ビクトリヤ王は、二女の働きによってバラモン軍から和睦を勝ち取り、また年来の懸念であった右守から兵権を返還させることになり、気が緩んでぐったりと寝に就いた。ハルナは右守の様子がただならなかったことを気遣い、父の左守に申し出て、王の隣室に宿直を勤めた。
ハルナが物思いにふけっていると、王の居間に向かって足音を忍ばせ進んでくる者がある。男はビクトリヤ王の寝台の傍らに来ると長刀を引き抜いた。ハルナは足音を忍ばせて男の背後に近寄り、綱を男の首にかけて引っ張りまわした。
男は抜身の刀を持ったまま、気絶して廊下を引きずられていく。刹帝利はこの物音に目を覚まし、刀の鞘だけが落ちているのを見て刺客が来たと悟った。槍を取って廊下に出ると、ハルナが気絶した曲者を綱にかけている。
二人が曲者の頭巾を取って顔を改めると、右守の家令シエールであった。二人は右守に反逆の意図があることを悟り、騒ぎ立てずに対応することとした。そしてシエールを縛り上げて押入れの中に入れて置いた。ハルナは引き続き王の居間を守っている。
ヒルナ姫とカルナ姫は、自分たちの意図をバラモン軍に悟られないよう、両将軍が自分たちの膝枕で寝入ってしまってもそのまま動かずにいた。二人も夜半にうとうとと夢路に入った頃、覆面頭巾の男が足音を忍ばせて入り来たり、久米彦将軍に切りつけようとした。
カルナ姫ははっと目をさまし、曲者の腕の急所を叩いた。曲者は大刀を落としたところ、姫は手早く曲者の手を後ろに廻し、細紐で縛り上げた。
カルナ姫は将軍たちを起こし、刺客を捕えたことを報告した。一同が顔を改めると、それはビク国の右守ベルツであった。カルナ姫は実の兄を捕縛することになった自分の因果をひそかに嘆いたが、国家のためと思い直した。
鬼春別と久米彦は、ビク国側の人間が刺客に来たことに怒って和睦を取り下げ兵を呼ぼうとした。ヒルナ姫は慌てて押しとどめ、右守はビク国の中でも刹帝利に刃向っていた逆臣であることを告げてなだめた。
カルナ姫も、たかだか刺客の一人くらいは軍隊を動かさずに、自分たちに始末させて欲しいと頼み込んだ。久米彦もカルナ姫の活躍で命を救われたこともあって、この申し出に承諾した。
ヒルナ姫とカルナ姫は、城の裏門にベルツを連れて行き、ベルツの短慮をたしなめた。カルナ姫は、ヒルナ姫にベルツの命乞いをした。ヒルナ姫は、どこか田舎にでも隠れて身を忍ぶように言い含め、路銀を与えてベルツを解放した。
ベルツが闇にまぎれて逃れると、二人は両将軍にベルツを亡き者にしたと報告してごまかした。そこへ刹帝利とハルナがやってきて、自分たちのところに右守ベルツの家令が刺客にやってきたことを報告した。
右守がビク国刹帝利にも刺客を送っていたことで将軍たちの疑いは晴れた。刹帝利は曲者を退けた悪魔祓いに二次会を開こうと提案し、鬼春別も賛成した。酒宴は再開して夜を明かし、翌日の昼まで十二分に歓を尽くすことになった。