救世主の詠んだ詩を吟じながら旅装束に身を固めて月夜にやってきたのは、ランチ将軍の副官であったガリヤであった。ガリヤは浮木の森の陣中で、村の美人マリーに慕われ密会を続けていたが、マリーはほどなくして亡くなってしまった。
ガリヤはひそかにマリーの死骸を浮木の森の墓所に葬り、墓の石を目印に立てていつか時を見て立派に祀ってやろうと思っていた。治国別に帰順して三五教の使徒となり、治国別の添書を持ってケースと共に斎苑の館に修業に行く途中、一人で墓所に参るためにケースを先に行かせたのであった。
ガリヤはマリーの墓にて慨嘆久しうし、涙をそそいだ。そしてまた宣伝歌を歌いながら月夜を進んで行った。ガリヤは椿の木蔭までやってくると、石に腰かけて煙草をくすべながら、浮木の森をながめて自分たちの身の上の移り変わりに想いを馳せていた。
ガリヤはいつの間にか大きな城郭が立っていることをいぶかしんでいる。すると人声がするので探り寄ってみれば、三人の男が真っ裸となって萱の茂みに何やら言い合っている。
ガリヤが様子を見れば、初、徳、ケースの三人が狸に化かされたことに気が付き、互いに名乗りあっていた。ガリヤは狸にだまされた三人の目を覚まそうと臍下丹田に息をつめ、ウーと発生した。三人は椿の根元に集まってきた。
一同が確認してみれば、初と徳が泉だと思っていたのは肥壺であった。枝にかけられた糞まみれの着物は異様の臭気を放っている。四人はこれはたまらぬと北へ北へと逃げて行った。