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文献名1霊界物語 第54巻 真善美愛 巳の巻
文献名2第2篇 恋愛無涯よみ(新仮名遣い)れんあいむがい
文献名3第7章 婚談〔1393〕よみ(新仮名遣い)こんだん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-21 11:12:31
あらすじ
ビクトリヤ王はさまざまなことが一度に起きて体がぐったりと弱り、ヒルナ姫に足をもませてベッドに横たわり休んでいた。

そこへ左守がやってきて、アールの婚姻話を報告した。ビクトリヤ王は息子が賤しい身分の女を連れてきたことに嘆息したが、ヒルナ姫は、自分も賤しい身分でありながら王によって見出されて王妃となったことを挙げ、家庭が円満に治まり国家が泰平に治まればよいのではないか、と王に意見した。

ビクトリヤ王も、自分が手本を見せたことだから、これも因縁だと思い直し、アールの思うとおりに縁談を進めるように左守に伝えた。左守から、治国別も同じ意見だと聞くと、刹帝利はすぐに準備にとりかかるよう左守に命じた。

一方、アールはハンナに、自分は人間の作った不自然な階級制度を打破し、四民平等の政治するのが自分の本懐だと決心を明らかにしていた。しかし到底この婚姻が認められる見込みはないだろうから、今のうちに裏門から抜け出し、山林に潜んで一緒に暮らそうと相談しているところであった。

そこへ左守がやってきて、二人の案に相違して、ビクトリヤ王が結婚を許可したという報せを持ってきた。左守に促されて、アールとハンナはビクトリヤ王に面会するために王の居間に進んで行った。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年02月21日(旧01月6日) 口述場所竜宮館 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年3月26日 愛善世界社版91頁 八幡書店版第9輯 653頁 修補版 校定版89頁 普及版43頁 初版 ページ備考
OBC rm5407
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本文  刹帝利ビクトリヤ王はフェザーベッドの上に横たはり、ヒルナ姫に足を揉ませ休んでゐた。何分老年の上に嬉しい事や、恐ろしい事等が一度に出て来たので体がグツタリと弱り半病人の如き有様で、どこともなく体が痛むので休養してゐた。そして世継のアールが此頃ソハソハとして城内に居らず、臣下の目を忍んで一人郊外に出で、日が暮れてから帰つて来てはシュナップスを呷り、酔うては大声を張り上げ近侍の役人共を手古摺らせる等の事が刹帝利の心を痛めた大原因となつてゐる。
 かかる処へ左守のキユービツトは衣紋を繕ひ拝謁を乞うた。刹帝利は左守の伺ひと聞いて直ちに之を許した。左守はフェザーベッドの側近く進み寄り、両手をついて、
左守『申上げます』
刹帝『左守、何事だ。常に変つて其方の様子、何か又変事が突発したのではないか』
左守『ハイ、王様に申上げたら、嘸お驚き遊ばすで厶りませうが、アール様は人もあらうに卑しきサーフの娘ハンナとやら云ふ者をホーフスに引入れ、「何うしても此女でなければ結婚はしない。そして万一父が之をお聞届けなくば、城内を脱出し山猟師となつて田園生活を送る」と駄々を捏られますので、此老人も大変に心配を致しました。如何取計らつたら宜しう厶りませうかな』
 刹帝利は左守の意外の注進に驚いて、ベツドを下り火鉢の前に端座し乍ら、
刹帝『嗚呼、ビクトリヤ王家も最早終末だ。肝腎の長子がサーフの娘を女房に持ちたいと云ふ様になつては、最早貴族も末路だ。如何したら宜からうかなア』
と双手を組んで思案の態、ヒルナ姫は側より手をついて、
ヒルナ『刹帝利様、さうお驚きには及びますまい。如何にアール様が耕奴の娘をお娶りになつた所で、家庭が円満に治まり、国家が太平に治まれば宜いぢや厶りませぬか。妾だつて腰元が抜摺され、尊き貴方の御見出しによつてアーチ・ダッチェスに抜摺されたぢやありませぬか。アールさまの結婚問題を御心配遊ばすならば、先づ刹帝利様から妾を放逐遊ばさねばなりますまい』
刹帝『うん、さうだな。親から手本を見せておいて吾子を責むる訳にも行くまい。いや如何なり行くも因縁だ。左守、アールの申す通りにしてやつて呉れ。さうして一応、治国別の宣伝使に御相談をせなくてはなるまいぞや』
 左守は案に相違しヤツと胸を撫で下ろし、
左守『実の所は治国別様へお伺ひをして参りました所、治国別様のお言葉では、なるべく此結婚は整へたがよい、との事で厶ります』
刹帝『宣伝使のお言葉とあれば大丈夫だらう。善は急げだ、一事も早く伜に此由を伝へて呉れ』
左守『実に有難き君の仰せ、嘸アール様も御満足に思召すで厶りませう。之で郊外散歩もお止まりになるでせう。左様ならば之からお使に行つて参ります。何分宜しう、吾君様、ヒルナ姫様、お願ひ申します』
と欣々として此場を下がり行く。
 アールの居間にはハンナと二人、いろいろの話が初まつてゐた。
ハンナ『もし、アール様、貴方は何と仰有つて下さいましても御両親様を始め頑迷固陋な老臣共が沢山ゐられますれば、屹度此話は駄目で厶りませう。何卒そんな事を仰有らずにお暇を下さいませ。そして貴方はビクトリヤ王の世継としてビク一国に君臨し相当の奥様を迎へて安楽に世をお送りなさる様お願ひ致します』
アール『エー、最前も云ふ通り、私は永らくの間山住居をし、放縦な生活に慣れて来たのだから、斯様な窮屈な貴族生活は到底堪へきれない。万一其方と添ふ事が出来なければ私はここを脱け出して山林に入り簡易生活を送る考へだ。何卒そんな心細い事云はずに俺の云ふ事を聞いて呉れ。頼みだから……』
ハンナ『私の様な耕奴の娘が一国の王様になるお方を堕落させたと云はれては申訳が厶りませぬ。出来る事ならばお小間使になりとお使ひ下さいまして此縁談だけは何処迄もお許し下さいませ。然し乍ら終身貴方のお側で御用をさして頂きますから……』
アール『私は刹帝利だの、浄行だの、毘舎、首陀等と、そんな区別をつける虚偽な社会が嫌になつたのだ。それで純朴のサーフの娘のお前と如何しても結婚をして見たいのだ。そして人間の作つた不自然な階級制度を打破し、上下一致、四民平等の政事をして見たいのだ。それが出来なければ私は現代に生存の希望はない』
ハンナ『そこ迄仰有つて下さるのならば私はお言葉に甘へて従ひませう。然し乍ら御両親に背きなさつて迄決行なさる考へですか。さうすればもはや此城内へ止まる事は出来ますまい。私の様な者を貴方の妻にお許し下さる筈はありませぬ』
アール『そら、さうだ。私も其覚悟はしてゐる。さア、之からソツと裏門から脱け出し、山林に入つてお前と簡易生活を楽しまうぢやないか。照国山には私が長く住まつてゐた古巣がある。そこへ行けばどうなりかうなり生活が出来るから……』
ハンナ『そんなら仕方厶りませぬ。お伴を致しませう』
アール『ヤ、早速の承知、満足に思ふ。さア早く旅の用意をしよう』
と二人は一生懸命に城内を脱け出す用意に取りかかつてゐた。そこへ左守は現はれ来り、
左守『御免なさいませ。アール様、一寸貴方にお父さまのお言葉をお伝へ申し度いと思ひ参りました。又足装束を遊ばして郊外散歩にでもお出ましになるのですか。郊外散歩にしては大変なお準備ぢやありませぬか』
アール『左守殿、実の所は私はここにゐると色々の女を勧められ気に合はぬ女房を持つのが辛いから、何処かへ脱け出す心算で居つたのだ。何卒頼みだから見逃して呉れ』
左守『いや、それはなりませぬ。今結婚問題の持上つた最中、そして貴方はここを出られてはなりませぬぞ。国家のため、王家のため、何処迄も刹帝利の後を継いで下さらねばならぬのです』
アール『さアその結婚問題が気に入らないので、脱け出さうと云ふのぢやないか。私がゐなくてもまだ四人の弟がある。その弟でいかなければ、国民の中から立派な人間を選り出して刹帝利の後を継がせばよいぢやないか。何も自分が後を継がねばならぬ神の命令でもあるまい。それよりも私はここに居る此女と山林に入り簡易生活を楽しむつもりだ』
左守『若旦那様、御心配遊ばしますな。此左守が東奔西走の結果、治国別様やヒルナ姫のお骨折によつて到頭刹帝利様のお心を動かし、ハンナ様と御夫婦とおなり遊ばす様にお話がきまりましたので御報告に参つたのです』
アール『うん、さうか、それは頑固な父に似ずよくまア開けたものだな。ヤツパリ之も時節の力だらう。併し乍らお前も一寸談判をして貰はねばならぬ事がある。それは外でもない、自由自在に夫婦が手に手をとつて城外の散歩をさして貰へるか、それもならぬと云ふのなら俺はこれから、此処を飛び出し田園生活を続ける覚悟だから』
左守『そんな事は御心配なさいますな。大丈夫で厶ります。屹度私が取もつて自由自在に御行動の出来る様に致しませう』
アール『父の証言を得て置かなくては、又後からゴテゴテ干渉されると困るからな』
左守『決して決して左様な御心配は御無用です。さア、早く、お父上が待つて居られます。お二人共お居間へお越しを願ひます。治国別様の方へも使ひを立てておきましたから、直お越しになるでせう』
アール『アアそんならお目にかからうかな。これハンナ、お前は私について来るかな』
ハンナ『ハイ、如何なる処へもお伴致します。卑しき妾の身、畏れ多う厶りますが、貴方に附属致した以上は、影法師の如く何処迄も跟いて参りませう』
 左守司はヤツと安心したものの如く顔色を和げ、二人の先に立つて刹帝利の居間に誘ひ行く。
(大正一二・二・二一 旧一・六 於竜宮館 北村隆光録)
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