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文献名1霊界物語 第54巻 真善美愛 巳の巻
文献名2第3篇 猪倉城寨よみ(新仮名遣い)いのくらじょうさい
文献名3第14章 暗窟〔1400〕よみ(新仮名遣い)あんくつ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-04-12 18:08:56
あらすじ
久米彦は何食わぬ顔で戻ってきて、鬼春別に、スミエルとスガールは暗窟に放り込んで殺したと報告した。鬼春別は、二人の女は久米彦の部屋にいるだろうと言いだして、訪問したいと言いだした。

鬼春別は久米彦と言い争いになったが、鬼春別は上官の権限で捜索すると言って久米彦の居間に進んでしまった。聞き耳を立てていたが、外からは姉妹の声が聞こえなかった。久米彦は鬼春別けに追いついて、鬼春別を非難し、二人はまたも言い争いになった。

そこへ士官のマルタがやってきて、三千の兵士たちが狂乱の態となってしまったことを報告しにやってきた。両将軍はあわてて岩窟の入り口に駆け出した。兵士たちは八九分どおり裸になって訳のわからないことをさえずりながら、建物を壊している。

両将軍が大喝すると、兵士たちは我先にと群がり来って将軍たちに乱暴狼藉をなしたため、鬼春別と久米彦はほとんど息の根も絶え絶えになってしまった。

道晴別とシーナはこの騒ぎにまぎれて岩窟に入り込み、スミエルとスガールを探して歩いた。ようやく妖瞑酒の効き目が醒めた兵士たちは我に返って将軍たちを助け起こし、介抱した。道晴別とシーナはスミエルとスガールがいる部屋を探り当てて門扉を叩き割った。

しかし二人を助けて室内から逃げ出そうとするとき、前後左右から集まってきたバラモン軍に捕縛され、四人は別々に暗い岩窟の中に落とし込まれてしまった。

久米彦は姉妹を逃がそうとした二人の軍人を三五教の間者と疑ったが、鬼春別はこれだけ厳重な砦に間者が入ってきたところで何もできないだろうと一笑に付した。

一同は、スミエルとスガールを閉じ込めてから兵士たちの狂態が回復したことから、二人は猪倉山に巣食うという妖怪妖幻坊一派の化身ではないかと疑い、また陣中に女を引き入れたことを大自在天がこういう形で戒めたのだろうと、互いに軍規軍律を気を付け合ってこの要害を守ることとなった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年02月22日(旧01月7日) 口述場所竜宮館 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年3月26日 愛善世界社版169頁 八幡書店版第9輯 681頁 修補版 校定版170頁 普及版78頁 初版 ページ備考
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本文  鬼春別は双手を組み、失望落胆の色を浮べて何か思案に沈んでゐる。そこへ潔くやつて来たのは久米彦であつた。
久米『将軍殿将軍殿』
と呼ぶ声にハツと気がつき、
鬼春『ヤア久米彦殿、如何で厶つたかな』
久米『いやもう、何うにも、斯うにも仕方のない阿婆摺れ女で実に手古摺りました。止むを得ず最も深い暗窟へ放り込みました。定めて今頃は斃つて居るでせう』
鬼春『それは惜い事を致したものだ。そして姉のスミエルは如何なさつたか』
久米『彼奴も荒縄で括つて暗窟に一緒に放り込みました。扨も扨も心地のよい事で厶いましたワイ。アハハハハ』
鬼春『ヤア、それは惜い事を致したものだ。然しここでは何だか気持が悪い。一度貴殿の御居間へ伺はうと思つてゐた所だ。之から何かの御相談があるから貴殿の室まで参りませう』
 久米彦は自分の室に二人の姉妹を隠して置き乍ら、暗き陥穽へ放り込んで殺して了つたと詐つたのだから、鬼春別に来られては忽ち露顕の惧がある。はて困つた事が出来たワイ……と思うたが流石は曲物、故意と平気な顔をして、
久米『吾々の如き者の穢くるしい家へお越し下さるのは、実に恐れ入ります。何うか貴方の御居間で伺はして貰ふ訳には参りますまいかな』
鬼春『いや拙者の居間は男ばかりで、何かにつけて不都合で厶る。貴殿の居間へ参れば女手が二人も揃うてゐるのだから、誠に以て都合が好いと存じ、それで貴殿の居間を拝借しようと申したのだ』
 久米彦はハツと顔を赤らめ、……鬼春別は何時の間にか自分の居間に二人が隠してあるのを悟つたのかな、こいつア大変だ……と胸を躍らせ乍ら故意と空恍けて、
久米『ハハハハハ将軍殿は随分疑の深い方で厶るな。吾々もバラモン軍の統率者、左様な卑怯な事は致しませぬ。何卒人格を見損はない様にして頂き度いものですな』
鬼春『ハハハハハ今迄貴殿の人格を見損つてゐたのだ。今日愈人格の程度が分つたので厶る。さう仰せらるるなれば拙者の疑を晴らすために、一度貴殿の居間を明けて見せて貰ひませう』
久米『拙者の居間は拙者の権利の中で厶る。如何に上官だつて捜索する訳には参りますまい。こればかりは平にお断り申します』
鬼春『いや、何と云はれても拙者の権利を以て室内捜索を致す』
と云ひ乍らスタスタと隧道を潜つて久米彦の居間に進み行く。
 久米彦は……今露顕れたが最後、一悶錯が起るか、但は自分は首にならねばなるまい。一層の事、鬼春別を後から一思ひにやつつけて了はうか。いやいや将軍にも股肱の家来が沢山ある。うつかり手出しも出来まい、ぢやと云つて吾居間を覗かれたが最後、忽ち露顕するのだ。はて、如何したら宜からうか……と刻々に迫る胸の苦みを抑へて、見え隠れに跟いて行く。
 鬼春別は已に已にドアーの入口に着いた。そしてドアーに耳を寄せて中の様子を考へてゐる。スミエル、スガールの姉妹は、そんな事とは夢にも知らず、両親のことや、自分の身の不運を歎いて涙に袖を霑し乍ら、一生懸命に盤古大神救ひ玉へ、助け玉へと祈つてゐる。
 鬼春別は鍵を持つてゐないので、開けて這入る訳にも行かず、又部下に命じて開けさしては却て自分の人格や声望を落す虞れがあるので、恋の奴となつた彼は、一生懸命に首を傾けて室内の様子を聞いてゐる。されど何だかワンワンと響きがするばかりで少しも聞きとれなかつた。
 久米彦将軍は漸くここに現はれ、
久米『鬼春別様、拙者の室内には何か怪しきものが居る様子ですかな』
鬼春『確に怪しう厶る。さア早く鍵を出してここをお開け召され。さすれば貴殿の疑も晴れ、両人の間の確執も解けて結構で厶らう』
久米『なるほど、それは結構で厶いますが、生憎鍵を落しましたので、這入る訳にもゆきませぬ』
鬼春『鍵がなくても叩き破れば宜いのだ。金鎚か何か持つて来なさい』
久米『之は怪しからぬ。拙者の居間を金鎚を以て叩き破るとは、決して武士の取るべき道では厶るまい。いざ戦場と云ふ場合は兎も角、平常に於て他人の居室を叩き破るとは実に乱暴狼藉と申すもの、之ばかりは如何に上官の命とても、久米彦承知する事は出来ませぬ』
鬼春『さうすると、ヤツパリ疑はしい物臭い事をしてゐられると見える。拙者の命令をお肯きなくば、只今より上官の職権を以て将軍職を免じますから其覚悟をなさい』
久米『拙者は決して貴殿の命令によつて将軍になつたのでは厶らぬ、大黒主様より命を受けて将軍に任ぜられたのだから、いかいお世話で厶る。公務上の事は兎も角、私行上に迄上官を振り廻す理由はありますまい。久米彦、断じて此室内は開けさせませぬ』
 かく両人が争ふ所へ、慌ただしく走つて来たのはカーネルのマルタであつた。
マルタ『将軍様、大変な事が出来致しました』
鬼春『大変とは何だ』
マルタ『ハイ、三千の兵士、一人も残らず真裸体となり、何だか訳の分らぬ事を申しまして事務所を叩き破り槍剣を捨て石を投げ乱暴狼藉に及んでゐます。愚図々々してゐれば此室内にも入るかも知れませぬから何卒両将軍様の御威勢によりまして御鎮圧を願ひます、到底吾々の力には及びませぬ。思ふに三五教の奴が魔法を使つて吾軍を悩ますものと考へます』
 此注進に鬼春別、久米彦両将軍は私行上の争論はケロリと忘れ、一目散に岩窟の入口に駆け出し、四辺を見れば三千の軍隊は八九分通り真裸体となり、訳の分らぬ事をガヤガヤ囀り乍ら、半永久的の建物を小口から、メリメリメリ バチバチバチと叩き潰してゐる。両将軍は大喝一声『コラツ』と云ひ乍ら大勢の中に飛び込んだ。妖瞑酒に侵された一同は両将軍の姿を見るより吾先にと群がり来り、『ヨイシヨ ヨイシヨ』と云ひ乍ら胴上げをしたり、地上に投げたり、あらむ限りの乱暴狼藉をなし、遂に両将軍は大勢の者に身体中を踏み蹂られ、殆んど息の根も絶えむばかりになつてゐた。
 そこへチュウニック姿のデク、シーナの両人は厳しく剣を吊り乍ら悠々として現はれ来り、遠慮会釈もなく岩窟内に忍び入り、スミエル、スガール両人の所在は何処ぞと探してゐる。岩窟内に潜んでゐた数多のバラモン軍は二人の服装を見て別に怪しみもせず、各軍務に従事してゐる。又もや真裸体の半狂乱軍はドヤドヤと岩窟内に入り来り、当るを幸ひ暴狂ふ。漸くにして妖瞑酒の酔ひも醒め、一同の軍人は正気に復し、捨てた剣を拾い上げたり、谷川に流した衣類の彼方此方に掛つてゐるのを拾ひあげ、日光に干し乾かし両将軍を助けて元の居間に送り届けた。一時妖瞑酒の勢で狂態を演じた数多の軍隊も愈目が覚めて一層軍規を厳重にする事となつた。道晴別のデク、及びシーナは漸くにしてスミエル、スガールの所在を探り、門扉を叩き割つて中に押し入り、両人を助けて室内を遁げ出さうとする時、前後左右の隧道より集まり来つたバラモン軍に脆くも縛られ、四人は別々に暗い岩窟の中に落し込まれて了つた。
 鬼春別、久米彦を初めスパール、エミシ、シヤム、マルタの幹部連は、岩窟内の最広き将軍事務室に集つて、今度の変事に就き種々と其原因を調べてゐる。
鬼春『三千の軍隊が殆ど九分九厘迄真裸体になり、斯の如き狂態を演じたのは決して普通の事ではあるまい。之には何かの原因があるだらう。汝等よく調査をして、再びかかる不始末がない様に注意して呉れたがよからうぞ』
スパール『左様で厶います。何とも合点の行かぬ事ばかり、大方三五教の治国別一派が、妖術でも使つて吾軍営を攪乱させ、将軍を生捕にする計劃ではあるまいかと存じて居ります』
エミシ『初めの間は僅かの四五人の発狂者でありましたが、次第々々に伝染してあの様になつたのです。三五教には妖術等はありませぬ。恐らく此山に住む妖幻坊の一味がなせしもので厶りませう。先づ第一にバラモン神を祀り一生懸命に祈願を凝らさねば、又斯様の事が出来ては危険ですからな』
久米『あの怪しき二人の軍人、牢獄に投じて置いた奴、もしや三五教の間諜では厶るまいか』
鬼春『ハハハハハ、これだけ沢山の軍隊を以て固めた所へ、一人や二人の間諜が這入つて来た所で何が出来るものか。此方が察する所によれば、玉木村の豪農テームスの家から攫つて来たと云ふスミエル、スガールの二人の女こそ怪しきものだと思ふ。その証拠には彼を牢獄へぶち込んだ最後、味方の兵士の狂態が恢復したではないか』
エミシ『成程、さう承はればさうに間違ひは厶りませぬ。陣中に女を引入れる如きは神の許し給はざる所なれば、大自在天様が戒めの為めに、ああ云ふ手続きを採り吾々一同に気をつけて下さつたのかも知れませぬ。それについても、あの二人の兵士は吾軍の服装をして居りますれど、あれも何だか怪しいものです。此山の主が化てゐるのかも分りますまい』
鬼春『決して彼等四人に相手になつてはならぬぞ。ああして押込めて置けば、再び悪戯は致しますまい。久米彦殿如何で厶る。御意見を承はり度い』
久米『成程、どう考へても合点の行かぬ事で厶る。将軍の仰せの如く彼等はいらはぬ事と致して、兎も角軍隊の緊粛を図り、如何なる敵が寄せ来るとも、天与の要害を扼し之だけの味方があれば大丈夫ですから、軍隊一般に注意を与ふる事と致しませう』
 さていろいろと積んだり崩したり、ラートの結果互に相戒めて変つたものが来たら近づけない事に定めて一先づ会議を閉ぢた。それより互に相戒め軍規を厳粛に此要害を上下一致の上死守する事となつた。
(大正一二・二・二二 旧一・七 於竜宮館 北村隆光録)
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