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文献名1霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻
文献名2第4篇 怪妖蟠離よみ(新仮名遣い)かいようばんり
文献名3第21章 狸妻〔1357〕よみ(新仮名遣い)りさい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-12-18 18:05:42
あらすじ
四人は美しい奥の一間に導かれた。ガリヤは終始注意の眼であたりの不可解な光景を凝視していた。初と徳は、その場に現れた高宮姫を見て、どことなく高姫に似ていると首をひねっている。

高宮姫は、杢助が高宮彦となり、初と徳が奪い返してきた曲輪の神力によって、このような壮麗な城郭ができあがり、自分も若返ったのだと初と徳に自慢げに説明した。初は、杢助と高姫の仕打ちに文句を言うが、この曲輪城の左守と右守に任じるという高宮彦・高宮姫の言にすっかり有頂天になり、手なづけられてしまった。

高宮姫は、左守の妻は初稚姫、右守の妻は宮野姫と決められていると告げた。ケースは不服を言い、職務と結婚は別だと言い出した。そこで次の間に控えている初稚姫と宮野姫に、それぞれ言い寄って夫婦を決めることになった。

徳公は、考えてみれば、また狸にだまされているようでここは怪しいと注意をした。ガリヤは目がくらんですっかり高宮彦を信じてしまっている。そこへ四五人の美人が現れ、その中のサベル姫が徳公に言い寄ってきた。

徳公は、サベル姫の容貌に目がくらみ、目じりを下げてサベル姫の居間に導かれてしまった。そこへ四人の美人がやってきて、徳公の体に食らいつく。徳公は、体をかじられて血を吸われているのにもkがつかず、良い気分になり、しかし段々青くなってぐったりと寝てしまった。

ガリヤは心の中に神言を称えながら、警戒しつつ呆けたような顔を装って様子を考えていた。高宮姫はガリヤをうまく説きつけようと全力を尽くし、副城主の地位をもちかけた。ガリヤは副城主の地位に未練があるふりをして高宮姫を安心させた。

いつの間にか高宮彦がいなくなっていたので、後を追って高宮姫も出て行った。後にガリヤ一人が居間に残された。ガリヤが考え込んでいると、さきほどのサベル姫がやってきて、徳公は嫌になったとガリヤに色目を使う。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年02月10日(旧12月25日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年1月28日 愛善世界社版251頁 八幡書店版第9輯 469頁 修補版 校定版260頁 普及版112頁 初版 ページ備考
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本文  ガリヤ、ケース、初、徳の四人は、八人の美女に導かれ、美はしき広き奥の一間に請ぜられた。ケースは何となく、女の美はしさと殿内の荘厳さに打たれて呆気に取られてゐる。ガリヤは始終注意の眼を放つて、四辺の不可解な光景を凝視してゐた。初、徳両人は曲輪城の城主高宮彦及び高宮姫の此場に現はれたのを見て、余程容貌は変つて居れども、どこともなく、高宮姫は小北山で見た高姫に似てゐるので、しきりに首を傾けてゐた。高宮姫は初、徳を見て打笑ひ、
『ホホホホホ、初さま、徳さま、これには恐れ入りましただらう。高宮彦といふのは杢助さまだよ。そして高宮姫はかう若く見えてもヤツパリ高姫だよ。お前が取つて来てくれた曲輪の神力に依つて、斯の如き荘厳美麗なる城廓が瞬く間に出来上がり、又妾の容貌が元の十八に返り、斯の如き容色端麗なる美人となつたのも曲輪の神力だよ。お前はよいことをしてくれましたねえ』
初『貴女等は私たちに骨を折らせておきながら、怪志の森からドロンと消えて了ひ、足の立たない両人を置去りにした上、石をぶつかけて逃げるとは、チツとひどいですな。初は恨んで居ましたよ』
『ホホホホホ、お前の度胸を試してみたのだよ。サ、之からお前は此城の大番頭だ。忠実に御用をしなさい。初は左守、徳は右守だ、ねえ高宮彦さま、それでよいでせう』
妖幻『何事も女王の御意見に任しませう。女帝崇拝の現代だから、仕方がないワイ、アハハハハ』
初『思ひ掛なき抜擢に預かりまして、まるで初公は狸につままれたやうな気分が致します』
『コレ初公、否初司、狸につままれたやうだとは、何といふ不謹慎なことを仰有る。ここは地の高天原で厶るぞや。決して曲津などは近寄る事は出来ませぬ。今後は心得なされ』
徳『私は異数の抜擢に与りまして、右守と任ぜられ、身にあまる光栄で厶ります。これと申すも、全く吾々が命がけの大活動を致し、曲輪の玉を取返して来た其酬いで厶いますれば、徳が右守となつたとて、余り出世のし過ぎでも厶いませぬ。当然の所得として謹んでお受けを致します』
妖幻『アハハハハ、喜んで居るのか不足を云つてるのか、チツとも訳が分らぬぢやないか。怪体な挨拶だなア』
『何分狸と相撲とり、鼬に屁はかがされ、精神に異状を来したと見えまして、申し上ぐることが前後矛盾、自家撞着の傾きが厶いませう。何と云つても曲輪城ですから、本気で徳公もお受けは出来ませぬ、アハハハハ』
 高姫は柳眉を逆立て、
『コレ徳、お前は右守に任じて貰ひながら、左様な挨拶を致すのは、吾々を侮辱してるのぢやないかい。決してお前でなければ右守が勤まらぬといふのではない。それなら今から取消します。其代りとして、ケースに願ひませう』
ケース『ハイ、右守でも結構です。何なら左守も兼ねても宜しう厶います』
『両方といふ訳には行きませぬ。ヤツパリ貴方は右守を勤めて下さい。就いては右守、左守とも夫婦相並んで御用を致さねばならぬ。左守の妻には初稚姫、右守の妻には宮野姫ときまつて居りますれば、やがて盛大なる結婚式を取行ふことに致しませう』
初『エヘヘヘヘ、まるで夢のやうだ。オイ、ケース、初公に失礼、すみまへんな』
ケース『ウーン、もし高宮姫さま、左守、右守といふことは之は職名でせう。人間を又人間として各自に夫婦を選むのが至当ぢやありませぬか。女を左守、右守の職名の附属物にするとは、チツと変なものですな。これだけは自由結婚にして頂きたいものです。もしそれが出来ねば、ケースを左守にして貰ひたいものです』
『然らば宮野姫、初稚姫両人を次の間に控へさしておきますから、ケースに初公は自由に妻をお選びなさいませ。又女の方にも考へがありませうから、両方から水火の合うたものが夫婦になれば、極めて円満に暮されるでせうよ』
『イヤ、よく分りました。オイ初公、サア之から選挙競争だ。中原の鹿は誰の手におちるか、ここが一つ獅子奮迅の活動舞台だ。ケースの俺は上杉謙信だ。貴様は武田信玄だ。川中島を隔てて、いよいよ女房の争奪戦だ、イヒヒヒヒ』
徳『オイ初公、ケース、徳と考へりやチツとここは怪しいぞ。又狸につままれて、ドブへはめられなよ。なア ガリヤ、此立派な宮殿のやうに見えてるが、どうやらすると草つ原が見えるやうですな。かう見えて居つても、ヤツパリ狸の巣窟かも知れませぬで』
ガリヤ『ナアニ、そんなことがあらうか、結構な曲輪城の御殿だ。杢助さまに高姫さま、初稚姫さままでが厶るのだもの、そんな心配はするものでないワ』
『ヘエー、妙ですな』
 かく言つてゐる所へ四五人の美人、盛装を凝らして現はれ来り、一人の女は徳公の首玉に喰ひつき、柔かい頬を顔ににじりつけて、
『あのマア徳さまの良い男、あたえ、こんな気の利いた気骨のある人は、まだ見たことがないワ、ねえ四人のお方』
 四人は一時にうなづく。徳公に喰ひついた女は名をサベル姫といふ。
『徳さま、そんな六つかしい小理窟をいはずに私の居間へ来て頂戴ね。お前は狸と相撲とつたでせう。其時の妄念が残つてゐて、何もかも狸に見えるのですよ。あたえかて、そんな恐ろしい狸の巣窟にはよう居りませぬワ。あたえが居ること思へば、狸の巣ぢやありますまい。浮木の森のランチ将軍様の陣営の跡ですもの、サ参りませう、サベルと一緒に』
 徳は半信半疑の雲に包まれて、暫く思案をしてゐたが、サベル姫の容貌は何うしても捨て難く思はれ、たうとう恋の曲者に捉はれて、目尻を下げ、サベル姫の居間に導かれて行く。徳は立派な一間に請ぜられ、サベル姫と共に、喋々喃々として甘き囁きを続けてゐた。そこへ以前の四人の美人、ドアを開けて入り来り、
『アレマア姉さま、色男の独占はチツと残酷ですワ。私も徳さまの女房になります……あたえも……わらはも……』
と四方より徳一人の体に喰ひ付き、耳を舐めたり、手を舐めたりして恋しがる。徳公は魂が有頂天となつて、耳を咬み取られ、指を噛られて居るのも、少しも痛痒を感ぜず、口を立方形にあけて涎をくつてゐる。耳や爪先から血をチウチウと吸はれて段々青くなり、よい気分になつて、ぐつたりと寝て了つた。ガリヤは何処までも此正体を見届けねばおかぬと、一分の間も心の中にて神言をきらさず称へながら、呆けたやうな面をして様子を考へてゐた。高宮姫は……このガリヤは容易に喰へぬ奴だ、此奴をうまく説き付けねばなるまい……と全力を尽してゐる。
『ガリヤさま、貴方はバラモン教でも智勇兼備の勇士と承はりましたが、何とはなしに威風凛々として四辺を払ふ御人格者で厶いますねえ。実の所は吾夫高宮彦さまも、お前を自分の代理にしたいものだと、それはそれは懇望して居られますよ。どうか副城主になつて下さる訳には行きませぬだらうか』
 ガリヤは詐つて承諾し、一切の様子を突きとめむと思ひ、ワザと嬉しさうな声で、
『私の様な不調法な者が、何うしてそんな尊いお役が勤まりませうか。身分不相応なことを致して後で失敗るよりも、一兵卒として低う仕へるのが、私の身の為に最も安全で厶います。何卒そればかりは平に御免を蒙りませう』
『そんな廻りくどい辞令を用ゐるよりも、本当のことを言つて下さい。お前は何と云つてもヤツパリ副城主の方がお望みでせう。此忙しい時節に、そんな探るやうなことをいはずに、素直に承諾なさるが宜しからう』
『私のやうな者が、そんな役になれば、世間の人間は狸が化けたと言ふでせう。狇猴が冠したと笑ふでせう。併しながら人は何とも云はば云へ、吾心根は神のみぞ知る……と云ふ譬も厶いますれば、喜んでお受けを致しませう』
『結構々々、それでこそお前も男があがる。高宮彦さまも嘸お喜びでせうねえ』
と後振向けば、高宮彦は最早其場に姿は見えなかつた。高宮姫は、
『アレまあ』
と驚きの声を放ち、ガリヤを後に残し、慌しく夫の後を追うて奥に入る。
 あとにガリヤは只一人両手を組み吐息を漏らして、どうしても此処は魔窟に違ひない。何とかして暴露させてくれむものと考へ込んでゐた。そこへドアを押開け入り来る妙齢の美人があつた。これはサベル姫である。ガリヤは、
『ああ貴女はサベル姫さま、こんな所へお越しになると、徳公さまが気を揉みますよ、ハハハハハ』
『ホホホホホ、あたえ、徳公さまが嫌ひで嫌ひでたまらなくつて、逃げて来ましたのよ。あたえのラブしてゐるのは、ガの字のつくお方ですワ、ホホホホホ』
と赤い顔に袖をあてて俯く。
(大正一二・二・一〇 旧一一・一二・二五 松村真澄録)
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