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文献名1霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻
文献名2第4篇 法念舞詩よみ(新仮名遣い)ほうねんぶし
文献名3第19章 清滝〔1427〕よみ(新仮名遣い)きよたき
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-05-31 20:35:40
あらすじ
元ビク国右守のベルツとその部下シエールは、反逆の罪で百日の閉門を申し付けられた怨みにより、照国岳の清めの滝に籠り、妖幻坊の魔法を習ってビクトリヤ城を転覆しようと水垢離を取っていた。

二人の前に妖沢坊と名乗る魔神が現れ、百日の間、蟹・イモリ・カエルのみを食して修業をしたら魔法を授けると託宣した。ベルツは三十日ばかりすると、毒に当たったか腹痛を起こして苦しみ出した。

シエールは主人の病気を治そうと滝に打たれていると、十一、二才の少女が現れて滝に飛び込んだ。シエールは、自分の祈りを聞き届けたエンゼルが現れたと勘違いして喜び、ベルツに報告に行った。ベルツも、その姿を見て天津乙女が助けに降ってきたを思い込んだ。

乙女はビクトリヤ王の娘・ダイヤ姫であり、父刹帝利の病気平癒の願掛けに来ていたのであった。そうとも知らず、ベルツとシエールは帰ろうとするダイヤ姫の前に出て、自分たちの大望を遂げさせて欲しいと、野心と計画の内容を話してしまった。

ダイヤ姫はベルツとシエールの企みを聞いて、名乗りを上げて正体を明かし、二人に改心を迫った。ベルツとシエールは、少女が仇と狙うビクトリヤ王の娘であると知って、姫を捕えてしまった。

二人は自分たちの企みや居場所を知ってしまった姫を害そうとしたが、姫の胆力と美貌を認めて、命が惜しければベルツの妻となってビク国簒奪の計画に参加するように口説いた。

ダイヤ姫はこれを拒絶し、ベルツとシエールは剣を引き抜いて姫に切りかかった。姫は剣をかわし、樫の大木を盾にして防いでいる。

そこへほら貝を吹きながら四人の山伏が観音経を称えながら登ってきた。ベルツとシエールは山伏の姿に驚いて、山頂をめがけて逃げて行った。山伏たちは治道、道貫、素道、求道の四人であった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月05日(旧01月18日) 口述場所竜宮館 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年3月30日 愛善世界社版248頁 八幡書店版第10輯 123頁 修補版 校定版261頁 普及版105頁 初版 ページ備考
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本文  火熱烈しき太陽は  天津御空に晃々と
 照国岳の谷間に  高くかかれる大瀑布
 清めの滝の片辺  小さき庵を結びつつ
 二人の男が朝夕に  裸となりて何事か
 声を限りに祈り居る。
 此両人はベルツ、シエールの主従である。左守の司並にタルマンの為に右守の職を剥奪され、百日の閉門を申付けられ、恨み骨髄に徹し、妖幻坊の魔法を習つて、ビクトリヤ城を転覆し、再び勢力を盛り返し、自分は刹帝利となり、シエールを左守司に任じ、一国の主権を握らむと、一心不乱に水垢離をとつてゐたのである。七日目の夜、二人が一生懸命に水垢離をとつてゐると、山岳も崩るる許りの大音響と共に、白馬に跨り、宙空より蹄の音戞々と降つて来たのは緋衣を着た坊主姿なりける。これは妖幻坊の兄弟分と聞えたる妖沢坊といふ魔神なり。妖沢坊は二人に向ひ、
妖沢『汝はビクの国の右守司を勤めたるベルツ並に家令のシエールであらう。汝の願は速に聞届け得させむ。付いては百日百夜の水行をなし、食物は此谷川に棲息する蟹、蠑螈、蛙を餌食となし、其他の物は一切食ふ可からず。若し誤つて他の食を取る時は、汝の行は全く水泡に帰すべし。又百日の修業中、人に発見されたる時は折角の修業も無効となるべし、必ず用心怠る勿れ。此荒行が済めば、汝に空中飛行の術を授け、且千変万化の化身の法を教ゆべし、ゆめゆめ疑ふ勿れ』
と厳かに伝へ、山岳を揺がし乍ら、再び駒の首を立直し、空中高く姿を消した。二人は有難涙にくれて妖沢坊の後姿を合掌し、呪文を唱へてゐた。三十日許り修業をした時、ベルツは蛙、蠑螈の毒が中つたのか、俄に腹痛を起し、手足を藻掻き、泡を吹き出しける。シエールは一生懸命に、
シエール『ウラル彦命妖沢坊様、何卒主人の病気をお癒し下さいませ』
と滝壺に打たれて、又もや一心不乱に荒行にかかつてゐる。ベルツは虚空を掴んで苦み悶える。此体を見てシエールは命限りに滝壺に飛び込み、祈念を凝らしてゐた。そこへ十一二才の美はしき女、木の茂みを分けてスタスタと登り来り、忽ち赤裸となつて滝壺に飛込んだ。シエールはエンゼルが自分の祈りを聞いて、助けに来て呉れたものと思ひ、一生懸命に乙女の姿を伏拝み、感謝の涙にくれてゐる。乙女は二人の男に目もかけず、滝壺に飛込み一心不乱に、
乙女『大国常立の大神、何卒々々、父の病気を救はせ玉へ、仮令吾身の命は取られませう共、少しも苦しうは存じませぬ。今父が亡くなつては、又もや右守司ベルツ主従が、如何なる事を致すか知れませぬ。ビクの国の一大事で厶います』
と神言を奏上し、祈り始めた。されど瀑布の轟々たる水音に遮られて、乙女の何事を願ひ居るやは、両人の耳に入らなかつた。シエールはベルツの側に進み寄り、頭を撫で乍ら、
シエール『モシ旦那様、御安心なされませ。今私が妖沢坊をお願ひ致しましたら、アレあの通り、天女が天降られて、貴方の病気平癒の為に滝壺にかかつて祈念をして下さいます。キツと御病気の直る瑞祥で厶いませう。必ず必ず御心配下さいますな。南無妖沢坊大明神守り玉へ幸へ玉へ』
と涙交りに願ひゐる。ベルツは不思議にも此言葉を聞くより、神経作用か知らね共、俄に気分がよくなり、頭をあげて滝壺を見れば、花を欺く美はしき乙女が滝壺に打たれて、白い体を曝し乍ら、一心不乱に念じて居る。ベルツは吾身の苦痛も忘れ立上り、
ベルツ『掛巻も畏き天津御国より下らせ玉うた天津乙女様、何卒々々拙者の願望を御聞届け下さいますやうに、之に付いては体が資本で厶いますから、此病気の一時も早く全快致し、百日百夜の修業が無事に了ります様、御願ひ申します』
と両手を合せて頼み入る。乙女は一生懸命に、
乙女『父の病を癒させ玉へ』
と祈願するのみであつた。稍あつて乙女は滝壺を上り、身体の水を拭き取り、キチンと衣服を着替へた。四辺を見れば二人の男が褌一つになつて、一生懸命に滝壺を拝んでゐる。乙女はスタスタと帰り行かうとするを、二人は慌てて行手に跪づき、
ベルツ『天津乙女様、如何で厶いませうか、妖沢坊様の命令に仍つて、百日百夜の荒行を致し、大望を達せむと願つて居りますが、神様のお蔭で成就するものとは存じますが、かやうに病気になつては、如何ともする事が出来ませぬ。何卒御指図をお願ひ致します』
乙女『其方の願望とは如何なる事か、詳しく陳述せよ』
ベルツ『ハイ、私はビクの国の右守司ベルツと申す者、之なる男は家令のシエールと申す者で厶います。ビクトリヤ城内には悪人はびこり、左守司一味の者、三五教の悪宣伝使を城内に引ずり込み、拙者の軍職を解き、専横の限りを尽し居りますれば、国家の害賊を除く為に、両人が此処にて荒行を致して居る所で厶います』
乙女『汝の敵と見なすは左守一人であるか』
ベルツ『左守は申すに及ばず、刹帝利の老耄、其外アール、ハルナ等の悪人を征伐致さねば到底天下は無事に治まりませぬ』
乙女『ホホホホホ、其方が噂に聞いた悪虐無道のベルツ主従であつたか。左様な悪企みを致す共、到底成功の望みはあるまい。どうぢや今の内に悔い改めて真人間になる気はないか』
ベルツ『ヘー、それは何で厶います、決して私欲の為に致すのでは厶いませぬ。天下公共の為に、民の苦しみを助くる慈愛心より、身を犠牲にして、かかる荒行を致して居るので厶います』
シエール『天津乙女様、何卒々々、吾々の霊をよくよくお査べ下さいまして、正邪の御裁判を願ひます』
と悪人は自分のやつた事を少しも悪と思うて居ない。天下国家の為に最善の努力を尽してゐると考へてゐるらしい。
乙女『妾は汝の言ふ如き天津乙女ではない。ビクの国の刹帝利ビクトリヤ王の娘ダイヤ姫であるぞよ。左様な悪虐無道な企みを致すよりも惟神の本心に立返り、忠良なる臣民として、国家に尽したら何うだ』
ベルツ『ナニ、其方が敵と付狙ふビクトリヤ王の娘であつたか。エー、天津乙女と見誤り、尊い頭をメツタ矢鱈に下げたのが残念だ。妖沢坊のお示しには、此行中に人間に見付けられては、折角の荒行が水泡に帰するとの事であつた。エー、モウ破れかぶれだ。吾願望の届かぬとあれば、仇の片割れ、嬲殺に致して怨みを晴らしてくれむ。オイ、シエール、荒縄を以て此女を縛り上げよ』
と厳しく命ずれば、シエールは、
『ハイ畏まりました』
と棕櫚縄を取つて、後手に括り、樫の枝に引かけて、宙空に吊り上げる。乙女は腕もむしれむ許りの痛さを、歯をくひしばり目を塞いで一言も発せず、堪えて居る。
 ベルツは之を眺めて心地よげに打笑ひ、
ベルツ『アハハハハ、小ちつぺ奴が、こんな所へ俺等の行方を嗅付けてやつて来やがつたのだな、此奴ア大変だ。此奴を帰なせば、キツと後から左守のハルナ奴、軍隊を率ゐて俺達を召捕に来る算段であらう。王女の身として、かやうな所へ出て来るとは大胆至極、之には何か仔細があるであらう。一度吊り下し、拷問にかけて云はしてみよう、サア下せ』
と厳命すれば、シエールは又もや綱を緩めて地上に下した。ダイヤは既に目を眩かし歯をくひしばつてゐる。
シエール『ヤア、チヨロ臭い、モウうたひあがつたとみえる。モシ旦那様、此奴ア駄目ですよ、物を言ひませぬがなー』
ベルツ『ナアニ、今目を眩かした所だから、滝壺へ一遍つつ込め。蛇の叩き殺した奴でさへも、水へ漬ければすぐに蘇生るものだ。サ、早く放り込んでみよ』
 『ハイ』と答へてシエールはダイヤ姫の身体を引抱へ、綱を解いて、滝壺へザンブと許り投込んだ。ダイヤはハツと気がつき、滝壺を這ひ上り、其処辺をキヨロキヨロ見廻し、赤裸のまま逃げむとするを、シエールはグツと細腕を握り、以前の樫の根本に引摺り来り、
シエール『コリヤ、ダイヤ姫、幼き女の分際として、斯様な所へ只一人修業に来るとは大胆至極、之には何か仔細があるであらう。吾々両人が照国山に、王家転覆の祈願を凝らし居る事を嗅ぎつけ、やつてうせたのであらう。サ、逐一白状致せ。包み隠すに於ては、其方を水責、火責、剣責に致すが、それでも可いか』
ダイヤ『無礼千万な、主人の娘を捉へて左様な脅迫を致すといふ事があるか。チツと天地の道理を考へて見よ』
ベルツ『エー、喧しい、天地の道理を考へるやうな者が、ビクトリヤ城転覆の修業を致すものかい。サ、早く事実を白状致せ。何を願ひに来たのだ。其願の筋から第一に聞いてやらう』
ダイヤ『此照国山は妾兄妹六人が永らく住居してゐた馴染のある所だ。父の御病気を平癒させむが為に、清めの滝へ水垢離をとりに来たのだよ。臣下の身分として主人のする事をゴテゴテいふ権利があるか、控えて居れ。年は若く共、ビクの国刹帝利の娘だ。エエ汚らはしい、一時も早くどつかへ姿を隠せ。執拗帰らぬに於ては線香を立てて燻べてやらうか』
シエール『丸切り青大将が座敷へ這上つた時のやうに言つてゐやがる。こんな女つちよに脅迫されて、此荒男の顔が立つものか、地異天変もここ迄行けば極端だ。地震ゴロゴロ雷ビリビリとやつて来たやうだ。併し乍らどう考へても、こんな美しい女をムザムザ殺すのは勿体ない様だ。オイ、ダイヤさま、物も一つ相談だが、何程お前が王女だといつても、位の高いのは実地の時の間に合ふものでない。荒男二人と格闘すれば、到底お前は殺されねばなるまい。蛇と蛙のやうなものだから、茲は一つ思案をし直して、旦那様の奥方となり、ビクの国の女王となつて暮す考へはないか』
ダイヤ『悪逆無道の謀叛人奴、エエ汚らはしい、下りおらう』
ベルツ『何と云つても美しい者だ。そしてこれ丈の胆力があれば、此女を女房にすればどんな事でも出来るだらう。イヤ、ダイヤ姫様、茲は一つお考へ直しを願ひます。左守といふ奴は表面忠義らしく見せて居りますが、彼こそ心中深く野心を包蔵する曲者で厶いますぞ。刹帝利様は左守に誤られ、ビクの国家を棒に振らうとして厶る。危険至極な今日の場合。真の忠臣が現はれて支へなくては、万代不易の王家は続きますまい……大忠は不忠に似たり、大孝は不孝に似たり、大信は偽りに似たり、大善は大悪に似たり……といふ事がありませう。表面大悪人と見做されたる此ベルツ位、王家や国家を憂ひて居る者は厶いませぬぞ。チツと冷静に胸に手を当てて、王家と国家の為にお考へを願ひ度いものです。よく考へて御覧なさい。貴女の父上は左右の奸臣に誤られ、大切な五人の王子迄悉皆殺さうとなさつたぢやありませぬか。何処の国に親が子を愛せない者がありませう。何が宝だと云つても、吾子位宝はない。其宝を殺さうとなさるのだから、決して之はお父上の心から出たのでは厶いませぬ、皆左守やタルマンの入れ知恵で厶りまするぞ。かやうな悪人を重用するは実に危険千万で厶りまする。貴方はお若いので、城内の様子を御存じ厶いますまいが、それはそれはタルマン、キユービツトの両人は天地容れざる大悪人で厶いますよ。何卒此急場を救ふ為に、幸貴方は王家のお血筋、此右守と夫婦になり、国家の大難を未然に防ぐお考へはありませぬか』
ダイヤ『エエつべこべと、汝の邪智侫弁聞く耳は持たぬ、汚らはしい。王家がどうならうが、国家が何うならうが、構つてくれな。何事も天の時節だ。汝等如き有苗輩の関知する所でない。大きにお世話だ、さがり居らう』
と厳然として言ひ放つた。ベルツ、シエールは、
『最早駄目だ、両人左右より寄つてかかつて、可哀相乍ら、殺害しくれむ』
と大剣を引抜き、左右より切つてかかるを、ダイヤは身をかはし、飛鳥の如く刃を潜り、樫の大木を木楯に取つて防ぎ戦ひゐる。
 斯かる所へブウブウブウと法螺貝を吹き乍ら、四人の山伏、
『衆生被困厄、無量苦逼身、観音妙智力、能救世間苦、具足神通力、広修智方便、十方諸国土、無刹不現身、種々諸悪趣、地獄鬼畜生、生老病死苦、以漸悉令滅』
と観音経を唱へ乍ら登つて来る。ベルツ、シエールの両人は四人の姿に驚いて、ダイヤを捨て、着物をかかへ、山上目がけて、荊棘茂る中を雲を霞と逃げて行く。此山伏は治道、道貫、素道、求道、四人の修験者なりけり。
(大正一二・三・五 旧一・一八 於竜宮館 松村真澄録)
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