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文献名1霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻
文献名2第1篇 鶴首専念よみ(新仮名遣い)かくしゅせんねん
文献名3第4章 俄狂言〔1340〕よみ(新仮名遣い)にわかきょうげん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-10-07 18:40:51
あらすじ
半時ばかりすると、初稚姫がスマートを伴い、宣伝歌を歌いながら降ってくる姿が木の間から見えだした。二人は互いに注意しながら身ぶり足ぶりなどして三番叟の下稽古をやっている。

初稚姫は、イクとサールが道連れを望んで待ち構えていることを見抜いており、自分の神業には供は許されないと宣伝歌に歌いこんで二人に言い聞かせた。

二人はこの歌を聞いて失望落胆の色を表したが、サールは気を取り直して口拍子をとって歌いだした。イクも引き出されて歌いながら踊りだした。両人は谷道をふさぎ、御供を従えて行くも神の恵みだと歌って踊り狂った。

スマートは顔を塗った二人を不審を抱いたが、イクとサールだとわかると、尾を振りながら二人の間に分け入って吠えたてた。イクとサールはそれを合図に三番叟を舞い終えた。

イクとサールは改めて初稚姫にお供を申し出たが、初稚姫は自分は一人旅を命じられており、またイクとサールは珍彦の配下とて勝手に連れて行くわけにはいかないと説き諭した。

イクとサールは目配せすると、懐に用意していた腰帯を樫の木の梢にかけて、あごを吊ってしまった。スマートはこれをみて驚き、二人を助けるように初稚姫を促す。初稚姫は手早く二人の体を抱えて持ち上げ、救い下ろした。

初稚姫は二人の熱烈なる願いを聞くわけにゆかず、しばし涙に暮れて考えていた。両人がやや正気になったのを幸い、初稚姫はたちまち神に祈ってその身を大熊と変じた。スマートは唐獅子となって二人に向かって目を怒らし、唸って見せた。

二人は驚いて両手を合わせ、一言も発せずその場にうつむいて震えている。初稚姫は元の姿に戻り、スマートは巨大な獅子と化し、姫を背に乗せて荒野ケ原を一目散に進んで行く。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月29日(旧12月13日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年1月28日 愛善世界社版49頁 八幡書店版第9輯 397頁 修補版 校定版52頁 普及版23頁 初版 ページ備考
OBC rm5204
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本文  イク、サールの両人は、三番叟の準備を整へて、初稚姫の来るを今やおそしと待ち構へて居た。半時許り経つて、初稚姫はスマートを伴ひ、声爽かに宣伝歌を歌ひながら降り来る姿が、木の間をもれてちらりちらりと見え出した。二人は「サアこれからが性念場だ、ぬかつてはならぬ」と互に注意しながら、身振足振などして三番叟の下稽古をやつて居る。
 初稚姫は声淑かに歌ふ。
『産土山の聖場を  後に眺めて大神の
 任けのまにまに進み往く  吾は初稚姫の司
 祠の森に立寄りて  醜の魔神につかれたる
 高姫司を初めとし  妖幻坊の曲津神は
 父の命と偽りて  あらゆる曲を遂行し
 珍の聖場を蹂躙し  曲津の棲家を作らむと
 企み居たりし忌々しさよ  神の恵に守られて
 妾は祠の森に入り  神の依さしの神業に
 心を尽し身を尽し  曲の身霊を言向けて
 天国浄土に救はむと  思ひし事も水の泡
 今はあへなくなりにけり  皇大神の御前に
 前途の幸を祈りつつ  珍彦夫婦や楓姫
 百の司や信徒に  惜しき袂をわかちつつ
 神のたまひしスマートを  長途の旅の力とし
 神の恵を杖として  漸く此処に進み来ぬ
 谷の流れは淙々と  自然の音楽奏しつつ
 木々の若芽は春風に  そよぎて自然の舞踏なし
 人跡稀なる谷間も  さも賑しき鳥の声
 緑紅青黄色  其外百の花の香は
 妾が眼を慰めつ  実にも長閑な春の空
 ホーホケキヨーの鶯の  其鳴き声に何となく
 神の救ひの御声あり  妾は素より一人旅
 教の司を伴ひて  長途の旅は許されず
 又吾とても神の道  進み行く身に供人を
 携へ行かむすべもなし  如何なる曲の来るとも
 絶対無限の大神の  御稜威に守られ行く上は
 怖るるものは世にあらじ  ああ惟神々々
 神の恵の有難さ  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  醜の曲津は猛ぶとも
 思ひ定めし一人旅  如何でか供を許さむや
 さはさりながら山口の  樫の根元にイク、サール
 目も白黒と顔を塗り  吾に従ひ進まむと
 手具脛ひいて待ち居たる  其赤心は嘉すれど
 神の許さぬ道連れを  如何でか妾が許し得む
 ああ、イク、サール両人よ  妾が心を推し量り
 斯かる望みを打ち捨てて  一時も早く聖場に
 帰りて神に仕へませ  神は汝と倶にあり
 たとへ吾等に従ひて  いづくの果に来るとも
 神の許しのなき上は  如何でか望みの達すべき
 諦めたまへ二柱  初稚姫が慎みて
 心の丈を隈もなく  汝が身の前に打ち明し
 その赤心の厚きをば  謹み感謝し奉る
 ああ惟神々々  御霊幸倍ましませよ』
と歌ひながら急坂を下り、一歩々々近づき来る。二人は此歌を聞いて失望落胆の色を現はしながら、
イク『オイ、色の黒き尉殿、あの歌を聞いたか、遉は初稚姫様だ、ちやんと俺達が顔に白いものや黒いものまで附けて、此処に待つて居る事まで御存じと見えて、「目を白黒、顔を塗り立てて」と仰有つたぢやないか。こいつは駄目かも知れぬぞ』
サール『イヤ、色の白き尉殿、必ず必ず御心配召さるな』
と云ひながら片手に扇を持ち、片手に梢を携へ、妙な腰付をして足拍子を揃へ、サールは、
『トートータラリ、トータラリ、タラリーリ、トータラリヤー、タラリ、トータラリ、朝日は照るとも曇るとも、オンハ、カッタカタ、エンヤハ、オイ、カッタカタ』
と口拍子を取りながら歌ひだした。イクも亦引き出されて真白の顔をさらしながら、
イク『月は盈つとも虧くるとも、仮令大地は沈むとも』
サール『初稚姫の御供に
 エンヤ、カッタカタ
 オンハ、カッタカタ
 仕へまつらで置くべきか
 抑々三五の神の教は
 敵でも餓鬼でも虫族でも
 助くるー道なりー助くるー道なり』
イク『かるが故に
 如何に初稚姫の神なりとて
 此色の白き尉殿や
 まつた この色の黒き尉殿が
 赤心こめて願ぎまつる
 ハルナの都の御供を
 許させたまはぬ
 事やあるべき。
如何に色の黒き尉殿、ここは吾々両人、天津乙女の舞を奏でて初稚姫の御心を和らげ、許され難き御供に、たつて仕へまつらうでは厶らぬか』
サール『されば候、天津乙女の舞、速に御舞ひ候へ、かく舞ふ時は天女に等しき初稚姫、祠の森の元の屋敷に御直り候ふべし。オンハ、カッタカタ、エンハ、カッタカタ、カッタリコ カッタリコ、カッタ カッタ カッタリコ、エンヤ、オンハ、此世を造り給ひし神直日の神、御心も広き大直日の神、唯何事も人の世は、直日に見直し聞き直し、如何なる事も宣り直し給ふ、尊き神の御使と、現はれ給ふ初稚姫、世人を救ふ宣伝使と、現はれ給ふ御身なれば、如何でか吾等が熱心なる願を許し給はざる事のあるべき。朝日は照るとも曇るとも、四辺に響く滝の水、抑これの滝水は、産土山の山麓より落ち来る恵の露の暫し木の葉の下潜りつつ、河鹿の河に流れ来て、此処に滝とぞなりにける。抑これの流れは、産土山に湧き出でし時は、僅かの露にてありしもの、流れ流れて谷々の、小川の水を一つになし、斯くも目出度く麗しき瑞の御霊の滝とぞなりにける』
イク『初稚姫もその如く、産土山を出で給ひし時こそ、木の葉の露に等しき御出立ち、繊弱き乙女の旅衣、語らふ友もなかりしに、神の恵のあら尊、畜生の身をもつて、其御供に仕へまつりたる、スマートを添へ茲に征途に上らせ給ふ、其有様を譬ふれば、この滝水の次第々々に、行くに随ひ水量増り、小川を合せて太り行く如く、御供の神を数多従へ、出でますべきは天地の道理ならめ、あら有難や尊しやな、今や吾目の前に御姿を現はし給ひし初稚姫、御供に仕へさしてたび給へ、色の白き尉殿と黒き尉殿が、黒白も分ぬ闇の世の救ひのために、天地の神に誓ひまつりて、姫が御前に願ぎまつる。オンハ、カッタカタ、エンハ、カッタカタ、カッタ カッタ カッタリコ、カッタリ カッタリ カッタリコ、エンヤ、オンハ』
と両人は谷道を塞ぎ、一生懸命に踊り狂ふ。遉の初稚姫も二人の理詰に答ふる言葉もなく、少時茫然として二人の舞を眺め居たりき。スマートは二人の顔の変つたのに不審を抱き、首を傾げて考へて居たが、やつとの事でイク、サールの両人の戯れなる事を知り、二人の中に分け行つて、尾を掉りながら、ワンワンワンと二声三声吠え猛るや、イク、サールの両人は、やつとの事で三番叟を舞ひ納めた。一生懸命に茲を先途と踊り狂うたのだから、ビツシヨリ汗に濡れ、何とも形容の出来ぬ化物面になつて仕舞つた。
『ホホホホホ、貴方はイク、サールの司ぢやありませぬか。何時の間に斯様な所にお出になつたのです。珍彦さまが嘸心配をしてゐらつしやるでせう。サア早く帰つて神様の御用をして下さい。さうして又其顔はどうなさつたのですか。本当にみつともない、お化のやうですわ。三番叟が済みましたら、早く此谷川でお顔をお洗ひなさいませ。どこの方が通られるか知れませぬよ。旅のお方が貴方等のお顔を見たら、キツト吃驚せられますからなア』
イク『イヤモウ大変な目出度い事で厶いました。貴女の御旅行について、天の大神様が吾々にお供をせいと仰有つての事か、思はず知らず此処まで体が宙に飛んで参りまして、生れてから初めての三番叟を踏まされました。何卒惟神と思召して、何処までもお供にお連れ下さいますやう、偏にお願ひ申します』
サール『どうぞ、私もイクの申した通り、是非ともお供をさして頂きたう存じます』
『折角の思召を無にするのも苦しう厶いますが、最前申した通り、妾は供は許されないのですから、どうぞそれだけは堪へて頂きたう存じます』
イク『そこを、たつてお願ひ申したいと存じ、合す顔が厶いませぬので、此通り白く黒く塗りまして、お願ひ申したので厶います。何と仰有つても私はお供を致します。珍彦様に許しも受けず、勝手に飛び出して来たので厶いますから、此儘帰る事は出来ませぬ。吾々を助けると思うて何卒お許しを願ひます。何程神様のお道だと申しても、特別のお取扱ひ破格の思召と云ふ事が厶いませう。其処は神直日、大直日に見直しまして、お許し下さるが人を助ける宣伝使の役ぢや厶いませぬか』
『本当に困りましたなア。併しながら、貴方は祠の森の神司珍彦様の支配を受けねばならぬお方故、私が勝手につれて参る訳には参りませぬ。そんな無理を仰有らずに、早く帰つて下さい。それが神様に対する第一の務めで厶いますからなア』
イク『アヽ是程頼んでも聞いて下さらねば、最早是非がない。オイ、サール、愈決死隊だ』
と目配せする。茲に両人は懐に用意して置いた腰帯を樫の木の梢にパツと手早く引つかけ、顎を吊つてプリンプリンと三番叟の舞は、忽ち住吉踊りの人形とヘグレて仕舞つた。スマートは此体を見て驚き、ワンワンと吠立て、初稚姫の身の廻りをウロウロしながら袖をくはへて「早く両人を助けて下さい」と、口には云はねど其形容に現はし、悲しき声を絞つて啼く。初稚姫は手早くブラ下つた体をグツと抱へ、五寸ばかり持ちあげて二人とも救ひ下した。二人は気が遠くなつて呆然として居る。初稚姫は二人の熱烈なる願ひを聞く訳にもゆかず、断る訳にもゆかず、暫し涙に暮れて考へて居たが、やや両人が正気になつたのを幸ひ、忽ち神に祈り、身を変じて大熊となり、スマートは唐獅子となり、目を怒らし足掻をしながら、ウーウーと二人に唸つて見せた。二人は吃驚して両手を合せ一言も発し得ず、其場に俯向いて慄うて居る。初稚姫は再び元の姿となり、スマートは巨大なる獅子と化し、初稚姫を背に乗せて荒野ケ原を一目散に進み往く。
(大正一二・一・二九 旧一一・一二・一三 加藤明子録)
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