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文献名1霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻
文献名2第2篇 夢幻楼閣よみ(新仮名遣い)むげんろうかく
文献名3第9章 鷹宮殿〔1324〕よみ(新仮名遣い)たかみやどの
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-05-24 12:18:25
あらすじ
高姫は妖幻坊を杢助だと固く信じていた。そして金剛不壊の如意宝珠の力によって、このような広大な楼閣ができたのだと思っている。

高姫は、これほど神力がある男であれば、他の美人に取られて自分がお払い箱になる可能性があると心配し、如意宝珠の玉を奪ってふたたび飲み込み、杢助の喉首を抑えてしまおうと思いながら妖幻坊についていく。

妖幻坊は高姫を大きな鏡の前に導いた。そこには十七八才の妙齢の美人が、立派な錦の衣服を着流して立っていた。高姫はその美人に嫉妬するが、妖幻坊は、これは如意宝珠の神力で若返らせた高姫自身の姿だと高姫に取り入った。

高姫は若いころの名前・高宮姫に改名し、妖幻坊は高宮彦と名乗ることになった。そして高姫に豪華な一室をあてがうと、後で腰元を付けると言い残して奥殿へ消えて行った。

妖魅は変相するときは非常に苦しいので、ときどき人に見られないところで体を休める必要があるのであった。高姫の居室と見えたのは、その実、浮木の森の大きな狸穴であった。妖幻坊は奥の楠の根元の大洞穴の中に身を隠し、寝てしまった。

妖幻坊は自分の眷属・幻相坊と幻魔坊を美しい少女に変装させて、高子・宮子として高姫の侍女としてあてがった。高姫は二人の美しさに嫉妬を覚えたが、高子と宮子が自分たちは如意宝珠の玉から生まれた火と水の霊だと説明し、人間ではないことがわかると機嫌を直した。

高姫は二人を呼び入れた。高子と宮子はぱっと室内に入って左右から高姫に飛びついた。高子は火のように熱く、宮子は水のように冷たかった。高姫は寒熱に苦しんで、たちまちその場に倒れてしまった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月26日(旧12月10日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年12月29日 愛善世界社版135頁 八幡書店版第9輯 314頁 修補版 校定版138頁 普及版63頁 初版 ページ備考
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本文  高姫は妖幻坊を何処までも杢助と固く信じてゐた。而して金剛不壊の如意宝珠の力に依つて、かかる広大なる楼閣が出来たのだと思つてゐる。
『ああ、私が秋山彦の館で腹へ呑んだ時には、これだけ威力のあるものとは思はなかつた。ヤツパリ私は神力が足らなかつたのだなア。小人玉を抱いて罪ありといふ事は私の事か、同じ玉でも杢助さまがお使ひになると、こんなに立派に其神力が現はれるのだ。阿呆と鋏は使ひやうで切れるといふ事がある。使手がよければ阿呆も間に合ふ、竹光の刀でも正宗に優るものだ。ヤア私もこれから改心をしませう……イヤ改悪をしませう。杢助さまに使はれる如意宝珠は仕合せだなア。併しながら、是だけ自由自在に神力を持つてゐる男だから、天下の美人は此神力を見たならば、キツと惚れるであらう。さうなつた時は年の寄つた此高姫は、折角結構な楼閣に住みながら、お払ひ箱になつてはつまらない。どうかして如意宝珠を杢助さまの隙を伺つて吾懐に入れるか、但は呑込んで了つて、まさかの時の権利を握り、杢助さまの喉首を押へ、睾丸を握つておかねば、此高姫は安全な生涯を送る事は出来ぬ。オオさうだ さうだ、それが上分別だ。鎌の柄を向ふに握られて、こつちが切れる方を握つてるやうな事では、到底生存競争の激甚なる世に立つことは出来ない。杢助さまも偉い人だ、併し又女にかけてはズルイ男だから、これからあらむ限りの身だしなみをして、充分に蘯かしてやらねばならうまい』
と堅く決心しながら、杢助の後に従いて行く。奥殿深く進んで見れば、金、銀、瑠璃、玻璃、硨磲、珊瑚珠等にてちりばめられたる立派な宝座がある。妖幻坊は高姫を顧みて、
『オイ高さま、杢助の腕前は分つたかなア。サア、之からお前と俺とが此宝座に、日々上つて、万民の政治をするのだ、どうだ、嬉しうはないか』
『ハイ、余りの事で、あいた口がすぼまりませぬ』
と云ひながら半信半疑の念に打たれ、宝座を押へて見たり、柱を押して見たり、足元が若しや草ぼうぼうたる田圃ではあるまいかと、探つてみたり、いろいろ雑多と調べてゐる。けれども何うしても疑ふ余地がない。高姫はますます笑壺に入り、
『俄に私も出世したものだ、三千世界に高姫位仕合せな者があらうか、ヤツパリ義理天上日の出神様のお蔭だなア』
と小声に言つてゐる。妖幻坊は高姫の背を二つ三つ叩きながら、
『オイ高姫、どうだ、違ひますかなア。蜃気楼的城廓か、或は現実的城廓か、よくお調べなさい。之でも杢助の云ふ事に反きますか』
『イヤ、モウモウ感心致しました。何処までも絶対服従を致しませう』
『高姫、お前の姿を一寸見てみよ、それそこに玻璃鏡が懸つてゐる。其前に立つてみなさい』
と指示す。高姫は玻璃鏡の前に現はれると、鏡面には十七八才の妙齢の美人、金襴綾錦の立派な衣服を着流し、色あくまで白く、頭に七宝の纓絡の垂らした冠を戴き、裾を一丈許り後に垂らした美人が立つてゐる。高姫はハツと驚き、心の中に思ふ様……ハハー、杢助さまは腹の悪い男だなア。こんな結構な館を持ち、こんな美人をかくまうておき、私のやうな婆を、此処へ連れて来て、恥をかかし、悋気をささうと企んでゐるのだらう。エエ悔しい……と鏡に映つた天女のやうな美人に打つてかかる。妖幻坊は高姫の手をグツと握り、
『アハハハハ、オイ高ちやま、あれはお前の姿だよ。如意宝珠の神力によつて、三十三年許り元へ戻したのだ。お前が十八の時の姿は即ちこれだ。まだ十八の時は、こんな立派な装束を着てゐなかつたから別人のやうに見えるが、これが正真の高宮姫時代だ。此杢助はお前の皺のよつた現界的肉体に惚れたのぢやない、霊界で見たお前に惚れたのだ。随分綺麗なものだらう。それだから、高ちやまに杢助が現をぬかすも無理ではあるまいがなア。もしも疑はしいと思ふなら、お前が目を剥けば目を剥く、口を開くれば口を開く、お前の姿其儘だから、一つ調べてみたら何うだ』
『イヤもう疑の余地はありませぬ。何と立派な美い女だこと、われながら見とれますワ。之では高姫といはずに高宮姫と旧の名に帰りませうか』
『ウンさうだ、高宮姫の方が、余程優雅で崇高で、何となく雲上の人のやうに聞えて床しいやうだ』
『それなら、これから高宮姫と改めます。何卒杢助さま、旧の名を呼んで下さいや』
『ウンよしよし、就いては俺も杢助々々と言はれるのは、何だか毘舎か首陀の様だ。刹帝利に斉しき名をつけねばならうまい……ウン、お前の高宮姫の夫だから、今日から高宮彦と改名しよう』
『それなら高宮彦様、何卒天地に誓つて、どこどこまでも夫婦だといふ事を守つて下さいますなア』
『天に在つては比翼の鳥、地にあつては連理の枝、梅に鶯、仮令幾万劫の末までも、忘れてくれな、忘れはせぬぞや。サアサア之から其方の居間を案内致さう』
『ハイ有難う厶います』
と妖幻坊に跟いて、ピカピカ光る瑪瑙の板を以て造られたる長い廊下を渡り、金銀の色をなせる庭園の樹木を眺めながら、えも言はれぬ美はしき居間に案内された。高姫は既に十八才の娘気分になつて居た。
『サ、これが奥様のお居間、随分整頓して居りませうがなア』
『成程鏡台から化粧道具、絹夜具から絹座布団、金銀瑪瑙の火鉢、硨磲の脇息、紫檀の机、黒檀の障子の骨、玻璃の瓶、白檀の水屋、何から何まで立派な物で厶いますなア』
『お前は此城廓の城主の奥様だ、随分出世をしたものだらう。之から高宮彦は自分の居間に行つて休息するから、其方は此処で、今日一日はゆつくりと寛いだがよからう』
『私と一緒に、なぜ居つて下さりませぬ。何程立派でも只一人こんな所におかれては、たまらぬぢやありませぬか』
『お前は義理天上さまで厶るなり、金毛九尾様も狸、狼、大蛇、蟇其他いろいろのお客さまも厶るのだから、別に淋しい事はなからうに……』
『ソリヤ居ります。けれども、声がするばかりで、チツトも形を現はしませぬから、つまりませぬワ』
『それなら、二人程腰元を、後からつけるやうに取計らつてやる。こんな立派な城内に主人となつた者は、普通の毘舎や首陀のやうに、一間に同棲することは体面上出来るものでない。いざ高宮姫、ゆつくりなされ、高宮彦は吾居間に入つて、暫く休息を致す』
と言ひすてて、ドアを開き、悠々として、奥へ奥へと進み入る。
 高宮姫は声を限りに、
『モシ杢助さま、モウ一言お尋ね致したい事が厶います。此お城は何と云ひますか』
 妖幻坊は後ふり向いて、
『ここは今まで鶏頭城と申したが、今日より改めて高宮城と命名致す』
『ハイ、有難う厶いました。高宮城に高宮彦、高宮姫、何とゆかしい名で厶いますな、ホホホホ』
 妖幻坊は、
『左様なら』
と云ひすて、ドンドンと奥に入つた。
 すべて妖魅は変相する時は非常に苦しいものである。それ故時々人に見られない所で体を休める必要がある。高姫の今入つて居つた一間は、其実浮木の森の可なり大きな狸穴であつた。妖幻坊はモ一つ奥の楠の根元の大洞穴の中に身を隠し、他愛もなく寝て了つたのである。
 妖幻坊には幻相坊、幻魔坊といふ二人の眷属があつた。而して幻相坊は火の術をよく使ひ、幻魔坊は水の術を使ふに長じてゐた。又妖幻坊は幻術を以て、一時に数百数千の軍人を現はしたり、妙齢の美人を現はしたり、或時は老翁、或時は老婆を忽ち現はして、世人を騙る事を楽しみとしてゐた。而して妖幻坊は日々獣の肉を喰はなくては、体がもえて仕方がなかつた。又時々人肉をも、殊更喜んで喰ふのである。
 高姫は一人美はしき座敷を与へられた事を非常に喜び、知らず知らずに鼻唄さへ歌つてゐた。そこへドアを開ひて、淑やかに十四五才の女が二人、白綸子の着物に紫縮緬の袴を穿ち、美はしき漆のやうな下げ髪を紫の紐にてしばり、上に桃色の〓衣を着て、
『御免なさいませ、奥様のお居間はここで厶いますか。私は高子と申します、妹は宮子と申します。今日から高宮彦様のお指図によりまして、姫様のお小間使を仰せ付けられました。何分不束な者で厶いますれば、何卒叱つてお使ひ下さいませ』
と優しい手をついて、頭を下げ挨拶をする。高姫は二人の姿を見て、
『ああ何と、揃ひも揃つて美しい娘だなア。併しながら今はまだ年が若くて大丈夫だが、此女が二三年もたつたら、丁度私のやうな姿になるだらう。そした時は、又杢助さまが変な心を起しはすまいか』
と思ふと、俄に此二人が、何処ともなく憎らしいやうな気になつて了つた。高姫は舌長に、
『ハイ、お前は高宮彦さまの身内の者か、但は、どつからか頼まれて御奉公にあがつてゐるのか、それが聞かして欲しい、其上でお世話になりませう』
高子『ハイ、妾は父もなければ母も厶いませぬ』
『父母もない子が何処にあるものか、ハハー、さうすると、お前は捨児だなア。そして宮子、お前の父母は何と云ふかな』
『ハイ、妾も両親が厶いませぬ』
『両親の分らぬやうな子供は要りませぬ。何処の馬の骨か牛の骨か分らぬ、女つちよを、ヘン、此素性の高き高宮姫の、お小間使なんて、高宮彦さまも余りだ。コレ両人、こちらに用はないから、トツトと帰つて下さい。そして此城内には、高宮姫が今日限りおきませぬぞや』
高子『左様なれば、姫様、是非が厶いませぬ。妾と妹が両親がないと云つたのは外でも厶いませぬ、実は如意宝珠から生れた者で厶います。妾は火を守護し、妹は水を守護する霊で厶います。貴女は火と水がいらないとみえますな。左様なれば仰に従ひ帰ります』
と足早に室外へ出ようとする。高姫は驚いて、
『マママ待つて下さい、ヤ、小母さまが悪かつた。つい何う仰有るかと思うて、お前さまの気をひいてみたのだ。潮干潮満の、お前は玉だつたな。どうもそれに違ひないと思つたけれど、それとはなしに小母さまが探つて見たのだから、何卒悪く思つて下さるな』
高子『ハイ、有難う厶います、併しながら姫様から一遍追つ立てをくつたので御座いますから、私は火で厶います。何卒お暇を下さいませ。なア宮ちやま、お前さまだつて、さうでせうね』
宮子『私小母さまには追ひ出され、小父さまの所へ行つては叱られちや、立つ瀬がありませぬワ。私は水の精だから、川の瀬へでも行つて流れませうよ』
『コレコレ、高さま、宮さま、何卒、さう言はずに、私の所に居つて下さい。余り気儘な事を云つたと云つて、高宮彦さまに此小母さまも叱られる。又お前たちも叱られちや大変だぜ。サアサア、小母さまが大切にして上げるから、機嫌を直してくるのだよ』
 二人は、
『アーイ』
と細い涼しい声を揃へて云ふかと思へば、光線の如くパツと室内に入り来り、右と左から高姫に飛び付いて、
『小母さま、姫さま』
と嬉しさうに叫んだ。高子は火の如く熱く、宮子は水の如く冷たい。高姫は火と水に責められ、寒熱に苦しんで、忽ち其場に目をマハして了つた。
(大正一二・一・二六 旧一一・一二・一〇 松村真澄録)
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