文献名1霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻
文献名2第4篇 法念舞詩よみ(新仮名遣い)ほうねんぶし
文献名3第20章 万面〔1428〕よみ(新仮名遣い)まんめん
著者出口王仁三郎
概要
備考
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データ凡例
データ最終更新日----
あらすじビクトリヤ城では、左守キュービット、ハルナ、右守エクス、タルマンらが、ダイヤ姫が行方不明になった件について話し合っていた。
タルマンの霊力では、ダイヤ姫がベルツとシエールの反逆者によって窮地に陥っていることはわかったが、その場所まではわかりかねていた。タルマン、ハルナ、エクスは改めて神勅を乞いに玉の宮へ参拝に出かけていった。
後に残っていた左守の元に、三五教の万公たち一行が見えたとの報告が入った。左守はてっきり治国別や弟子たちも一緒だと思ったので喜んだが、使いのトマスが見に行くと、宣伝使は万公一人であり、玉置村から来たという三組の夫婦一行であった。
主な人物
舞台
口述日1923(大正12)年03月05日(旧01月18日)
口述場所竜宮館
筆録者北村隆光
校正日
校正場所
初版発行日1925(大正14)年3月30日
愛善世界社版260頁
八幡書店版第10輯 128頁
修補版
校定版274頁
普及版112頁
初版
ページ備考
OBC rm5520
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本文
ビクトリヤ城の評議室にはタルマンを初め左守司のキユービツト、ハルナ、右守司のエクスが首を鳩めて秘々相談会を始めてゐる。
左守『タルマン殿、寸善尺魔の世の中と申してバラモン軍が退却致し、やれ一安心と思ふ間もなく再び右守司のベルツ、シエールが叛逆軍に取囲まれ、国家已に危き所、尊き三五教の宣伝使一行に助けられ、これにてビクの国家も刹帝利家も大磐石と思ふ折、六人の王子女が帰られて益々万代不易と喜んで居つた所、此度の刹帝利様の俄の御病気、その上ダイヤ姫様が又もやお行衛が分らなくなり再び城内は黒雲に包まれたも同然、貴方は日夜玉の宮に専仕される以上は、此御病気の原因や姫様の御行衛がお分りで厶いませう。一つ御意見を聞かして頂き度いものですな』
タルマン『何分にも神徳の足らぬ拙者の事なれば、ハツキリした事は申上げ兼ねますが、刹帝利様の御病気は生霊の祟りと存じます』
左守『何、生霊とは何者の怨霊で厶るかな』
タルマン『察する所、前右守司のベルツ、シエールが怨霊と察します。拙者が神殿に於て祈願の最中、煙の如く両人が現はれ鬼の様な顔をして刹帝利様を睨めつけて居りました。屹度彼奴の生霊に間違厶いますまい』
左守『して、その両人の所在は分つて居りますかな』
タルマン『ハイ、何処だかハツキリは分りませぬが、拙者の霊眼に映じた所によれば、沢山な魔神に誑惑され、深山の谿谷に分け入り大瀑布にうたれて刹帝利様を呪詛の荒行を致して居る様で厶います』
左守『その地名は分りませぬか。地名が分らねば、せめて此城内から何方に当ると云ふ方角位は分るでせうな。さうして姫様の行衛はまだ見当がつきませぬか』
タルマン『ハイ、何でも姫様もその滝へソツと刹帝利様の御病気を癒さむため荒行においでになつた所、ベルツ、シエールの両人が左右より姫様を打殺さむと大刀を揮つて攻めかけてゐる。姫様は大木の幹を楯にとり飛鳥の如く防ぎ戦うてゐなさる場面が霊眼に映じました。併し乍ら地名と方角はまだ分りませぬ。ああ斯ふ云ふ時に治国別様か、お弟子の一人でも居て下さつたらハツキリ分るであらうに、……ああ惟神霊幸倍坐世。心の曇りたるタルマンに、何卒々々霊眼を開かせ下さいまして、ハツキリした事をお知らせ下さいます様、三五の大神様、慎み畏みお願ひ申します』
と両手を合せて祈願して居る。然し如何しても地名や方角はタルマンの霊力では感知する事が出来なかつた。
左守『はて、困つた事だ。如何したら王様の御病気が全快致し、姫様が無事にお帰り下さるであらう』
ハルナ『皆様、これから吾々一同が玉の宮へ参拝致し、兎も角無事で姫様がお帰りになる様、刹帝利様の御全快遊ばす様、一生懸命願はうぢやありませぬか』
左守『ヤ、それは誠に結構で厶る。第一左守、右守が命を神様に捧げて、刹帝利様の御病気の平癒を祈らねばなるまい。之が臣たるものの道だ。さア右守殿、貴方も用意なされ』
右守『ハイ、承知致しました。私の考へでは、王様の御病気も日ならず御全快遊ばし、姫様も近日無事にお帰り遊ばす様な気分が致します。併し乍ら左守様は御老体、ハルナ様が御名代としてお詣りになれば宜しからう。貴方はビクトリヤ家の柱石、王様のお側をお離れになつてはいけませぬ。吾々三人が参拝致し御祈願を凝らす事に致しませう』
左守『然らば拙者は王様のお側を守つて居りませう。御苦労乍ら早く玉の宮へ御参詣を願ひます』
タルマンは『畏まりました』とハルナ、右守と共に急ぎ玉の宮へ参拝と出掛けた。
後に左守は只一人双手を組んで思案にくれてゐる。
そこへ慌ただしく受付のトマスは、襖をソツと開き両手をつき乍ら、
トマス『左守様に申上げます。只今三五教の宣伝使のお伴をして来られた万公さまが、六人連れで玉の宮へ御参拝になり、左守様に一度お目にかかり度いと云つてお越しになりました。如何致したら宜しう厶りませうかな』
左守『ウン、三五教の万公さまが見えたか。ヤ、それは有難い。併し乍ら治国別様は御出でにはなつてゐないか。治国別様や松彦、竜彦様ならば斯ふ云ふ場合に助けて下さるであらうが万公さまでは心許ない。そして其お連れと申すのは何んなお方かな』
トマス『ハイ、男が三人、女が三人、どうも三夫婦らしう厶います。
島田潰して丸髷結うて
主と二人で宮詣り
と云ふ様な陽気な様子で厶いますよ』
左守『その三人の男と云ふのは治国別さまか、竜彦さまの中であらう。モシ、さうであつたならば万公さまはどうも八釜しくて困るから……治国別さまか竜彦さまに、一寸お目にかかりたいと申して呉れ。そして外のお方は応接間にお茶でも出して大切に待たして置くのだ』
トマス『ハイ、承知致しました。直様治国別様を呼んで参りませう』
と急ぎ此場を立つて玄関口に現はれ、
トマス『さア、皆さま、お待ち遠う厶いました。何卒応接間の方へお通り下さい。暫らくして左守がお目にかかります。時に治国別様か、竜彦の宣伝使は此処に交つて居られますかな。根ツから万公さまでは八釜しくて……一寸取込んでゐるから都合が悪い……と左守様が云つて居られました。何卒万公さまは此処に御婦人の方と一緒に待つてゐて下さい。さアお二人の中何方でも宜しい、お一人さま、左守の居間へ行つて下さいませ』
シーナ『拙者は玉置村の者でシーナと申すもの、実は治国別様の媒酌によつて里庄の娘スミエル姫と結婚式を挙げ、今日は玉の宮様へ礼詣りを致したので厶います』
トマス『ヘー、それは、マアマアお目出度う厶います。一寸新婚旅行とお洒落遊ばした所ですな。アハ……も一人のお方、貴方は宣伝使ぢや厶いませぬか』
アーシス『ハイ、拙者は矢張り玉置の村の者でアーシスと申します。一度左守様にお目にかかり度いと存じ、今度女房を持つたお礼に玉の宮様へ参拝を致し、一寸御面倒を致しました』
トマス『ハハア、それはお目出度う、新夫新婦が二組もお揃ひになつたのですな。ヤ、万公さま、お前さまは到頭治国別様に暇を出され、どつかの家で奉公でもしてゐると見えますな』
万公『エエ八釜しく云ふな。之でも三五教の宣伝使万公別だ。治国別様から此度新に万公別の宣伝使と名を頂いたのだ。神徳無限の神司だ。取り込んでゐる事があるとは一体何事か知らぬが、此宣伝使に御相談あれば直様解決をつけて上げると、左守様にさう仰有るがよからう』
トマス『ヘー相変らず大変な馬力ですな。左守様が何と仰有るか知りませぬが、一寸奥へ伝へて来ます。暫時待つて下さいませ』
と早くも此場を立つて左守の居間へ引返した。
トマス『左守様、一寸調べて参りましたが、玉置村の若夫婦が新婚旅行を兼ね、玉の宮様へ参拝を致し帰り道、万公さまに連れられて、お訪ねをしたのだと云つて居ます。そして万公さまは治国別様から新に宣伝使号を頂き万公別となり、無限の神力を与へられたと云つて居られますが、此方へお通し申しませうか』
左守『今日の場合、誰彼の容赦はない。万公別なんて法螺を吹いて居るのだらう。併し乍ら万公のチヨカさまも三五教の宣伝使の伴に歩いて居つたのだから、何処かに見込があるだらう。兎も角「膝とも談合」と云ふ事がある。早く此方へお越し下さいと云つて御案内して来い。さうして他のお客さまは珈琲でも出して鄭重に用の済むまで待つて頂くのだ。失策のない様にして置くのだぞ』
トマス『ハイ、そんな事に抜目が厶いませうか。直様呼んで参ります。エーエ』
と云ひ乍ら襖をピシヤリと締め、
トマス『エーエ、忙しい事だ。彼ツ方へ行つたり、此ツ方へ行つたり、キリキリ舞ひだ。之だから、すまじきものは宮仕へと云ふのだ。ぢやと云うて外に何もこれと云ふ芸能はなし、先づ玄関番で辛抱するより仕方がないな』
と一人呟き乍ら応接室に慌ただしく入り来り、
トマス『イヤ、皆さま、お待たせ申しました。何卒珈琲なつとドサリ召つて、……五人の方は此処に待つて居て下さい。……万公別なんて、宜い加減法螺を吹いてゐるのだらう。あの万公は鈴の様に八釜しくて、おまけにデレ助で仕方の無い奴だけど、治国別様の丁稚役をしてゐたのだから少しは霊術も利いて居るだらう。膝とも談合だ。空腹い時には不味ものなし、万公でも宜いから呼んで来い……と仰有いました。さア万公別さま、このトマスに跟いて左守の居間迄お越しを願ひます』
万公『何だ、川獺の様な顔しやがつて失敬ぢやないか。今日の万公さまは玉置の村の里庄テームス家の若旦那だぞ。これ見い、此様なナイスを女房に持つて新婚旅行を兼ね、玉の宮へ参拝をしたのだ。チツと羨るい事はないか。エー、ダイヤ姫と何方が美しいと見えるか、ヒヒヒヒヒ』
トマス『エヘヘヘヘヘ犬も歩けば棒に当るとか云つて、到頭治国別さまに暇を出され玉置の村の里庄の宅の門掃男となり、お嬢さまのお伴をして詣つて来たのだな。お前のスタイルでそんなナイスが女房に持てるものかい。遠い所で分らぬと云つて、此トマスが一目チヤンと見たら決して、はづれツこは無いワイ。ウツフフフフ』
万公『エー、馬鹿にすない。左守の奴、ダイヤ姫と俺との縁談をチヤチヤ入れやがつたものだから此爺、仕方の無い奴だ……と実の所怨んでゐたのだ。そした所、此通り古今無双のナイスが……ヘヘヘ此万公さまに首ツたけラバーしたものだから、嫌でもない縁談を……俺もチツとはスヰートハートして居たものだから両方からピツタリと意思投合の結果お粗末乍ら……ヘン……合衾の式を挙げ新婚旅行と洒落てゐるのだよ。万公別の腕前には如何だ、獺のトマス、感服しただらう』
スガール『もし、万公別さま、そんな事云つて下さいますな。妾恥しう厶いますわ』
万公『何が恥しい。天下晴れての夫婦ぢやないか。エヘヘヘヘヘ、これから左守司にアフンとさしてやるのだ。ああ愉快々々』
トマス『此様子では、も一度左守様に伺つて来なくちや直様お会せ申す訳には行きませぬワイ。ま一遍伺つて来るまで一寸此処に待つてゐて下さいや。そして御主人のお嬢さまを大切に守つてゐて下さいや。うかうかすると「此下男は気が利かぬ」と云つて又放り出されますよ』
と云ひ乍ら、又もや左守司の居間に踵を返し急ぎ行く。
万公『ハハハハハ、スガールの美貌に肝を潰し魂を有頂天にして居やがるワイ。さア此れからが三段目だ。オイ、スガール、今日は俺の男を左守の前で売つて見せるのだから、お前も辛からうがチツと意茶ついて見せて呉れぬと困るよ。夫が妻に対する一生の願だからな』
スガール『ホホホホホ、
キツと引締め三筋の糸で
主のお好きに紫檀竿。
焚いて喰はうと焼いて喰はうと万公さまのお勝手ですわ』
万公『ヘヘヘヘヘそれでこそ三国一の花嫁だ。万公別、万歳』
(大正一二・三・五 旧一・一八 於竜宮館 北村隆光録)