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文献名1霊界物語 第54巻 真善美愛 巳の巻
文献名2第1篇 神授の継嗣よみ(新仮名遣い)しんじゅのけいし
文献名3第2章 日出前〔1388〕よみ(新仮名遣い)ひのでまえ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-03-29 17:05:50
あらすじ
松彦たち三人は、深山を踏み分けて刹帝利の王子・王女たちが隠れ住んでいる洞窟にやって来た。オークスとダイヤは、松彦たちがビク国王子奉迎の旗をかざしているのを見て、父王が自分たちを捕えに寄越した捕り手かもしれないと警戒した。

そこへ兄王子たちが帰ってきた。兄王子たちは、松彦たちがビクトリヤ城からやってきたと知ると、問答無用で槍を構えて突いてかかった。三人は大木の幹を盾にして天津祝詞を奏上した。すると兄王子たち四人は身体しびれ、その場に倒れてしまった。

長兄のアールは、体がしびれながらも松彦たちを父の捕り手だとみなして口で抵抗している。松彦は千言万語を尽くして、現在のビクトリヤ城の様子や、刹帝利の改心の様を説きたてた。

四人の王子はやっと安心した様子であった。六人の王子と王女は、松彦の言を聞いて兄妹会議を開くことになった。松彦たちは四五十間ばかりかたわらの山腹に退き、六人は相談を開始した。

喧々諤々の会議の結果、六人は松彦たちを警戒しながらも信用することとし、ビクトリヤ城への帰還を決めた。六人の王子・王女たちは、松彦、竜彦、万公に導かれ、まずはビク国の治国別の館に人知れず帰還することになった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年02月21日(旧01月6日) 口述場所竜宮館 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年3月26日 愛善世界社版23頁 八幡書店版第9輯 627頁 修補版 校定版21頁 普及版10頁 初版 ページ備考
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本文  治国別の命令で  ビクトリヤ王の御子達を
 照国岳の山谷に  尋ねて迎へ帰らむと
 館を後に竜彦や  嬉しき便りを松彦が
 万公司を伴ひて  音に名高きビクトリヤ
 山野を渡り谷を越え  猿の声におどされつ
 岩の根木の根踏みさくみ  辷る足許危くも
 木々の梢を掴まへて  道なき路を辿り行く
 荊蕀茂る山の中  アール、イースや外四人
 潜む土窟にやうやうと  息もスタスタ着きにけり。
 オークス、ダイヤの二人は土窟の入口に日なたぼつこりをして、獣の皮を干したり、洗濯をしたりして、乾くのを待つてゐた。忽ち三人の姿を見るより、驚きの眼を瞠り、山刀を手にして、何者の襲来かと身構へした。よくよく見れば、『刹帝利の御子奉迎』といふ手旗を各翳してゐる。オークスは双手を組んで、暫し思案にくれてゐたが、心の中に思ふやう、
オークス『あの手旗には自分等を迎へに来たやうに記してあるが、父と云ひ、近侍の頑固連が自分達の所在を探り、奉迎と佯はつて、召捕らへに来たのではあるまいか。之はウツカリ名乗る訳には行かぬ』
と心を定め、妹のダイヤに目配せした。ダイヤはオークスの意思を早くも悟り、さあらぬ態にて細谷川の水をいぢり、あどけない態にて、ワザとに遊んでゐた。そこへ近付いたのは迎ひの三人、松彦は両手をついて、
松彦『一寸お尋ね致します。貴方は、ビクトリヤ城の刹帝利様のお子様では厶いませぬか』
 オークスはワザと空呆けて、
オークス『俺は此山に昔から住居をしてをる山男だ。そんな尊い者ではない。此谷には左様な方は一人もみえたことはないから、外を尋ねて貰ひたいものだなア』
松彦『ヤ、何と仰せられましても、貴方はお子様に間違ありませぬ。サ、何卒私と一緒に城内までお帰り下さいませ。キツと貴方のお為に悪い事は致しませぬ』
 ダイヤは側へ寄つて来て、
ダイヤ『どこの方か知りませぬが、妾はここに二人夫婦暮しをしてゐる山男山女で厶います。決して左様な者ぢやありませぬから、外をお尋ね下さいませ』
松彦『何と仰せられても、吾々の目では刹帝利様の御子女に違ひはありませぬ。左様な事を仰せられずに、吾々の申す通りに城内へ御帰りを願ひたい』
ダイヤ『ホホホホ何とマア分らぬ人だこと、木樵の娘が堕落して、村の男と手に手を取つて、斯様な処へ逃げ来り、山男山女となつて、恋を味はつてゐるのに、畏れ多くも刹帝利様の娘だなどとは、勿体ない罰が当りますぞや。妾が左様な尊い方の娘なれば、どうしてこんな所へ出て来ませうか、誰がこんな不便な山住居を致しませうか。よく考へて御覧なさいませ』
松彦『貴女は今、ここへ男と駆落をしたと仰有るが、比較的体は大きうても、まだお年は十才か十一才位にしか見えませぬ。そんな事云つたつて、此松彦は騙されませぬよ。刹帝利様が大変後悔遊ばして、六人の子女を恋慕ひ……あああの時は悪神に誑惑されて居つたのだ。追々年はよつてくるなり、あの六人の子女が居つてくれたらどれ丈嬉しいだらう……と、朝夕お悔みなさるので、新参者の吾々が、王様の命令を受けてお迎ひに参りました、何とお隠しなされましても間違ひありませぬ、そして四人の御兄弟はどちらへお出でになりました。何卒それを御知らせ願ひたいものです』
オークス『決して決して、何と仰有つても、左様な者ぢや厶いませぬ。外を尋ねて下さいませ』
と言つてる所へ四人の兄は猪を担いで、きつい谷路を下つて来た。余り足元に気を取られて居つたので、三人が此処に来て弟妹と話をしてるのに気がつかなかつた。入口の前に猪を下ろし、汗を拭ひ拭ひ、三人の男が地上に平伏してるのを見て、四人は驚いた。
 アールはオークスに向ひ、
アール『オイ、此処へ来てゐる三人の男は何者だ』
オークス『ビクトリヤ城の刹帝利様から、お迎へに来たのだ。貴方は其御子女に違ひないからお迎ひに来たのだ……と云つて聞かないのですよ。親方何う致しませうかね』
アール『どうも斯うもない、吾々の規定通り実行すれば可いぢやないか』
オークス『それは一寸待つて頂きたう厶います』
アール『ナニ、グヅグヅしてゐると発覚する虞がある、此奴等三人をやつつけて了へ』
と言ふより早く一同の兄弟に目配せした。一同は猪突槍を持つて、物をも言はず三人に突いてかかる。オークス、ダイヤの両人は双方の中に割つて入り、
『兄さま待つて下さい……お兄さま暫く』
と両人が制止するを聞かばこそ、四人の兄は、
『エエ邪魔ひろぐと其方も犠牲にするぞ』
と云ひ乍ら、バラバラと三人を囲んだ。三人は大木の幹を楯に取り、天津祝詞を一生懸命に奏上するや、猛り狂うた四人は身体痺れ、其場にドツト尻餅を搗いた。そして首計り振つてゐる。
アール『其方は吾々六人を刹帝利の迎へと佯り、甘く城内につれ帰り、生命を奪はむとの企みであらう。左様な事を真に受けて、うまうまと計略に乗る様な吾々でない。サ早く帰つたがよからう』
と手足も動かぬくせに流石は刹帝利の胤丈あつて、気丈夫なものである。松彦は、千言万語を費して、刹帝利の真心や或はホーフス(宮中)の様子を細々と述べ立てた。四人は漸くにしてヤツと安心した。
アール『それに間違なくば、吾々兄妹は茲でラートを開き、其結果御返事を致しませう。少時く御猶予を願ふ』
松彦『ヤ、早速の御承知、可成早くラートをお開きの上、吾々と一緒にホーフスへ御帰り下さいませ』
アール『然らば暫くここを遠ざかつて貰ひたい、決して逃げも隠れも致しませぬ』
 松彦は『宜しい』と四五十間許り傍の山腹に退き、六人の様子を監視してゐた。六人は声を秘めて、相談会を開いた。
アール『オイ、弟、お前達はどう思ふか。あの三人は父の家来だと云つたが、どうも体の様子を考へてみると、モンク(修道師)の様だ。あんな事を云つて、父の命を受け吾々の兄妹の此処にゐる事を恐れて、甘くゴマかし、連れ帰り、牢獄へブチ込む考へではあるまいか、ここは余程考へねばなるまいぞ』
イース『あれは決してモンクではありますまい。父の命を受けてやつて来たグレナジアーでせう。さうでなければ、吾々猪武者が六人居る所へ、只の三人位で来られるものぢやありませぬワ』
オークス『兄上様のお考へも一応尤も乍ら、私が夜前夢を見ましたのには、或尊い神様のプロパガンデストが三人吾々をホーフスへ迎へ帰り、大切にしてくれる事をみましたが、夢の事だから当にならないと思うて、実の所はお話もせずに居つたのです。そした所が夢にみたと同様のモンクがやつて来ました。キツと間違ひありますまい。そんな事仰有らずに三人に従つて帰らうぢやありませぬか、父も老年に及び、余程気も弱つて居りませうから、滅多な事は厶いますまい』
アール『あれ丈頑固な迷信深い父上だから、何とも安心する訳には行くまい。のうウエルス、お前は何う思ふか』
ウエルス『ハイ、私の考へでは、どうも当り前の人間とは思ひませぬ。又父の命令で来たのとも考へませぬ。妖幻坊といふモンスターが此辺を徘徊するといふ事は、昔から聞いて居りますが、其奴が化けて来たのではありますまいか。ホーフスだと思うて泥田の中へでも突つ込まれるやうな事はありますまいかな。コレヤ、うつかりして居つたら、どんな目に会ふか知れませぬぞ』
アール『ヤ、決してモンスターではあるまい。兎も角危きに近よらずと云ふ事があるから、ここで能ふ限りの抵抗を試み、どうしてもゆかねば住家を変へるより、仕様がないぢやないか』
エリナン『兄上に申上げます。私はどう考へても、彼等三人は妖怪でもなければ悪人でもない、オークスの云つた様に、父が改心の結果吾々を迎へに来てくれた者と考へます。取越苦労をせずに、兎も角跟いて行つたら如何でせう。怪しとみたら又其時の処置を取れば可いぢやありませぬか』
ダイヤ『五人の兄さま、私はどうもあの方は本当だと思ひます。一層の事、帰らうぢやありませぬか』
 アールは思ひ切つて、
『エエ怖い所へ行かねば熟柿はくへぬと云ふ事だ、運を天に任して帰ることにしようかい。併し乍らヒルナ姫とやら云ふハイエナ・イン・ベテコーツが扣へてゐるから、余程気をつけて帰らなくてはなるまいぞ。サア思ひ切つて帰る事にしよう』
といよいよ評議一決して、三人を手招きした。三人は喜んで六人の前に駆け来り、
松彦『いよいよ御帰りと決定した様子で厶います。吾々も大慶に存じます。サ、帰りませう。お察しの通り、拙者は三五教のプロパガンデストで厶います。実の所はビクトリヤ城は右守司のベルツの為に殆ど落城せむとする間際に、吾師の君治国別宣伝使が吾等をつれて現はれ、お救ひ申し、城内は稍小康を得た所で厶います。刹帝利様も貴方方の命を取らむとした事を非常に後悔して、吐息を洩らしてお歎き遊ばしたので、吾師の君が、貴方方がここにゐられる事を看破し、刹帝利様にお話になつて、吾々を遣はされたので厶います。必ず御心配遊ばすな、サ、帰りませう』
 此言葉に六人の兄妹はやつと安心し、松彦、竜彦、万公の後に従ひ、八男一女の道連れは山を越え、谷を渡り、漸くにしてフオール・ゾンネン・アウフ・ガンダの時刻に治国別の館にソツと帰り来たりける。
(大正一二・二・二一 旧一・六 於竜宮館 松村真澄録)
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