春のライオン河西岸に、瓢を下げてぶらぶらしながら雑談にふけっている四五人のバラモン教の兵卒があった。これは、河鹿峠で治国別宣伝使たちに敗れたために、ランチと片彦が鬼春別将軍に命じて黄金山を襲撃させるべく組織した、バラモン軍の別働隊であった。
兵卒たちは、すでにランチと片彦が三五教に降参して改心したことは知らず、依然として彼らは浮木の森の陣営で長期戦を張っていると思っている。
兵卒・甲は、別働隊で宿営先の人民から搾り取っていい暮らしをしている境遇を賛美しながらも、河鹿峠での敗北から考えてバラモン軍が斎苑館や黄金山に攻め寄せるなど難しいと分析した。
そうかといってハルナの都におめおめと帰るわけにもいかないので、鬼春別はここに陣取ってビクトル山に王城を作り、刹帝利となって永住するのではないか、と意見を披露した。
兵卒・丙は、宿営先の人民を苦しめるバラモン軍に嫌気がさしたと漏らす。乙は丙に、固い考えは捨てて辛抱したらどうだと言うが、丙は、すでに斎苑館から宣伝使の一群がハルナの都に出立したという情報を上げ、ここへも押し寄せてくるに違いない、と反論した。
かく兵卒たちが論争していると、河の向こうからバラモン教の手旗を掲げた騎馬武者たちが流れを渡ってやってきた。一同は何事かと目をみはっている。