小北山では、初と徳の両人が文助に乱暴して、杢助が落としたブンブン玉を奪って行ったことでちょっとした騒ぎになっていた。お菊は文助からその話を聞いて怒り、お千代に文助の介抱を任せると、初と徳を追いかけて飛び出した。
怪志の森に来てみると日が暮れてあたりは闇に包まれた。お菊は森の入り口にたたずんで思案にくれていると、ほど遠くない暗がりにウンウンとうめき声が聞こえる。
初と徳は、眼が覚めてみると玉を奪って逃げてきたときの動悸はまだ止まず、痛みも軽減していない。あたりを見れば、高姫と杢助は、自分たちを置いてどこかへ立ち去ってしまった様子である。
お菊は二人の話をすっかり聞いて、高姫と杢助が、曲輪の玉を持って逃げてしまったことを悟った。お菊は文助の声色を使い、幽霊のふりをして二人をおどかしにかかった。
初と徳は、高姫がまだその辺にいて、おどかしているのだと勘違いした。お菊は今度は高姫と杢助の声色を使い、高姫と杢助が二人を使い捨てにしたことをなぞって二人をたきつけた。そして高姫のふりをして、暗闇の中から杖で二人を殴りつけた。
二人は、高姫が暗がりから叩いているのだと思って怒り散らしながら右往左往している。お菊は杖を打ち振って手当たり次第に殴り倒し、笑い声を残すと森を立ち出で、息を殺して二人の様子を考えていた。