てすみませぬ。仮令贋者にもせよ、父の名に於てどうして敵対へませうか。仮令貴方が退治なさつても、この初稚の耳に入つた以上は何処迄もお止め致します。妾が知らぬ間に退治遊ばすのなら已むを得ませぬが、もう只今となつては、貴方も妾に対し左様な惨酷な事は出来ますまい』
安彦『何と親と云ふものは偉いものだな。仮令如何なる悪魔でも親の名を名乗つて居るものを苦しめる事は出来ないとは、実に人情の深いお方だ。いや孝行の御精神だ。いやもう感じ入りました』
『それ故何処迄も赤心を尽して其妖怪を改心させ、救うてやりたいものです。妾もあの妖怪から吾娘と云はれたのですから、娘としての赤心を尽したいと存じます。斯様な妖怪に、仮令言葉の上でも娘と云はれるのは何か因縁があるのでせう。何うか愛善の徳を以て彼を救ふべく、試験問題をお与へ下さつたのだらうと存じます』
『然らば是非に及びませぬ。イヤ国彦殿、これにてお別れ致さうぢやないか』
『何うも遠方を御苦労様で厶いました。高姫さまの件については今一応妾の意見を申上げ、御詮議の上暫しの御猶予あらむ事をお願ひ申します。そして否やの御返事は、無線霊話をもつて妾の耳迄お達し下さいますれば、結構で厶います』
『イヤ委細承知致しました。珍彦殿、然らばこれにて御免蒙りませう。随分貴方も御苦労で厶います。初稚姫様に御返事のあり次第、貴方は祠の森の神司の職権を以て高姫に申渡しをなさるやうに、呉れ呉れも申渡しますぞや。決して遠慮はいりませぬから、どしどしおやりなさいませ』
『ハイ委細承知致しました。それを承はらば、拙者も職権を以て御命令通り、何の憚る所なく断行致しますから、何卒御安心下さいませ。此珍彦も何分神様のお道が充分に分つてゐないものですから、つひ高姫さまの口先に操られ、いつも屁古まされ通しですが、お直使を通しての教主様のお言葉、決して背きは致しませぬ』
『イヤそれ聞いて安心致しました』
国彦『イヤ安彦殿、折角出張致したのだから、御本殿は申すに及ばず、此館は一間も残らず見分致し、境内を一巡致して帰らうでは厶らぬか』
珍彦『然らば幹部の役員に申付けて御案内を致させませう』
安彦『イヤそれは有難い。然らば二人許り案内を願ひませうかなア』
『承知致しました』
と云ひながら、磬板をカンカンと打つた。イル、サールの両人は暫くして装束をつけ珍彦が館に入り来り、
『今「二人来い」と云ふお報せで厶いましたので、直様装束を調へ罷り出ました。お直使様に対し何か御用が厶いますれば、承はりませう』
珍彦『いや、イル、サール両人様、御苦労で厶いました。外でもありませぬが、お直使様お二人を一度御本殿に御案内申上げて下さい。そして境内を叮嚀に御案内申上げ、最後に杢助様の御居間や、高姫様のお居間へ御案内なさるが宜しいぞや』
イル『ハイ承知致しました。サア御直使様、吾々両人が御案内致しませう』
 安彦、国彦両人は軽く目礼しながら、イル、サールの後に従ひ御本殿に案内された。
 茲に両人は恭しく神言を奏上し、終つて宣伝歌を手向けた。安彦は歌ふ。
『厳の御霊や瑞御霊  清き尊き大御稜威
 現はれまして今此処に  河鹿峠に名も高き
 祠の森の真秀良場に  千木高知りて現れませる
 国治立の大御神  月の大神日の御神
 バラモン教の司神  大国彦を初めとし
 盤古神王塩長の  彦の命や其外の
 百の神等斎かひて  常世の暗を晴らさむと
 顕れませるこそ尊けれ  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 曲津は如何に荒ぶとも  皇大神の御稜威もて
 此世の曲を悉く  伊吹払ひに払ひのけ
 浦安国の浦安く  守らせ給へ惟神
 神の詔を畏みて  産土山の聖場より
 参り来ませる安彦や  国彦司と諸共に
 御前に畏み願ぎまつる  ああ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ』
 国彦は又歌ふ。
『吾は国彦宣伝使  高取村の与太彦と
 名を知られたる与太男  弥次彦さまと諸共に
 コーカス参りの其途中  お竹の宿に泊る折
 日出の別の宣伝使  部下に仕へる神司
 此処に現はれましまして  駒に跨がりいそいそと
 小鹿峠の麓まで  来る折しも音彦の
 神の司と諸共に  吾等二人は残されて
 ウラルの道の目付等に  取囲まれて逃ぐる折
 小鹿峠の峻坂に  前後に敵を受けしより
 千尋の谷間に落ち込んで  忽ち幽冥の人となり
 三途の川まで到着し  脱衣婆さまにいろいろと
 小言八百並べられ  河を渡りて銅木像
 其外怪しき者共に  二度三度出会し
 茲に漸く身魂をば  研きすまして宣伝使
 仕へまつりし国彦ぞ  ああ惟神々々
 神の恵を身に浴びて  今は尊き斎苑館
 司の群に加はりて  教の道を宣伝し
 帰りて見れば此度の  祠の森の直使をば
 云ひつけられし尊さよ  此御社に現れませる
 皇大神よ百神よ  何卒吾身の使命をば
 完全に委曲に復り命  申させたまへ惟神
 尊き神の御前に  安彦国彦両人が
 畏み畏み願ぎまつる  ああ惟神々々
 神のみたまの幸はひて  これの館に住まひたる
 妖幻坊の醜霊や  金毛九尾の醜狐
 一日も早く大神の  誠の道に目を醒まし
 悪逆無道をひるがへし  世界に曲を行はず
 世人を救ふ御柱と  ならさせたまへ惟神
 神かけ念じ奉る』
と歌ひ終り、恭しく拝礼をして階段を下り、又もやイル、サールの案内に連れて広き森林内を隈なく巡視し、妖幻坊が遭難場をも詳しく実見し、落ちこぼれたる血糊の、人間の血にあらざる事迄よく確め、終つて八尋殿に上り、暫し休憩の後、杢助、高姫の居間を臨検せむと相談しながら茶を啜つて居た。
 杢助、高姫は安彦、国彦が今や吾居間に臨検に来るとは、神ならぬ身の知る由もなく、ハルを相手にいろいろと訊問を始めて居た。
(大正一二・一・二三 旧一一・一二・七 加藤明子録)
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