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文献名1霊界物語 第54巻 真善美愛 巳の巻
文献名2第3篇 猪倉城寨よみ(新仮名遣い)いのくらじょうさい
文献名3第11章 道晴別〔1397〕よみ(新仮名遣い)みちはるわけ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-04-10 15:00:00
あらすじ
治国別の従者となった晴彦は、玉国別を助けて河鹿峠の神殿造営に携わった。神殿が完成した暁に名を道晴別と賜り、治国別を追って、ビクトル山を通過し、シメジ峠にやってきた。

すると山道で、玉木村(フサの国)の豪農の僕たち三人連れに出会った。彼らが言うには、猪倉山にこのごろ砦を構えたバラモン軍の鬼春別将軍が主人の娘姉妹をさらっていったので、三五教の宣伝使に救助を依頼するべくビクトル山に行く途中だと言う。

道晴別はビクトル山は通過してしまったので、師匠や兄弟弟子たちと行き違いになったかもしれないと考えたが、玉木村の話を聞いて宣伝使として見過ごすことはできず、まずは一人でこの件を受諾することにした。

道晴別は僕たちに案内されて玉木村に向かった。その途中、玉木村の娘たちをさらったバラモン軍の二人の士官、フエルとベットが山道を張っていた。玉木村の者が、ビクトル山の治国別に応援を頼みに行かないように警戒していたのである。

フエルとベットは、道晴別が歌う宣伝歌の声が耳に入るとやにわに怖気づいてしまった。上官のフエルが逃げようとしたので、ベットは捕まえて逃げ出さないようにもみあっているところへ、道晴別たちがやってきた。

二人は道晴別の言霊で霊縛され、尋問を受けた。玉木村の僕の一人が、ベットが娘をさらいに来たバラモン軍の士官だと報告した。ベットとフエルはうまくごまかして逃げようとしたが、道晴別は霊縛したまま二人を玉木村まで連行した。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年02月22日(旧01月7日) 口述場所竜宮館 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年3月26日 愛善世界社版129頁 八幡書店版第9輯 666頁 修補版 校定版129頁 普及版58頁 初版 ページ備考
OBC rm5411
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本文 道晴別『神素盞嗚の大神の  神言畏みウブスナの
 貴の聖地を立出でて  治国別の従者となり
 河鹿峠を打越えて  魔神のたけぶ山口の
 森に一夜を明かす折  忽ち丑の時参り
 妖怪変化の出現と  怪しみゐたる折もあれ
 松彦司の胆力に  よくよく見れば妹の
 思ひ掛なき楓姫  やれ嬉しやと兄妹の
 名乗を上ぐる時もあれ  神の恵の幸はひて
 二人の親に巡り会ひ  祠の森に立帰り
 玉国別と諸共に  瑞の御舎建て了り
 道晴別と名を賜ひ  吾師の君の後を追ひ
 漸く此処に来りけり  流れも清きライオンの
 広き河瀬を横切りて  ビクトル山を右手に見つ
 草青々と生ひしげる  野路を渉りて今ここに
 シメジ峠に着きにけり  ああ惟神々々
 吾師の君は如何にして  いづくの果にましますか
 心も急ぐ一人旅  一日も早く大御神
 会はさせ玉へ惟神  神の御前に祈ぎまつる』
と歌ひ乍ら、シメジ峠の登り口迄やつて来たのは道晴別である。道晴別はシメジ峠の急坂を眺めて、暫し息を休めてゐた。降りみ、降らずみ、五月雨の空低うして、時鳥の声は彼方此方の森林より聞え来る。山も野も一面に緑の新装を凝らし、何とはなく蒸し暑く、上着が邪魔になる様な気分になつて来た。道晴別は急阪を打仰ぎ乍ら、
道晴『ああ何ときつい阪だらう。吾師の君を始め、松彦、竜彦、万公は最早此処を通られたであらうか、此道端の岩石が物言ふものならば知らしてくれるだらうに、ああ仕方がない。先づ此岩上に端座して瞑想に耽り、師の君が通られたか通られないか伺つてみよう。併し乍らまだ自分は魂が研けてゐないから、ハツキリした事は分らぬ、困つたものだなア』
と呟いてゐる。そこへ二三人の男が急はし相にスタスタと坂を降つて来る。三人は岩上の道晴別を見て、
甲『一寸物をお尋ね申します。貴方様は三五教の宣伝使様ぢや厶いませぬか』
道晴『ハイ、拙者はお察しの通り、道晴別と申す宣伝使で厶います。何ぞ御用で厶るかな』
甲『かやうな所でお話申上げても畏れ多う厶いますが、実の所はビクトル山に尊き宣伝使が現はれ、人民の苦みをお助け下さるといふ事を承はり、主人の命令に仍つて、其お方にお目にかかりたいと、吾々僕三人が危険を冒して、此処迄参りました』
道晴『ビクトル山に三五教の宣伝使がゐるといふ話がありますかな、はてなア』
と手を組み、
道晴『ああ失策つた、こんな事なら、一寸道寄りをして来たらよかつたに、吾師の君がまだ後にゐられたかも知れない。余り遅れたと思うて急いで来たものだから、大方行過ぎたのだなア』
と私かに小声で囁いてゐる。
甲『貴方は、さうすると、三五教の宣伝使の御一行ぢや厶いませぬか、何でも四人許りゐられるといふ事で厶いますが』
道晴『ああ其四人の方は、私の師匠なり友人だ。ビクトル山に確にゐられるといふ事が分つてゐるかな』
甲『イエイエ、もうお立ちになつたか、まだゐられますか、それが判然分らないのです』
道晴『そして宣伝使に会ひに行くとは、如何なる御用があるのかな』
甲『ハイ実の所は、私は玉木村の豪農の僕で厶いますが、二人のお嬢さまが猪倉山の山寨に巣を構へてゐる、鬼春別とか云ふバラモンのゼネラルの部下に攫はれ遊ばし、御主人夫婦はいろいろ雑多とお嬢さまの身の上を案じ、夜も昼も水行をして、神様にお願遊ばした所、夢のお告に、ビクトル山には三五教の宣伝使が来てゐられるから、其方にお願申せば、キツと取返して下さるだらうとのお言葉、それを力としてお願申さむと、此処迄参つたので厶います』
道晴『フーン、それは気の毒な事だ。宣伝使として、こんな事を聞いて見遁す訳には行くまい。兎も角主人の内へ案内してくれ、神様の御神力でキツと取返して上げるから』
甲『ハイ有難う厶います。定めて主人も喜ばれる事でせう。然らばお伴致します。之から三里許り、此峠を登り下り遊ばしたならば、つい近くの村で厶います。兎も角そこ迄お越し下さいまして、主人と御緩り話をして下さいませ。此峠はバラモン軍の雑兵が徘徊を致しますれば、随分気をつけて行つて下さいませ、到底一人では通れない所で厶いますから、かうして三人で参つたので厶います。ここへ来る迄にも、随分危険な目に会うて参りましたので厶います』
 道晴別は、
道晴『そんならお前の主人の宅へ行かう』
と三人を後前に従へ、胸突阪を喘ぎ喘ぎ登つて行く。
 シメジ峠の山頂に稍平坦な地点がある。そこには風に揉まれて、枝振のひねた面白いパインが四五本並びゐたり。チューニック姿の二人の男、一人はベツトと云ひ、一人はフエルと云ふ。小さい石に腰をかけて、四方の風景を見下し乍ら雑談に耽つてゐた。
ベツト『オイ、随分に此地方は絶景ぢやないか。どの山も、この山も、あの通り上の方は禿頭病の頭のやうになつて、其間に青い木が、点綴してゐる様は丸で絵を見る様だ。ライオン河の流れは幽かに帯を曳いたやうに見えて居るが、俺達も随分、あこを渡つた時にや苦労をしたものだ』
フエル『成程、中途に馬が屁古垂れて、貴様は四五丁許り押流され、土人に助けられて屁古垂れた時のザマは今目に見えるやうだ。随分鼻をたらしやがつて、濡れ鼠のやうになつて、唇まで紫色に染めて居つた時のザマつて、なかつたよ。あの時に俺がゐなかつたら、貴様は土人に攫はれて、嬲殺しに会うて居つたか分らぬのだ。無類飛び切りの悪党だからなア』
ベツト『ヘン、偉相に云ふない、之でもバラモン軍の、グレジナアーだ。第一玉木村の豪農の娘スミエル、スガールの両人を甘くチヨロまかし、猪倉山の本陣へ連れて帰つたのも、ヤツパリ此ベツトだから、偉い者だらう。悪もここ迄徹底せないと貴様のやうな事では到底軍人にはなれやしないぞ。ゴテゴテ申さずに俺の命令に服従するのだ。又俺が甘くゼネラルに取持つて伍長位にはして貰うてやるワイ』
フエル『ヘン、馬鹿にすない、俺はかうみえても准士官だ、少尉候補生だ。汝はまだ軍曹ぢやないか、俺が斯う化けて居るのを知らぬのかい』
ベツト『ヘン、甘い事云ふない。汝の肩章を見れば能く分つてるぢやないか』
フエル『サア、そこが秘密の役を仰せつかつてゐる丈で、エッボオーレッポの印が書いてあるのだ。モウ一月もすれば、立派なユウンケルだ。さうすれば、汝、俺が腮で使つてやるのだから、今の内に機嫌を取つておかぬと出世の妨げになるぞ。嘘と思ふなら之をみい』
と襟を引くり返して見せた。ベツトはよくよく覗いて見ると、ユウンケル候補生の印がついてゐる。忽ち大地に平太張り、
ベツト『これはこれは上官とは知らず、誠に失礼を致しました』
フエル『アハハハハ、往生したか、バラモン軍のマーシヤル閣下より内命を受けて居るのだぞ。併し汝が部下と共に連れ帰つた二人の女は、何時取返しに来るか知れぬから、ここに番をしてゐるのだ。豪農テームスの僕の奴が、ビクトル山に居る三五教の宣伝使に報告に行きよつたら、夫れこそ大変だから、此一筋道を扼して、一人も残らず此処を通る奴は取調べ、怪しとみたならば、首を刎ねるのだ。此頂上に只一人居れば、仮令何万人出て来ても、一度にかかる訳には行かぬのだから、汝は交替兵の来る迄神妙に勤めて居るのだぞ』
ベツト『ハイ、承知致しました。併しどうも私一人では、心細う厶います。代りが来る迄、ここに暫く貴方も付合つて貰ひますまいか、どうやら宣伝使の声が聞えて来るやうですから……』
 フエルは幽かに三五教の宣伝歌が耳に這入つたので、早くも、ベツトを此処におき自分は体よく逃出す考へで、こんな命令を下してゐた。宣伝歌は益々高く聞えて来た。
フエル『オイ、ベツト、サア、ここが汝の手柄の現れ時だ。俺は軍務の都合に仍つて、ここを退却する、確り頼むぞ』
ベツト『マア、一寸待つて下さい。千騎一騎の此場合、貴方は体よい事を云つて逃げるのぢやありませぬか。何程軍務が忙しいと云つて、眼前に敵を控へて、大将から逃げると云ふ事がありますか』
とグツと後から、フエルに抱き付き、剛力に任せて動かさぬ、フエルは逃げ出さうとすれ共、ビクともする事が出来ぬ。逃げやうとする、逃がそまいとする。汗みどろになつて揉みあうてゐる所へ、漸く登つて来たのは道晴別であつた。ベツト、フエルは道晴別の姿を見て、おぢけづき、手足はワナワナ慄ひ出し、バタリと地上に腰を下した。
道晴『お前はバラモン軍の兵士と見えるが、玉木村の豪農テームスの娘、スミエル、スガールの両人を猪倉山の山寨に隠してゐると云ふ事だが、お前はそれを知つてゐるか』
ベツト『ヘーヘーヘー、根つから存じませぬ。そんな噂があつたやうにも厶いましたが、よくよく調べてみますると、全く……嘘で厶いました。私はゼネラルの従卒を致して居りましたから、何もかも陣中の事は存じて居りますが、女なんかは一人も居りませぬ』
 甲はベツトの顔を見て、
甲『ああお前はお嬢さまを、此間、四五人の男を連れて取りに来た大将だなア……、モシ宣伝使様、此男で厶います。此奴が連れ帰つたのですから、よくお査べ下さいませ』
ベツト『エエ滅相な、私に似た顔は沢山居りますから、取違へて貰つては困ります。コレ、テームスさまの内の奴さま、能く私の顔を見て下さい。似た所があつても、どつかに違つた所があるだらう。お前は余り俄の事で驚いたから間違つたのだらう。テームスやベリシナが、何卒娘丈は堪へて下さい。其代り私を……と云つた時に、顔もあげずに俯いて居つたぢやないか。お前達もさうだつたらう、怖い時の目でみたら、キツと見違ひするものだ』
甲『ハツハハハ、私の主人が言つた言葉や、其時の状況迄今言つたでないか。さうすればヤツパリお前に違ひない。先生、此奴で厶います。何卒一つドテライ目に会はして、お嬢さまを取返すやうに命じて下さいませ』
道晴『ウン、よし、オイ、ベツト、本当の事を云はぬと、此方にも考へがあるぞ』
ベツト『エー、実の所は、此処に厶るフエルさまの命令に依りまして、ホンの機械的に動いたので厶います。何卒フエルさまに談判をして下さいませ。今貴方のお声が聞えたので、此フエルさまがビツクリして逃げようとした所を、私が喰ひ止めて、貴方に突出さうと思ひ、今格闘してをつたのです。言はば此男が張本人ですから、私は其張本人を捕まへた御褒美に、何卒助けて下さいな』
フエル『コリヤ、ベツト、馬鹿を云ふな、俺が何時そんな命令をしたか』
ベツト『ヘヘヘヘヘ、甘い事仰有いますワイ、モシ宣伝使様、此フエルは普通兵の肩章をかけて居りまするが、此奴ア悪の証拠にや、襟裏にユウンケル候補生の印を持つて居ります。それをお調べになつたら一番よう分ります。私は御存じの通り軍曹ですから……』
道晴『どちらが善か悪か知らぬが、兎も角自分の罪を上官に塗りつけようとする所から考へてみれば、ヤツパリ貴様の方が悪い。まて、今言霊の御馳走をやる、悪の強い奴は言霊の打たれようがきついから、直様分るのだ』
甲『ハハハハハ、其ザマ何だ。夜の夜中に、四五人の雑兵を連れて来やがつて、偉相に威張散らした時の権幕と、今日の権幕とは、まるで鬼と餓鬼と程違ふぢやないか。ザマ見やがれ。三五教の宣伝使が現はれた以上は、仮令バラモンに幾万の敵が居らうと屁のお茶だ、エヘヘヘヘ、よい気味だな』
道晴『オイ甲、せうもない事を云ふものでない。お前は黙つてをれば可いのだ。バラモン軍のフエル殿、鬼春別、久米彦両将軍はお達者で厶るかな』
フエル『ハイ御親切に有難う厶います。極めて壮健に軍務にお尽しになつて居ります』
道晴『さうか、それや実にバラモン軍の為には大慶だ。併しモウ斯うなつては隠しても駄目だから、実地の事を言つて貰ひたい』
フエル『ハイ、私は直接其任に当つたのぢやありませぬが、玉木村の豪農の娘スミエル、スガールといふ美人が確にゼネラルの側に居りまする』
道晴『あ、さうだらう、よう言つてくれた。併しお前達両人は、此儘帰してやるは易いが、又すべての計画の障害になると困るから、兎も角、玉木村のテームスが家まで跟いて来てくれ』
フエル『ハイ、ソレヤ行かぬこた厶いませぬが、それよりも此処を見逃して下さいますれば、甘く二人の娘を助け出して来ますがなア、のう、ベツト、ここは思案の仕所だ。一層の事、バラモン軍を脱退して、三五のお道へ帰順するお土産として、二人を玉木村へ返さうだないか』
ベツト『ヘーン、そんな事が出来ますかな』
 フエルは目をグツと睨み、
『馬鹿だなア、何とか彼とか云つてここを助かるのだ、チと気をつけぬかい』
といふ意味を目で知らした。
ベツト『モシ道晴別様、フエルの大将の様子を御覧になれば、どちらが善か悪か判るでせう。兎も角私は帰順致します。何卒霊縛を解いて下さい御恩返しを致しますから……』
道晴『ハハハ、今霊縛を解いたら、一目散に逃出すだらう。兎も角玉木村へ来るがよい。何程厭と申しても、神力に仍つて引張つて行く、どこなつと行くなら行つてみよ』
と云ひ乍ら、三人の奴を連れて、シメジ峠の急阪を下り行く。フエル、ベツトは綱をつけて引張られるやうな心地し、足元危く、厭相に自然的に跟いてゆく。漸くにして玉木村の稍広き原野の中央に、老木茂る一構へがある。ここがテームスの屋敷であつた。道晴別は宣伝歌を歌ひ乍ら、三人の奴に案内され、フエル、ベツトを霊縛した儘門内に招き入れられたり。
(大正一二・二・二二 旧一・七 於竜宮館 松村真澄録)
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