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文献名1霊界物語 第54巻 真善美愛 巳の巻
文献名2第3篇 猪倉城寨よみ(新仮名遣い)いのくらじょうさい
文献名3第12章 妖瞑酒〔1398〕よみ(新仮名遣い)ようめいしゅ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-04-10 16:01:20
あらすじ
フエルとベットは、玉木村の豪農テームス宅に引っ張られた。家政のシーナは二人を大きな蔵に監禁し、バラモン軍の制服をはぎ取った。

シーナは道晴別を主人のテームス、ベリシナ夫婦に引き合わせた。二人は何千人ものバラモン軍中から娘たちを取り戻せるだろうかを心配したが、道晴別は自分が工夫して連れ帰ることを受け合った。

道晴別は夫婦に三五教の信仰を勧め、テームスとベリシナは受諾して三五教と盤古神王を共に祀ることになった。道晴別は神殿を作ってお祭りを済ませると、シーナと共にバラモン軍の軍服を着て、さらわれた姉妹スミエルとスガールを取り戻すために出立した。

バラモン軍の見張りたちは酔いどれて不平不満を言いながら馬鹿話にふけっていた。道晴別とシーナはバラモン軍の士官服を着ているので、将軍の目付だと言って近づいた。そして兵卒たちに玉木村から奪ってきた美酒だと言って、一時的にひどく狂乱を起こす薬が入った酒を飲ませた。

飲んだ者はにわかに踊りだし、訳のわからないことをしゃべりだして川に飛び込んだり陣中を駆け回った。非常に猛烈なにおいがし、このにおいをかいだ者にも感染し、軍服を脱いで川に飛び込む者が続出した。

士官のマルタはこれを見て驚き、将軍に注進しようと本陣に向かった。薬に感染した者たちも、訳のわからないことをさえずりながら、将軍の陣営指して吶喊して行く。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年02月22日(旧01月7日) 口述場所竜宮館 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年3月26日 愛善世界社版144頁 八幡書店版第9輯 671頁 修補版 校定版144頁 普及版65頁 初版 ページ備考
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本文  甲乙丙の三人はベツト、フエルの両人を庫の中へ突つ込みおき、代る代る入口に錠をおろして番をする事となつた。此屋敷は祖先代々から、玉木の村の里庄を勤めてゐる豪農で、庫の数が二十戸前も並んでゐた。ここへ入れへおけば、絶対に気のつく筈がない、窓から水や食料を放り込んで、娘の帰る迄、二人をここに監禁する事としたのである。そして二人のチユーニツクはスツカリはがせ、相当の衣類を与へておいたのである。甲の名はシーナといふ。此男はテームス家の譜代の家来であつて、テームス家一切の家政を司つてゐた。
 さて道晴別はシーナに導かれ、テームス、ベリシナ夫婦の前に現はれて、シメジ峠の頂上でベツト、フエルに会うた事や或は其神力に打たれて此処迄引張られて来た事などを、詳しく物語つた。テームス夫婦は非常に喜んで茶菓などを出し、湯を沸せて風呂に案内し、宣伝服を着替させ、客室に請じ、娘の危難の事情を物語つた。
テームス『貴方は音に名高き三五教の宣伝使様、能くマア来て下さいました。併し乍ら何千といふ軍隊の中へ二人の娘が攫はれて参つたので厶いますから、いかに御神力強き貴方様でも、容易に取返して頂く事は難かしう厶いませうなア』
と顔を覗いた。道晴別は少時双手を組んで思案の体であつたが、何か確信あるものの如く微笑み乍ら、
道晴『ああ決して御心配なさりますな。到底一通りや二通りでは行きますまいが、何とか工夫を致しまして、敵中に忍び込み、お嬢さまを連れ帰ることに致しませう。併し乍ら連れ帰つた所で、又もや取返しに来られては何にもなりませぬ、此奴は徹底的に敵を改心させるか、但は追散らすか致さねば駄目でせう』
ベリシナ『どうか、老夫婦が首を鳩めて日夜心配を致して居りますから、神様の御神力に仍つて御助け下さいますやう、御願申します』
道晴『当家はウラル教と見えますが、貴方は三五教を信仰する気はありませぬか』
ベリシナ『ハイ、神様は元は一株、祖先が祭つた神様を俄に子孫が替へるといふのは、何だか先祖に対してすまないやうな気が致します。貴方の信仰遊ばす三五の神様をお祭り致しても神罰は当りますまいかな』
道晴『神様は一株だから、ウラル教にならうが、三五教にならうがそんな小さい事を仰有る神様ぢやありませぬ、そして最も神徳の高い詐りのない誠一つの教を信仰するが祖先へ対しての孝行で厶いませう。先づ第一に三五の神様をお祭り致し、其御神徳に仍つて、お二人様の命が助かるやう、願はうぢやありませぬか。それとも、どうしてもウラル教を改めるのが厭と仰有るならば、それで宜しい、決してお勧めは致しませぬから……』
テームス『婆の意見は何と申すか知りませぬが、これ丈朝から晩迄、ウラルの神様を信仰し乍ら、こんなに苦しい目に会ふので厶いますから、ウラル教の神様も此頃はどうかして厶るだらうと疑つて居ります。現にビクの国のビクトリヤ王様もウラル教でゐらつしやるのに、あの様な大難にお会ひなされ、三五の神様に助けられたとの噂が立つて居りまする。何卒宜しう御願ひ致します。ベリシナ、お前もヨモヤ異存はあるまいなア』
ベリシナ『貴方がさう仰有るのならば、女房の私は決して異議は申しませぬ。どうぞ祀つて貰つて下さいませ』
道晴『然らば三五教の神様と、ウラル教を守護遊ばす盤古神王様を並べて祀る事に致しませう。神様は元は一つで厶いますからなア』
テームス『いかにも仰の通り、実に公平無私なお言葉、先づ第一に神様をお祀り致し、其上娘を救つて頂く事に願ひませう』
とここに愈、夫婦の決心が定まつたので、道晴別は俄に神殿を作り、簡単なお祭をすませ、いよいよ猪倉山に向つて、スミエル、スガールの姉妹を取返さむと進み行く用意に取かかつた。幸、ベツト、フエルの軍服があるので、道晴別とシーナの両人は之を着用に及び、夜に紛れて陣中に進み入る事となつた。
 シーナは近くの事とて、猪倉山の地理は能く知つて居つた。谷川の激流を右に飛び越え、左へ渡り、漸くにして東北西の三方深山に包まれた一方口の広い谷間に着いた。三千人許りの兵卒の中へ、同じ軍服を着て紛れ込んだのだから、上の役人ならば目につくが、軍曹や平兵の服では容易に見破られる気遣ひがないのである。
 月は東の山の端を覗いて、谷川に光を投げてゐる。彼方此方の若葉の間から時鳥の声が面白く聞えて来る。見上ぐる許りの大岩の麓に四五人のバラモン兵が趺座をかいて夜警を勤めてゐる。何れも皆酒に酔うてゐるらしい。
甲『オイ、敵もないのに、毎日日日夜警計りやらされて居つては、つまらぬぢやないか。夜警も此頃はヤケクソになつて、ヤケ酒でも呑まなくちややり切れない。すつぱい腐つたやうな酒を、カーネル奴、……これは夜警に呑ませ……なんて吐しやがつて、自分等の呑みさし計りをまはして来るのだから、本当にむかつくだないか』
乙『だつて呑まないよりマシだ。別に之を呑まねば軍規に反すると云つて厳命したのでもなし、退屈だらうから、之でも構はねば呑んだらどうだと云つて、カーネルさまが下げて下さつたのだ、チツといたみた酒でも貰はぬよりマシぢやないか』
甲『さうだと云つて、自分達は芳醇な酒にくらひ酔、ホフクー、ゲスラートだと云つて、用もないのに、小田原評定計りやりやがつて、スミエル、スガールの頗る別嬪に酌をさせ、ヤニ下つてゐやがるのだもの、俺達雑兵は殆ど人間扱をされてゐないのだからな』
乙『馬鹿云ふな、そこが辛抱だ。辛抱さへしてゐれば、時節が来たら花が咲くのだ。之からゼネラルの命令に仍つて、猪倉山の城寨が完成した上は、近国を荒し廻り、馬蹄に蹂躙し、大共和国を建設するのだ。さうなれば何うしても人物が必要だ、何程雑兵だつて、汝でもキヤプテン位には登庸されるよ』
甲『ヘン、大尉位になつたつて、何が結構だ、貧乏少尉の、ヤリクリ中尉の、ヤツトコ大尉と云ふぢやないか、そんな事で何うして嬶が養へるか。せめてユウンケル位にしてくれりや、骨折つても可いのだが。三五教の宣伝使の三人や四人に恐怖して、こんな所へ籠城するやうな大将だから、先が見えてゐるワ、何と云つても、鬼春別、久米彦両将軍が馬鹿だからなア』
乙『オイそんな大きな声で云ふな。丙丁戊が居眠つたやうな面して聞いてるぞ。人間の心と云ふものは分つたものぢやない。いつ俺達の裏をかいて、畏れ乍らと、ゼネラルの前へ密告するか分りやしないぞ』
甲『ナニ、こんな奴がそんな事共致してみよれ、忽ちウーンだ』
乙『ウンとは何だい、又糞パツだな、そんな所でウンをやられちや臭くてたまらないワ』
甲『ハハハハ、分らぬ奴だな。三五教の言霊で、ウーンとやつてやるのだい』
乙『汝は元は三五教だな、此奴ア油断のならぬ奴だ』
甲『油断がなるまい。俺はチヤンとビクトリヤ城へ治国別がやつて来た時に、門の外にすくんで、どんな事やりよるかと考へてゐたら、両手を組んで、ウーンとやるが最後、何奴も此奴も体が動けぬやうになつたのだ。そして足計りは自由に動くものだから皆逃げよつたのだ。其呼吸をチヤンと呑み込んでゐる。グヅグヅいふと一寸やつてやらうか』
乙『ソレヤ面白い、一つ此所でやつてみよ』
甲『やらいでかい、マアみて居れ、汝に一つ霊縛をかけてやらう』
と云ひ乍ら、両手を組んで、一生懸命にウンウンと唸つてゐる。余り唸つたので唸つた拍子にブウブウと裏門へ一二発破裂した。
乙『アハハハハ、たうとう屁古垂れやがつたな。大方そんな事だと思うて居つたのだ。余りホラを吹くものぢやないぞ』
甲『俺達は、ヘーたれさまだ、口からホラを吹いて尻からラツパを吹くのが職掌だ』
乙『オイ、丙丁戊、早く起きぬかい。何だか、向ふの方から二人やつてくる様だ。モシや治国別の片割れぢやなからうかな』
 治国別といふ声を聞いて、三人の泥酔者は俄に起上り、ソロソロ逃仕度をしかけた。
乙『コレヤ、まだ敵か味方か分らぬ先から逃げ仕度をする奴があるかい。卑怯者だな』
丙『分つてから逃げた所で仕方がないぢやないか、分らぬ先に逃げるのが兵法の奥の手だ。モシ敵でもあつてみよ、抜き差がならぬぢやないか』
乙『モシ敵が出て来たら、俺達が撃退するやうに、一歩も此所より中へ入れないやうに番をしてゐるのぢやないか、肝腎の時に逃げる奴がどこにあるかい。しつかりせぬかい』
 かかる所へ道晴別、シーナの両人はチューニック姿で登つて来た。
甲『誰だア、名を名乗れツ』
と呶鳴りつける。
道晴『俺はバラモン軍の軍曹、デクといふものだ』
シーナ『俺はシーナといふ軍人だ。ゼネラル様の命令に仍つて汝達がよく勤めてるか勤めてゐないかを巡検に来たのだ、其ザマは一体何だ』
乙『ヘ、誠に済みませぬ。併し乍ら貴方もウスウス御存じでせうが、ゼネラルから賜つた此お酒、退屈ざましに頂いて居つたのです』
シーナ『頂いた酒なら、呑むなと云はぬが、軍務に差支ないやうに致さぬと困るぢやないか』
乙『ハイ、チツと過ごしましたが、よう考へて御覧なさい、別に敵が来るでもなし、さうシヤチ張つて居つた処で、暖簾と脛押しするやうなものです。私計りぢやありませぬ、皆附近の民家へ行つて、色々のドブ酒を徴発し、勝手気儘に呑んでるぢやありませぬか』
シーナ『かう軍規が紊れては、何うも仕方がない、これからチツと監督を厳重にせなくちやなりませぬなア、デクさま』
デク『ウン、さうだ、チツと之から厳しくやらう。オイ雑兵共、此川に橋を架け』
乙『ヘー、架けないこた厶いませぬが、カーネルさまの御命令に仍れば、……此橋を架けちや可かない……と云つて落されたのですから、一寸伺つた上でなくては、軍曹さま位の命令では聞く事が出来ませぬからなア』
デク『俺は此肩章を見たら分るが、一人は伍長だ。伍長と雖も、汝らの上官だぞ、なぜ上官の命令を聞かないか』
乙『ヘー、そんなら仕方がありませぬ、私達が橋になつて向方へお渡し申しませう。時に軍曹様、マアゆつくりなさいませ。ここに、何ならスツパイ御神酒がチツと計り残つてゐますがなア』
デク『そんな酒は俺は呑みたくない、今玉木村の豪農、テームスの宅へ闖入して、かやうな結構な酒を貰つて来たのだ。何なら、汝、これを一杯呑んだら何うだい』
 因に此酒は非常に苛性的な狂乱を起す薬が入つてゐたのである。一寸一口呑むと、何とも知れぬ舌ざはりである。乙は、
『ヤア、軍曹殿、話せますなア、ヤツパリ泥棒軍の上官丈あつて、気が利いてますワイ』
デク『上官に向つて、泥坊とは何だ』
乙『それでも、人の内へ入つて、脅かして貰つて来るのは泥坊でせう、ヘヘヘヘ』
デク『マ一杯呑んで見よ、盃を出せい』
乙『盃なんか、気の利いたものはありませぬ、ここに竹製の臨時盃がありますから、何卒これに注いで下さい。竹筒に注いだ酒は又格別に甘いものですよ』
と云ひながら、竹筒をつき出す。デクは瓢からドブドブと注ぎ与へ、
デク『オイ汝一人呑んでは可かないぞ。これは妖瞑酒というて、一口呑めば三十年の命が延びるのだ。二口呑めば三十年の寿命がちぢまるのだ。それだから、之を五人に呑み廻すのだ』
乙『何と難かしい、気のじゆつない酒ですなア』
と言ひ乍ら、一口より呑めぬといふので、十分に口にくくんだ。何とも知れない可い味がする、モ一口呑みたくて仕方がないが、三十年の寿命が縮まるのも惜いと思つたか、惜相に甲に渡した。甲は一口呑んで其風味に感じ、又厭相に丙丁戊と呑みまはした。戊の口に廻つた時分は、ホンの舌がぬれる程より無かつた。五人は俄に踊り出し、息苦しくなり、川に飛込んだり、這ひ上つたり、訳の分らぬ事を喋り出して、一目散に陣中に駆込んだ。非常に猛烈な匂がする、此匂を嗅いだものは忽ち感染し、軍服を脱ぎすて、赤裸になつて、川中へ投げ込むのが特色である。次から次へ伝染して、三千人の軍隊の大半は剣を谷川に投すて、チューニックを脱いで、之れ又谷川に放り込み、赤裸となつて、ワイワイと訳の分らぬ事を囀り初めた。次から次へと伝染して、スボスボと赤裸になる者計りなので、カーネルのマルタは之を見て驚き、兎も角将軍に注進せむと本陣指して一目散に駆込んだ、赤裸の沢山の軍人は訳の分らぬ事をガアガアと囀り乍ら、列を作つて、将軍の陣営指して突喊し行く。
(大正一二・二・二二 旧一・七 於竜宮館 松村真澄録)
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