高姫は妖幻坊を杢助だと固く信じていた。そして金剛不壊の如意宝珠の力によって、このような広大な楼閣ができたのだと思っている。
高姫は、これほど神力がある男であれば、他の美人に取られて自分がお払い箱になる可能性があると心配し、如意宝珠の玉を奪ってふたたび飲み込み、杢助の喉首を抑えてしまおうと思いながら妖幻坊についていく。
妖幻坊は高姫を大きな鏡の前に導いた。そこには十七八才の妙齢の美人が、立派な錦の衣服を着流して立っていた。高姫はその美人に嫉妬するが、妖幻坊は、これは如意宝珠の神力で若返らせた高姫自身の姿だと高姫に取り入った。
高姫は若いころの名前・高宮姫に改名し、妖幻坊は高宮彦と名乗ることになった。そして高姫に豪華な一室をあてがうと、後で腰元を付けると言い残して奥殿へ消えて行った。
妖魅は変相するときは非常に苦しいので、ときどき人に見られないところで体を休める必要があるのであった。高姫の居室と見えたのは、その実、浮木の森の大きな狸穴であった。妖幻坊は奥の楠の根元の大洞穴の中に身を隠し、寝てしまった。
妖幻坊は自分の眷属・幻相坊と幻魔坊を美しい少女に変装させて、高子・宮子として高姫の侍女としてあてがった。高姫は二人の美しさに嫉妬を覚えたが、高子と宮子が自分たちは如意宝珠の玉から生まれた火と水の霊だと説明し、人間ではないことがわかると機嫌を直した。
高姫は二人を呼び入れた。高子と宮子はぱっと室内に入って左右から高姫に飛びついた。高子は火のように熱く、宮子は水のように冷たかった。高姫は寒熱に苦しんで、たちまちその場に倒れてしまった。