波斯と印度の国境にあるテルモン山には、バラモン教を開いた鬼雲彦の仮館があり、小国別・小国姫がその跡を守っていた。この夫婦にはデビス姫、ケリナ姫という娘があったが、妹のケリナ姫は近所の鎌彦という男と駆け落ちし、人跡まれなエルシナ谷のあばら家に人目を忍んで暮らしていたのであった。
しかし夫の鎌彦は一年前に行商に出立したきり、何のたよりもなくなってしまった。ケリナ姫は悲嘆に暮れながら、粗末な衣に身を包み、その日を暮していた。
ある晩、ケリナ姫は世をはかなんで、エルシナ川のほとりにやってくると身を投げた。この時、谷川の端には元バラモン兵士のベル、ヘル、シャルの三人が座って行く先を話し合っていた。三人は治道居士たちから与えられた金をすっかり遊んで使ってしまい、また泥棒に戻っていた。
誰かが谷川に身を投げた音を聞き、ヘルとシャルは助けようとして暗闇の淵に飛び込んだ。シャルはケリナ姫にしがみつかれて、危うく自分も溺れかけたがヘルが救い上げた。ベルは助けようともせず、岸上から悪口を浴びせかけている。
シャルとヘルは、ベルの冷酷さを憤慨しながら、ケリナ姫を助け上げて登ってきた。ベルはケリナ姫の容貌を見ると、態度を変えて、自分の妻にならないかと持ちかけた。
ベルはケリナ姫から拒絶され、ベル、シャルと言い争いになった。ベルは長剣を引き抜くとケリナ姫に切りかかった。ヘルとシャルが剣でそれを受け止め、三人は切り合いを始めた。暗闇のことで、三人は刀を棄てて組み打ちを始めた。
三人は取っ組み合いをするうちに転げて、谷底の淵に落ち込んでしまった。木の上に逃れて様子を見ていたケリナ姫は、自分を助けてくれた恩人を見捨てられないとまたしても淵に飛び込んだ。