小北山の受付には、文助爺さまが初、徳の両人に頭をかち割られ、それから発熱して床についてしまっていた。魔我彦やお寅も不在のため、にわかに人手不足となった。お菊は受付兼神殿係を兼務し、参詣してくる病人の祈願もなし、説教を聞かせるなど多忙を極めていた。
お菊はあまりの忙しさに思わず独り言に愚痴をいいながら、受付で眠り込んでしまった。そこへ六十ばかりの爺が十二三の娘を背中に背負い、トボトボとやってきた。爺の呼びかけでお菊は目を覚ました。爺は、孫がのどをつまらせたので、至急鎮魂をしてほしいと言う。
お菊は紫の袴を着け、祭壇の前に娘を置いて天津祝詞を奏上し、祈願をこらした。お菊は汗を流して一生懸命祈願したが、効果は現れず、娘はますます苦しむばかりである。
お千代は用の間に階段を降ってきてみると、怪しい爺が庭の隅に青い顔をしてしゃがんでいる。神殿を見ると、お菊が一生懸命に祈願をこらしている。お千代は、受付が空いているのでしばらく代理を務めていた。
そこへ、坂道を登って息をはずませながら、イクとサールがやってきた。二人は、お千代との問答から初稚姫がここに来ていることを知った。お千代にあしらわれた二人は、ともかくお宮を巡拝することにした。
庭の隅に座っている爺は、二人を見るとビリビリふるえだした。爺は、孫に鎮魂させるためにやってきただけだと言い訳した。
お菊は祈願すればするほど娘は苦しみ悶えだす。娘は息が詰まった風になったので、受付にいたお千代は驚いて側に寄ってみれば、娘の尻に大きな狸の尾が見えた。お千代はこれは化け物に違いないと、外へ飛び出すと、イクとサールを手招きした。二人は巡拝を一度打ち切って、戻ってきた。
受付の横にいた怪しい爺はいつのまにか姿を消し、妙齢の美人が座っている。イクとサールはどこかで見た女だと思いながら、お千代について神殿に進み、祝詞を奏上した。
お千代は娘の背中を天の数歌を歌ってポンポンと二つ叩いた。くわっと音がして飛び出したのは、直径一寸ばかりの水晶玉だった。娘と受付にいた女はたちまち古狸となり、逃げて行った。
お千代とお菊は、イクとサールから水晶玉の由来を聞き、狸の祈祷をさせられたのだと知って笑い転げた。四人は真心をこめて一生懸命に感謝祈願の祝詞を奏上した。
イクとサールは水晶玉を一度狸に取られた話でお菊とお千代からからかわれた。受付にて湯にのどを潤すと、二人は各神社を参拝し始めた。