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文献名1霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻
文献名2第2篇 文明盲者よみ(新仮名遣い)ぶんめいもうじゃ
文献名3第7章 玉返志〔1343〕よみ(新仮名遣い)たまかえし
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-11-07 17:56:10
あらすじ
小北山の受付には、文助爺さまが初、徳の両人に頭をかち割られ、それから発熱して床についてしまっていた。魔我彦やお寅も不在のため、にわかに人手不足となった。お菊は受付兼神殿係を兼務し、参詣してくる病人の祈願もなし、説教を聞かせるなど多忙を極めていた。

お菊はあまりの忙しさに思わず独り言に愚痴をいいながら、受付で眠り込んでしまった。そこへ六十ばかりの爺が十二三の娘を背中に背負い、トボトボとやってきた。爺の呼びかけでお菊は目を覚ました。爺は、孫がのどをつまらせたので、至急鎮魂をしてほしいと言う。

お菊は紫の袴を着け、祭壇の前に娘を置いて天津祝詞を奏上し、祈願をこらした。お菊は汗を流して一生懸命祈願したが、効果は現れず、娘はますます苦しむばかりである。

お千代は用の間に階段を降ってきてみると、怪しい爺が庭の隅に青い顔をしてしゃがんでいる。神殿を見ると、お菊が一生懸命に祈願をこらしている。お千代は、受付が空いているのでしばらく代理を務めていた。

そこへ、坂道を登って息をはずませながら、イクとサールがやってきた。二人は、お千代との問答から初稚姫がここに来ていることを知った。お千代にあしらわれた二人は、ともかくお宮を巡拝することにした。

庭の隅に座っている爺は、二人を見るとビリビリふるえだした。爺は、孫に鎮魂させるためにやってきただけだと言い訳した。

お菊は祈願すればするほど娘は苦しみ悶えだす。娘は息が詰まった風になったので、受付にいたお千代は驚いて側に寄ってみれば、娘の尻に大きな狸の尾が見えた。お千代はこれは化け物に違いないと、外へ飛び出すと、イクとサールを手招きした。二人は巡拝を一度打ち切って、戻ってきた。

受付の横にいた怪しい爺はいつのまにか姿を消し、妙齢の美人が座っている。イクとサールはどこかで見た女だと思いながら、お千代について神殿に進み、祝詞を奏上した。

お千代は娘の背中を天の数歌を歌ってポンポンと二つ叩いた。くわっと音がして飛び出したのは、直径一寸ばかりの水晶玉だった。娘と受付にいた女はたちまち古狸となり、逃げて行った。

お千代とお菊は、イクとサールから水晶玉の由来を聞き、狸の祈祷をさせられたのだと知って笑い転げた。四人は真心をこめて一生懸命に感謝祈願の祝詞を奏上した。

イクとサールは水晶玉を一度狸に取られた話でお菊とお千代からからかわれた。受付にて湯にのどを潤すと、二人は各神社を参拝し始めた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月29日(旧12月13日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年1月28日 愛善世界社版91頁 八幡書店版第9輯 412頁 修補版 校定版95頁 普及版41頁 初版 ページ備考
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本文  小北山の受付には、文助爺さまが初、徳の両人にしたたか頭をかち割られ、それから発熱して床につき、時々囈言を云ひ、大勢の信者や役員が頭を悩ましてゐる。そして魔我彦は不在なり、初、徳の両人は遁走し、俄に運用機関は殆ど停止の厄に遭うた。お菊は勝気な女とて、受付兼神殿係を兼務し、参詣して来る病人の祈願をなし、或は説教を聞かせ、又受付に現はれて、目も廻るばかりの多忙を極めて居つた。お菊はホツと持て余し、体は縄のやうになつて、チツとばかり愚痴り出した。
『あああ、受付と云ふ役は何でもないものだ、遊び半分に何時も文助さまが絵を描いてゐる。之も用がなくて暇潰しにやつてゐるのだらうと思うて居つたが、中々自分がやつて見ると忙しいものだ。鎮魂もしてやらねばならず、御祈願もせなならず、ホンにホンに文助さまも御苦労だつたなア。何卒早く治つてくれれば可いに、これ丈そこら中に美しい花が咲いてるのに、花摘みに行く事も出来やしない。そこへ又初稚姫様が御越しになつたものだから、松姫さまは忙しいのでチツとも手伝うては下さらず、お千代さまもお宮のお給仕やなんかで忙しいさうだし、本当に厭になつちまつた。せめて魔我さまなつと帰つてくればよいのに、気の利かぬ奴だな。万公さまも万公さまだ、何処を一体彷徨いてるのだらう。帰つて来りや可いに、そしたら又惚れたやうな顔をして、退屈ざましに嬲つてやるのだけれどなア。あああ仕方がないワ、何程きばつた所で、先繰り先繰り婆、嬶がやつて来るのだから、お菊さまもやり切れない。一つここらで昼寝でもやつたらうかなア。此夜の短い日の永いのに、睡ぶつたくて仕様がないワ。椿の花でさへも居睡つて、ボトリボトリと首を抜かして溜池の鮒を脅かし、水面を真赤に染めてゐる。私だつて生物だから、チツとは休養もせなくちや叶ふまい』
と独言を言ひながら、グツと眠つて了つた。そこへ、六十許りの爺が十二三の娘を背中に負ひ、トボトボとやつて来た。
『ハイ、御免なさいませ、私はつひ近在の首陀で厶いますが、娘が喉に鯛の骨か何かを立てまして、苦しみ悶え、息が切れさうになつて居ります。何卒神様の御神徳で除つて頂くことは出来ますまいかなア』
 居眠つてゐたお菊はフツと目をさまし、
『ウニヤ ウニヤ ウニヤ ウニヤ、ようお出でなさいませ、随分日の永いこつて厶いますな。モウ何時ですか』
『まだ四つ時で厶います。至急に御願ひ致したい事が厶いますので、お世話に預かりたいと思ひ参りました。之は私の孫で厶いますが、喉に何だか立ちまして、困りますので鎮魂とやらをして貰ふ訳には行きませぬだらうかな』
『ヘー、宜しい、併し住所姓名を伺ひます』
『ハイ、住所姓名は後から申上げます。此通り孫娘が危急存亡の場合で厶いますから、早く御祈願をして頂きたいもので厶います』
『それなら特別を以て、先にする手続を後にし、お願ひ致しませう。併しながら此子の名を聞きませぬと、願ふ訳には参りませぬワ』
『それは御尤もで厶います。娘の名は滝野と申します』
『ハイ宜しい、サア此方へ連れて来なさい。大神様に願へば直様助けて下さいます。サ、お爺さま、お上りなさい』
『甚だ申し兼ねますが、此通り草鞋をはいて居りますから、足が汚れて居ります。何卒娘だけ上げて下さいませ』
と背中から下した。娘は転げるやうにして、お菊が願ふ祭壇の前に行つた。お菊は紫の袴を着け、白い着物の上に格衣を羽織つて中啓を持ち、恭しく天津祝詞を奏上し、祈願を凝らした。お菊が熱湯の汗を流しての一生懸命の祈願も容易に効顕はれず、娘は益々苦しみ悶えるばかりである。お千代は用のすきまに階段を下つて受付へ来て見ると、怪しい爺が庭の隈に青い顔してしやがんでゐる。神殿を見れば、お菊が一生懸命に祈願を凝らしてゐた。お千代は之を見て、
『受付はサツパリ空屋だ。どれ暫く私が代理を勤めておかうか』
と云ひながら、受付にチヨコナンと坐つてみた。そこへ坂路を登つて、息をスースー喘ませながら二人の男がやつて来た。これはイク、サールの両人である。
イク『御免なさい、私は祠の森のイク、サールといふ者で厶います。もしや初稚姫様はスマートといふ犬を連れてお立寄になつては居りませぬか』
『それはようお出でなさいました。マア御一服なさいませ。夜前からお見えになつて居りますが、お母さまと何だか御話がはづんで居ります。何れ手があきましたら御知らせ致しますから、此境内のお宮様を一遍、御巡拝なさいませ』
『イヤ有難う、兎も角参拝さして頂きませう。オイ、サール、まだ十二三らしいが随分しつかりしたものだね。小北山はこんな小さい子供で受付が出来るのだから、大したものだよ。イルやハルの奴、偉さうに受付面を晒しよつて酒ばかり喰ひ、筆先だとかいつて紙ばかり使ひよつて、日の暮れるのばかりを待つてゐるサボ先生とはえらい違だなア』
『本当に感心だ。コレ受付さま、お前さまの名は何と云ひますか』
『私の名を尋ねて何となさるのですか。別に用がないぢやありませぬか』
『イヤもう恐れ入りました、それならモウお伺ひ致しませぬワ』
『ハハハハ、サール、とうと、やられよつたな。恥を知れよ』
『貴様なんだ、肝腎の水晶玉を犬にとられたぢやないか。犬かと思へばド狸につままれよつて、スコタンを喰はされ、おまけに悪口雑言を浴びせかけられ、よい恥をさらしたぢやないか、偉さうに言ふまいぞ』
『そりやお互さまだ、こんな所へ来て、そんな馬鹿な事を云ふ奴があるかい』
『何とマアお前さま達は、どこともなしに空気のぬけた面をしてますね。今聞きますれば玉を取られたとか仰有いましたが、本当にラムネの玉落みたいなお方ですねえ、ホホホ』
イク『ヤ、此奴ア恐れ入ります、お面、お小手、お胴といかれてけつかる。ヤアこはいこはい、サ、サール行かう』
『オイ一寸待て、此爺さまは、怪しいぢやないか。俺達の顔を見るとビリビリ慄うてゐるぞ』
『ホンにけつ体な爺さまだなア。オイ爺さま、お前一体何処から参つたのだい』
『何卒、そんな事云つて下さるな。孫が大変な病気にかかつて苦しんで居るので、今ここへ願つて貰ひに来たのだよ。病気にさはるから、お前さまは早くお宮さまへ参つて来なさい』
『オイ、サール、兎も角神様へ御挨拶が肝腎だ、サ参らう』
と云ひながら、受付を立つて沢山の宮を一々巡拝し始めた。お菊は一生懸命に頼んでゐる。娘は次第に苦しみ悶えだし、喉につまつた鯛の骨はますます深くおち込んだものか、息が殆どつまり、無我夢中になつて空を掴み出した。お千代は吃驚して、側へよつて見れば、大きな狸の尾が娘の尻からみえてゐる。此奴は化物に相違ないと、早速外へ飛出し、イク、サールの両人を「早く早く」と手招きした。両人は何事か急用が出来たらしいと、巡拝を半にして打切り、後から拝む事とし、スタスタと帰つて来た。今まで受付の横に慄うてゐた爺の姿は何時しか消えて、妙齢の美人が坐つてゐる。二人はどつかで見た事のある女だと思ひながら、お千代に跟いて神殿に進み、祝詞を奏上した。娘は益々苦しみ出した。お千代は娘の背中を、天の数歌を歌うてポンポンと二つ叩いた拍子に、クワツと音がして飛出したのは鯛の骨でもなく、直径一寸許りの水晶玉であつた。一同はアツと驚く間もなく、娘は忽ち古狸となり、受付に居つた女も亦同じく大狸となつて、一生懸命に山越しに姿を隠して了つた。
イク『ヤア畜生、ザマを見い、ウマク俺をチヨロまかして、水晶玉を盗みよつて、神罰が当つて喉につまり、仕方がないものだから、こんな所へ化けて助けて貰ひに来よつたのだな。ヤア今度は確かり気を付けなくちやならないぞ。ヤア娘さま、貴女のお蔭で宝が元へ帰りました、有難う厶います。イク重にも御礼申します』
千代『貴方、狸と御親類で厶いますか、どうして又あの玉を取られたのです?』
『イヤ、お話し申せば恥かしう厶いますが、此玉の手に入つた由来から、取られた因縁を申し上げねばお疑ひが晴れますまい。それでは逐一申上げます』
と狸に騙されて水晶玉を取られた顛末を詳細に物語つた。お千代とお菊は転けて笑つた。
『アレマア、馬鹿らしい、狸に御祈祷を頼まれたのだワ。何だか耳が動くと思うて居つたのよ。お千代さまのお蔭で、狸も助かり、私も助かりましたワ。モウ此上お祈りをしようものなら、息が切れる所でしたワ』
『オイ、イク、貴様に持たしておくと、どうも剣呑だ、今度は俺が持つて行くから此方へ渡せ』
『メメ滅相な、俺が持つて居つたら可いぢやないか。貴様の様な慌て者に持たしておくと気が気でならぬワ。マア子供は大人に一任した方が安全だよ』
『ヘン、仰有いますワイ。何卒狸に取られぬ様に確かり御監督を願ひますよ。何は兎もあれ、神前に御礼を申しませう』
と四人は横縦陣を作り、赤心を籠めて一生懸命に感謝祈願の詞を奏上した。

イク『妖怪に騙し取られた宝玉も
  神の恵に吾手に還れり』

サール『イクの奴まぬけた面をしてる故
  狸の奴に眉毛よまれし』

イク『馬鹿云ふな貴様が曲津につままれて
  首つり女と見違へた故よ』

サール『横面を狸の奴に擲られて
  田圃に落ちし可笑しき奴かな』

イク『イクらでも人の悪口つくがよい
  善言美詞の道を忘れて』

サール『馬鹿云ふな俺の睾丸握らうと
  思うて頭擲られた癖に』

イク『擲りたる男に又も擲られて
  サールの馬鹿がベソをかくなり』

サール『其様な減らず口をば叩くなら
  水晶玉をこつちへ渡せよ』

イク『水晶の霊なればこそ水晶の
  玉の守護をさせられてゐる』

サール『玉脱けの間抜男が水晶の
  玉を抱いて罪を作るな』

イク『この玉は小北の山の皇神の
  守りと二人の恵にかへれり。

 さりながらサール心を持ち直せ
  お前の罪が玉を汚せば。

 汚れなば又この玉は逃げて行かむ
  サールの玉をまたも嫌ひて』

お千代『水晶の瑞の御霊は何神に
  頂きましたか聞かまほしさよ』

イク『この玉は日の出神の賜ぞ
  いや永久に離されぬ玉』

お千代『放せとは誰も言はねど油断から
  狸の奴に取られ玉ふな』

イク『これは又思ひもよらぬお言葉よ
  万劫末代放しは致さぬ』

お菊『玉脱けのやうな面した二人男の
  この行先が案じられける。

 初稚姫神の命は此二人を
  嫌ひ玉ふも宜よとぞ思ふ。

 どことなく虫の好かないスタイルだ
  バラモン軍に居つた人だらう』

イク『女にも似合はずよくもベラベラと
  大人なぶりの骨嬲りするよ』

サール『吾とても男と生れた上からは
  女に負けて居れるものかい。

 乙女子よがんぜなしとて余りだよ
  荒男をば嘲弄するとは』

お菊『嘲弄する心は微塵もなけれども
  何とはなしに可笑しくぞなる』

お千代『お菊さま私も二人の顔をみて
  空気ぬけ野郎と思ひましたよ。

 ド狸に玉を取られてメソメソと
  吠面かわく男なりせば』

サール『これ程に口の達者な乙女子が
  居るとは知らず訪ね来しよな』

イク『この乙女一筋縄では行かぬらし
  侠客育ちの生地が見えてる』

お千代『松彦や松姫さまを親に持つ
  お千代の方を知らぬ馬鹿者』

イク『これはしたり松彦さまの嬢様か
  知らぬ事とて御無礼しました』

お千代『あやまれば別に咎めはせぬ程に
  これからキツト謹しむがよい』

イク『狸には大馬鹿にされ梟には
  笑はれ又も馬鹿をみるかな』

サール『アハハハハ呆れて物が言はれない
  彼方此方に化物が出る。

 この女眉毛に唾をつけてみよ
  キツト尻尾がついて居らうぞ』

お千代『面白い狸のやうな面をして
  つままれるのは当然ぞや』

サール『どこまでも二人の乙女に馬鹿にされ
  どこで男の顔が立たうか』

イク『何よりも水晶玉が手に入らば
  何と云はれても辛抱せうかい。

 此様なお転婆娘があればこそ
  尻尾を出した化狸野郎。

 お千代さまお前のお蔭で宝玉が
  返つたのだから拝みますぞや』

お千代『お菊さまこんな腰抜男等に
  玉を与へた神は何神』

お菊『義理天上日の出神の格だらう
  魂も調べず渡す神なら。

 真正の日の出神は此様な
  頓馬男に渡す筈なし』

と互に揶揄ひながら、受付に集まつて白湯に喉を潤ほし、それより二人は各神社を参拝し始めた。
(大正一二・一・二九 旧一一・一二・一三 松村真澄録)
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