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文献名1霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻
文献名2第4篇 法念舞詩よみ(新仮名遣い)ほうねんぶし
文献名3第21章 嬉涙〔1429〕よみ(新仮名遣い)うれしなみだ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-06-02 19:18:14
あらすじ
左守は仕方なく、万公たち一行を奥の間に招き入れた。万公は、玉置村の三組の新夫婦が新婚旅行がてら玉の宮に参拝し、その帰り道に挨拶に立ち寄ったのだと左守に説明した。

万公がスガールのような庄屋の娘と結婚するはずがないと疑う左守に対して、スガールは万公と確かに結婚したと証言した。

そして、バラモン軍に捕まっていた自分を治国別一行が救出してくれたが、その中でも万公は、実は万公別といって治国別の師匠であり、わざと部下に化けてひょうきんの事を言っているのだと挨拶した。左守はこれを聞いて、自分の見違いの詫びを述べた。

万公は、ダイヤ姫が行方不明になっていることを見通して見せた。そして玉の宮に参拝中エンゼルが降り、ビクトリヤ王の病気はベルツとシエールの怨霊の仕業であり、ダイヤ姫も二人に苦しめられているが、四人の修験者に助けられて無事に戻るだろうとの託宣があったことを伝えた。

万公は、自分が入城したとたんに、ベルツとシエールの怨霊は神徳を恐れてすでに逃げ出したので、ビクトリヤ王もすぐに回復されるだろうと告げた。

左守は万公に感謝を述べたが、ふと、アーシスがどこともなく息子ハルナに似ていることに気が付いて声をかけた。万公は、左守が昔、若気の至りで下女に産ませた息子・モンテスがアーシスであることを明かした。

左守はモンテスを里子に出してしまったことを悔いていたので、親子の再会を喜び二人は涙にむせた。そして万公から、アーシスの妻となったお民が、ビクトリヤ王の落とし子であると聞いて驚いた。

そこへカルナ姫が、ビクトリヤ王の病気が快癒したとの報せをもってやってきた。左守はうれし涙にかきくれて大神に感謝を述べた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月05日(旧01月18日) 口述場所竜宮館 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年3月30日 愛善世界社版271頁 八幡書店版第10輯 132頁 修補版 校定版286頁 普及版117頁 初版 ページ備考
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本文  トマスは再び応接の間に現はれ来り、
トマス『ヤア、万公別さまを初め御一同様お揃ひの上どうか左守の室迄お越しを願ひます。左守様も大変な御心配が起つて居る所ですからどうか貴方方の御経歴話でも聞かして頂けば幾分かお気が紛れるでせう。さア案内致しませう。どうかお越し下さいませ』
万公『よし、左守の爺、万公別を安く買ひやがつたな。皆一緒に来いなんて、よし、行つてやらう。サア案内せい、皆さま拙者に続いてお出なさいませ。三夫婦揃うてビクトリヤ城の奥の間迄、玉置の村の里庄の息子が通ると云ふ事は異数で厶いますよ。是と云ふのも矢張万公別の余光ですからな』
と云ひ乍ら、トマスの後に跟いて長い廊下を潜り、左守司の居間に進み入つた。万公は左守に向ひ、
『これはこれは左守のキユービツト殿、暫くお目にかかりませぬ。吾々は三夫婦揃うて新婚旅行と出掛け、玉の宮への参拝の帰り途、一度御挨拶に上らないでは済まないと思ひ、門番がゴテつくのをやつと潜つて此処迄参りました。随分貴方も年が寄りましたねえ。白髪がどつさり生えたぢやありませぬか』
左守『ハハハハハ、皆さま好くお出なさいませ。時に万公さま、拙者の白髪は二十年前から生えて居るのぢや、お前さま今気がついたか。そして何処に奉公して居るか知らないが、綺麗な娘さまのお伴して居るが、身分相応と云ふ事を考へて今迄のやうな野心を出さないやうにしなさい』
 万公はスガールの肩に手をかけ、
『ヘヘヘヘヘ。もし左守様。ダイヤ姫様とはどうで厶いますな。私の女房は、マアザツト此通りで厶います』
左守『これこれ万公さま、又してもお前さまは心得の悪い。主人のお嬢様を捉まへて女房扱ひをすると云ふ事がありますか。些と心得なさい。』
万公『ヘン、済みまへんなア、おいスガール、左守様に疑の晴れるやうにお前から言つて呉れ。本当に誰も彼も俺を安く買つて馬鹿にして居るからな』
スガール『左守様、初めてお目に懸ります。私は玉置の村のテームスが妹娘スガールと申すもので厶います。バラモン軍に捉へられ猪倉山の岩窟で苦しんで居ました所を、治国別様一行がお出なさつてお助け下さつたのです。中にもこの万公さまは実は万公別様と申まして治国別様のお師匠さまですが、ワザとに部下と化けて剽軽の事許り云つてお出なさるので厶います。私は治国別様の御媒酌によつて万公別の宣伝使と夫婦になり、玉の宮へお礼に参りましたその帰りがけ、夫と共にお伺ひしました。何卒お見捨てなく今後はお心易く願ひます。そして此方はシーナさまと申し、スミエルと云ふ此姉の夫で厶います。も一組はアーシスさま、お民さまと申しましてこれも新夫婦で厶います』
左守『イヤ、どうも見違ひを致して居りました。万公別の宣伝使さま、よくマアお尋ね下さいました。併し折入つてお願ひ申度い事で厶いますが、聞いては下さいますまいか』
万公『刹帝利様の御病気とダイヤ様の行衛が分らないので御心配なさつて居るのでせうがな』
 左守は驚いて、
左守『ハイ、お察しの通りで厶います。どうしてマアそんな事がお分りになりましたか』
万公『何と云つても三五教切つての大宣伝使万公別で厶います。千里先方の事でも斯うして居つてチヤンと分つて居るのですからなア。併し乍ら此事は城下で一寸聞いて来たのですよ。アハハハハ、本当の事云へば薄紙を顔に当てて物を見る位より分りませぬわい』
左守『冗談はさておいて、万公別さま刹帝利様の御病気はどうお考へですか』
万公『ヤア実の所は玉の宮様に参拝致し祈願の最中隆靖彦、隆光彦と云ふ二人のエンゼルが拙者の前に下らせ給ひ、「刹帝利様はベルツ、シエールの怨霊が悩めて居るから早く汝はホーフスに入り、お助け申せ。さうしてダイヤ姫様は両人の為に苦しめられお命も危い所、四人の修験者に助けられ、やがてお帰りになるから御心配なさらぬやう、お知らせ申せ……」との事で厶います。夫故失礼をも顧みず六人連れでお邪魔を致したので厶います』
左守『成程タルマンの伺ひにも左様の事を申て居りました。夫に間違ひは厶いますまい。ああ有難う厶いました。何卒直様、御苦労様ながら、刹帝利様の御病気平癒のため御鎮魂をお願ひ申す訳には参りますまいか』
万公『拙者が別に刹帝利様のお居間に参らずとも万公別此城に入るや否や神徳に恐れ二人の怨霊は雲を霞と逃げ失せました。やがてニコニコとして此処にお出になるでせう。又ダイヤ姫様も修験者に送られて此処へお帰りなさりませうから、先づ悠り落付きなさいませ』
左守『ハイ有難う厶います。それで一寸安心を致しました。時にアーシスさまとやら貴方はどこともなしに伜のハルナに似て居るやうだが、貴方の生ひ立を聞かして貰う事は出来ますまいかな』
アーシス『ハイ』
と云つたきり、早くも涙をハラハラと流して居る。
万公『エエ アーシスさま気の弱い、何を泣いて居るのだ。何故堂々とお名乗りなさらぬか』
アーシス『ハイ、それでも何だか云ひかねます』
万公『モシ左守さま、貴方のお子さまと云ふのはハルナさま只お一人ですか』
左守『ハイ、まアまア一人で厶います』
万公『まアまア一人とは、チツと瞹昧ぢやありませぬか。奥様の目を盗んで、下女の部屋へ○○して腹を膨らせた事はありませぬか』
左守『ハイ何分若き時にはいろいろの不仕鱈の事も厶いました。余り恥かしうてお話が出来ませぬ』
万公『もし貴方の落胤が今無事で生きて居られたら貴方は喜んで面会しますか。イヤ親子の名乗りをしますか。先決問題として聞いて置きたいものです』
左守『女房には死別れ、此通り年は寄り、一人の伜のハルナに女房をもたせ、今では一寸一安心したものの、ハルナの兄に当る、モンテスと云ふ伜があつた筈で厶います。世間の手前、或田舎へ金をつけて子にやつた所、不幸な伜で両親は無くなり、何処へ行つたか分らぬと云ふ噂を聞いて居りますが、今となつて思へば実に残念な事をしました。斯う年が寄つて何時天国参りをするか分らぬ身の上、せめて生前に一度其伜に遇ひ度いと神様を念じて居ります。どうか貴方の御神力で伜の所在を見て頂く訳には参りますまいかなア』
と鼻汁を啜りながらグタリと萎れる。
万公『もし左守さま、貴方の御賢息モンテス様は立派な奥さまを持つて、立派に暮して居られますよ。その又奥さまが一通りの人ではありませぬ。「提灯に釣鐘」と云ふやうな、身分から云へば懸隔のある御夫婦で厶います』
左守『何、伜が立派に暮して居りますか、それは有難い事で厶います。さうして何処に居りますかな』
万公『ハイ只今の所在はビクの国、ビクトリヤ城内、左守の室内に、お民の方と云ふ奥様と万公別に従ひお出になつて居ります。それ、このお方ですよ』
とアーシスを指ざす。左守はアーシスの顔を熟視し乍ら、
『アーお前は伜であつたか。どこともなしにハルナに似て居ると思うて最前から不審を抱いて居たのだ。まア無事で居てくれたか。さうしてお前の嫁と云ふのはどのお方か』
アーシス『アアお父さまで厶いましたか。何卒一度お目に懸り度いと、寝ても醒めても忘れる暇は厶いませなんだ。されど賤しき首陀に落ちて居る身の上、到底尊い左守様に御面会は叶ふまいと諦めて居りました』
と男泣に泣く。左守も両眼に袖を当て、夕立の如き涙を拭ひながら嬉しさ余つて一言も発し得ず、アーシスの身体に抱きつき嘘唏泣きして居る。
 お民は両人の背を両手で撫でながら、
お民『お父さま、旦那様、何卒潔ようして下さいませ。私迄が悲しくなりますからな』
左守『アーお前が伜の嫁であつたか、好う来て呉れた。まアまア綺麗な女だな。伜も嘸喜んで居るだらう。私も嬉しい……』
と又もや両眼に涙を湛へて泣きじやくる。
万公『エー見つともない、チツと確りなさいませ。万公迄が悲しくなつて来ました。もしもし左守さま、此お民さまは誰人の娘だと考へて居なさるか。勿体なくも刹帝利様の落胤玉手姫様で厶いますぞ。チヌの村の卓助の家へお下しになつた王女様で、今はお民と名乗つて居られます』
 左守はこれを聞くより驚いて五足六足退き、両手をつかへ畳に頭を下げ、
『ハハア貴女様が王女様で厶いましたか。存ぜぬ事とて御無礼を致しました。ああ勿体ない。賤しき吾々が伜の女房とおなり下され、冥加に尽きはせぬかと心配で厶います。何卒お許し下さいませ』
お民『お父さま、何を仰有います。そんな事を云うて下さると私は苦しう厶います。何卒、「お民お民」と呼び付けにして下さいませ』
万公『サアサア親子の名乗が済んだ上は涙は禁物だ、些つと歌でも歌ひませう』
 斯く云ふ所へ、カルナ姫は襖をそつと押し開き叮嚀に辞儀をしながら、
『お客様、よくお出下さいました。何卒御悠りと御休息を願ひます。時にお父上様、刹帝利様が俄に御気分がよくなり、御元気におなりなさいました。「左守が心配して居るだらうから、早く知らせて来い」との君の仰せ、何卒お喜び下さいませ』
左守『何、刹帝利様の御病気が御快癒なされたとな。ああ有難い有難い、これと云ふのも全く三五教の神様の御守護、ああ惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世』
と嬉し涙に又掻き曇る、カルナは早々に此場を立ち去り刹帝利の居間に急ぎ行く。
(大正一二・三・五 旧一・一八 於竜宮館 加藤明子録)
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