人間はその内分において、至聖至美至善の天界すなわち高天原に向かい、その外分においては地獄界に向かっているものであることは、すでに述べた。ゆえに人間は、常に神の光に背いては、決してその人格を保つことはできない。
本巻物語の主人公たる高姫は、小北山の聖場に至って自己に憑依する兇霊のために誤られ、また兇霊界の妖魅である妖幻坊のためにたぶらかされて熱狂的暴動を敢行する。しかし神威に当てられて逃れ、妖幻坊と共に怪志の森に落ち延びる。そして妖幻坊が紛失した曲輪の玉を、小北山の役員初公と徳公に命じて奪還させようとする。
また浮木の森において妖幻坊の魔法に欺かれて種々の狂態を演じるところ、いったん三五教に帰順した元バラモン軍のランチ、片彦が、高姫が化相した初花姫に誘惑されて苦悶の淵に沈むところ、ケース、初公、徳公が狸のために裸体となって相撲を取らされる悪夢等、波乱重畳の面白き物語である。
読者は一片の滑稽的小説と見ることなく、意をひそめて通読あらんことを願う。