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文献名1霊界物語 第53巻 真善美愛 辰の巻
文献名2第1篇 毘丘取颪よみ(新仮名遣い)びくとりおろし
文献名3第5章 愛縁〔1368〕よみ(新仮名遣い)あいえん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2017-12-03 23:16:02
あらすじ
ヒルナ姫から急使を受けた左守キュービットは、いそいで衣服を整え伺候した。ヒルナ姫は、左守の息子ハルナと、右守の妹カルナ姫の縁談をもちかけ、国内を統一するためにこの縁談を受けてほしいとキュービットに伝えた。

キュービットは元より望んでいた縁談であり、承諾すると準備を整えるために館に戻っていいった。一方ヒルナ姫は、ビクトリヤ王にこの件を報告に行った。
主な人物 舞台ビクトリヤ城 口述日1923(大正12)年02月12日(旧12月27日) 口述場所竜宮館 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年3月8日 愛善世界社版56頁 八幡書店版第9輯 524頁 修補版 校定版60頁 普及版30頁 初版 ページ備考
OBC rm5305
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本文  ヒルナ姫の急使によつて左守司キユービツトは倉皇として衣紋を整へ恭しく伺候した。
左守『キユービツトがお招きによつて急ぎ参上仕りました。御用の趣仰せ聞け下されますれば有難う存じます』
ヒルナ姫『キユービツト、其方に折入つて急に相談致したい事があるのだ。そこは端近、近う寄つて下さい』
左守『はい、畏れ多う厶いますが、御仰せ否み難く失礼致します』
と云ひ乍ら姫の三尺許り前まで進み出でた。ヒルナ姫は声を低うして四辺に心を配り乍ら、
ヒルナ姫『ヤ、左守殿、外でもないが其方の息子ハルナ殿に嫁を与へ度いと思ふのだがお受けをなさるかな』
左守『これはこれは思ひもよらぬ御親切、左守身にとつて有難き幸福に存じます。然し乍ら此結婚問題ばかりは本人と本人との意志が疎通せなくては、本人以外の私が何程親だと云つても直様お答する訳には参りませぬ。今日は凡て世の中が昔と変り夫婦関係に就いても結婚問題に就いても、恋愛其ものを基礎とせなくては可かない事になつて居りまする。夫婦仲良く暮して呉れるのが所謂親孝行でもあり、凡ての事業のためでもあります。人間生活の本来としては、如何しても相思の男女が結婚を致さねば親の力や権力で圧迫しても到底末が遂げられないでせう。親子が衝突したり、夫婦の間に悲劇の起るのも、所謂思想上の誤謬と、其誤謬ある思想から出来た現代の法則や道徳や、いろいろのものの欠陥や、不完全から生ずるものであります。親の言ひ条につき親孝行せむがために恋人と添ひ遂げられなかつたり、又は或事情のために生木を裂かれて女を離別したりする事は、人間としては断じて真直な生活と云ふ事は出来ませぬ。此問題は篤と考へさして頂かねばなりませぬ』
ヒルナ姫『そらさうですとも。人間が拵へた金銭財宝等云ふものが邪魔したり、家族制度に欠点があつたり、法律が不備であつたり又は周囲の人々の物の考へ方に時代錯誤があつたり、或は其処に野卑下劣な私欲が働いたり、種々雑多の理由によつて、人間的生活が破壊されて、純正の恋愛其ものは忠孝友誼などの為にも、断じて犠牲とせらるべき性質のものではありませぬ。忠信孝貞、何れの美徳をとつて見ても其根底には必ず大なるラブの力が動いてゐるものです。世間に沢山起る恋愛的悲劇について深く考へて見ますと、必ず舅姑の不当の跋扈とか、或は金銭の災とか、結婚当事者の無思慮とか、階級制度の誤謬とか、法律制度の不完全とか、何とかかんとか云つて、真に人間としては其本質的でない事柄が多く禍根をなしてゐる事を発見するものであります。それ故互に諒解のない結婚を強圧的に強るのは、実に危険千万と云ふ事は、此ヒルナもよく承知してゐます。然し乍ら、妾がハルナ殿に嫁を貰へとお勧めするのは決して政略的でもなければ強圧的でもなく、又御都合主義でもありませぬ。ハルナ殿は恋人の右守司の妹カルナ姫と互にラブしあひ、殆んど白熱化せむとする勢で厶います。かくの如き神聖な恋愛を等閑に附して置かうものなら何時心中沙汰が突発するか分りますまい。さすれば左守、右守両家の恥辱のみならず妾等の恥で厶いますれば、災を未然に防ぎ完全なるラブを遂行せしめ、両家の和合を図り、国家を泰山の安きに置かむとする一挙両得の美挙だと考へます。左守殿妾の言葉に無理が厶いますか』
左守『はい、実に新しき新空気を注入して頂きまして、この古い頭も何だか甦つた様な心持が致します。成程姫様のお説の通り、私もウロウロ其消息を聞かぬでも厶いませぬが、余りの事で、貴女に申上ぐるも畏れ多いと、今日迄秘密にして居りましたが、姫様にそれ迄お分りになつて居れば、何をか隠しませう。朝から晩まで伜のハルナはリーベ・ライにのみ頭を痛め、殆んど神経衰弱に陥つてる様な次第で厶います。親として一人の伜、その恋を遂げさしてやり度いとは思うて居りましたが、何を云つても、刹帝利様や姫様のお許しがなくては取行ふ事は出来ませず、況して右守司の妹とある以上は口に頬張つてお願する事も出来なかつたので厶います。何卒何分にも宜しく御執成しをお願ひ申します』
ヒルナ姫『流石は左守殿、早速の御承知、ヒルナ姫満足に思ふぞや』
左守『はい、有難う厶います。貴女が満足して下されば定めて刹帝利様も御承知下さるでせう。次に此左守も満足、伜も嘸満足を致すで厶いませう』
ヒルナ姫『左守殿、其方も妾が何時も心配して居つたが、新旧思想の衝突で、右守殿と暗闘が絶えなかつた様だが、之にて両家和合の曙光を認め、従つて城内の政治も完全に行はれるでせう。政略上から云つても、恋愛至上主義から云つても、間然する所なき、願うてもなき縁談ぢや。之でビクトリヤの国家もビクとも致しますまい。ああ惟神霊幸倍坐世、盤古神王塩長彦命様!』
左守『姫様、重々の御心尽し、有難う存じます。何卒刹帝利様に早く貴女様よりお話し下さいまして、此縁談整ひます様お執成願ひまする』
ヒルナ姫『心配なさるな。屹度整へて見せませう。其方の覚悟がきまつた上は直様此縁談に取掛ります。一時も早く帰つて御準備を願ひます。善は急げと申しますからな』
左守『はい、有難う厶います。左様ならば』
と叮嚀に礼を施し欣々として己が館へ帰り行く。後にヒルナ姫は只一人ニコニコ笑ひ乍ら、
ヒルナ姫『あ、之にて両家の縺れもスツパリと和解するだらう。刹帝利様は七十路を越えた御老体なり、何時お国替遊ばすか人命の程は図り知れない。後を継ぐべき御子様がないのだから、俄に御帰幽にでもなれば、忽ち左守、右守両家の争ひが勃発し、之を治むべき重鎮なる人物がなくなつて了ふ。さうすれば国家の滅亡も眼前にありと心も心ならず今日迄暮れて来たが、此結婚がうまく行つて両家和合せば仮令刹帝利様が御他界になつても最早大磐石だ。右守、左守司を率ゐて、女乍らも女王となり、此国家を治める事が出来るだらう。それに就いても困つたのは右守司だ。アアア、残念な事を妾もしたものだな。一つ逃れて又一つ、右守司と手をきる事は実に難事中の難事だ。ホンにままならぬ浮世だなア』
と吐息を洩らし思案に暮れてゐる。
(大正一二・二・一二 旧一一・一二・二七 於竜宮館 北村隆光録)
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